↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パティシエ シュクレのスイーツコレクション  作者: 冬厳@主夫ロニア
おすすめセット9 感謝の気持ち詰まったプチスイーツセット(HDストーリー)
PR
340/452

しっとり濃厚! バニラキャンディー【神】

 仕事が終わってシャワーを浴び終わると、あたしの携帯に何やらメッセージが届いていた。髪を乾かすのも程ほどに、あたしは携帯を操作し中を確認すると友達のクーフーリンからだった。

「今度の日曜日、空いていないかな。この前、バレンタインに貰ったチョコレートのお礼がしたいんだ。連絡待ってます」

 クーフーリン。栗毛色の髪にどこか高貴な印象を持つ青年で、数か月前にここに引っ越してきたとか。なんでも、天界での生活もいいけど人間たちが住む地上にも興味を持って短期間ではあるけど引っ越しをしてみたんだって。天界での生活って一体どんなものなんだろうと思って、それとなく声をかけてみたら笑顔で答えてくれたのよね。主に戦って過ごす日が多く、休んでいる日はほとんどないと聞いてあたしは目を丸くしちゃったのを覚えてる。それって、現代で例えたらほぼ毎日仕事をしてるけど、休日はほぼないのと同じよね……でも、戦いはもっと大変か……うーん。例えるのが難しいなぁって考えてると、クーフーリンはあたしの顔を見てくすくすと笑い始めたの。

「あなたってとても表情豊かですね。なんだか安心します」

 安心……か。そっか。戦場じゃあ、安心できる場所なんてないもんね。なんて考えてたら、大事なものを渡すのを忘れてたわ。あたしは鞄から手作り(不格好な)チョコレートをクーフーリンに手渡した。

「なに? これ?」

 きょとんとしたクーフーリンに、今日はバレンタインデーだと伝えてみたけどいまいちピンと来ていない様子だった。あたしはまずバレンタインデーが何かを簡単に説明すると、クーフーリンはようやく合点がいったように大きく首を縦に動かした。

「なるほど。人間界にはそういう特別な日があるんだね。教えてくれてありがとう。大事にするよ」

 食べ物だから早めに食べるように言うと、クーフーリンは少し残念そうな顔をしながら「食べるのが勿体ないよ。だって、地上に降りてから初めて貰ったものだから」と寂しそうに呟いた。その言い方に何かあたしの胸にぐっとくるものがあり、あたしは「また何か気になるものがあったら言ってね。わかる範囲で紹介するし、この近辺も案内するわよ」というと、クーフーリンは満面の笑顔を浮かべて「それは助かるよ。ぜひお願いしたい」と答えた。こうしてあたしとクーフーリンは連絡先を交換し、その日は別れた。

「クーフーリン……か。また、話せるかな」

 あたしは心のどこかで小さな小さな期待を抱き始めていた。


 そしてクーフーリンと約束をした日曜日。とても気持ちの良い天気の下、あたしはできる限りのおしゃれをして待ち合わせ場所である大きな時計台のある場所で待っていた。待ち合わせ時間は午前十時。時計台の周辺にはたくさんの人で溢れていて、さすが休日といった様子だった。電車が止まる度にたくさんの人が階段から下りてきて、待ち合わせていた人たちと合流し、繁華街へと向かっていく。それらを何度か見送ってから、あたしはちらりと腕時計を見た。針は十時ぴったりを指していた。

「早く来すぎちゃったかな……」

 あたしは独り言ちていると、またたくさんの人の波が押し寄せてきた。そしてその波はあたしが立っている場所に向かって歩いてくる。その中にクーフーリンがいないか、あたしは目を凝らして探し始めた。すると、階段を下りたところできょろきょろとしてるクーフーリンを見つけた。あたしは待ち合わせ場所から離れてクーフーリンを迎えに行った。

「あ、ごめん。初めて電車というのに乗って手間取ってしまって……申し訳ない」

「そうだったんだ。気分は悪くなってない?」

「え? 気分? 大丈夫だけど……。そういう君こそ、ずっと待っててくれたんだよね。疲れてないかい?」

「あ、あたしは大丈夫だよ」

「そうかい。疲れたら無理しないで言ってほしいな。今日はお礼をたっくさんしたいからね。それじゃあ、行こうか。今日は君の行きたいところ全部巡ろう」

 そう言い、にこっと笑うクーフーリンはゆっくりと先を歩いた。


「へぇ。こんなにカラフルな洋服が売っているお店がこんなにたくさんあるんだね」

 まず最初に入ったのは、あたしのお気に入りブランドの洋服屋さんだった。新作が出たとメールマガジンが来たから今度行こうと意気込んでいたんだけど、女性もののお店だから男性であるクーフーリンは少し浮いてしまうかもしれないと危惧していたけど、今日はそんなこと気にする必要がないくらいだった。

