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パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット13 暑さに負けるな! クールなスイーツ(夏休みストーリー)
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まんまる氷玉【竜】

 その日は近年稀にみる酷暑だった。家の中にいても熱気は屋根を貫き、じわじわと体へと突き刺さる。かといって外はというと、ドアを開けた瞬間に見えるのは揺らめく陽炎。セミの鳴き声は暑さを助長させるかのようにあっちでもこっちでも大合唱をしている。飲み物を買いに外で出ようものなら日傘なしでは歩くことさえも危険だと感じてしまうほどに暑かった。

 そんな中、一人の少女は真夏の太陽の下をゆらりゆらりと揺れながら歩いていた。足首から太ももにかけて黒い文様が白いワンピースから覗いていた。腕には赤い文様が刻まれ、この暑さのせいなのかはわからないが、その文様が時折小さく脈打っている。眠たげな表情の額には大粒の汗が一つまた一つと浮かび、最早鉄板と化した道路に黒い染みを作った。

「あ……い……あ……つ……い」

 少女─ミューニはうわ言のように呟きながら一歩ずつ前へと進んでいるが、本人でされどこへ向かっているかはわかっていない。やがてミューニの背中から黒い翼のようなものが生え何かが渦巻き始めた。だが、あまりの暑さにその翼もすぐにしぼんでしまい、ついには足に力が入らなくなってしまい、ばたりと倒れてしまった。

「あ……」

 ミューニの意識は次第に遠くなっていき、完全に黒い渦に吸い込まれていった。


 次にミューニが目を覚ましたのは、暑い外ではなく涼しくて気持ちの良い室内だった。見たことのない白い天井に、何やら透明な管が自分の腕へと繋がっていた。少しずつ意識がしっかりしてきたミューニはゆっくり首を動かし、ここがどこなのかを確かめた。

「見たこと……ない場所。ここ……どこ?」

 助かったことは嬉しいのだが、ここがどこだかわからないという不安からミューニは再び悲しそうな声を出した。誰か事情を説明してほしいと願ったその時、こんこんというドアをたたく規則的な音の後に続いて数人がミューニの顔を見てほっとしたのか薄く笑っていた。

「危なかったわね。あと少し発見が遅れていたら熱中症で助からなかったわよ」

「もう大丈夫だとは思うけど……もう少し横になっててもいいわよ」

 見たことのない人物がミューニの容態を説明してくれたのだが、当の本人は何のことだかわからないようすでいると、遅れてやってきたその人物の顔を見て初めて顔を明るくさせた。

「シュ……クレ」

「あーー! ミューニー!! 大丈夫だった?? もう、本当に心配したんだからねぇ!!!」

 それは以前、バレンタインデーの時に「ちょこれーと」という黒い板をくれた友人のシュクレだった。ミューニが散歩していると、どこからか甘い香りがしていてそれに誘われて着いた先がシュクレのスイーツアトリエだった。そこでミューニは生まれて初めて「甘くておいしいもの」というものを味覚で覚えた。

 そして今、そのシュクレがミューニに抱き着き涙を流していた。よほど心配していたようで、シュクレは中々泣き止まなかった。その様子に白衣を着た黒髪の女医─サルースがひとつ息を吐きながらミューニに近づいた。

「シュクレ、相当あなたのことが気になってお店を休むほどだったのよ。もう少し、自分を大事になさい」

 言葉はきつめだが、その言葉はとても愛に溢れていた。つかつかとヒールを鳴らしながら部屋を出ていくサルースに続くようにもう一人の女医─クピレーディアも「お大事に」と短くいうと足早に部屋を出て行った。シュクレとミューニの二人だけになると、シュクレは「あ、ちょっと待ってて!」といい、部屋を飛び出していった。呼び止めとしたミューニだがそれには間に合わず、喉の奥で小さな音を発して終わってしまった。伸ばしかけた腕を下ろし、白いシーツをじっと見つめているととたとたと走っているような足音が聞こえ、しばらくしてシュクレが「お待たせー」と言いながら戻ってきた。手には何やら透明なカップを持っていて、中にはころころと丸い物体が入っていた。

