二十九話 頭文字R(リーナ)
翌朝、マイン達はトロリーの部屋へと訪れていた。事件の真相と犯人確保を説明し終えると、その場には少しの沈黙が漂った。
トロリーは手に持つ葉で顔の下半分を隠し、小さく溜息を尽くと、眉をひそめては口を開いた。
「ココレットが犯人だったとはな……。そして、盗みを働くようになったキッカケは私にもあると。これは……少し考えねばなるまいな。だが、本当によくやってくれた。礼を言うぞ」
トロリーはそう言うと、顔を隠す葉を除け、マイン達に向けて軽めに頭を下げた。
目玉の身体でマインの肩に乗っているジークは、事後の報告まで含めて事件の全てが解決したことを確認し、瞼を閉じて安堵の表情を形作った。
実は今回取った作戦、犯人を現場で抑えなければならなかった。それは、ガッツが意識して犯行の手助けをしていた”共犯”の可能性もあったからだ。いくら正義感が強いとは言っても、心寄せる女性が相手では、その気持ちは揺らぐ時がある。かけおちなどもそうだが、常識外れとは分かっていても、大切な人の為なら理性など脆く崩れてしまうのだ。
蛾であるココレットは、村で唯一の”夜行性”だった。その為、住人達が寝ている深夜帯に犯行に及ぶことが出来たのだ。寝ているガッツは、ココレットの催眠効果のある鱗粉で操られ、翌朝には何も無かったかのように覚えていなかった。ココレットの店が午後から夕方までの短い営業時間だったのも、夜行性のココレットは昼間に寝ていたからだ。ココレットが当日に犯行を決行するか不安要素があったが、別れの挨拶の時にマインに指示していた煽り文句でうまく刺激されたようだった。
報告に合ったトンボのビュースの大盤振る舞いについては、村の近くにある沼で発見された”軟水晶”を密かに販売していたからだ。低温になるほど硬さを増し、高温になるほど柔軟さを増す希少な軟水晶は、買い取り額も高い。沼へと入り込む者は、村にはごく僅かで、それがビュースの子供達だったのだ。大人のビュースは昼行性だが、ヤゴの子供達は”夜行性”だ。村のみんなが寝静まる深夜帯で、尚且つ近寄らない沼ならば、容易に手に入れることが可能だった。ビュースが軟水晶の販売を隠すようにしていたのは、子供達を使っていた為に罪悪感や周囲への堤体からくるものだった。
アリのアントニオの食料大量確保については、毎月配給されるハチミツも全て売却し、その金で一つでも多くの食料を確保していたようだ。食事の好みとしては、全て歯ごたえのある品を選び、質よりも量といった性格のようだった。”ハグレ”になったことでハチミツの配給量も増え、同種からの日々の献上もあることで食料の在庫には困っていない状況だったし、ただ食って寝るだけの生活で動くこともままならないアントニオは自然と犯人の線から消えたのだ。
「さてトロリー殿、今度はこちらの番だな。話を聞かせてもらおう」
マインは腕を組み、豊満な胸を一つ揺らしては口を開いた。
トロリーは一瞬ボカンとしていたが、すぐに我に返ると慌てて返事をした。
「あ、ああ! 神之欠片を探しているんだったな。もちろん知っている! それはな……」
葉で口元を隠し、わざとらしく言葉を溜めるトロリーに、マイン達は一つ唾を飲み込んではトロリーの顔を覗き込んだ。
「西北の地にある街『エリセド』にあるはず! ……”地図”がな」
マイン達は大きく体を崩し、ジークに至ってはマインの肩から床へと転げ落ちた。
「わ、悪気は無かったんだ許してくれ。まさか本当に事件を解決するとは思っていなくてな。地図の情報だから言っても良かったんだが……ほれ、乗り掛かった舟だったか? そう言うであろう。ふふふ」
ジークはゆっくりマインの肩へと這い上がると、トロリーを見つめては大きく溜息を尽いた。
まったく……食えない奴だな。まんまと乗せられた。さすがは長年生きてる女王と言ったところか。ドドマエルを小僧扱いするのも分かる気がする。
マインは一つ咳払いをすると、再び腕を組んでトロリーを見つめ直した。
