ビタービターチョコシガレット【魔】
カランカラン
軽快なドアチャイムが鳴った。中は非常にシンプルでありながら、落ち着きのある内装だった。何の皮でできているかはわからないが、立派な光沢を放つ一人用ソファに腰をかけながら葉巻を加えているのはこの店のオーナーのトレーズだ。非常に堀の深い顔に赤い眼、黒と白のコントラストが美しい髪から見える真っ赤な角。ぴしりとアイロンがけされた白いワイシャツに紫のネクタイ、そして深いココア色のベストにスラックスという、見た目に反しとても紳士的な印象を受ける出立だった。口に咥えた葉巻が漂う香ばしい香りが一層トレーズの魅力をひきたてているのか……それはわからない。だが、これだけは言える。
悪魔であって悪魔ではない。
「いらっしゃい。今日はどんな依頼だい」
トレーズはうっすらと笑みを浮かべ依頼者に「座りな」と目で合図をした。依頼者は大きすぎるソファに腰かけると、恥ずかしくなったのか身を縮こませていた。もじもじしているところにトレーズは棚からいくつかの資料を取り出し、依頼者の目の前にそれらを見せた。
「今日の依頼は……これかい」
用意された書類に目を通す依頼者。しばらくして「そうだ」とばかりに小さく何度も頷くと、トレーズは「やはりな」とばかりにふっと笑い書類の末頁にサインをすると、トレーズは裏に引っ込んでいった。しばらくしてトレーズが持ってきたのは淹れたてのコーヒーだった。
「怪しいもんは入れちゃいねぇから安心して飲みな」
黒い液体を覗き込んだ依頼者は恐る恐るカップに口を近付け、一口含んだ。苦味の後にくるほんのりとした酸味に依頼者の顔が一瞬ひきつったのを見たトレーズは思わず声をあげて笑った。
「悪い悪い。少し酸味が強かったか」
それでも依頼者は首を横に振り、ゆっくりと黒い液体をすすっているとトレーズは再度書類に目を通すと一瞬その表情に陰りが表れた。
─標的は神族なのだ。
一見、神であればなんの罪もないと思うのだが、実際はそうではない場合がある。例えば、秩序に重きを置いている天使であれば無理矢理にでもその秩序に当てはめようとしてくる。それができないと判断した暁には、神の祝福という名目で人々を罰する。トレーズはそういった天という正義を語り、暴力を合理化させう者を許さない。トレーズはこの世界を脅かす組織や富豪などの陰謀を阻止するエージェントとして活躍しており、悪魔として少し変わっているのだがそんなトレーズに一部の者からは注目されている。
「さて、そろそろ準備して向かうとするか」
トレーズは葉巻を灰皿に押し付け、壁にかかっているコートに手を伸ばした。着衣に汚れがないか姿見鏡で確認し、どこもおかしくないと確認したトレーズは今日も依頼人と共に粛清を行いに出た。
「貴様の罪を数えてみろ。ないとは言わせんぞ」
夜空に浮かぶ月に向かい、忌々し気に呟いたトレーズ。かくしてトレーズがここまで神を憎んでいる理由とは……それはトレーズ本人にしかわからない。




