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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第三章 神之欠片を求めて~亜族の大陸編~
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三十四話 すれ違い始める気持ち

 カジノ長とのダイスゲームを無事乗り越えたミラ達は、軽い談笑をしながら出入り口扉へと足を向けて遊戯スペース内を進んでいた。


 重厚感のある真っ赤な両開きの扉を外へと開くと、そこには下りとなる横幅の広く長い階段が待ち受けている。その階段の一段目へと足を踏み下ろしたミラは、視界の先にとある人物を捉えた。

 長い階段の一番下、道へと接するその場所には純白のスーツのような衣服を身に纏い、背中には真っ黒な小ぶりの翼、同じく真っ黒な髪、鼻上にかけた眼鏡と線の細い目をしたカラスをベースとした獣人が、後ろに腕を組んでは階段上のミラ達を見上げるように立っていた。『エリセド』の領主、グルーエルである。その背後には馬車もある。


 階段を下り切ったミラ達がグルーエルの正面へと位置すると、グルーエルは左脚を一歩後ろへと引き、右腕を腹の前に構えては腰を曲げて深く一礼をした。


「お待ちしておりました。当カジノの最高級遊戯の攻略、お見事でございます。私はカジノの代表取締役、及びこの街の領主を務めておりますグルーエルと申します。少々お話をしたく思いますのでお時間よろしいでしょうか」


 礼儀正しく振舞うグルーエルの姿に、ミラは凛とした面持ちで一歩前へと足を進めた。元より領主と話をする為に訪れたのだ、断る理由などどこにもなかった。


「もちろんです。私達もあなたと話をする為にこの街へやって来たのですから」


 頭を下げたままのグルーエルはきょとんと目を丸くしたが、すぐさま頭を上げてはミラへと笑みを向けた。


「そうでございましたか。ならばここで立ち話をすることでもないでしょう、領主館へとご案内致しますのでそこでゆっくりと会話へ移りましょう」


 グルーエルはそう言うなり、背後に待機させていた馬車の荷台の扉を開けた。真っ白な箱型の荷台は、それだけでも一種の個室のようになっている。中には真っ赤な革張りの長椅子が向かい合わせに座るように設置されていた。最初にルル、マイン、ナオミが中へと足を踏み入れ、奥の窓際には向かい合わせになるようにルルとナオミが腰を下ろした。マインはルルの隣へと位置している。その後ミラがマインの隣へと腰を下ろし、最後にグルーエルが乗り込むと間を空けてナオミの隣へと腰を下ろした。

 全員が荷台へと乗り込むと、グルーエルの遣いの者と思しき男が馬の手綱を一振りしては馬車が静かに走り出したのだった。



 ルルとナオミは窓際の壁に両手を添えては窓に顔を近づけ、荷台から見ることが出来る流れる景色を堪能していた。

 そして馬車が走り出して程なくすると、グルーエルが一つ咳ばらいをした。


「ごほんっ。失礼、詳しい話は着いてからにするとして、とりあえず今のうちに自己紹介でもしておきますか。先ほどご挨拶しましたが、私はこの街の領主グルーエルと申します」

「ミラです」

「マインだ」

「ルル~」

「ナオミ~」


 ミラとマインはグルーエルに視線を合わせて答えたのだが、ルルとナオミは外の景色に夢中なのかそっけない返事だけを返していた。それでもしっかり話だけは聞いていたようだ。






 真っ白な外壁の城のような領主館へと辿り着き、水晶細工の両開きの扉を抜けると真っ赤な絨毯が広がっていた。奥には二階へと続く大きな階段があり、そこから左右へ別れるようだ。天井には立派なシャンデリアがあり、玄関とは思えぬほど広い空間となっていた。部屋の中央には真っ黒なロングスカートに白いエプロンを身に着けたメイドと思わしき女性二人が頭を下げて立っている。こちらも背中には小ぶりの黒い翼を生やし、グルーエルと同じ一族であると容姿から判断できた。