「ま、まあ地図の情報が得られるだけでも大きい。詳しく話を聞かせてくれ」
「そうだな。『エリセド』は――」
荒れ狂う荒野の中、颯爽と駆け抜けるリーナバッハの姿があった。
どうやらトロリーの話では、北西にある『エリセド』という街で開かれる非公式の裏オークションにて、神之欠片の地図が出品されているのだという。だがそれに手を出す者は今ではまずいないとの話だ。それは、過去に何回か落札されたことがあるそうだが、手にした者は皆、目的地まで辿り着けずに結局またオークションに出品しているからだとか。領主が主催をしているその裏オークションでは、一応目玉商品の一つとして、飾りのような扱いだが毎回出されているのだそうだ。
「久しぶりのリーナちゃんの登場回ですー! 飛ばすぜー? ガンガン飛ばすぜー?」
車内のスピーカーからは、溜まりに溜まったエネルギーを発散するかのような、元気なリーナの声が響いていた。
ジークはコーヒーを優雅に飲みながら、子供のようにはしゃぐリーナに若干呆れた表情を浮かべていた。
「飛ばすのはいいが、ちゃんと荒野を走れよ」
「合点承知の助です!」
「お前は俺の知識の中から、変な知識をつけすぎだ……」
ジークが荒野を走れと命じた理由――それは、亜族の大陸の中央には巨大な山があり、その山を通れば迂回するよりもショートカットになるのだが、リーナの性格と訪れたことのない山のリスクを考えて、迂回してでも安全な荒野を走るルートを選んでいたのである。
亜族の大陸中央にある巨大な山は木や食材などが豊富にあり、そこから採取した物は大陸内で多く使われかなりの需要を誇っていた。その豊富な物流を可能とするこの山は『商い山』と呼ばれ、東西南北に抜けれるように広く整理された山道が通っている。そして、その山道が通る峠は、通称『商い峠』と呼ばれていた。
商い山の近くに、二匹の小鹿は立っていた。だが、その内の一頭は明らかにもう一頭と比べ異質だった。
隣に立つ小鹿よりも二回りほど大きな体に、強靭な脚を持ち、真っ黒な毛並みに全身には無数の傷痕がある。そして二本の長い角を生やし、右目の部分には大きな傷跡が刻まれていた。
しばらくすると、その二頭に向かってくる大きな土煙があった。小鹿はそれを見るなり、傷のある鹿になにやら耳打ちするような仕草をしては、その場から去って行った。
いつにも増してリーナが豪快に飛ばしていると、蟲族の村を出てから三日ほどで迂回地点へと差し掛かっていた。
目の前に映る山は、そのあまりの巨大さゆえに、山の麓部分しか視界に映らないほどである。
鼻歌交じりに飛ばしているリーナはふとそれを止めると、リーナバッハの動きも同じく止まった。
ジークは走行が急に止まったことに不審に思い、前方を確認すると、リーナバッハを通せんぼするかのように立っている一頭の鹿を捉えた。
「なんだあれは?」
ジークが『千里眼』で確認すると、それは一頭の魔物だった。
――『レースキング』。
三度の飯より走るのが好き。競争ならば命をかける。自分より早い奴に、俺は会いに行く――。
『千里眼』で確認した説明欄にはそう書かれていた。それは、走るのが趣味程度に好きな『レースボーン』という魔物が、絶対王者・無敵無敗を誇って進化した突然変異体だった。
レースキングとリーナはお互い顔を見合わせては、その場でじっとしていた。そしてレースキングがおもむろに首だけを捻って背後の山を指し示すかのような動作をすると、リーナはそれに答えるように前方にそび立つ巨大な山を確認した。
ジークはコーヒーを一口すすり、目を瞑っては平然と口を開いた。
「まあ、ここからでもいいだろう。レースキングとやらは無視して迂回しろ」
だが、リーナはその言葉には答えず、ただ沈黙を貫いていた。そして、静かに一つ呟く。
「こいつ……できる」
「は?」
ジークはもう一口コーヒーを飲もうとした瞬間、聞こえてきたリーナの意味不明なセリフに、思わず顔を見上げては一言漏らした。
