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眼の異世界転生  作者: ビッグツリー
第三章 神之欠片を求めて~亜族の大陸編~
39/70

三十二話 カジノ戦~ビンゴゲーム、位置当てゲーム~

 次にミラ達が移動した先には、ゲームの名前とルールが書かれた看板が立てかけられ、横向きに設置された小さな長テーブルと、大きな箱を両手で抱え持った女性のディーラーが立っていた。

 ミラは一歩前に出ると、微笑みかけてくるディーラーから一枚のカードと赤いインクのペンを受け取った。



――ビンゴゲーム『天使の微笑み』。

●一枚のカードには3×3の9マスが描かれており、そのマスの中には左から始まり右へと順に、上から1から9の数字が書かれている。

●箱の中にはカードに書かれているものと同じく、1から9の数字が書かれたボールが入っている。その中から一個のボールを引き抜き、ボールに書かれている数字とカード上に表記されている数字が一致したものを丸で囲む。

●カード上の数字を丸で囲んだものが縦・横・斜め、いずれか一直線に揃った場合はビンゴ、大当たりとなる。

●プレイ料金は、一プレイにつきカジノコイン一枚。一プレイ四回セット遊戯。大当たりの場合の配当は、プレイ料金の1.5倍固定。端数専用のカジノコインを別途配布。初心者におすすめのゲーム。




「説明は以上になります。さっそくプレイしてみますか?」


 優し気な雰囲気を纏わせたディーラーは説明を終えると、にっこりとミラへ微笑みかけた。

 さすがは初心者におすすめのゲームだからか、ミラは分かりやすい説明で簡単に理解することができ、笑顔を浮かべて明るい声で返事をした。


「はい! 覚えました! やりま――」

「待ってミラお姉ちゃん! ルルもやりたい!」


 ディーラーの分かりやすい説明で理解したのか、ミラの言葉を遮ってルルも食い気味で参加表明の名乗りを上げた。


「じゃあ代わりばんこにやろっか! 私が丸を付けるから、ルルが先にプレイしていいよ」

「わーい! やったぁ!」


 ルルは両手をあげてはしゃぐと、ディーラーにプレイ料金のカジノコイン一枚を手渡した。


 ディーラーは両手で抱える大きな箱を左右に振ると、ルルの目の前に箱を突き出す。箱の上部には腕を入れられる程度の穴が開いており、中のボールまでは見えない仕様になっていた。

 ルルはなんのためらいも無く穴に腕を入れると、一個のボールを握りしめては勢いよく引き抜いた。そしてボールに書かれている数字を確認する。


「3だぁ!」


 引き抜いたボールに書かれていた数字は3。ミラは手に持つカードの右上、3と書かれた数字のマスに赤い丸を付けた。

 少し低めの姿勢で前に出されている箱へとルルはボールを戻すと、ディーラーは再び箱を左右に振り、ルルの前へと突き出した。だが、ジークはその光景を目細めて注視していた。

 ルルは二回目のボールを引き抜くと、くるりとボールを回しては数字を確認する。


「えっと、7だぁ!」


 ルルが次に引いたのは7。ミラはカードの左下の7のマスに丸を付けると、ハッと表情を変えてルルへと声をかけた。


「ルル! 5を引けばビンゴになるよ!」

「あ、そっか! よーし! がんばる!」


 ルルはよしっと気合を入れると、集中するように目を閉じては箱にある穴へと腕を入れた。そして一個のボールを引き抜く。


「やったぁ! 5だ! ビンゴぉ~!」


 ボールを高く掲げ、大喜びするルル。ミラとマインも一緒に笑顔で喜び、ナオミもその光景を見ては軽く微笑んでいる。

 遊戯の終わったルルはミラと交代する為、マインの横へと移動した。代わりにミラが一歩前へと足を進める。腕をグルグルと回してやる気十分なミラの背中に、ルルからの応援の声がかかった。