 ミラ達は初めて訪れた豪華な家に終始辺りを見渡している。ハピの街にあるジルの家も立派なのだが、持っている財産の違いだろう、同じ貴族でも明らかにグルーエルの家は目を見張るほどの豪華さを演出していた。



 一際広い部屋へと案内されたミラ達は、水晶細工の透明度の高いテーブルを囲んでグルーエルと向かい合うように座っていた。ミラとマインが一繋がりの同じソファーへと腰かけ、その向かいにはグルーエルが位置している。ナオミとルルの二人は別のテーブルだ。


「さて、それではお話を聞きましょうか。この街へとやってきて、私に何か用事があるのですね?」


 グルーエルは目の前に座るミラとマインの二人を視界に収めては口を開いた。その言葉にミラが真剣な面持ちで見つめ返す。


「私達は、この街で行われているという裏オークションに参加する為にやって参りました。初めて訪れる街で情報も無い為、領主であるあなたとお話をしたかったのです」

「そうでしたか。しかし、普通に領主館を訪れたとしてもおそらく取り合わなかったでしょう。私はこう見えて色々と忙しい身ですので、一般のご来客は下の者に任せているのですよ。情報を集める為にカジノに出向かれていたのですか?」

「それもありますけど、先に領主館に来た時には留守のようだったのでグルーエルさんを探していたんですよ。こちらには取り合ってもらえるなりの物があるので」

「と、言いますと?」


 グルーエルがきょとんとしているのを尻目に、マインは谷間の内側から”王家の友人の証”を取り出しテーブルへと置くと、上に手を添えてはグルーエルの前へスライドさせるように動かした。


 グルーエルは受け取った紙を広げ、中身を確認すると驚愕の面持ちへと変貌させた。


「こ、これは――」


 そして静かに閉じてはテーブルへ置き、マインの元へ返すと深々と頭を下げ出した。


「まさか国王様のご友人とは露知らず、大変失礼致しました。裏オークションへの参加の件、もちろん協力させていただきます」


 その言葉にミラとマインは顔を合わせると、頭の上で一つハイタッチを交わしては笑顔を浮かべていた。



――コンコン。


 

 するとその時、扉をノックする音が響き、グルーエルが返事を返すとお茶やお菓子を運んできたメイドの姿が現れた。

 

 グルーエルはなにかを思いついたように手をポンと叩くと、おもむろに口を開く。


「そうそう、一つお聞きしてもよろしいですか?」

「なんですか?」

「厚かましいようですが……王家のご友人とあらば何か珍しい品をお持ちではないかなぁ~と。せっかく参加するのであれば、なにかご出品されてはいかがですか? 思わぬ値が付くかもしれませんよ」

「なるほどぉ……」


 顎に手を当てては思考を巡らせる”ふり”をするミラ。その肩には同じポーズをするジークの姿があり、ミラはチラチラと横目で合図を送っていた。



 メイドが金や銀の細工が施してある高級そうなティーカップをテーブルに乗せていると、ミラの前に置かれたティーカップの横に急にそれは現れた。

 『次元収納』から取り出された拳サイズもの大きさを持つ白銀に輝く水晶――。それはかつてジークがドラゴンマウンテンにて採掘作業をしていた際に、ロックドラゴンの卵があったであろう場所の近辺にて偶然発掘した物だった。


