25.卒業
25.卒業
美紀は鏡に映った自分の姿を見ている。この制服を着るのも今日で最後。同時に明日からは専業主婦であり、子育てにも専念できる。
「そのセーラー服も見納めだな」
鏡越しに美紀の後ろに映った俊樹が言う。鏡の中の美紀が微笑む。
「そういう趣味があるのなら、いつでも着てあげるわよ」
「まさか…」
苦笑する俊樹。居間に戻ると、美紀の両親もきちんとした身なりで待って居た。
「じゃあ、そろそろ出かけようか」
父親が緊張した面持ちで言う。母親は笑みを浮かべて頷いた。俊樹は真冬を抱き上げた。
そう。今日は美紀の卒業式だ。美紀は今日で義務教育を終えるのだ。5人は揃って家を出た。
学校に着くと美紀は真冬を連れて教室に入った。
「きゃー!美紀。その子がそうなのね」
まだ真冬に会ったことのないクラスメートが叫び声を上げる。美紀と真冬の周りはすぐに人だかりが出来た。
つい、先ほどまでは別れの日の朝にふさわしい厳かな空気に包まれていた教室が、可愛らしい珍客の登場に雰囲気は一気に和やかなものに変わった。
「そろそろ、体育館へ移動してください」
在校生のお世話係の女の子がそう告げた。美紀は真冬を俊樹のもとへ連れて行こうとした。
「美紀、いいのよ。そのまま真冬ちゃんと一緒に入場しても」
「えっ?」
萌果がそう言って微笑した。クラスのみんなも笑って頷いている。
「校長先生がそうしてもいいって許可をくださったのよ」
美紀は真冬と手をつないで入場した。そこにはちゃんと真冬の席も用意されていた。美紀の隣にちょこんと座った真冬は物珍しそうに辺りを見渡している。けれど、式が始まるとおとなしく前を向いて座っていた。
卒業証書の授与が始まった。順番に従って美紀は真冬の手を取り、席を立った。そして、二人でステージ下まで歩いた。美紀が振り返り、教員たちと保護者席に向かって礼をすると、見様見真似で真冬も一緒にお辞儀をした。その光景には誰もが微笑みをこらえきれなかった。そして、美紀は真冬を抱き上げて壇上に上がる。抱きかかえていた真冬を下ろし、学校長と対峙する。
「いいお母さんになって下さいね」
にっこり笑い、小声でそう言ってから校長は卒業証書を読み上げた。美紀が卒業証書を受け取ると、どこからともなく拍手が沸き起こった。次の順番で控えていた萌果も拍手で祝福した。
保護者席の俊樹と美紀の両親も感極まって、今にも涙がこぼれそうになっている。
「たかが娘の卒業でこんなに感動するとはな…」
父親の目からは既に涙がこぼれている。
「お父さんったら…。私まで泣けてきちゃうじゃない」
母親もバッグからハンカチを取り出した。
在校生たちが両手を掲げて作ったアーチを卒業生たちが通って退場する。吹奏楽部の生徒たちが『TOMORROW』を演奏している。
俊樹たちは校門の外で美紀の帰りを待っていた。たくさんのクラスメイト達に囲まれて美紀と真冬が校舎から出てきた。
「じゃあ、これで。またいつでも遊びに来てね」
そう言って、美紀はクラスメイトたちに手を振った。
「お待たせ、あなた」
卒業証書を胸に抱いて微笑む美紀の髪に早咲きの桜の花びらが一枚、吸い寄せられるように舞い散った。




