33.5話 クラマvsカジノ長のダイスゲーム
番外編となる話ですので、読み飛ばしても本編に支障はありません。
物語は遡って、カジノにダイスゲームが出来た頃のお話となります。
最終話で明らかになる予定の”クラマのスキル”が登場致しますので、ネタバレをしたくない方は読み飛ばしてください。
薄暗く、静寂を作り出している空間。その個室のような部屋の天井には数個の小さな照明器具しか設置されておらず、又それは明るさを意図的に調整してあるのか申し訳程度にしか発光していなかった。それは、部屋の中央に設置された長テーブルと椅子、そしてその場に佇む二つの人影だけを微かに捉える形となっていた。
「ぬふふ……ようやく完成しましたね。待ちわびましたよ」
二つの影の内、一人の男が片手で口を抑えると、不気味に口元を緩めては呟いた。
「えぇ、これでカジノは更なる発展を成すことでしょう。グルーエル様」
もう一人の男は、そう答えては腹部に片腕を回し、腰を曲げては一礼した。その男も又、不気味な笑みを浮かべては口元を緩ませている。
グルーエルと呼ばれた男はおもむろに中央のテーブルへと手を添えると、頭を下げる男に背中で声をかけた。
「さて、”これ”の試行がてらにあのお方を招待するとしますかね。お相手が務まりますか? カジノ長」
カジノ長と呼ばれた男は、ふいに二カッと白い歯を見せるなり堂々とした面持ちでグルーエルの背中へ声を送る。
「私にお任せください!」
人間の大陸『コルロートン』、その大陸を治める国王クラマの元に一通の手紙が届いていたようだった。
王城の中でも一際広いその部屋では、国王直轄の近衛騎士団長サユリが中央にかしずき、それに向き合うように大きく立派な机を前にしては椅子に腰かけるクラマの姿があった。
「へー。僕宛てに招待状ねぇ」
クラマは机に肩肘を立ててはそこに頬を乗せ、もう片方の手に持つ真っ白な長方形型の封筒をにこやかな笑みを浮かべては見つめていた。
「はっ。送り主は亜族の大陸にある街、『エリセド』の領主からのようです」
かしずいていたとしてもその身に纏う銀色の鎧は色あせることも無く光り輝き、まだ成人を迎えていない女性とは思えないほどサユリは凛とした表情を浮かべていた。
「どうやら新しいゲームが出来たようだねぇ……うん、そのゲームに誘う為の招待状のようだ。どの程度通用するのか、僕で試すつもりなんだろうね。あはは! ひまつぶしくらいにはなりそうじゃないか」
「では、『エリセド』に向かわれるのですね?」
「そうだね。少し行ってみよっか」
まるで近くのコンビニでも行くかのノリで答えるクラマに、サユリは表情一つ変えずに静かに頭を下げたのだった。
――三週間後。
『エリセド』の街中では、買い物をする者や行商をする者、店を開いては商品を販売する者、ジュースやお菓子を手に持って食べ歩く者など多くの人込みで溢れかえっていた。
しかし、そんな人込みが自ら道を譲るように徐々に左右へと広がる光景があった。わらわらと住民達が道の端に避ける中、その発生源は中心に位置するクラマとサユリの二人だった。街の中でもおかまいなしに真っ白なユニコーンのような動物にまたがり、スピードは歩く速度程度なのだが、その威風堂々さゆえに住民達は自然と道を開けていったのだった。
「また住民が増えたんじゃないかなぁ。グルーエルの奴、うまくやっているようだねぇ」
「そうですね」
見渡す街の様子に、手綱を握ってはにこにこと笑顔を浮かべるクラマに対し、サユリは鉄仮面でも付けているかのように表情一つ変えてはいなかった。
「よくぞおいでくださいましたクラマ様! ご足労おかけいたします!」
巨大なドーム型のカジノの前、入り口へと続く階段の元には両手を広げてクラマを歓迎するグルーエルの姿があった。その隣には深々と頭を下げるカジノ長の姿もある。
「やぁ、久しぶりだねグルーエル」
上から見下ろす形で口を開くクラマ。グルーエルと軽く挨拶を交わすと地面へと降り立ち、サユリに目で合図を送ってはその場に待機させるようだった。
グルーエルはクラマの横に移動すると、半身で構えてはカジノの入り口側へと片腕を伸ばした。
「ささ、どうぞこちらへ」
クラマはグルーエルとカジノ長に案内されるがまま、とある一つの部屋へと辿り着いていた。薄暗いその部屋は、中央に長テーブルとその端に一対の椅子が設置されている。
グルーエルは一つの椅子を後ろへと引き、その椅子にクラマが腰かけた。そしてグルーエルは状況を見渡す為か、テーブルの中央付近へと立ち、カジノ長はクラマと向かい合うようにテーブルを挟んだもう一方の椅子へと腰かけた。グルーエルは傍観者、ゲームはクラマとカジノ長が勝負をするようだった。