 グルーエルはそれがどこからともなく現れたことよりも、体を乗り出すほど興奮して目の前の水晶を食い入るように見つめていた。


「こ、これはもしや――! プラチナ水晶では!?」


 血走る目で顔を近づけてくるグルーエルに、ミラとマインは苦笑いを浮かべてはドン引きしていた。


「さ、触っても?」

「ど、どうぞ……」


 両手で大事そうに持っては上へと掲げてじっくり見つめるグルーエル。目と口はだらしなく緩み、まるで水晶に吸い込まれるかのように眺めている。


「素晴らしい……間違いなく本物。超希少品扱いなので、これはいいお金になりますよ」

「そ、そうですか……」


 もはや水晶相手によだれを垂らすグルーエルに、ミラはソファーの背へとしがみついては顔を引きつらせていた。



 グルーエルはたっぷりと堪能した後、水晶をミラの前へと戻しては興奮で乾いた喉を潤す為にティーカップへと手を添えた。

 ミラはふーと軽い安堵の息を吐くと、グルーエルの手元を見るなり少し気になることがあったようだ。


「そういえばグルーエルさんはなんで手袋をしているんですか? ティーカップも私達のは豪華なのに、グルーエルさんのは石製ですよね?」


 ミラの言葉には、グルーエルではなくその隣に立つメイドがすかさず返答をした。


「グルーエル様は極度の潔癖なのでございます。ティーカップが豪華なのは、お客様ですのでゲスト用のカップをご用意させて頂きました」

「な、なるほどぉ」


 さすがはメイドか、迅速な対応や丁寧かつその気配りの姿勢は見事な物だった。メイドは一礼すると部屋から出て行き、一気に全部飲み干したグルーエルはカップをテーブルに置くとなにやら真剣な表情を浮かべている。


「実はですね、この街ではとある奇妙な事件が時たま起こるのですよ」

「奇妙な事件?」


 首を傾げるミラにグルーエルは続ける。


「えぇ……裏オークションに参加されることになりましたし、この街に滞在するようになるでしょうから自然と耳には入ってしまうことでしょう。実はこの街には――”怪盗ルパン”が現れるのです」

「……はい?」


 なんのことか分からず困惑の表情を浮かべるミラだったが、その肩に乗るジークは転げ落ちていた。


「理解に苦しむのも無理はありません。あなた方も知っての通り、怪盗ルパンは”物語の人物”なのですからね。ですが……どうかそのことには触れないで頂きたいのです。怪盗ルパンは、この街にとっての風物詩のような存在ですから」

「はぁ……分かりました」


 話に置いて行かれるミラが流されるままに返事をすると、グールエルはにこやかな笑みを浮かべていた。


「裏オークションはちょうど明日開催する予定ですので、今日はここにご宿泊ください」

「え? いえいえ! お気遣いは嬉しいですが、もう街の宿を取ってありますので」

「そうですか……国王様のご友人ですので、御馳走を用意しようかと思っていたのですが……仕方ないですね」

「――! あ、あれぇ~……なんか急に宿が満室になりそうな予感がしてきたぞぉ?」


 グルーエルの配慮に遠慮したミラだったが、御馳走というフレーズに耳をピクッと動かすなり挙動不審な態度を現していた。しかしジークの鋭い眼差しによる無言の圧力を感じ取ると、耳をペタンと垂れさせては大きく俯いた。


「ま、街の宿に泊まるので……お気持ちだけ受け取っておきます……」

「そうですか? では明朝、カジノ前にてお待ちしていますのでご足労おかけしますがそこまでいらしてください。裏オークションの会場は、カジノの地下にありますので」

「へ? あ、はい。わかりましたぁ」


 話が終わるなりグルーエルが立ち上がると、ミラ達も同じく立ち上がっては軽めの挨拶を交わして帰路へと着いて行った。

 


 こうして無事に領主であるグルーエルとの会談を終えたミラ達は、裏オークションの参加へとこじつけたのであった。後は、出品されるという神之欠片かみのかけらの地図を手に入れるだけなのだが――どうやら事はそうスムーズには運ばないようだった。

 





 街中にある宿へと着いた頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。ミラ達は夕飯にする為、宿にある食堂にて食事を囲んでいるところだった。


「なんとか一段落ってところですかね!」

「うむ。これで地図が手に入れば後はとんとん拍子で進んでいくであろうな」

「このチキン、メチャうま!」


 食事をしながら現状確認をするミラとマイン。ナオミはチキンを豪快に頬張りながら目を輝かせている。ルルはどうやら小さな卵をスプーンですくおうとしているのだが、何度も滑り落としては悪戦苦闘しているようだった。しかし、各々が食事を楽しんでいる中で一人、不機嫌なオーラを身に纏った人物がいた。


