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16話 清掃おじさん、ギャルと飲む

 仕事を終えて一度家に帰り、風呂に入って着替えた。


 鏡の前に立つ。


 黒のシャツ、グレーのパンツ。いつもの休日と大して変わらない格好だ。

 だいたい、服に頓着無いから大したもん持ってないんだよな。収入が幾らになろうが、昔からユ〇クロしか使ってないからなぁ⋯⋯。


「⋯⋯これでいいよな?」


 おじさん過ぎない?大丈夫?⋯⋯そんなの、おじさんに分かるわけないだろ。


 別にデートじゃない。ただ飯を食うだけだ。

 相手は水野さん達、VIVIDの四人だ。全員20代の女性で、モデル雑誌に載るような美人揃い。

 対する俺は41歳のおじさん。仕事はダンジョン清掃員。


「⋯⋯やっぱ場違いじゃない?」


 昼間、山下に言ったことをもう一度呟く。


 とはいえ、行くと返事をしてしまった。今更断るのも失礼だ。

 俺は財布とスマートフォンをポケットへ入れ、家を出た。





「田中さーん!」

「はいはい。聞こえてますよ」


 待ち合わせ場所へ着くと、すぐに水野さんが俺を見つけた。


 大きく手を振っている。


 目立つ⋯⋯。非常に目立つ。


「声大きいですよ」

「だって田中さん全然こっち見ないんだもん!」

「探してたんですよ」

「じゃあもっと周り見て!」

「見てましたよ」

「嘘!」

「本当ですって」


 そんなやり取りをしながら近付く。


 当然だが、今日は全員私服だった。


 水野さんは明るい色のトップスにパンツ姿。

 黒川さんは落ち着いた服装で、四人の中では一番大人っぽい。

 小宮川さんは⋯⋯。


「田中さん」

「はい?」

「今、美月のこと見た?」

「見ましたけど」

「どこ見た?」

「⋯⋯どこってそりゃ⋯⋯顔ですよ」

「本当に?」

「本当に」

「つまんなーい」


 今日も胸元が結構開いている。それにパンツ——下着の方のパンツ——の腰部分が見えてるし、お腹も見える。目のやり場に困るから勘弁してほしい。⋯⋯これって見たらダメなの?見せたいんじゃないの?どういう事なの?

 分かんないよ!おじさん若い女の子の気持ち分かんないよ!!


「美月さん、田中さん困らせたら駄目ですよ」


 橘さんが苦笑する。


「だって面白いんだもん」

「四十路越えのおじさんで遊ばないでくださいよ⋯⋯」

「田中さんって、自分のことすぐおじさんって言うよね」

「おじさんですから」

「41ってそんなおじさん?」

「24歳から見たら十分過ぎるくらいおじさんでしょう」


 水野さんを見る。


「えー」


 不満そうな顔をされた。


「私は別に気にしないけど」

「水野さんが気にしなくても、俺が気にするんですよ」

「めんどくさ!」

「何でだよ」


 黒川さんが小さく笑った。


「とりあえず入りません?予約の時間になりますし」

「あ、そうだった!」

「水野さんが誘ったんでしょうが⋯⋯」

「行こ行こ!」


 水野さんに背中を押される。

 こうして俺は、人気女性探索者四人に囲まれて店へ入った。





「乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

「乾杯です」

「⋯⋯乾杯」


 俺だけ若干テンションが違う気がする。


 案内されたのは、個室のある居酒屋だった。

 VIVIDほど有名になると、普通の席では落ち着いて食事も出来ないらしい。


「田中さんビール?」

「最初は」

「私も」


 黒川さんもビール。

 水野さんと橘さんはカクテル、小宮川さんはハイボールだった。


「田中さんって結構飲む?」

「昔は飲みましたけどね。最近はそんなに」

「何で?」

「次の日きついから」

「あー」

「夏希にはまだ分かんないよ」


 黒川さんが言う。


「玲奈さんも29じゃん!」

「24とは違うのよ」

「5歳しか変わんないじゃん!」

「その5年が大きいの。夏希も29になれば分かるわ」


 分かる、分かるよ黒川さん。けど、おじさんからすればまだまだ若いよ。30超えてから、また一段階ギアが上がるからね⋯⋯。

 そんな事を考えていると、水野さんがバッとこちらを向く。

 