「がんばってねミラお姉ちゃん! 簡単だから大丈夫だよ!」

「まっかせといて!」


 ルルに振り返ってはブイサインを向けるミラだが、その肩に乗るジークの面持ちはどこか険しかった。

 ミラはディーラーにカジノコイン一枚を手渡し、前へと突き出された箱へと手を伸ばすと、穴の中に腕を入れては一個のボールを引き抜いた。


「まずは1!」


 引いたボールの数字は1。ルルが新しく配布されたカードに丸を付けている間にミラは箱の中へボールを戻し、二回目のボールを引き抜いた。


「次は4! やった! もうリーチだ!」


 二回目に引いたのは数字の4。縦に揃うラインのリーチが、二回目にして訪れたのだ。若干興奮しながらミラは三回目のボールを引き抜くと、それを確認しては体を震わせた。


「あ~9! おっしい! だけどこれでダブルリーチになった! 次のラストで決めれる!」


 引いたのは数字の9。縦と右下がりの二パターンによる、ダブルリーチの形となった。

 次はラストとなる四回目。ミラは深呼吸をすると目を瞑り、静かに腕を穴へと入れてはボールを引き抜いた。顔の前へとボールを持ってきては一つ息を吐き、何かを開眼するかのようにカッと目を見開いた。


「へ? また9ぅ!?」

「あぁ~おしかったですね。またチャレンジしてくださいね」


 勝利を確信していたミラは耳を垂れさせ、ディーラーはそんなミラを励ますように微笑みかけていた。

 ミラは大きく肩を落としてうなだれ、とぼとぼとマイン達の元へと戻った。そんな姿をするミラへと優しく励ますマインは、ジークに少し耳打ちをした。


「なぁ、ジーク殿。このゲーム、実は思ったよりも難しいんじゃないのか?」

「マインは気付いたか。そうだ、このゲームには罠がある」



 このゲームの仕様を、一般的なビンゴゲームのルールで行った場合、三回目の時点でビンゴする確率は1/7だ。仮にビンゴしなかったとしても、三回目の時点で必ずいずれかのリーチ状態が出来上がる。四回目で引く可能性のある数字は、残りの六つ。その中でビンゴとなるのは三パターン存在するから、四回目でビンゴになる確率は1/2だ。だが……これはあくまで引いた数字を廃棄した場合だ。このゲームの肝は、”一度引いたボールを箱に戻す”ことにある。通常であれば数字が消えていくので幅が狭まっていくのだが、一度戻すことにより常に1/9の抽選を受けることになる。しかも数字が重複した場合は、すでにカードに丸が付いているから無効扱いとなり、引ける回数だけが減る最悪のパターンだ。四回目でビンゴする確率が1/2だったものが、1/9の抽選となることで確率が1/3に下がってしまう……数字だけで言えば微々たるものだが、現実的には大勢の利用客を的にすればそのプレイ回数の多さで大きな差が生じてくる。それに付随するのが配当額だ。1.5倍とあらば、二プレイして一回でもプレイヤーが負ければカジノ側の利益となる。逆に言えばプレイヤー側は一プレイして勝てばそこで席を立つか、二プレイ以上するならば勝ち続けないといけなくなる。初心者向けと宣伝する実質、手の出しやすいプレイ料金と、大当たり確率を1/2から1/3へ下げることでプレイヤーに気付かれにくいカジノ側有利の仕様……人間の大陸から取り込み、知性が乏しく娯楽に飢えた亜族向けの実に狡猾な手段を取ってくるカジノ……。だが、これでこのカジノの本質が見えた。『真実眼』を通して視ていたから間違いないだろう。ここは、実に巧妙な手段を用いるイカサマカジノだ。




「よし、ミラもう一勝負だけしてこい」

「え? は、はい!」


 