レースキングがリーナバッハの真横に並ぶように位置すると、大地を後ろ脚で数回蹴っては荒い息を漏らした。それと同時に、リーナもクラッチを繋げずアクセルだけを数回倒しては、エンジンの回転数を上げて車体をうならせていた。それはまるで、両者がレース前に己を高めているかのようだった。
両者の前方の中央に、どこからともなく現れた小鹿がスタンバイすると、緩やかな風が流れ、しばしの沈黙が訪れた。
前方には迂回するはずの山、そしてこの状況、物凄く嫌な予感がしたジークは咄嗟に声をあげた。
「おいリーナ! 何をし――」
だが、その声も空しく途中で切り捨てられてしまった。そう、リーナの急発進によって。
レースキングとリーナバッハの前方中央に位置していた小鹿が、大きく頭を下へと振りかぶると、それを合図にしたかのように両者が一気に飛び出した。
一瞬で強烈な土煙が巻き起こったその先には、小鹿の脇を両者が通り過ぎ、徐々にレースキングを後方に置き去りにするリーナバッハの姿があった。
「最初に前に出たのは――、リーナバッハだぁ! 最先端技術を詰め込んだその体は、さすがに直線距離では一枚上手のようだ! 対するレースキング、少し厳しいかぁ!? だがその強靭な脚力で必死に食らいついているぅぅぅ」
なぜだかミラは魔通機をマイクのように片手に持ち、まるで実況するかのように口を開きだした。
「さぁいよいよ商い山へ突入します! まずは上り、商い峠でのヒルクライムでリーナバッハは逃げ切ることが出来るのか!?」
商い山へと突入し、それと同時にリーナバッハとレースキングが横に並んで丁度くらいの横幅の山道へと入って行った。そこはもう商い峠で、いくつもの曲がりくねった山道が、一番上は山頂近くまで続いている。
「おぉっと、リーナバッハ! カーブをドリフトで華麗に走り抜けるが、直線が減ったことでやや速度を落としているか!? 後ろからは徐々に迫るレースキング! さすがは地元か、無駄のない走りを見せているぅぅぅ」
曲がりくねったカーブが続き、演算による絶妙なスピード調整とハンドリング制御によって繰り出される神業ドリフトで切り抜けるリーナだが、上り坂ということもあり、過度な加速は制限される状況だった。
対してレースキングは走りなれた峠だからこそ、峠の持つクセとリズムが体に染みついていた。カーブを曲り切るスピードがリーナバッハよりも早く、その差を徐々に詰めていた。
そして山の中間地点ほどまで進んでいた両者は、最初の差がほとんど無くなり、リーナバッハのすぐ後ろにレースキングが位置する形となっていた。
「ちっ! 追いつきやがったですか。けど、このまま前には出さないです!」
スピーカーからリーナの声が響き渡ると、中間地点にある大きな岩のあるカーブへと差し掛かっていた。
リーナが外から内、そして外へと抜けるドリフトの軌道計算をし終えると、それに沿うようにまず外側へと車体を運ばせた。
だが、その瞬間を狙いすましたかのようにスピードを上げてリーナバッハの内側へと、加速するレースキングが頭をねじ込んだ。
「行かせないです!」
もうカーブへと差し掛かり、ドリフトへ入ってるリーナバッハの車体前方は、カーブの内側にある大岩スレスレで滑り込んだ。
当然進路を塞がれたレースキングは勢いよく減速したのだが、その瞬間思わぬ行動に出た。
「おおっとぉ!? 攻めるのをやめたと思ったレースキングが、と、飛んだぁぁぁ!? そしてそのままリーナバッハの上空を超えて外へと抜けたぁぁぁ!」
「な、なにぃ!? 外からだとぉ!? くっ、あの鹿め……どんなABS積んでやがるです!」
それは、レースキングが進路を塞がれた直後、内側にある大岩を蹴ってはその反動で上空へと跳び、そのままリーナバッハがドリフトで膨らんで出る筈だった外の進路へと、紙一重で先に入ったのだった。
その先からは徐々に先行するレースキングとリーナバッハとの差が開かれていった。
山頂近くまでやってくると、そこには大きな木が山道脇に生い茂っており、枝に実る大量の葉によって、巨大なトンネルのようなものが出来ていた。そこは八百メートルほどの長めの直線トンネルになっていた。
