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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第四章 神之欠片『プレジール』~海底迷宮編~
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四十六話 本来のルートへ

 その後ジーク達は、ひたすら道なりにその足を進めていた。道中には壁に擬態する『キャンパスヤモリ』が存在していたが、それほど強くない為に『擬態感知』を持つルルの手によってあっさりと殲滅していた。



 すると、今までとは少し違った空間へと辿り着くことになる。そこは開けた空間となっているのだろう、しかしいくつもの複雑な壁が存在し、まるで迷路のような造りになっていた。


「どうやら繋がっていたようだな」


 目の前の状況を考察したジークは、腕を組みながら静かに口を開いた。

 その意図を察したマインが、ジークへと視線を向ける。


「本来のルート……だな?」

「あぁ、俺が転生した場所にも迷路のような空間があったんだ。明らかに人工的に作られたこれは、本来のルートと繋がっていると見て間違いないだろう」

「しかしどうする? 少し先まで進めそうだが、その間にも左右にいくつもの道が別れているぞ?」


 迷路のような部屋をどう攻略するか、それを考えるジークとマインの会話に混ざるように、ナオミが手を上げて前へとしゃしゃり出る。


「はいはーい! 迷路って、左の壁に沿って行くとゴールまで行けるらしいよ!」



 そう、通常の迷路であれば左手法という常に左の壁に沿って歩く攻略法により、確実にゴールへと辿り着くことが出来る。しかし、この左手法には欠点があった。



「いや、その方法だと迷路内にゴールがある場合は通用しないことがある。このフロアでのゴールとは、下の層へと通じる階段だ。もし階段が外周ではなくこの迷路内にあるならば、その方法では辿り着くことが出来ず、活用しながらでも時間がかかりすぎるんだ。だからもっと確実で、効率的な方法を取る」


 ドヤ顔を放っていたナオミは、自分の意見をあっさりと却下されたことでシュンとしている。

 しかしジークはそんなナオミを尻目に、地面へと片膝を着いた。そして地面へと手を触れ、巨大な壁を作り上げる。ジークは入口を塞ぐように現れた壁に手を添えると、ちょうど手のサイズほどの穴を開けたようだ。


 ミラ達が首を傾げる中、ジークはニヤリと口角を上げ、自信満々に口を開く。


「アルカンシェル!」


 すると、壁の手前に姿を変えたアルカンシェルが現れた。透明度の高い虹色の輝きを放ち、ずんぐりとした体、四本の脚、そして長い鼻を持った――小さなゾウとして。



「は?」


 まったく事態を飲み込めないナオミは、ふいに口から零れた。巨大な壁を出現させ、そして一つの穴を開け、しまいに飛び出したのは小さな虹色のゾウ。ナオミの頭にはいくつものハテナマークが浮かんでいた。



 小さなゾウことアルカンシェルは、長い鼻を壁に空いた穴へと差し込むと、迷路となっている壁の向こう側へ鼻の先から大量の水を噴射し始めた。


「わざわざ歩き回って、一つの軌道で道を辿る必要はないだろう。水の流動性ならば、”全てのルート”を埋めることが可能なのだからな」


 

 ジークの言葉の意図、それはルートの炙り出し。例えどんなに複雑に入り組んだ迷路だとしても、水で満たしてしまえば全てのルートを埋めることになる。ジークはアルカンシェルを通して迷路の構造を読み取ることで、詮索せずとも迷路の全容を把握することを可能にしたのだった。



「わーい! ちっちゃなゾウさんだぁ!」


 はしゃぐルルはアルカンシェルの上に乗り、ポヨポヨと楽しそうに跳ねていた。それを見ていたミラも我慢しきれなくなったのか、ルルの後ろに位置するようにアルカンシェルへと乗り、一緒にポヨポヨしている。


