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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第4章 吟遊詩人クエスト編

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第70話 バッドイベント

 1位イングリッドの表示を見て、俺達の視線は自然とメイへ向いた。

 メイは、まるでこの瞬間を待ち構えていたかのように、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 実に憎たらしい表情だ。


「ふっふっふ。呆気なかったな。早くもトップに立ってしまうとは」

「くそっ……ほとんど金の力なのに……」

「資金力もプレイヤーの能力のうちだよ」


 メイは俺の皮肉をさらりと受け流し、まったく気にした様子もない。

 この手の心理的揺さぶりは、彼女には通用しないのだ。


「キャサリンは私が倒しておくから、あんた達はのんびりパートナーとの日々を過ごすといいさ」

「いいえ、まだわかりません! 明日は21日目。またイベントがあります!」

「そうだ! ミコトさんの言う通りだ。イベント次第では、まだどう転ぶかわからないぞ!」


 そう、俺達にはまだ希望がある。一発逆転できるようなアイテムが手に入ったり、そういったイベントが起こったりすれば、イングリッドに追いつくのはまだ可能なはずだ。


「ふふ、果たしてそうかな?」

「なに?」


 希望を捨てていない俺達に対して、メイはなおも余裕のある強者の笑みを浮かべていた。


「確かに、運が良ければ私より有利なイベントを引くこともあるだろう。だが、その後また引き離すだけの話さ。圧倒的な財力、圧倒的な知名度、圧倒的なコネクション――それを持つ私とイングリッドが、最後に勝つのは決まっている」

「くぅ……」


 なんという強敵悪役ムーブ!

 多少のイベント差などどうとでもなるという自信が、メイにはみなぎっていた。

 ギルドメンバーとしてメイのことは頼もしく思っていたが、敵に回すと厄介なことこのうえない。


 俺達はメイに対して何も言い返すことができず、ただ黙り込んでしまった。




 そして、翌21日目。三度目のイベント発生の日がやってきた。

 7日目のようなイベントルーレットか、14日目のデートイベントあるいはキャサリンイベントのようなものか。

 俺は固唾を呑んで今回のイベントが始まるのを待った。


【バッドイベントルーレット】


 ふいにそんなメッセージが表示され、何か文字が書かれているであろうルーレットが回り始めた。


「今回もルーレットか!」


 俺は高速で回転するルーレットを凝視し、書かれている文字を読み取ろうと集中する。

 7日目は安易に止めすぎた。今度こそ、しっかり見極めて止める。


「スパゲティバリウスを超えるアイテムか、あるいは、エルシーの超強力パワーアップイベントが来れば……」


 その時、ルーレットに気を取られていた俺は、「バッドイベント」の文字にようやく気づく。


「……ちょっと待て。バッドイベントルーレットだって?」


 てっきり7日目のイベントが再びやってきたと思いこんでいたが、あの時は「グッドイベントルーレット」だった。


「……もしかして、これを止めれば、絶対に何かバッドイベントが発生するってことか?」


 安易に止めなくて良かった――と思ったが、結局止めるしかないなら同じだった。

 もしかしたら、ルーレットをキャンセルする方法がないかと、色々試してみたが状況は変わらない。


「このままルーレットが消えるまでじっと待ってれば……いや、それも危険だ」


 万が一、自動で最悪なイベントに止まったら後悔しきれない。


「どうせバッドイベントを引くのなら、せめて自分の手で引いてやる!」


 俺は決心してルーレットを止めた。

 肉眼で見切れぬ速さで回っていたルーレットは、次第にゆっくりになっていき、そして――


  足の故障


 止まったルーレットに書かれていたのは、そんな文字だった。

 見ただけで、どんなバッドなことが起こるのか容易に想像がつく。


「いたっ!」


 さっきまで部屋の中を、何かするでもなくうろうろと歩いていたエルシーが、急にうずくまって右足をさすり出した。


「エルシー!?」

「すみません、ショウさん。練習していたら足を捻ってしまって……」


 いやいや、あなた練習してなかったよね。今日はまだ練習の指示すら出していない。

 ――そんなモヤモヤは湧いたが、このバッドイベントを引いたのは俺の責任だ。ここでエルシーを責めるのは筋違いだ。


「大丈夫か?」

「ただの捻挫だと思います。このくらい大したことないです」


 言葉は頼もしいが、顔からは明らかに痛みを我慢しているのが見て取れた。

 さすがに「はい、そうですか」と言うわけにはいかない。


「とにかく、魔法医に診てもらおう。話はそれからだ」

「……わかりました」


 エルシーは渋々ながらも頷いた。

 魔法医とは、医術と回復魔法の両方を扱う専門職だ。

 自然回復しない状態異常や怪我を治療するのが主な役割で、プレイヤーも低レベルの頃はよく世話になる。

 まあ、それはともかく、俺はエルシーをこの街の魔法医のもとへと連れて行った。

 診断の結果は、エルシーの言ったとおり捻挫だった。

 捻挫なら魔法で治療してもらえば解決だ――と安心したのも束の間、「捻挫は魔法では治せない」と魔法医に言われてしまった。

 この世界の回復魔法は、毒や麻痺といった状態異常には効くが、こういう物理的な怪我には、万能ではないらしい。

 結局、魔法医からは三日間の安静を命じられ、俺はエルシーと共に屋敷に戻ってきた。


 さて、困った。

 クエストは終盤戦だ。この大事な時期に三日間も動けないのは痛い。

 エルシーは屋敷に戻ってきてからも「大丈夫です! やれます!」と強がっているが、その言葉を簡単に鵜呑みにするわけにはいかない。

 さすがに今日はこのまま何もせず安静にするとして、明日からどうするか……。


 案1 今日を含めて三日間、何もせず安静にする

 案2 足に負担がかからない歌や楽器練習などを選んで行う

 案3 エルシーの言うことを信じ、通常通りの行動を続ける


 考えられるのは、この三つの選択肢だった。

 これは勝負を分ける選択になるかもしれない。


「さて、どうしたものか……」


 俺が頭を抱えて思案していると、突然、部屋の扉が勢いよく開いた。

 目を向けると、血相を変えたキャサリンが肩で大きく息をしていた。

 エルシーの捻挫でイベントは終わりだと思っていた。

 だからこそ、ここでの彼女の登場は完全に予想外だった。


「キャサリン!? そんなに慌てて一体どうしたんだ!?」

「どうしたもこうしたもないわよ! 二人ともこれを見なさい!」


 キャサリンが俺とエルシーの前に一枚の紙を突き付けた。

 街で配られている号外のようだった。

 言われるまま、その紙に目をやった。


『スクープ! イングリッド、深夜の密会デート』


 号外の一面には、そんな文字が躍っていた。



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