(よかった。今日が休日で)

 内心ほっとしたあたしは、「NewArrival」と書かれたポップがかけられた新作のワンピースを手に取った。シンプルだけどどこか茶目っ気があるそのワンピースを肩にあてていると、背後からクーフーリンの「おお」という声が聞こえた。

「似合ってるね!」

 たったその一言が、あたしの胸の中にすっと入りあたしはそのワンピースを何も言わずに買い物かごの中へと入れた。他にも小物類も一緒に見て回ると、クーフーリンはどれも物珍しそうに見ながらも、あたしが手に取るアイテムを真剣に悩みながら色々と選んでくれた。しかも、その選んだものがあたし好みのものとぴったりだということにも驚いた。あれやこれやアイテムを買い物籠に詰め込み、お会計をしようとレジへと向かった。

「ありがとうございましたー」

 店員さんから商品を受け取ろうと手を伸ばすあたしより先に、クーフーリンが商品を受け取った。そしてそのままお店を出るクーフーリンは「次はどこがいいかな?」と眩しい笑顔で聞いてきた。あたしは少し考えてから、近くのカフェへとクーフーリンを案内した。


 カフェに入ると挽きたてのコーヒーのいい匂いにお出迎えされたあたしたちは、まずメニュー表を見て何にしようか選んだ。クーフーリンは甘い物が好きみたいで、カフェラテを選んだ。あたしも同じものを選びカウンターで注文を済ませ、飲み物ができるまで待っているとクーフーリンはなんだかそわそわとしていた。

「どうしたの?」

 あたしが聞くとクーフーリンは「ああ」と言い、改めて辺りを見回してこう言った。

「なんだか、君たちの住んでいる世界ってとっても温かいなって思ってさ。ぼくたちの住んでる天界はこんなに賑やかじゃないし、どちらかといえば緊張したような感じだからさ。短期間とはいえ、ここに来れたことを幸運に思うよ。それに、君に出会えたことも……ね」

 今まで言われたことのないセリフに、あたしは思わず顔から火が出そうな程恥ずかしくなり思わずそっぽを向いてしまった。そんなクーフーリンは何であたしがそっぽを向いているのかわかっていないらしく、頭の上に大量の「?」を作っていた。

「ドリンクお二つでお待ちのお客様ー。お待たせしましたー」

「はーい」

 あたしはスタッフさんからドリンクを受け取り、空いてる席に腰を下ろすとふかふかのソファがしっかりと受け止めてくれた。続いてクーフーリンも腰を下ろすと、そのあまりのふかふか具合に思わず笑っていた。

「あははっ! すごくふわふわな座り心地だ。面白いなぁ」

 まるで子供みたいにはしゃぐクーフーリン。周りにお客さんが少なかったからよかったけど、これで多かったら注意していたかも。

「あ、ごめんごめん。つい」

 高貴な雰囲気を纏いつつも、年相応の反応を見せるクーフーリンはドリンクに手を伸ばし一口含んだ。

「……あまくって冷たくって美味しいね。初めて飲んだよ」

 相当気に入ったのか、クーフーリンはちびちび飲み始めた。飲み終わるのが勿体ないと感じたのかな。だったら言えばいいのに。

「お代わりする? あたしも飲み終わってちょうどもう一杯お代わりしようか考えてたんだ」

「あ……うん。しようかな。あ、ここはぼくが支払うよ。君は座ってて」

 そう言ってクーフーリンはさっと席を立ち、さっき頼んだドリンクを二つ注文し戻ってきた。戻ってくるときのクーフーリンの顔は、どことなくさっきよりも嬉しそうに見えたのは気のせい?