 負債額は五百円ほどだが、金額は関係ない。カジノ側の思うつぼなどにされてたまるものか。ビンゴゲームではこのカジノの本質を見抜くのが目的だった。だが、負けたままでは俺の気持ちが治まらない。一度勝って負債をチャラにし、大勝負の出来るゲームへと移る。それに、このビンゴゲームでも必勝法くらいは考えてある。



「ミラ、匂いを辿れ」

「匂いですか?」

「そうだ。お前なら自分のはもちろん、ルルの匂いも辿れるはずだ。まずはルルの匂いを辿れ」



 そう、ミラ達は街で手に入れた香水を付けている。嗅覚に優れたミラならきっと、ボールに付いた香水の匂いを辿れるはずだと考えたのだ。






 ミラはディーラーへカジノコインを一枚手渡し、目を瞑っては匂いを辿るように意識し、一個のボールを引き抜いた。


「あ、5だ!」

「よし、いいのを引いたな。後は自分の匂いを辿れば四回までに必ずビンゴ出来る」


 ミラがジークの指示した通りにルルの匂いを辿って引いたボールの数字は5だった。二回目以降は自分の匂いを辿って、1,9と順に引き、三回目には右下がりになるようビンゴしたのだった。


「いぇーい! ビンゴぉ~!」


 ミラはカードをフリフリと振っては、前回のプレイ後の様子とは打って変わって嬉しそうにはしゃいでいた。


「よし、次に行くぞ」

「え? もう終わりですか?」

「情報は集まった。次から本格的に動く」



 

 この方法を使えば百パーセント勝つことが出来るが、欠点がある。それは数字が偏ることと、重複することが無い為にプレイ回数をこなすとディーラーに怪しまれてしまうのだ。このゲームでの目的は果たせたし、負債もチャラになったからそこで終了したほうが無難なのだ。



 ビンゴゲームを止めカジノ内を歩くミラ達だったが、ジークがナオミへと声をかけた。


「おいアホミ、なにか一獲千金狙えるものはないのか」


 呼びかけられたナオミはこめかみに筋が入った。おもむろに両手を腰に当てては、少し前かがみになってミラの肩に乗るジークへと顔を近づけた。


「ちょっと。いい加減名前を覚えなさいよキモ目玉。ナオミだって言ってんでしょ」

「お前こそ名前を覚えろ、俺はジークだ。そんなふざけた名前じゃない。それより質問の答えはどうなんだ」

「一獲千金なら……”黒塔”しかないわね」

「あるにはあるんだな。よし案内しろ」



 

 ミラ達は、ナオミに案内されるがままに付いていくと、とある小屋の前へと足を進ませていた。カジノの一角に異様な雰囲気を纏わせて存在するそれは、全体が真っ黒な木製の素材で出来ており、コの字に囲っては開いた部分に長テーブルが設置してある。いわゆる、地球でいう屋台のような物だった。

 ミラ達はテーブルの前へと位置すると、その建物の中にいる男性のディーラーが声をかけてきた。


「どうぞいらっしゃいませ。位置当てゲーム『悪魔の黒塔』へようこそ」


 ディーラーは不適な笑みを零しつつ、両手を広げてはテーブルの上にある黒い箱をアピールするかのように口を開いていた。蓋となる上の面が無いその箱を手にしては、くるくると回転させながらゲームの説明を開始した。


「まず、この箱の中をご覧ください。なにもありませんよね? 次に、こちらの同じような箱と、この水差しを使います」


 ディーラーはそう言うと、テーブルの下からもう一つ似たような箱を取り出した。それには上下の面が無く、穴が開いているかのような箱だった。水差しの方はスポイトのような物で、中には白い液体が入っている。


