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第二話 唄歌い

俺に絡んできたチンピタどもを俺よりも早く片付けたのは、紛れもない奏芽だった。

しかも、驚いたことに奏芽は悪魔、妖怪退治の術まで持っていたのだ。

「な、な、な……なんで聞かないんですか!」

登場早々に奏芽は何故か怒っていた。

しばしの沈黙。

いやいや、なんで効かなかったって……。まさか、俺を狙ってたのか?

「おいおいおい。お前は俺を助けてくれたんじゃないのか?」

「はい!」

おおう! 威勢のいい返事が返ってちゃったよ!

俺は半分苦笑い、半分呆れの表情を浮かべる。

こいつ、ほんとに何も知らないのか?

見るに、奏芽は俺の体質や境遇は知らないらしい。

なら、なぜ俺を狙う?

「一つ質問だ」

「はい」

「お前は俺の敵か?」

「……場合によっては」

言いづらそうに顔をしかめる奏芽。

俺はため息を着いてから、

「そうか」

と言って、その場から場違いな風格を放ちながら歩き始める。

一つ、大きなあくびをすると、

「……って、そうじゃないですよ!!」

背後から奏芽の声が飛んでくる。

だが、俺は止まらない。

知らんぷりをしながら前へと前進していく。

「クッ……こうなったら、『通りゃんせ』を――」

「あー、俺には唄は聞かないぞ?」

奏芽がもう一曲歌いだそうとするのを制す。

俺の意外な言葉を聞いて、奏芽は素っ頓狂な声を上げる。

「ふぇえ!? な、なんでですか!?」

俺は再びため息を着く。

「ほんとに何も知らされていないんだな。俺の呼び名、知ってるか?」

「い、いえ……」

「『フェンリル』だよ。俺には、ハイブリットという呼び方の他に皮肉な怪物の名前を付けられてるんだ」

「え?」

奏芽がよく意味がわからないという顔をするが、俺はそれ以上何も言わず、その場を立ち去った。



本当に、嫌な世の中だよ。

空にはコウモリ、カラス、その他の鳥たちが殺し合いを始めている。

周りでは弱い種族が強い種族たちに襲われていた。

誰も助けるものなんていない。

それが当たり前だからだ。

この人工島では、そういった行為が実験として行われている節がある。

全ては、こんな目を持ってしまった宿命だ。

先天的な能力。

過去の産物。

人は皆そう言う。

だが、その中にも例外は存在するのだ。

違う種族同士の内で生まれた二つの能力を持った者。

それこそがハイブリット。

そして、それこそが俺だ。

この人工島には、あと三人のハイブリットたちがいる。

出会った者もいれば、会ったことも見たこともない奴もいる。

だけどまあ、それが正しいのだろう。

忌み子は一人寂しく生きるに限るのさ。

「……でだ。なんでお前は俺についてきてるんだ?」

振り返り、奏芽に向かって声をかける。

すると、奏芽は俺の胸に顔をぶつけ、鼻を押さえながら怒ったように言う。

「な、なんでいきなり止まるんですか!」

「はぁ」

俺は片手で頭を押さえながらため息を着く。

こいつは何がしたいんだ?

「お前はなんで俺に付きまとう? なんで俺に関わる?」

「それが私の仕事だからです!」

奏芽は真剣な眼差しで訴えてくる。

仕事、ね。なんとなく予想はしてたさ。

だけど、なんでこんな無知な少女なんだ?

もっといい人材がいただろうに。

「あ、今、かわいそうだと思いましたね!?」

「おお、そういうのには敏感なんだな」

両手をぐるぐると振り回してくる奏芽を片手で制しながら考える。

国は何を考えてるんだ? こんな少女にそこまでの力があるとでも言うのか?

見た目からして、まだ成長段階の唄歌いだろう。

それなのに、こんな戦場みたいな場所に連れてきて、俺を監視?

馬鹿にしているとでもいうのか?

いや、国に限ってそれはない。

あいつらは、確実に俺を殺せる人材を送ってきているはずなんだ。

考えが深まれば深まるほど、泥沼にはまる。

これでは悪循環だ。

俺は気を取り直して、歩き出す。

「あー! 待ってください!」

「うっせ! てか、学校はどうしたんだよ!」

「サボりました!」

おいおい。それでいいのかよ。

まあ、俺もその一人だけどな。

と、そんな話で盛り上がっていると一つの気配を感じる。

この気配は……。

「やばい! 奏芽、伏せろ!!」

奏芽は何が起きているのかわからないといった顔で俺を見てくる。

クソッ! 間に合え!

俺は目を瞑り、左目を開ける。

瞬間、体が軽くなる。

俺は奏芽を抱きかかえ、この場から非難する。

すると、避難し終えた場所から青い炎が上がる。

「狐火?」

奏芽が素っ頓狂な声を上げていた。

攻撃を受けたわけじゃない。

これは、あいつの挨拶なんだ。

「……テメェ!! 聞こえてんだろ、九尾!! いや、火月真央!!」

俺の声に中学生が笑いながら答えた。

「ごめんごめん。でもほら、タイミングずらしたから当たらなかったでしょ?」

ショーパンにフードを被った少女、火月真央が顔を出す。

真央の目は赤く光っていた。

こいつ、最初から全開で来てやがる。

「どういうつもりだ!」

「あはは。そんなに怒らないでよ。ボクはその女の子に用があって来たんだよ?」

目が笑っていない乾いた笑みを奏芽に向ける。

奏芽はいつでも歌えるように息を整えていた。

こりゃあまずいかもしれない。

と、思ったのだが……

「やっぱり、可愛いねぇ!」


「「……は?」」


奏芽だけでなく、俺までもが素っ頓狂な声を上げてしまった。

可愛い? はい?

「うんうん。いやね? 昨日、この島に可愛い女の子が来たって言うから見に来たんだけど、やっぱり可愛いね。……まあその実、中身がやばいけどねぇ」

九尾の能力とも言える千里眼。

遠くのものを把握するだけでなく、人の内面的力までもを見通す嫌な力だ。

真央は本当に見に来ただけのようで背中を俺たちに向けて歩きだそうとしていた。

だが、一瞬思い出したかのように振り返り俺に微笑みかける。

「気を付けた方がいいよ? その子、君よりも強いからね」

「そらどうも。ご忠告、痛み入るよ」

「大の親友、鬼怒狼太くんのためだもの。情報提供くらいはしてあげるさ。これでも、ボクは優しいからね」

嘘つけ。お前のどこが優しいんだよ。

俺が貸したゲーム全部パクりやがって。

真央はそれだけ言い残し、姿を消した。

そして、俺も奏芽に言う。

「今日は帰れ。俺も帰る。ついてくるなよ?」

「え? ああ、はい」

意外に素直な奏芽はスタスタと家への家路を歩いて行った。

俺か? 俺はもう少し遊んでから帰るけど?

いやいや、本当に帰るわけ無いだろ?

俺は今日初の自由を堪能すべし、まだ暑さの絶えない道を歩いて行った。

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