 壁の向こうにはだいぶ水かさが増し、全てのルートに水が行き届いたようだ。


「よし、ルートが判明した。行くぞ」

「「はーい!」」


 満足したルルとミラは元気に返事をしてアルカンシェルから降りるが、その後ろにいたナオミは寂しそうな目をして指を加えていた。


「私も乗ってみたかった……」






 放水を止めたアルカンシェルはビデオの巻き戻しのように、壁の向こう側に放水していた水を再び鼻から吸収した。そして小さなゾウからクリスタルへと姿を戻し、ジークの元へと戻っては肩周辺で浮かぶように待機した。



「中央に階段があるようだ。そこから下層へと降りるぞ」


 壁を取り消したジーク達は、そのまま一直線に足を進め出した。


 ジークの肩に浮かぶアルカンシェルから一筋の細い虹色のレーザーが飛び出すと、前方に立ち塞がる壁を円状にくり抜いては道を確保していた。迷路のような構造ゆえにいくつもの壁が現れるのだが、アルカンシェルの働きによって、ジーク達はただ歩いているだけで目的地へと進むことが出来ているのだった。


 

「やはり思った通りだ……俺の捉え方の問題だったのか」


 顎に手を当てながら歩くジークは、そう一言呟くように零す。

 二列目を歩くミラはそんなジークの呟きを耳にし、そっと横顔を覗き込んだ。


「捉え方って、何がですか?」

「あぁ、俺は今まで武器を使うことが出来なかっただろ?」

「そう言ってましたね。でもジークさん、前に石の下敷きを飛ばしてゴブリンを倒したことありませんでしたっけ?」

「それも含めてなんだが……」


 ジークは顎から手を離し、腕を組んでは前を見据えるように歩き続ける。


「リーナ曰く、俺が武器も魔法も使えないのは、いわば核自体が武器だからという理屈だそうだ。道具が道具を使えないからと、俺も当たり前のように納得していたが、今までの経験から考察するとどうも違う意図があるように思える」

「違う意図……ですか?」


 きょとんとするミラに、ジークは一つ頷き返す。そして思考の中へと意識を落としていく。



 この迷宮に来て、その疑問に一つ大きな発見が生まれた。それは、核と他の神之欠片かみのかけらとの衝突を防ぎ、双方を守る為のプロテクトの存在だ。そもそも、創造主『エルバッシュ』とかいう奴はなぜ神之欠片かみのかけらなんて物を残したのか……。驚異的な力で災厄を跳ね除け、人々の繁栄と存続を担う象徴のような物――そう解釈していたが……。プロテクトの存在から察すると、破壊が望まぬものだとするならば、存在自体に何かしらの意味がある可能性が出てくる。仮にそうだとしたならば、核の適正者には核の力以外を求めない様にしたのも頷ける。自分の持つ力以外に、より力を望めばそれは争いをもたらす。人を傷つけ、自然を壊し、脅威的な力で星の寿命を削りかねない。そうならないように意図した『エルバッシュ』の意志なのかもしれない。そうなると……計算されたように各大陸に一つずつ存在しているという点も引っかかるな。もしかしたら俺は、とんでもない間違いを犯しているのかもしれない……。



「……ジークさん? 大丈夫ですか?」


 考え込んで怖い顔を浮かべるジークに不安を感じたのか、ミラは肩を狭めて顔を覗き込んでいた。

 ジークはその声で顔を上げ、ハッと我に返る。


「あぁ悪い、大丈夫だ。武器についての話だったな」


 そう言うなりジークは足を止め、『次元収納』から小石を一つ取り出し、掌に乗るそれを握るようにしては一本の剣を作り出した。


「俺の身体能力に加え、この剣の耐久性と鋭さがあれば、この壁くらいは斬ることが出来る。だが……」


 ジークはそこまで言うと、手に持つ剣を大きく後ろに振りかぶった。そして前へと振り下ろす瞬間に、バチッと電気が走るような音が響くと、手の中から剣が勢いよく弾けとんだ。