「このゲームは、悪魔が作り出した塔に囚われている天使を救い出すというものです。それでは詳しいルール説明に移らせて頂きます」



――位置当てゲーム『悪魔の黒塔』。

●一つ目の箱の上に、二つ目の箱と同じ物を複数積み重ねた一本の塔がある。

●積み重ねた箱と箱の間には薄い溝が全部で十あり、そこのどこかに一枚の鉄板を差し込む。

●一番上から箱の中に水差しで一滴の滴を垂らし、その後は残り全部の溝に鉄板を差し込む。

●塔の一部の面以外を上から布で覆い被せ、その面以外からは塔を見ることは出来ない。

●囚われた天使を助けることが出来れば大当たり。回答制限時間は三分。回答チャンスは一回のみ。

●一プレイ料金、カジノコイン五百枚。キャリーオーバー制を採用し、現在当てることが出来ればカジノコイン十五万枚が全開放される。



「とまぁ、最終的にプレイヤーであるお客様が、塔の中の天使(垂らした水滴)の囚われた場所を言い当てるというゲームでございます。答えることが出来るチャンスは一回限りですので、三分以内に頑張って考えてくださいませ」


 ディーラーは説明を終えると、立ち上がっては積み重なった塔の一部に一枚の鉄板を差し込んだ。その光景を目にしてジークは思考する。



 ふむ。このディーラー、どの辺りに一枚目の鉄板を差し込んでいるか分からない様に、うまい具合で腕を塔の影に隠しているな。水滴が落ちる一枚目の鉄板、これがすぐに分かってしまってはゲームにならないからな。






 一枚目の鉄板を差し込んだ後、ディーラーは塔の一番上からスポイトで一滴の液体を垂らした。そして二枚目の鉄板を溝にセットしては、体ごと使うようにゆっくり鉄板を押し込んでいく。


「ちょっと立て付けが悪くてですねぇ、こうして体で押してあげないと腕だけじゃ鉄板が入らないんですよぉ。困ったものです」


 鉄板をぐいぐいと体で押すディーラーは、苦笑いをしながら口にした。そして同じように三枚目、四枚目と計十枚の鉄板を差し込んでは、準備が整ったようだ。

 それからディーラーは塔の上から黒い布を覆い被せ、塔自体をクルリと百八十度回転させた。すると、ミラ達の前には布で覆われていない一つの側面が顔を出していた。そこには差し込まれた十枚の鉄板に上から順に、1から10の数字が書かれた札が垂れ下がっている。


「さぁ、ゲーム開始でございます」


 ディーラーが砂時計をテーブルの上に置くと、ゲームが始まった。砂時計の砂が落ち切る三分以内に答えを出さなければいけないのである。

 

 ミラ、ジーク、マイン、ルル、ナオミの五人はそれぞれ思考を巡らせ、すぐに答えは出さないようだった。

 ジークは腕を組んで目を瞑ると、思考に集中しているようだった。



 

 まずは出来る限り情報を集め、三分以内に答えを出さねばならない。一プレイでカジノコイン五百枚が必要だから俺達の手持ちでは本当に一度限りの勝負となる。スポイトから滴を垂らす瞬間、『千里眼』で視てはいたのだが、どうやらこの屋台のようなもの自体に妨害魔法が展開されているようで塔の中を透視することが出来なかった。



「ミラ、どう思う?」


 ジークはまずミラの意見を聞いてみることにした。それは、超感覚を持つミラならば発見への道しるべとなるのではないか、そうジークは考えたからだ。

 だが、声をかけられたミラはというと、首を傾げては困った顔をしていた。


「ん~……なんというか、見つけようと意識すると変なノイズのようなものが頭に走って、うまく感じることが出来ないんです」

「そうか。おそらく妨害魔法の影響だろう」


 ジークは直接的な解決法は一旦保留とし、周囲の状況観察へと移行することにした。

 