「まだ抜くチャンスはあるです! ここで仕掛けるですよ!」
先にレースキングが葉のトンネルへと突入し、少しするとそれに続くようにリーナバッハも突入した。
リーナバッハはヘッドライトを点灯させ、得意の直線距離ということで少しでも差を縮める為に加速していった。
レースキングは後方から徐々に迫りくるヘッドライトの光をチラチラと確認しながらトンネルを駆け抜けていると、ふと違和感を覚えた。そして後方を振り返るが、さっきまであった光がそこには無かった。だいぶ引き離すことが出来たのか、それとも何かトラブルがあったのか、考えても見に戻るなんてことは出来ない。これはレース、勝負なのだ。最後まで走り切る。そう決意しているかのように目に力を込めて走り続けると、ようやくトンネルから抜け出すことが出来た。
だが、トンネルを抜けた瞬間、レースキングは驚愕した。
「どうだ! リーナちゃんのブラインドアタック、華麗に決まったですー!」
「並んだぁぁぁ! レースキングとリーナバッハ、両者並びましたぁ! そしてここからは峠の後半戦、下りのダウンヒル対決だぁぁぁ」
それは、リーナがトンネル内にて”わざと”ヘッドライトの明かりを消し、地面を走る際に発する音やエンジンの音などの騒音制御を行い、無音に近い状態を作り出していた。
魔通機の仕組みを応用した空気の振動波長を、騒音の波長と対するように調整して発することで、音の相殺効果を生んでいたのだった。
ただ走り続けるレースキングに進路妨害される心配が無い為、容易に隣へと位置することが出来たのだった。
「下りということもあり、リーナバッハは調子を取り戻しているか!? 後ろに位置するレースキングとの距離を少しずつ引き離しているぅぅぅ! このまま逃げ切れるかリーナバッハ!」
車体の重いリーナバッハは、下りの効果でスピードを上げていた。
後ろを走るレースキングは眉をひそめて険しい顔を浮かべ、チラチラとある場所へ視線を送っていた。
いくつかのカーブを超え下りの峠も中間地点ほどに差し掛かった所で、レースキングはここぞいわんばかりに地面を蹴りつける足に力を込めてはスピードを上げた。そして、あるカーブに差し掛かった時、事件は起きた。
――ドガアアアン!
「「「「きゃああああ」」」」
突然車内に衝撃が走り、ミラ、マイン、ルル、リーナの叫び声が響き渡る。そして、衝撃によりリーナは制御を乱し、二回ほどスリップして回転すると、進行方向へと車体の頭を向けて制御を取り戻した。
「……やってくれたですね。あの、うましかヤロー! もうリーナちゃん激おこです!」
それは、レースキングが狙っていた作戦。リーナバッハが通り抜けたカーブは、今までと違いカーブの内側には木が生えておらず、背の低い岩や草などがあるだけだった。レースキングは山道ではなく、カーブのさらに内側をジャンプして通り越し、先にカーブを曲がり抜けたリーナバッハのボンネットへと着地したのだった。
「見せてやるです! リーナバッハ、『スポーツモード』!」
リーナの掛け声と共に、リーナバッハの車体が大きく変化を始めた。
車体の中央に溝が現れ、前輪の回転が若干緩やかになるとそのまま車体が中央の溝から前半分が後方へスライドし、車体の全長が短くなった。車高も地面スレスレへと下がり、ディッシュタイプだったホイールが網目のスポークのようなメッシュタイプへと変化し、トランクの一部がせり上がってはリアウイングを作り出した。まるでスポーツカーのように変化したそれは、リーナバッハのモードチェンジ機能の一つ、スピード重視のスポーツモードだった。
そこからは超加速と、全長が短くなったことによりネックだったカーブの攻めもキレを増して、かなりの距離を離されたレースキングへと怒涛の追い上げをしていた。
「早い! 早すぎるぞリーナバッハ! 前方を優雅に走るレースキングに迫る勢いだぁ! 華麗なドリフトテクニックによって、流れるようにカーブを攻め切っているぅぅ! さぁレースも終盤、リーナバッハはレースキングに追いつき、勝つことが出来るのかぁぁぁ!」