「おいアホミ、なに当たり前のようにお前は付いてきてるんだ」


 ミラの肩の上で腕を組み、ジークはナオミを冷ややかな目で見つめていた。


「は? どこ行こうと私の勝手じゃん」


 頬張るチキンに夢中のナオミは、視線を合わせずにさも当然と言わんばかりに答えた。

 ナオミの態度にジークはこめかみ辺りに筋を浮かばせる。


「ほう……ならばお前の行先に辿り着けるように俺も手伝ってやる。目的地は、ドブと奈落のどっちだ?」

「はぁ!? そんなとこ行くわけないし! こんなに可愛い美女捕まえて何文句言ってるわけ?」

「これはこれは、必死になってチキンにがっつく肉食系美女様、大変失礼致しました!」

「きぃぃぃムッカツク!! その目腐ってんじゃないの! 眼科にでも行ってその体にコンタクト入れてもらえば? あ~せっかくならピンクのカラコンでも入れたら気持ち悪さもちょっとはマシになるんじゃない! ぷぷぷ」

「お前の幼稚な脳はどの医者でも診てもらえないだろう! バカにつける薬はないのだからな!」

「はぁぁぁぁ!?」


 バチバチと視線に火花を飛び散らせる二人。まぁまぁとミラがなだめると、向かい合う二人はまるで子供のようにプイッと顔を逸らした。


 ミラ、マイン、ルルはそんな二人に困った笑みを浮かべ、そのまま慌ただしい夕飯の時を過ごしていったのだった。






 食事を終えた一行は、各自部屋へと戻っていた。借りていたのは二部屋だった為、ミラとルルで一部屋、マインとナオミで一部屋と別けたようだった。ちなみにジークは睡眠が必要ないからと、外で待機するようだった。


 ミラとルルはベッドに入ると、ルルがおもむろに一冊の絵本を取り出した。それは蟲族の村で本屋の老婆にもらったものだった。


「ミラお姉ちゃん、これ読んでー」

「うん! ……あれ、これって――怪盗ルパンの」


 それは、グルーエルが口にしていた怪盗ルパンの絵本だった。

 ミラとルルはうつ伏せで毛布を被り、小さなロウソクの明かりを頼りに絵本を開いていた。


「むかしむかし、なんでも盗むことのできる大泥棒がいました。風のように早く走り、隠れるのが上手なので誰にもつかまりません。人々はその大泥棒を、怪盗ルパンと呼ぶことにしました。ルパンはなんでも盗み出すことができるので、人々に嫌われていました。ある日、お城に住むお姫様が魔物にさらわれてしまいました。どこを探してもお姫様の姿は見つかりません。困った王様は、ルパンをお城に呼び出すと、お姫様を魔物から盗み出して欲しいとお願いしました。王様は、お姫様が無事に帰ってきたらなんでも一つ願いを叶えてあげるとも言いました。ルパンはお姫様を探しに出かけ、魔物が住む洞窟に入って行きました。えいっ! えいっ! とルパンは魔物達を倒します。そして、牢屋に閉じ込められたお姫様を助け出しました。ルパンは、魔物達からお姫様を盗み出すことができたのです。お城に帰ると、ルパンは王様にこう言いました。”願いを一つ叶えてもらえるのなら、お姫様をください”と。それからルパンとお姫様は幸せに暮らし、人々はルパンのことを英雄と呼ぶようになって大好きになっていったのでした。おしまい」


 絵本を読み終えたミラは、ふと隣のルルを見るといつの間にか寝てしまっていたようだった。くーくーと寝息を立てるルルに一つ微笑むと、毛布を首までかけ直してミラは静かにベッドから出て行った。






