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黒いあおいと、まほうの歌  作者: あみーら


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8/12

8|いちばん大切なもの

その日は、とつぜんやって来ました。


「あれ?」


ヌールが、ふらりとよろけました。

あおいがふりむいたときには、ヌールは、地めんにたおれこんでいました。


「ヌール!」


かけよると、ヌールのいきは、ぜえぜえと、くるしそうでした。

顔は、まっ白です。


「ヌール、ヌール!」


あおいが、何どよんでも、ヌールの目は、ひらきません。


「クロ、早く!」


クロは、すぐにヌールをせなかにのせると、大きなつばさで、一気に空へまい上がりました。


びょういんにつくと、おいしゃさんが、いそいでやって来ました。

ヌールは、ベッドにねかされ、あおいはそのとなりで、ただじっと、見まもることしかできません。


しばらくして、おいしゃさんは、しずかに首をふりました。


「これは、わたしのくすりでは、なおせないびょうきです」


あおいは、クロを見上げました。


「クロ、ヌールをたすけて」


クロは、ヌールをじっと見つめると、しずかに言いました。


「このおねがいは、とても大きい。この子のいのちをすくったら、あおいのねがいをかなえる力は、もうのこらないよ。それでもいいの?」


まわりに、大人たちがあつまって来ました。


「あおいちゃん、まって」

「その大切なねがいを、自分のために、つかいなさい」

「国のために、つかうべきだよ」

「せかいじゅうの、たからものをあげるから」


大人たちの声が、あおいをとりかこみます。


でも、たからもの。おかし。国のため。

大人たちが言うものは、どれも、あおいにとって、一番大切なものではありませんでした。


あおいにとって、一番大切なのは、もっとべつのものでした。


はじめて「こんにちは」と、声をかけてくれたこと。

黒いかみをこわがらずに、いっしょにあそんでくれたこと。

そして、これからも、ヌールとすごせる時間。


あおいの答えは、はじめから、きまっていました。


「いらない」


あおいは、大人たちに、はっきりと言いました。


「たからものも、いらない。国のためとかも、分からない」


あおいは、ヌールのそばにひざをついて、いつもの歌を歌いはじめました。


「くーろ、くーろ、かなえてちょうだい♪」


そこまで歌うと、あおいの声が、ふるえました。

ヌールのいきが、ヒュー、ヒューと、かぼそく鳴っています。


「ヌールを……」


つづきが、出てきません。

目から、なみだが、ぽろぽろとこぼれおちました。

あおいは、なみだをぬぐいながら、それでも言いました。


「ヌールを、たすけて。クロ。おねがい」


クロは、あおいを見つめました。

そして、いつものような、大きな声ではなく――


「ヤッラ。」


しずかに、そう言いました。

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