 周囲を見渡すと、塔以外の物が力を使わずとも視覚範囲に映る程度に設置された物がいくつかあった。


●まず一つがテーブルの端に設置されたカレンダー。『10月4日』と大きく書かれている。

●二つ目が宣伝用ポスター。これはカジノ内の壁の至るところに張られていて、『本日は”10”の日』と書かれている。

●そして三つ目。塔の鉄板を差し込む溝に付いている小さな無数の傷跡。何度も鉄板を出し入れする際に自然と付いたと思われる物で、1から5の間に特に多く見られる。


 ジークが周囲の観察を行っていると、各々が徐々に口を開き始めた。


「あぁーもうっ! やっぱいくら考えても分かんない! 超難しい。っていうか考えるだけ疲れる。あんた達に任せるわ」


 ナオミはくしゃくしゃと頭をかくと、近くに備え付けられていた椅子へと腰を降ろし、ゲームから離脱するようだった。

 砂時計の残り時間は後二分ほど。すると、マインがおもむろに口を開いた。


「おそらくこのゲームはやみくもに答えても当たらないだろうな。一見すると確率は1/10と甘めだが、他のゲームとは異なり明らかに高すぎる料金設定ゆえに利用する客も限られてくる。そこから察するに、何かしらのヒントが隠されている気がする。先ほどから目につくカレンダーとポスターについて考えていたのだが、ポスターに書かれた”10”の日の10とは、漢字に直すと”十”となる。これは縦線が塔、横線が鉄板を現しているようにも思える気がするのだ。仮にそうだとすると、鉄板を現す横線は、カレンダーの4日の部分ではないかと思う。10月4日で10が縦線、4が横線だとすればポスターの塔と鉄板を現す”十”に成り得る。つまり、垂らされた滴は”4番の鉄板”に付いているのではないだろうか」



 ふむ、なるほどな。やはりマインはカレンダーとポスターに気付いていたか。そして頭の良さから推測を立てたわけだ。


「可能性はある。一つの回答候補としておく。まだ時間があるからギリギリまで考えさせてくれ」


 ジークはマインの推測に一つ頷き、とりあえずの候補として一旦保留にすることにした。

 すると、険しい顔をしていたミラがなにかを思いついたかのようにハッと頭を上げると、不気味な微笑みを零しながらニヤニヤと笑い出した。


「ふっふっふ。私分かっちゃった」

「ほぉ、言ってみろ」


 ジークはまるで期待していないかのような素振りでミラに促すと、ミラは両手を腰に当てて、ドヤ顔しながら語り出した。


「カレンダーの10月4日って、10は”てん”、4は”し”とも読めますよね? 繋げると、”てんし”、そう囚われの天使のことなんですよ。そして無数に張られたポスターの10の日。この10は”とう”で、悪魔の塔のことなんです。なので、無数に張られたポスターの、”このカジノ自体”が塔なんですよ! そして、このテーブルに置いてあるカレンダーが天使なんです! ここはカジノの一階、天使と思われるカレンダーはここにある。ふっふっふ。もう分かりますよね? そうです。つまりは塔の一階部分、”10番の鉄板”そこに天使が囚われている!」



 ジークは驚愕のあまり、目を丸くしていた。まさかあのミラがこんなにも筋の通った推測を立てるとは思ってもいなかったのだ。

 ミラは無言で目を丸くするジークの姿に、顎を天に突き上げては誰しもがドン引きするほどの堂々たるドヤ顔を放っていた。


「な、なるほどな。それも候補に挙げておくとしよう」


 

 驚いたな。まさかミラが頭を使ってくるとは……いや、発想と言ったほうが正しいか。まさかマインよりも的確な推測を立ててくるとは……。なぞなぞに答える大人よりも、小学生の方が答えられる時があるようなものかもしれないな。難しく考えすぎては、時に逆効果となるのだ。……ん? 考えすぎ? 待てよ。



 ジークがそう思考していると、残るルルが眉をひそめながら小さく呟いた。


「ルルにはよく分かんないけど……でも……なんだか”答えがない”気がする」


 ルルのその何気ない一言で、ジークは何かに気付いたようにハッと顔を上げた。残りの時間は一分を切った。ジークは急いでミラへと指示を出す。

 