 月明かりが照らし出す宿の屋根の上、そこにジークはいた。人間の姿を解放し、屋根の上で片膝を立てて座っては、星や月がきらめく夜空を見上げている。


「ここにいたのかジーク殿」


 すると、その場にマインがやって来た。マインはそのまま少し距離を空けて、ジークの隣へと座る。


「あぁ。……アホミはどうした」

「ん? ぐっすり眠っているな。よだれを垂らしてベッドを占拠しているぞ! ワハハ!」


 マインとナオミで借りた部屋。その部屋のベッドでは、大の字になってナオミが爆睡していたのだった。



「よく相手にできるな。俺には手に負えない」

「話してみるとなかなかに面白い娘だぞ?」

「面白いだけで済めばいいんだがな」


 それからしばらく二人は夜の空を見つめ、無言のまま月明かりに照らされていると、最初に沈黙を破ったのはマインだった。


「綺麗な星空だな……あのまま洞窟の中に閉じこもっていたら、今眺めている星空を見ることもなかったのだろうな。あの小さな星達、一つ一つは見向きもされないだろうし気づかれることもないのかもしれない……だが、小さな存在でもいくつもの星が巡れば、それは星座となって大きな存在となる。私達も、あの星のようではないだろうか……」


 どこか優しさを含み、どこか儚さを含み、何かを悟るようでもあり、何かを求めるようでもあるマインのその表情は、普段は見ることが出来ない一面だった。


 ジークも普段とは違うマインの雰囲気を感じ取ったのか、静かに口を開き出す。


「無数に存在する星々、一つでも欠ければ星座を形作ることは出来ない。それは人も一緒だ……多くの人が存在する中、自分という人間を視てくれる者は少ない。だが、それは必要がない、存在価値が無いのとイコールにはならない。人の心は弱く脆い、それゆえ自分勝手な解釈で自暴自棄に陥ることも多い。それは忘れているからだ……人は一人では生きていけないということ、言葉はなくても世界は一人一人を必要としていることを。それはあまりに目に視えないものだからと目を背ける前に、自分から見つめる努力が必要なんだと俺は思う。だから……こんな理不尽な世界でも、お前達の確かな未来をこの目にしたいから……俺は動くんだ」


 マインは静かに涙を流していた。頬を伝う柔らかく優しい滴、目を瞑って静かに微笑みながら――、ただただ涙を流していた。

 そして静かにジークのすぐ隣に寄り添い、肩と肩を寄せて合わせては、ジークの肩へと優しく頭を乗せた。


「……マイン?」

「お願いだ。今だけ、今だけでいいから……このままでいさせてくれ……」



 屋根の上で静かに寄り添う二人。そんな二人を、淡い月夜はそっと照らすのだった。






 ミラはルルを寝かしつけた後、少し夜風に当たる為にベランダへと出ていた。両手を上へと伸ばしては、グーッと背筋を伸ばしている。


「ジークさん外にいるって言ってたし、久しぶりに二人で話でもしたいなぁ」


 そう呟いていると、ミラの耳がピコピコ動きだした。どうやら屋根の上の方で誰かの話し声を捉えたようだった。


「ん~、ジークさんと、マインさん?」


 

 ミラは一旦部屋へと戻ると、廊下への扉を開けては反対側の窓を開けた。どうやら様子を見る為に背後から回り込むようだ。すると、リーナが慌てた様子でミラへと話しかけてきた。


《ミ、ミラ! もう夜も遅いので部屋で休んだほうがいいです! ルルが目を覚ましたときに隣にミラがいなかったら不安になるですよ!》


 リーナの言葉を遮るかのように、開けられた窓へとミラの片足が乗り出した。


「大丈夫ですよ。ちょっとだけ様子を見るだけですから。リーナお姉さまは心配症だなぁ」

《そ、そうじゃなくて!》


 あははと困った笑みを浮かべるミラは、軽い気持ちでリーナの言葉を受け流していた。



 そして、屋根の上へとのぼっては、頭を低くしながらそっとそっとジークとマインの背後から忍び寄った。三角の屋根の頂点から、ミラは顔だけを覗かせると――咄嗟に口元を両手で覆った。



 ミラが見た光景――それは、マインがジークの肩へと頭を乗せ、ぴったりと寄り添って座っている二人の後ろ姿だった。



 


 急いで部屋へと戻ったミラは、扉を閉めるとそのまま背を預けた。大きく肩で息をしては呼吸を激しく乱している。そして胸へと手を添えると、心を貫くような強烈な痛みが走った。



――ドクン。



 ミラは胸の部分の服を強く握りしめ、下を向いたまま震えている。


 その足元の床には、小さな滴の跡があるのだった。

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