第一話 ハイブリット
俺は今、地獄といっても過言ではない高校という監獄に来ていた。
俺が思うに、高校とかいう学校というものは子供を年齢別に収容するための施設だと思うんだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
そんなことより、この居心地悪いところにいつまでもいるわけには行かなかった。
だが、同時に出て行くわけにも行かないのだ。
それはなぜか。
簡単だ。俺が、この学校に通えと国からのお達しで、通うだけで金がもらえるからだ。
上級特待生制というらしい。
まあ、その実これには裏がある。
まあ、その話はあとにしよう。
クラスのドアが開かれ、担任が教室に入ってくる。
それと同時に、一人の女の子までもが教室に入ってきたのだ。
そして、俺はその女の子を知っている。
「今日からこのクラスに入った、金城市奏芽です。よろしくお願いします」
綺麗に整った顔が少しばかり強ばりながらも微妙な笑顔で挨拶を終えた少女。
その少女は昨日、俺にわざとぶつかってきた少女だったのだ。
「ふぅん」
なんとなく、面白そうな予感を感じた。
だから、俺は何もなかったかのように教室を出たのだ。
俺の横を通る生徒は一瞬、目を疑う。
そして、話し込む。
あれが、噂のハイブリットか、と。
それは、俺に向けられている言葉だ。
ハイブリット。それこそが俺がこの高校に通わされている元凶でもある。
そんな中、俺に話しかける声が一つ。
「狼太くん。……で、いいんですよね?」
その声に俺は覚えがあった。
昨日の少女だ。
ろうかに出ていた野次馬どもは一瞬にして消え去った。
だた一人、俺に話しかけた少女、奏芽だけは俺の背後から動かなかった。
俺はため息を着いて、振り返る。
「違う。人違いでもしてるんじゃないか?」
「え……ええ!?」
奏芽は大げさなアクションを起こして驚いていた。
それと同時に、焦りのためか目が泳いでいる。
それを十分に堪能してから、俺はもう一度きりだした。
「すまん、からかっただけだ……で? なんだよ。昨日言ったろ? 俺には近づくなって」
奏芽は苦笑いを浮かべながら俺を見る。
黒い瞳が何かを言いたそうに見つめてきているが、残念ながら以心伝心はできない。
「あ、あの……あなたは、狼太くんは何者なんですか?」
「ほほぅ。会って間もないやつにお前は何者って聞くんだな」
「~~~~! 違います! わ、私は――」
奏芽は言いかけて、言葉を止めた。
そして、気を取り直して、もう一度訪ねてくる。
「そ、そんなことより、あなたは何者なんですか!」
半ば命令に近い部分もあったが、れっきとした質問だ。
俺は窓から空を見上げて、考え込む。
数秒の空白。
俺は口元を緩めて言った。
「俺は怪物だ。……ここらにいる、人間とは違ってな」
それだけ言い残して、俺は奏芽に背中を見せ玄関に向かう。
「あ、ああ! どういうことですか、それは!!」
奏芽の言葉に、俺はニヤつく。
まったく、本当に面白いやつだよ。
少女の正体に、半分ばかり気づいた俺は、ヒントだけを置いてその場を立ち去った。
たぶん、いや絶対、あのバカには解けないと確信を持って。
俺は怪物だ。人間と違って、な。
それを自分に言い聞かせ、靴を履き、まだ太陽が眩しい外の世界に一歩踏み出した。
「ほんと、空から女の子が降ってきて欲しいよな」
俺はいつもどおり、おかしな妄想を言い出す。
いや、ホントにそうなってもそれはそれで困るのだが、その時はその時だろう。
あえて、無視るという手段すらあるご時世だ。まったく、選択の自由様々だね。
そう言いながら、空を見上げていると黒い点みたいのがだんだんと大きくなって――
「お。もしかして、物語のスタートか?」
ちょっと期待を膨らますが、もちろんそんなことはない。
落ちてきたのは悪魔族の眷属のコウモリだった。
黒い煙を上げながら落ちてきたところを見ると何かに攻撃されたらしい。
だけど、この攻撃は見たことがないな。
少し見物していると、背後から人の気配。
それも、悪魔の匂いがする。
横目でそれらがいる方向を見ると、そこには二、三人の悪魔の集団がいた。
そして、不運なことに俺が煙を上げているコウモリを見物していたところを発見されてしまった。
「これ、お前がやったのか、あぁ?」
声をかけると同時に俺を囲む三人の悪魔。
「俺たちが何族か分かってんだろうなぁ?」
「いんや、全くさっぱりこれっぽっちもわからないな」
俺をこういう輩が大嫌いだ。
自分という存在を最強だと思い込んでいる奴は面倒で、ウザイ。
「あぁ!? テメェ、もういっぺん言ってみろ!」
目の色が紫色に変わった男たち。
悪魔の力を開放したのだ。
威圧感が一回り大きくなったが、それほど怖いものじゃない。
しょうがない。俺も威嚇くらいは――
そう思って、目を瞑ったが、その前に俺たちに割り込んでくる奴がいた。
「かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った」
聞きなれた曲。
お手玉などをするときの歌だ。
そして、最後の一句が歌われる。
「うしろの正面だあれ?」
その一句が歌われると同時に男たちの背後に黒い靄がかかる。
それが男たちを包み込み、捻り、消し去っていく。
これは、唄歌い?
唄歌いとは、悪魔、妖怪に最も最適な退魔方法の一種だ。
歌を歌い終わると同時に、相手の生命も尽きる。
そんな恐ろしいものをしたのは誰か。
目の前に立っていたのは、なんとあの少女、奏芽だった。