カジノ長は片手にサイコロを取り出すと、もう片方の手でテーブルに設置されている一つのボタンへと触れた。すると、テーブルの少し上、なにもないはずの空間であるそこに巨大な立体映像が浮かび上がった。それは、縦3マス×横5マスの計15マスからなる巨大なマス目が出現し、そのマス目の背後には”太陽・白雲・傘・雪だるま・渦巻き”を形作った巨大な像があった。
カジノ長はクラマに向けて軽く頭を下げると、手をすり合わせては笑みを浮かべた。
「それではさっそくルールを説明させて頂きます」
――ダイスゲーム『六面天候』。
●サイコロには”太陽・白雲・傘・雪だるま・渦巻き・カミナリ”のマークの六つの面が存在する。
●サイコロを両者が交互に振り、両者合わせて全部で十回振る。
●像は始めに待機場へと並び、サイコロの出た目に対応する像が一マス目に進む。その後も進むのは一マス前のみとなる。
●挑戦者はゲーム前に一つのマークをあらかじめ指定し、そのマークに対応する像が親(カジノ側)より先に3マス目に辿りつけば勝ちとなる。親は、挑戦者の指定したマーク以外の全てが指定対象となり、どれか一つでも相手より先に3マス目に辿り着けば勝ちとなる。
●カミナリのマークが出目となった場合、サイコロを振ったプレイヤーの指定している像は一つ後ろのマスへと下がる。サイコロを振ったプレイヤーが挑戦者だった場合は指定した像が対象。親の場合は一番進んでいる像が一マス後ろへと下がる。対象の像が重複している場合は、その全てが一マス後ろへと下がる。対象の像が一マス目に存在する場合は、待機場へと下がり、それ以降は下がることはない。
●像が進むのは、サイコロの出目に対応する両者の像が対象となる。
●挑戦者は、指定した像が待機場にあり尚且つ親の像との差が2マス以上ある場合、救済処置としてサイコロを二回振ることが出来る。※救済処置はサイコロを振る回数には含まれないが、十回目に使うことは出来ない。
●勝負がつかなかった場合は、また最初からやり直す。
「説明は以上でございます。分からなかった点などがあれば、もう一度復唱致しますが?」
「いや、理解したから結構だよ。始めようか」
ここに今、人間の大陸王クラマvs亜族の街『エリセド』カジノ総統括長の超最先端技術ダイスゲームの戦いの幕が切って落とされたのであった。
だが、グルーエルとカジノ長の二人は、この先に待ち受けるクラマとの圧倒的な差を見せつけられるとは、この時知る由も無かったのだった――。
「では、挑戦者であるクラマ様はマークを指定してください。それと、初めてのプレイですので先行はお譲り致します」
「いや僕は二回目でいいよ。まさか仕掛けはこのホログラムだけってわけじゃないよね? それも兼ねて見てみたいしさ。マークはとりあえず雲でいいよ」
クラマは足を組み、両肘を椅子のひじ掛けに乗せては顎の下で両手を組み合わせ、にこやかな笑顔で先行をカジノ長へと譲った。
「ではお先に失礼して一回目を投げさせて頂きます」
カジノ長は掌から零れ落とすようにサイコロをテーブル上へと投げ入れると、サイコロはゴロゴロと転がってはクラマの目の前でピタリと動きを止めた。
一回目――サイコロの出目は”雪だるま”のマークだった。
ホログラム内の中心にはサイコロの出目が大きく表示され、両者の”雪だるま”の巨大な像が1マス目へと進んだ。その瞬間、天井からは大雪が舞い振り、極寒の空間へと移り変わっては床一面を銀世界へと変えた。
「へー。これは凄い演出だねぇ」
クラマは天へと顔を向けながら、舞い落ちる大量の雪を眺めては嬉しそうな表情を浮かべている。
「お褒めに預かり光栄でございます。出目に関しての全ての演出が再現出来るようにこだわっております」
カジノ長は一度深く頭を下げて敬意を示すと、両手を広げては天から降る雪をアピールするかのようにクラマへと答えた。
クラマは雪の演出を程よく堪能すると、テーブルの左側に設置された小さな赤いボタンに気が付いた。
「これはなんの仕掛けかな?」
まるでおもちゃで遊ぶかのような笑顔でボタンへと触れると、目の前にあったサイコロがクラマ側のテーブルの端へとピタリと張り付いたのだった。それを見たクラマはサイコロを手に持ち、くるくると回しては物珍しそうな目で観察していた。
「へー。ボタンを押せばサイコロが勝手に近くへと来る仕掛けなんだねぇ。これはストレスも無くて便利だね」
クラマは目の前でサイコロを観察すると、それを膝の方まで下げた。下を向く形でくるくると片手でサイコロを回して見つめてはいるのだが、にこやかなその表情は目だけが鋭い眼光を放っていた。
