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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット13 暑さに負けるな! クールなスイーツ(夏休みストーリー)
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はちみつたぁっぷりの鈴カステラ【竜】

「はぁ。人間の書く書物ってなんでこんなに面白いのかしら。いくらでも読めちゃうわ」

 図書館の一角で本を山積みし楽しそうに読んでいる少女がいた。猫耳のフードを被り、ミックスベリースムージーのような髪色、青白く光る角。エメラルドグリーンのローブに身を包み、その裾からは細くも逞しい尻尾がちろりと出ていた。少女の名前はメイ。普段は自分の世界にいるのだが、することがないとこうして人間界に赴きあちこちの図書館で書物を漁っている。というのも、自分の住んでいる世界にこういった娯楽が少ないからという理由から始めた本の漁りも、日を重ねる毎に段々と人間に興味を持ったメイは次第に活字なしでは落ち着かない日々を送っていた。少しでも暇ができてしまうと人間の書いた書物が気になってしまい、いてもたってもいられなくなってしまっている今日この頃。

「ふぅ。この本もとっても楽しかったわ。さてと、ほかにも読みたい人がいるかもしれないわよね。少し片づけないと」

 本の山を崩し元の本棚へ戻している途中、メイはバランスを崩し本をあちこちにばら撒いてしまった。

「ひゃぁあ!! ……いったたた……うぅ……ごめんなさい」

 たくさんの本をばら撒いたことにより、大きな音をたててしまい読書に集中していた人が一斉に音のするほうをギロリと睨んだ。本を楽しんでいるときに邪魔をされると嫌な気持ちを知っているメイは心から謝罪をし、ばら撒いてしまった本をまとめ始めた。

「ん? これは……いつの間に紛れちゃったのかしら」

 歴史ものが大好きなメイ。手あたり次第に掴んだ本の中にどうやら間違えてしまわれた本なのだろう。背表紙には「児童書」と書かれたラベルが貼られていた。表紙は子供たちが楽しそうに笑っているイラストと「なつのおまつり」と書かれたタイトルがメイの目を引き付けた。

「なつまつり? 一体何かしら」

 タイトルが気になったメイは、とりあえず自分で築いた本の山を元通りにしてから再びその児童書を手に取った。そしてぱらぱらと捲っていくうちに、おまつりという行事に興味を抱いたメイは目をキラキラさせながら本を閉じた。

「これは……中々に興味深いわ。これが……フィールドワークというものなのかしら」

メイは静かに図書館を後にすると、本で読んだ「なつまつり」という行事を調査すべく早速フィールドワークへと向かった。


「あの絵本に描かれていたのは……これかしら」

 記憶を頼りに服屋であれこれ探していると、それに近しい服を手に取り試着室へ。薄いピンク色の地に色とりどりの花火が描かれた着物に清涼感のある青色の帯を選び、ついでに小物類も揃えた。服屋を出て歩いているといたるところに同じ張り紙がされていることに気が付いたメイはその張り紙を見ると、どうやら今日、メイのフィールドワークを対象─夏祭りが行われるとの知らせだった。

「やったわ! なんて運がいいのかしら。えっと、今日の夕方からね。よし、まだ間に合うわ。準備しておかないと」

 ルンルン気分で自宅へ戻り、さっそく着物の着付けを済ませ小物類も手早く詰めると思っていたよりも早く支度が済んでしまったメイはほんのわずか時間を持て余してしまった。

「あら。思ってたよりも早く終わってしまったわ。お祭り開始までまだ時間あるし……うーん」

 読みかけの本を読もうとも思ったのだが、栞を挟んだページから物語が盛り上がる場面のため、読み始めたらお祭りそっちのけになってしまいそうな気がしたメイはそれを断念。仕方なく時が来るのを冷えたお茶を飲みながら待つことにした。

 あたりがオレンジ色に染まりかけた頃、メイはすっと無言で立ち上がり小物入れを引っ掴み、履物に足を通すと勢いよく玄関の扉を開け、外へ出た。もう我慢が出来なかったのか、メイの目はどこか一点集中を見つめたまま歩いていた。その視線の先はというと、近くの神社の大きな鳥居……の先にあるずらりと並んだ出店だった。

「はぁ……もう待ってるのがこんなに苦しいなんて思わなかったわ」

 我慢に我慢を重ねたメイの目はやる気に満ちており、この雰囲気を楽しむことに全力を注ぐことに決めていた。まずは気になっていた「ちょこばなな」という甘いものへと向かったメイは、カラフルにドレスアップされたバナナを見て「お~」と声をあげると、屋台で仕込みをしていたお兄さんはにこっと笑い、メイに話しかけた。

「お嬢ちゃん。どれか気になるものがあったかい」

 お嬢ちゃんと呼ばれたメイは一瞬ぴたりと止まったが、それもほんの僅かの間だけだったためお兄さんに気が付かれることはなかった。メイはこう見えて幾年の時間を重ねてきた竜なのだが、その恰好では人間界に支障をきたしてしまうため、少女の恰好をし力を制御している。ひとたび制御を間違ってしまえば人間界だけでなく世界がなくなってしまうほどの力を有しているメイはこの格好は都合がよいものでありながら、もどかしいものでもある。