 ミラは床に転がる剣を見つめ、言葉を失って唖然とする。

 その光景を見ていたマインは、目を丸くしながら面白い物でも見たかのように口を開き出す。


「なんと……これは奇妙だな。まるで剣が嫌がって逃げ出したかのように見えた」

「俺もようやく分かってきたことだが……この反発はおそらく、他の神之欠片かみのかけらとの衝突を防ぐプロテクトの一部なんだ。いや、基礎と言った方がいいかもしれない。核の適正者には、武器や防具・魔法の使用を制限し、更に他の神之欠片かみのかけらと接近した際は、スキルの使用にも制限がかかる。そういったプログラムが、核には組み込まれているようだ」


 マインは頭を悩ますように腕を組み、ミラとルルとナオミの三人は顔を見合わせて首を傾げている。

 

 次にジークは肩に浮かぶアルカンシェルを掌に移動させると、壁に向かって虹のレーザーを放った。円状にくり抜かれた壁が後ろへゆっくりと倒れ、地面に落ちては鈍い音を響かせた。


「俺は今、壁を斬った。この結果においては、たとえ剣であろうとアルカンシェルであろうと同じことが出来る。だが、一種の武器とも言えるアルカンシェルは使えて、剣ではそれが出来ない。この差はなんだと思う?」


 ジークが全員に問うように声をかけると、ミラは頭に人差し指を添えて首を傾げる。


「近くで斬るか、離れて斬るかの違い?」

「3点」


 ジークの辛辣な採点によってショックを隠し切れないミラは、ズーンと響く低い効果音と共に、壁に手を付き大きくうなだれた。



 次に名乗りを上げたのはナオミのようだ。腰に両手を当て、なにやら自信満々気な態度で仁王立ちしている。


「ふっふ~ん。前にアホミと呼ばれた汚名返上の時が来たようね! あんたが武器を使えない理由とか超どうでもいいけど、つまりはこういうことでしょ。バカとハサミは使いようって言葉があるらしいわ……悔しくもあんたは私が認めるほど頭がいい。だから逆に言うと、賢い奴はハサミが使えない。つまりハサミ=(イコール)武器が使えないってことよ!」


 ビシッと人差し指をジークへと向けるナオミ。

 ジークはナオミの考察に、驚愕の面持ちを浮かべて固まっている。


「ナオミ、お前は……」

「ふんっ! どーよ、100点満点っしょ!」


 ピノキオのように鼻を伸ばし堂々たるドヤ顔を放つナオミ。

 固まるジークは我に返ると冷ややかな視線を送った。


「0点。まったく意味が分からなかった、中学生からやり直せ」


 ジークの辛口コメントにより壁送りとされたナオミは、ミラの隣で同じポーズを取ってはうなだれた。



 壁を背にして寄りかかるマインは、下顎に手を添えては難しそうな顔をして口を開いた。


「捉え方の問題と言っていたな……。それはもしかして、ジーク殿の中で武器であるかそうでないかの違いではないのか? 少なくとも私には、アルカンシェルとやらが武器だと言われてもそうは見えない。それに強力な水鉄砲が壁を斬り裂くなんてことは、考えもしなかったことだしな」


 マインの冷静な思考による見解に、ジークはニヤリと口角を上げる。


「100点だ。そして俺もその見解で正解なんだと確信している。剣とは人を斬り、殺める為の道具だ。俺のいた世界にも剣は存在し、そのイメージが俺の中では剣の固定概念として確立している。一方でさっきマインが言った水鉄砲だが、これはウォーターカッターと言って、頑丈な物を切断する為に俺がいた世界で生み出された技術だ。斬るという点では双方同じだが、本質的な部分では異なるんだ。この違いで物を使えるか使えないかを決めているんだろう」