ミラの白熱の実況の通り、もうすぐ峠を抜けるところまで来ていた。だいぶ差が縮まったが、まだレースキングへの距離は少し離されていた。
残るカーブは一つ、そしてそれを抜けると少しの直線の後に峠を抜ける形となる。
「ここから下りの急こう配が続き、その後に残る最終ヘアピン……そこで差を縮めれなければ負けるです。だけど……まだ勝負は終わってないですよ!! うおぉぉぉぉ!」
リーナの気合の叫びが車内に響くと、急な下り坂をスピードを落とさずにあえてギアをトップに入れて更に加速させた。
そして前方に待ち受ける峠最後のカーブ。ほぼ百八十度切り返さなければならない、地獄の超急カーブだ。
リーナは外側に目一杯寄り、ほんの一瞬ブーレキペダルを倒した。リアテールのブレーキランプが真っ赤に輝き、ブレーキパッドから火花が飛び散る。そしてギアを一段下げると同時に、アクセルペダルを倒してハンドルを大きく切り返す。タイヤを滑らせ、ドリフトするリーナバッハの車体は、ほぼ百八十度回転するかのような体勢で急カーブの内側へと猛スピードで突っ込んだ。
車体前方がカーブの内側へと差し掛かった時、リーナは水晶加工された透明度の高いヘッドライトをキラリと輝かせると、大きく叫び声をあげた。
「ここだぁぁぁ! ニトロブースト発動!」
その叫びに応じるかのように車体後方のトランクが大きく開くと、そこから大口径を誇る二つのジェットエンジンのようなものが飛び出し、驚異的な噴射を放出した。
爆発的な噴射力により強制的に慣性の法則から外れたリーナバッハは、カーブの内側の中間地点から、抜けた先の外側へと一直線に駆け抜けた。その軌道はまるで、Vの字を描くようにカーブを切り抜けたのだ。
「これがリーナ様の、究極Vモンキーだぁぁぁぁぁ!」
そしてリーナの雄たけびを置き去りにするかの如く超加速は続き、直線ということもあり一気にレースキングへと迫った。
後方からの有り得ないスピードの追い込みに目を丸くするレースキング。キッと目に力を入れては前方へ意識を戻し、最後の力を全て脚へと集約して渾身の走りを見せる。
峠の終わりはすぐ目の前、巨大な二本の木がここがゴールだといわんばかりに左右に存在している。その二本の木の間を先に駆け抜けた方が勝者となるのだ。
「両者がもうすぐゴールへと差し迫る! 逃げ切れるのかレースキング!? 追い越せるのかリーナバッハ!? 商い山最速の称号を手にするのは、一体どっちになるのかぁぁぁ!?」
「届けぇぇぇぇぇ!!」
リーナの叫びの後、その時は訪れた――。両者共に巨大な木の間へ到着した。
ゴール時の上方からのアングル、真横からのアングルと、一瞬時が止まったかのようにそれが訪れると、流れは戻って両者がゴールを駆け抜けた。
ミラは震えあがりながらマイク代わりの魔通機を握りしめる。
「ひ、引き分けだぁぁぁ! 両者同着により、引き分けです!」
ゴールし終えたリーナバッハとレースキングは緩やかにスピードを落とし、両者のその背中はやり切ったという雰囲気を纏わせながら静かに止まった。
荒野に出て気が付くと、辺りはもうすっかり夕暮れのオレンジ色に染まっていた。
レースキングは横にいるリーナバッハへと向き合うと、そっと右の前足を突き出した。それに答えるかのように、リーナバッハのフロントドアが開く。レースキングはそれに触れ、険しい顔つきからどことなく微笑むかのような表情を浮かべると小さな鼻息を零し、リーナバッハはライトを二回ほどパッシングするかのように点滅させた。
全力を出し切ったレースを通して、両者の間には心通わせる何かが芽生えていたのだ。
オレンジ色の太陽がその上半分を地平線から覗かせると、荒れ狂う荒野の大地に佇む二つの影は、まるで握手を交わしているかのようだった――。
「なあ……これは一体なんなんだ?」
顔を引きつらせるジークが一言呟くと、マインとルルはただ困った笑みを浮かべていたのだった。