「そうねぇ。そのピンク色のが気になるわ」

「ほほう。それは今年新作のいちごミルク味のチョコをコーティングしたものなんだ。よかったらオレとじゃんけんで勝負してお嬢ちゃんが買ったら二本あげちゃおう」

「あらほんと? あたし、じゃんけんは得意な方よ?」

「っへへ。じゃあ、勝負! じゃーんけーん」

「「ぽん!」」

 お兄さんがパー、メイはチョキ。少しの間の後、メイは両手をあげて喜んでいるとお兄さんは悔しそうにしていると、メイは「どやっ」とばかりに鼻を鳴らした。約束通りメイはチョコバナナを二本ゲットし、お兄さんに手を振って別れた。

「うん。甘くって美味しいわ。うーん。しみわたるわぁ」

 バナナのねっとりとした食感と芳醇な甘さとチョコの甘さが加わり、メイは今幸せを感じていた。あっという間にチョコバナナを食べ終えると、今度は食欲をそそる香ばしい香りがメイの鼻をくすぐった。匂いを頼りに進んでいくと今度は「ソース焼きそば」と書かれたお店の前に到着していた。じゅうじゅうと音を立てながら鉄板の上で跳ねるように踊るソースと種類豊富な野菜たちを見たメイのお腹はぐるると鳴った。

「お、いらっしゃい。腹減ってるのか。なら、大盛りにしないとな」

「あ……えっと……いいのかしら」

「いいって。ほら、たくさん食って祭りを楽しみな。青のりはかけないでおくからな」

「すごいサービス精神ね。これが……人間界なのかしら……」

 できたてアツアツのソース焼きそばを受け取ったメイは割りばしを割り、空いているベンチに腰を掛け一口すすった。ソースの甘辛さ、野菜のシャキシャキ感、麺のもちもち感全てが合わさりメイは再び幸せに包まれた。

「んーっ! 太い麺に絡むソースとお野菜が美味しいわ! もうっ! こんなに楽しいのならもっと早く知っておけばよかったわ。今度から児童書も読んでみようかしら」

 歴史書では得ることができなかった体験が、まさか児童書から得られるなんて思ってもみなかったメイは「本って本当に奥が深いわ」と独り言を言いながら焼きそばに舌鼓を打っていた。細かく刻まれた野菜も残さず食べ終えると、メイは両手を合わせて挨拶をし次の屋台へと赴いた。今度は子供たちが何やら一点を見つめてタイミングを見て手を動かしているものだった。なんだろうと思ったメイは隙間からそれを眺めていると、それは水の張られた器の中に赤色の魚が泳いでいた。それを子供たちが持っている薄い紙が張られたもので掬うというものだった。子供たちが集中している間、メイは静かに様子を伺っていると一人の子供が赤い魚の後ろからそっと赤い魚を掬い器へ入れると子供たちは歓喜の声をあげた。

「やったぁ! 一匹ゲット!」

「すげぇ!」

「おれも負けてらんねぇ!」

 なんとなくルールがわかったメイは楽しそうと思い、参加することに。子供たちから少し離れたところに腰を下ろしじっと赤い魚を見つめ意識を集中させた。

(本気を出したらこの魚たち、きっと失神しちゃうからそんなことできないけど……ほんの……ほんの少しだけ)

 メイが見つめる先の赤い魚は何かを感じたのか、水中でぴたりと動きが止まるとそれをメイは静かに掬い器へと移した。

「えへへ! 一匹捕まえた!」

 すると周りで見ていた子供たちは「おおー!」と歓声をあげると同時に闘争心を燃やし始めた。

(あらあら。余計なことしちゃったかしら?)

 子供たちは必死に赤い魚を追うも、紙は水分を含みすぎてしまい穴が開いてしまった。それでもまだできると挑戦するも、見事に失敗に終わった。子供たちは諦めとぼとぼと帰る後ろ姿を見たメイは更にほんの僅かに力を開放し子供たちに一匹ずつプレゼントした。

「ちょっと待ちなさい。ほら、これ。取りすぎちゃったからお裾分け」

「え? さっきまで一匹だったのに……いつの間に」

「くれんの!? ありがとー!」

「あ……あの。ありがとうございます」

「うんうん。だから、そんな悲しい顔しないの! わかった?」

「「「はいっ! ありがとうございます!」」」

 さっきまで悲しそうだった顔はすぐにぴかぴかの太陽のような笑顔に変わると、その姿をメイはくすくす笑いながら見送った。本当はこういうことに力を使ってはダメなのはわかっているが……今日はちょっと特別だよと自分に言い聞かせた。


「はぁ。お祭りって楽しいわねぇ」

 本でしか得られない栄養だけでなく、それを実際に体験することでさらにその知識を深く知ることができたメイは心もおなかも満たされたところで自宅へ帰る準備を進めていた。するとメイの背後で突然、大きな音が鳴り響いた。びっくりして振り返ると夜空に大きな赤色の花が咲いていた。

「おお~」

 赤い花が咲いたと思ったらすぐに消え、次に緑色の花がぱっと開いた後どんと体で感じる轟音が鳴り響いた。びりびりとした波動を体で感じたメイはこれまた本に書いていない体験に心がぶるりと震えた。わくわくしながら次の花を待っていると、夜空には連続して色違いの花が咲き乱れた。


 どん どどどん どん どおん


 言葉をなくしながら夜空を凝視しているメイ。夜空に浮かんでは消える儚い花にメイの心は満足感に満ち満ちていた。はぁと吐息を漏らしたメイは帰路に就く間、なんとも言えない充実感にふわふわとした気持ちは本を読み終わったあとの充実感と似ているのだけど、それとはまた違った感じがしたメイは「また今度フィールドワークでもしようかしら」と新たに本を読むきっかけに喜びを隠せないでいた。

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