「ミラ! 今まで当てたことのある客がいたか聞け!」

「へ? あ、はい!」


 ドヤ顔を放って仁王立ちするミラは、指示を受けたことで少し慌てながらもディーラーへ質問をした。


「あの、このゲームで今まで当たったことある人いるんですか?」

「いえ。まだ正解者はいませんね。囚われた天使は、一体いつになったら外へ出られるんでしょうね」


 ニタニタと不気味な笑みを零しながら答えるディーラーだったが、ジークはそんなことは気にもせず、なにかを確信したかのように目を見開いていた。




 やはりそうか、そういうことか。今まで正解者がいないとすれば、キャリーオーバーのカジノコイン十五万枚がそのまま利用客数となる。それはつまり、三百人が今までこのゲームを利用したということだ。いくらプレイ料金が高くて手を出すのはほんの一握りの客層だったとしても、1/10の確率ならさすがに最低でも一人くらいは正解者が出ていてもおかしくないはずだ。だが実際にはそうじゃない……それもそのはず、三百人もチャレンジして一人も正解者が出ないのは、”正解がない”のだからな。



 ミラ、マイン、ルル、ナオミは心配そうな面持ちでジークを見つめていた。

 砂時計の残り時間はあと僅か。刻一刻とタイムリミットが迫る中、ジークはミラへと耳打ちをし、回答の指示を送った。



「さぁ、間もなく時間切れとなってしまいますよ? 何かしら回答しないとお客様の負けとなってしまいます。ふふふ」


 不気味な笑みを零しつつ、うっすらと半目でミラ達を視界に捉えるディーラー。

 ミラはテーブルの前へと近寄ると、力強くテーブルに手を付いては口を開いた。



「天使は――、10番の鉄板の更に下、”テーブルに面してる鉄板”にいる!」


 その瞬間、ディーラーは目を見開き、大きく肩を揺らしながら驚愕の面持ちで固まっていた。そして、ゆっくりと積み重ねられた箱を外していき、テーブルの上に残るのは一番下の箱だけになると、ミラはその中を覗き込んだ。


 目にしたのは底の部分の鉄板に付着した一滴の白い滴。そう、天使を見付けたのだ。


「やったぁ! 天使みっけ~!」

「なんと! お主ここにいたのか!」

「天使ちゃん、お外に出られるよ!」

「え!? ちょ、マジ!? ヤバくない!?」


 四人は見つけた滴を覗き込みながら大声で騒ぎ出し、ディーラーは一人肩を落としては一枚の紙を差し出してきた。それはカジノコイン十五万枚分と成り得る小切手のようなもの。さすがに十五万枚を持ち運ぶことは困難なので、その紙を交換カウンターへ引き渡せばカジノコイン十五万枚分として取り扱われるようだ。





 プレイを終え、休憩ルームへと足を運んだミラ達。ミラは片手を腰に当て、もう片方の手には先ほどの小切手を掴んでは天に高々と掲げている。


「じゃーん!! 皆の者、控えおろう! これが目に入らぬか!」

「「「ははー」」」


 マイン、ルル、ナオミは椅子へと腰を降ろし、高く両手を上げては頭と共に腰から曲げて深く礼をした。目の前にはドヤ顔で立つミラの姿。ジークはミラの頬を細い手でぺちっと叩き、腕を組んだ。


「調子に乗るな。お前は10番と推測してただろーが」

「……ぶぅぅ」


 ミラは耳をペタンと垂れさせ、口を尖らせては椅子へと腰をかけた。



 