「シュクレ……これは……?」

「今年新作のスイーツなんだ。これなら手も汚れないし、一口サイズだから食べやすいと思って作ってみたんだ」

 添えられてるスプーンを受け取ったミューニは、透き通ったカラフルなボールに目を輝かせながらひとつ掬うとそのままぱくり。口の中へ入れるとひんやりした感覚の後にフルーツの甘味がじんわりと染み出し、いつの間にかミューニの口の中は賑やかになっていた。

「おい……しい。これ、オレンジ?」

「うん! こっちはレモンで、こっちはモモだよ!」

 ミューニは静かに丸い物体を口に運び、口の中でころころ転がしているとジューシーな酸味が広がりミューニの顔をきゅっと縮こませた。すぅっと通り抜けた酸味に口元を少し尖らせながら次の丸い物体を口に入れると、こちらもまたジューシーな甘みが口いっぱいに広がった。

「シュクレ……これ、もっと ほしい」

「うん! 待っててね! 今、持ってくるから」

 チョコレートのとき同様に、ミューニはゆっくりと口を動かし、ひとつひとつ味を確かめながら味わっていた。その美味しそうに食べている姿に、シュクレは本当の意味で安心し、しばらくミューニの食べている姿を見守っていた。


「ごちそう……さま」

 何杯お代わりしたかわからないが、ミューニは満足そうにお腹をさすりながら小さな吐息を漏らした。そこでミューニはひとつ気が付いたことがあった。それは、さっきまで頭がふらふらしていたのがすっきりとどこかへいってしまったのだ。それになんだか体が軽くなったような感覚にミューニは何ともいえないわくわく感を感じていた。

「熱ももう大丈夫そうだね。でも、今日みたいな日は外に出ないほうがいいよ」

 ミューニの額に手を当て、熱の具合を看て大丈夫だと確認するシュクレだが、まだまだ外は暑く陽炎が消える様子は一向に窺えなかった。ミューニは窓の外に目を向けると、ゆらゆらと揺れている陽炎を見て「うっ」と小さな悲鳴を漏らした。外には出たくない。でも……。そう考えたミューニは自分の手をぎゅっと握りながら口を開いた。

「シュ……クレ。わたし、シュクレの……お手伝いが……したい。助けられてばかりは……」

「ミューニ? どうしたの?」

 バレンタインのときも、今回もそうだった。なんだかんだシュクレはミューニを助けてくれていた。だけど、そればかりではいやだと感じたミューニはシュクレの力になりたいと心から思っていた。そしてその思いは言葉だけでなく、ミューニの視線にも注がれていた。はじめは断ろうと思っていたシュクレだったが、ミューニのその真っすぐすぎる眼差しに何も言えなくなってしまった。シュクレはしばらく考えた後、ミューニの手を握りながら「手伝って……くれるの?」と小さく尋ねると、ミューニは「うん」と答えた。

「……わかった。ありがとうね。ミューニ。じゃあ、一緒にアトリエ、行こうか」

「……うん! 行く!」

 ベッドからゆっくり起き上がり、腕に繋がれていた管をゆっくり外し私服に袖を通す。少しよろめきながらもミューニはシュクレの手を取りながら歩いた。そしてシュクレと目が合うと、なんだか自然と笑みが零れてなんだか嬉しい気持ちになったミューニは、大好きな友達であるシュクレのお手伝いができると改めて思うと俄然やる気が満ち溢れていた。

「シュクレ。ありがと……ね」

「ううん。あたしも、ありがとうね」

 こうして二人は手を繋ぎながらアトリエに向かった。ミューニの胸は外の熱とは違った温もりでいっぱいだった。

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