「田中さん!」

「何です?」

「29って若いよね!?」

「若いでしょう」

「ほら!」

「じゃあ24は?」

「もっと若い」

「ほら夏希!」

「玲奈さんこそ!」

「何の勝負なんですか⋯⋯」


 俺はビールを飲む。

 ——美味い。仕事終わりの一杯はやっぱりいい。


「そういえば」


 橘さんが俺を見る。


「田中さんって、普段こういうところ来るんですか?」

「居酒屋ですか?」

「はい」

「会社の人とはたまに」

「一人では?」

「ほとんど行かないですね」

「じゃあ休みの日は何してるの?」


 水野さんが聞いてくる。


「えー⋯⋯まぁ家事とか、掃除とか」

「出た!」

「何がですか」

「こないだも言ってたじゃん!休みの日まで掃除してるって!」

「家は掃除しないと汚れるでしょう」

「スキル使うの?」

「使いますよ」

「絶対家めちゃくちゃ綺麗じゃん」

「普通ですよ」

「普通の基準が違いそう」


 小宮川さんが笑う。


「田中さんの家、ちょっと見てみたいかも」

「何でですか」

「41歳独身男性の一人暮らしだよ?見た事無いもん」

「言い方」

「絶対面白いじゃん」

「何を期待してるんですか⋯⋯」

「実家じゃないんですよね?」


 橘さんが聞く。


「実家ですよ」

「え?」

「親が住んでた家に、そのまま住んでるんです」

「ご両親と?」

「いや————」


 俺は枝豆を一つ摘まむ。


「二人とも、もう死んでます」

「あ⋯⋯」


 橘さんの表情が変わった。


「すみません」

「いやいや」


 俺は笑う。


「結構前の話ですから。気にしないでください」

「⋯⋯はい」

「兄弟はいないの?あ、待って当てたい!」

「⋯⋯お好きにどうぞ」

「うーん⋯⋯はい!弟がいる!」

「残念。一人っ子です」


 水野さんが少し驚く。


「じゃあ実家に一人暮らしなんだ」

「そうですよ」

「寂しくない?」

「今更寂しいとか無いですよ」

「彼女は?」

「今はいません」

「てことは昔はいたんだ!結婚しなかったの?」

「してないですね」

「何で?」

「⋯⋯水野さん、面接官ですか?」

「気になるじゃん!」


 悲しくなるからあんまり聞かないでくださいよ。


「夏希」


 スっと黒川さんが止める。


「その辺にしときな」

「えー!」

「別にいいですよ」


 俺は苦笑した。


「タイミングが無かっただけです」

「41まで?」

「41までって言うなよ⋯⋯」


 何か急に重くなるだろ⋯⋯。

 そうですよ。俺は41で独身のおじさんですよ。けっ!


「仕事して、帰って、休みの日に家のことやって——。その繰り返ししてたら41になってた感じです」

「それでいいの?」


 水野さんが聞く。


「いいも何も、別に不幸じゃないですよ」


 仕事は嫌いじゃない。

 むしろ好きだ。


 職場にも恵まれた。

 山下達みたいな仲間もいる。金に困っているわけでもない。家もある。これ以上を望むのは高望みと言えよう。


「まあ、結婚して子供いる山下とか見ると、楽しそうだなとは思いますけどね」

「じゃあ結婚したい?」

「いい人がいれば」

「へぇー」

「何ですか」

「いやぁ?」


 水野さんがニヤニヤする。

 何だその顔。


「夏希、楽しそうだねぇ」


 小宮川さんが言う。


「楽しいよ!」

「田中さん弄るの?」

「違うって!」

「同じことしてるじゃないですか」

「田中さんまで!」


 賑やかだなぁ⋯⋯。

 でも、こういうのも、たまには悪くない。

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