「お待たせ。注文に少し戸惑っていたんだけど、さっきの店員さんが注文を覚えててくれたんだ。おかげですぐに注文ができたよ」

 嬉しそうに話すクーフーリンを見ながらドリンクに手を伸ばすあたし。なんだか、クーフーリンが嬉しそうに話しているのを見ていると、あたしまで嬉しくなってくるな。それはクーフーリンがここに来てまだ日が浅いからなのか、それともクーフーリンが驚くほどに純粋なのか……。

「ぼく、この飲み物気に入っちゃった。また来ようね」

 大事そうにドリンクのカップを抱えながら大事に飲んでいるクーフーリン。その顔に思わず見とれてしまっているあたしもいるわけだが……どうしてくれよう……。二杯目を飲み終えたあたしたちは、次の場所へと向かうことにした。


「ゲーム……センター? 一体どういう場所なんだい?」

 次もあたしが案内。次はゲームセンターで遊びたくて、クーフーリンを連れてカフェからそんなに離れていない大きなゲームセンターへと向かった。ここのゲームセンターは特にクレーンゲームが豊富で、なおかつ景品も取れやすいと評判。だから、あたしも欲しい景品が出たらここのゲームセンターへ行くようにしてる。そのせいか、ここの店長とは顔なじみになっていて、ほんのちょびっとの融通なら聞いてくれる。本当に感謝です。

「へぇ……色々なものがたくさんあるね。これは何て言うんだい? クレーン……ゲーム?」

 あたしはクレーンゲームのやり方を説明すると、やり方を理解したのか大きくうんと頷いた。それに、あたしが何度かちらちら見ているのが気になったのか、クーフーリンは「どうしたの?」と気にかけてくれた。あたしが前から欲しかった景品が目の前にあることを言うと、クーフーリンは少し見てから「わかった。挑戦してみるよ」と言い、お財布からコインを取り出しゲームを起動させた。押す順番が描かれたボタンを操作し、あたしが欲しい景品の頭上にアームが降りるとしっかり掴んだ……ように見せて僅かに動かす程度に終わった。

「中々難しいね。でも、諦めないよ」

 そう言ってクーフーリンは再度コインを投入し、同じように攻めてみるも結果はさっきと同じ。

「おういらっしゃい。なんだ、あれが欲しいのか? なら、タグを狙うんだ」

 背後から声をかけられ、振り返るとなんと店長だった。見た目は結構ごついだんだけど、心はすっごくピュアだから……クーフーリン、そんなにおびえないで大丈夫だから。

「た、タグですね……できるかな……」

 店長のアドバイス通り、タグにアームをひっかけるように操作すると、さっきよりも大きく動いた景品にクーフーリンは大はしゃぎだった。

「見てみて。ちょっと動いたよ!」

 コツを掴んだクーフーリンはそれから一言も発することなく、クレーンゲームに夢中になっていた。あたしは後ろで祈るようにしながら、店長は腕組みをしながらクーフーリンの成功を待っていた。そして、既に何枚目かのコインが投入されアームがタグの中へと入り、文字通りしっかりと景品を掴むとそのまま取り出し口へと真っすぐ落ちていった。

「やった! 見てみて! とれたよ!」

 取れた景品を誰よりも喜んでいるクーフーリン。それを見て思わず拍手をするあたしと店長。たった数分であっという間に取れるとは思っていなかったから、あたしも店長も驚いていた。

「はい。お待たせ。これ、君へ」

 前から欲しかった景品をクーフーリンから受け取ったあたしは、やさしく抱きしめながら「ありがとう」と言った。クーフーリンは取れた満足感からか、次に取れそうな景品はないか探し始めた。その後ろ姿を見ていた店長があたしの肩に優しく手を置きながら言った。

「あんなに純粋な子は滅多にいないな。大事にしてやんな」

 そう言い残しながらたくさんの景品が入った段ボールをひょいと担ぎ、業務へと戻っていった。大事にしろって店長……あ、そっか。店長はクーフーリンが短期間しかいないってこと知らないんだった。そりゃあ、ご近所だしこれからも色々話もしてみたい……けど。不意に悲しいことが頭を過った。もし、帰らないといけない時がきたら、あたしはどんな顔で彼を見送ればいいのだろう……。あたしが不安に支配されそうになっているところ、背後から元気なクーフーリンの声が聞こえた。

「ねぇねぇ。あっちにすぐに取れそうなものがあったよ! ね、行こう!」

 その眩しすぎる笑顔に、あたしの不安は一瞬にして吹き飛ばされた。そうだよね。悩んでいてもしょうがないよね。今を……この時間を大事にしないと。

「うん!」

 あたしはクーフーリンの手を取り、ゲームセンターを思いっきり楽しんだ。いつか終わる……じゃなくって、今をもっと鮮やかにする為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。