 よし、とりあえずこれで目標の三億のうち半分は稼げた。カジノコイン十五万枚は、地球で言えば一億五千万円相当だからな。あと半分か……それにしてもあのゲーム、うまい思考誘導タイプのものだったようだな。トリックとしては最初の鉄板を差し込む際、あのディーラーは鉄板の先端部分しか差し込まなかったはずだ。そして水滴を垂らし、二枚目を差し込む際は、立て付けが悪いからとそれらしいことを言って、体を使って一枚目と二枚目を”同時”に差し込む。あとは残りの八枚の鉄板を差し込めば完成だ。そしてもう一つある。それはあの番号札。数字を振った札が、さもこの中のどれかに正解があると言わんとばかりに存在することによって、自然と意識が札へと誘導される。しかし俺は思い出したのだ。あのディーラーはこう言っていた――「最終的にプレイヤーであるお客様が、塔の中の天使(垂らした水滴)の囚われた場所を言い当てるというゲームでございます」と。数字を当てろとは一言も言っていなかったのだ。鉄板に備え付けられた数字の札、あえて目の付くように設置されたカレンダーやポスター、視界に映り込む数字によって意識が勝手に正解は札のどれかだと錯覚してしまうのだ。正解はない……それはすなわち、錯覚して本来の正解の枠から切り離された1から10までの札の中には、正解がないのは当たり前のことだったのだ。





 とあるカジノの一室、二階に存在するガラス張りの窓から見下ろしてミラ達の動向を探る領主の傍には、耳打ちをする一人の男がいた。


「グルーエル様、あの一行が『悪魔の黒塔』を攻略したようでございます。このまま帰られると本日は大きな負債を負ってしまいます。……”あのゲーム”に招待してもよろしいでしょうか」


 グルーエルと呼ばれた領主は不気味に口角を上げると、視線はそのまま動かさずに口だけを開いて答え出した。


「噂の”黒い閃光”と思わしき一行。なかなかやるようだし私も興味が沸いた。”あのゲーム”をもし攻略出来たら、ますます惹かれることだろう。だけど、これ以上の負債は許さないよ? カジノ長」

「こ、心得ております……」


 カジノ長と呼ばれた男は額に冷や汗を流すと、一礼してその場を後にした。グルーエルは大理石の椅子へと腰かけ、不気味な笑みを一人零していた。





 休憩ルームでジュースを飲みながら今後の遊戯の話をしているミラ達に、一人の男が近づいていた。黒を基調とした全身スーツのような姿で、胸には大きな金色のバッチを付けている。チンパンジーをベースとしたその男は、先ほどまでグルーエルと話をしていた人物、カジノ長だった。


「ご休憩の所申し訳ありません。私はこのカジノを取り仕切っているカジノ長を務めている者です。先ほどの『悪魔の黒塔』、おめでとうございます」

「あ、ありがとう……ございます?」


 急にカジノ長を名乗る男に声をかけられたことで少し困惑気味に答えるミラ。他のメンツもきょとんとした面持ちをしている。


「さて今回私が声をかけさせて頂きましたのは、『悪魔の黒塔』を攻略したお客様の素晴らしい幸運を祝福して、とあるゲームへの参加をご招待に参りました」

「とあるゲーム?」

「はい。一般には解放していない、いわゆる裏のゲームでございます。裕福な貴族や、お客様のような幸運の持ち主だけがプレイすることを許される極秘遊戯でございます」

「う~ん」


 ミラは思考する振りをしながら、肩に乗るジークへと返答を促した。

 ジークは腕を組んで少しの思考後、一つ頷いてはミラへの返事とした。


「そうですね。おもしろそうなので参加してみます!」

「ありがとうございます。それでは会場にご案内致しますので、みなさんこちらへどうぞ」





 カジノ長に付いて行った先は、一般開放されている遊戯場とは別室となっており、薄暗い個室部屋だった。部屋の中央には長いテーブルが設置され、その両端には椅子だけが存在している。部屋の中にはそれだけしかなく、ゆえになんとも言えない異様な威圧感を放っていた。

 ミラは促されるままに椅子へと腰かけ、カジノ長は長いテーブルの先にある向かいの椅子へと同じように腰かけた。目の前に広がるは、両者間をまたにかける長めのテーブル。そして、カジノ長が不気味に口角を上げると、おもむろに口を開いた。






「では始めましょうか。――ダイスゲーム『六面天候』」

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