ふ~ん。どうやらこのサイコロに仕掛けがあるようだねぇ……ボタンを押して移動したところを見ると、”磁力”を使ってそうかな。僕のズボンの繊維もだいぶ逆立っているしね。この世界では綿や絹だけの天然繊維で出来た衣服が主流だけど、このズボンは人間の大陸で作り出した合成繊維製なんだよね。丈夫なのが売りだけど、静電気が発生しやすいのが玉にキズかな。一回目の出目で部屋の気温が急激に下がったし、そこで”磁力”による影響があれば、当然僕のズボンは干渉されて逆立つよね。気温や湿度の低い冬場にナイロンとかポリエステルとかの合成繊維製の衣服を着用していると静電気が起きやすいのと同じと見て間違いないかな。そうなると出目をコントロール出来るという可能性が出てくるね……このゲームは間違いなくサイコロが肝と見ていいだろうし。……うん、ここまで分かれば後は簡単かな。指定した”白雲”の面を、僕のオリジナルスキル『分断』を使って確率存在から引き離しちゃおう。
クラマは思考を止めると、手の上で転がすサイコロをぎゅっと握った。
たった一回の様子見。だが、恐ろしいことにクラマはそのたった一回でこのダイスゲームの全貌を見抜いていたのだった。
そしてクラマは顔を上げては、にこやかな笑みでテーブル上へとサイコロを投げ入れた。
軽く雪の積もったテーブル上をシャクシャクと音を立てながら転がるサイコロ。さすがにそこまでの回転力は出ないのか、転がり出してからほんの数回転しては動きを止めた。上面を向くマーク、それはクラマの指定していた”白雲”の出目だった。
天井付近には突如巨大な雲が現れ、照明を遮っては薄っすらと雲を透過する光だけで空間を照らしだしている。天候は曇り、そう表現するにはピッタリの演出が起きていたのだった。
「では、次は私が三回目を投げさせて頂きます」
カジノ長はテーブルを移動してきたサイコロを握るなり、サッと投げ入れた。
――三回目、ホログラム内に映し出されたのは、またしても”白雲”の出目だった。
「なっ――!」
クラマの指定対象の出目が二連続で出現したことにより、カジノ長は驚愕の面持ちへと変貌させていた。 テーブル上を移動してきたサイコロを握るなりクラマは、そんなカジノ長の様子にクスッと小さくあざ笑った。椅子の肘宛てに片肘を尽き、そこに頬を乗せては優雅な姿勢でにこやかに口を開いた。
「……これでゲームセットだね」
クラマの掌から優しく零れ落ちるかのようにテーブル上へと転がるサイコロ。カジノ長とグルーエルは転がるサイコロへと視線を注目させる。
――四回目、ピタリと止まったサイコロは、三連続となる”白雲”の出目を現していた。ホログラム内では両者の”白雲”の像が3マス目へと進み、クラマ側には”WIN”の三文字が大きく映し出されている。ゲーム開始後、たったの四回目で決着がついたのであった。
クラマはそれを確認すると、スッと立ち上がっては肩に残っていた雪を振り払った。
「そこそこ楽しめはしたよ。まぁ、このままでも十分使えるんじゃないかな」
「あ、有り得ないっ……一体どうやって――」
カジノ長はわなわなと震えあがり、目の前で起きた光景にまるで受け入れられないかのようだった。グルーエルは軽く口を開けたまま放心し、圧倒的強者との差を思い知ったかのようだった。
「タネは分からないからこそ、面白いものなんだよ」
クラマはにこやかにそう言い放つと、二人を背にしてはその部屋から立ち去って行った。
グルーエルは大きく肩を落としてテーブルへと寄りかかり、一言呟いた。
「これが……『智略の王』か」
カジノ内の従業員用通路には、一人優雅に歩く人物がいた。それは、先ほどダイスゲームを終えたばかりのクラマの姿だった。
久しぶりにいい運動になったよ。せっかく僕が人間側の知識や技術を提供してあげてるんだから、あれくらいには仕上がってて当然だよね。僕以外には攻略出来なそうだし、あのままで良さそうかな。サイコロっていうのは、基本的には出目が全て。とどのつまり出目となる上面しか認識されないものなんだ。側面や底面は、上面が確定した時点で認知されないのも一緒だ。そしてそれは六面全てに言えること。確率存在でしかない六面は、出目となる一つが確定するまでその姿は認知されない。だけど僕はオリジナルスキル『分断』によって、指定した”白雲”を確率存在から引き離した。そうすることで見た目上は一つのサイコロでも、固有存在となった”白雲”と、確率存在である他の五面が共存している形になる。だけど確率上にしか存在しない五面は、すでに存在が確定している固有存在の”白雲”に打ち勝つことはない。存在するものとしないもの、必然的に出目となるのは”白雲”だけになってたんだよ。
クラマはにこやかに微笑み、帰路へと足を進めていったのだった。
番外編も需要があれば追加していきたいと思いますので、感想を頂けると参考になります。