「なるほどな……。ジーク殿の持つイメージを元に、武器かどうかを核が選別しているわけか」


 頷き納得しているマインの姿を見るなり、ジークは進路へと再び視線を戻した。そして足を進め、背にするマインに向けて背中で声をかける。


「俺が使う一番の武器は……ここだがな」


 ジークはそう言って、指の先で頭を二度ほど突くようにして指し示す。

 マインは軽く笑いを零すと、その背中を追って再び歩き出した。


「ふっ――。違いない」






 佇むジーク達の目の前には、床にある階段の入り口が大きく口を開いていた。下層へと続くその先は見えず、闇の中へと誘うかのようであった。


 ジークは『次元収納』から掌サイズの人口魔石を二つ取り出した。それは明るい白の蛍光色を放ち、頭から生やすように小さな竹とんぼが付いている。

 ジークは二つの人口魔石を軽く宙へ放ると、竹とんぼの部分がクルクルとプロペラのように回転を始め、放たれた空中で滞空するように飛びだした。



「名付けて、飛翔発光石『ほたるん』。これで視界には困らなくて済むだろう。さぁ、次のフロアへ行こうか」


 二つの『ほたるん』が三列の陣形の前後に位置し、辺りを明るく照らしながら、暗闇の中で足を進ませるジーク達のサポートを担う。


 そんな中、ジークを除く四人は、その身を寄せ合ってなにやらヒソヒソと小話をしていた。


「ほたるんって――、確かに明るくて見やすくなったのはいいけど、ジークのネーミングセンスの方が光ってるように思うのは私だけ?」


 小さく零すナオミの言葉に、ミラとマインとルルは小さな笑いを零した。


「ジークさんっていつもはクールな感じだけど、たまに可愛い所あるんですよねー」

「おぉさすが奥様は違いますわぁー。こんなカビ臭い場所でのノロケ話、ごちそうさまでーす!」

「お、奥様って――。違いますからぁ! もうっ!」


 赤面しながら腕をブンブンと振ってごまかすミラ。その会話の中に、頬を赤めてはモジモジするルルも混ざってくる。


「ルルはカッコイイお兄ちゃんも、優しいお兄ちゃんも、可愛いお兄ちゃんも……全部好きかなぁ」

「私もルルと同じー!」


 ミラも賛同したことにより、パーっと明るい笑顔を放つルル。

 ルルとミラはナオミを挟みながら顔を合わせ、笑顔で同時に「ねー!」と言ってはシンクロしている。



 そんなやり取りをする光景に、一番後列に位置するマインはクスクスと笑いを零していた。


「私が好きな可愛いの種類とはちと違うが、それでもジーク殿がたまに見せる可愛い一面には、一見の価値があるだろうな。個人的には、どこか遠くを見つめるような、時折見せる儚い瞳にはドキっとさせられるがな」


 マインの発言にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるナオミは、手の甲を口元に運んではミラに耳打ちするように声をかける。


「聞きまして? こんな身近にライバル出現なんですけど。正妻の座が奪われちゃうのかぁ?」

「せ、正妻って――」


 真っ赤な顔のミラは後ろへゆっくりと振り返ると、目尻に少しだけ涙を浮かべ、不安そうな面持ちでマインを下から見上げた。


 そんなミラの姿を目にしたマインは高らかに笑い、そしてミラの耳元でイタズラっぽく囁く。


「ワハハ! 心配するなミラ。私は……愛人でも構わないんだぞ?」

「なっ――!」


 からかわれて耳まで真っ赤にするミラは、わなわなと震えあがった。そして狙ったわけではない、素直なルルの追撃が入る。


「ルルも、愛人になるー!」


 そう言い放つルルはいまいち意味を理解していなかっただろうが、しかしそれが余計にミラの羞恥心を加速させ、おでこでヤカンを沸かせるほどに赤面していた。


 そこにニヤケるナオミからの耳打ちが届く。


「正妻は守られたみたいだよ、良かったね。お・く・さ・ま!」


 ナオミのとどめの一言でさすがに恥ずかしさの臨界点を越えたのか、ゆでだこのように全身を真っ赤にするミラは大きく叫びを上げた。


「だから違うのぉーーーーーーー!」






 ボルテージの上がっていったその会話は当然ジークも聞こえていたわけで、後ろで盛大に咲き誇る女子トークに、ジークはピクピクと顔を引きつらせていたのであった。

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