第65話 10日目の予想順位発表
9日目。ポスターを作り、エルシーの知名度を上げる。
そして翌10日目――エルシーとカレンのジョイントライブを開催することになった。
現実なら会場手配やスタッフ確保で大騒ぎだろう。だがここはゲームだ。すべてが迅速に進む。
ライブ会場に選んだのは、メロディア小音楽劇場だ。
俺は大音楽劇場の使用権を持っているが、今回はさすがにキャパが大きすぎる。費用もミコトさんと折半できるのだから、ここで無料チケットを使うのはもったいない。
「二人ともいいパフォーマンスをしていますね。お客さんも満員ですし、ジョイントライブは成功ですね」
ステージ袖で見守るミコトさんの言葉に俺は頷く。
10日目の午後、ステージではカレンの歌声に合わせてエルシーが軽やかにダンスを披露している。
ミコトさんの言うとおり、会場は満席だった。
小音楽劇場とはいえ、胸が熱くなる光景だった。
エルシーの知名度を上げるため、前日にポスターPRを打った。だが、客席を埋めるだけなら必要なかったかもしれない。
7日目のイベントでカレンは大音楽劇場の前座を務め、知名度を大きく上げていた。
客席で振られる、ペンライトのような魔光石の光。その多くが、カレンのイメージカラーであるオレンジだった。観客の大半は、前座で名を上げたカレン目当てなのだ。
自室での引きこもり練習が中心だったエルシーに知名度がないことは、俺も承知している。
観客の多くがカレン目当てなのも、想定内だった。
俺の狙いは、カレン目当ての観客にエルシーのパフォーマンスを見せ、心を奪うことだった。
――だが、現実はそう甘くはない。
「……エルシーはいいダンスをしている。今までで一番輝いて見える。……でも、カレンの歌は、それ以上に観客を魅了しているじゃないか」
ゲーム故の残酷さだろうか。観客の反応はゲージとして視覚化される。エルシーのパフォーマンスで好感度は確実に上がっている。
それでも、カレンはその上を行く。
彼女の歌声が観客を強く惹きつけているのが、視覚情報ではっきりとわかる。
「カレンはずっと練習を頑張ってきましたから!」
俺の呟きを、自分にかけられたものだと思ったのだろう。ミコトさんがそう言ってきた。
……エルシーだって、ずっと頑張ってきたんだ。
胸の中だけで、そう返す。
二人とも、練習中心でやってきたのは同じ。だが、自室で一人黙々と続けたエルシーと、音楽学校で専門家に磨かれたカレンとでは、差がついた。金をかけた環境の成果は、目覚ましい。
「エルシーがカレンに負けたわけじゃない。……俺の狙いが甘かっただけだ」
俺の呟きは、ライブの音にかき消されて、誰にも聞かれることはなかった。
10日目の行動終了後、俺達はまた応接室に集まった。
今日は二度目の予想順位発表の日だ。
ミコトさんを誘い、半ば強引に今日ジョイントライブを開催したのも、この発表に間に合わせるためだった。
二回連続最下位になったら、さすがにモチベーションが崩壊しかねない。
ただ、そのジョイントライブは、ミコトさんのカレンを後押しするような形になってしまったが……。
「ショウさん、順位がどう変わっているか楽しみですね!」
ミコトさんは期待に満ちた声で話しかけてきた。
俺を出し抜いたつもりなら嫌味の一つも出るだろう。だが、ミコトさんからはそんな気配は微塵も感じられなかった。
カレンの知名度を利用してエルシーをうまく引き立てようなどと思っていた自分が恥ずかしくなる。
「少しはメイのイングリッドとの差を縮められるといいんだけどね」
「カレンもエルシーさんも頑張ってましたから、きっと大丈夫ですよ」
そんな俺達の会話を聞きつけたメイが、薄く笑いながらこちらを見てきた。
「まだ私のイングリッドに勝つつもりなのかい? この前のイベントルーレットで、クマサンが貴族との繋がりを作ってきそうだったから、私はディナーショーにこの街の貴族を無料招待して、そっち方面の攻略も始めている。優勝を諦めて2位狙いに切り替えた方がいいんじゃないのかい?」
メイがあれからも変わらず金のかかる行動を続けていたのは把握していた。だが、貴族まで取り込もうとしているとは思っていなかった。……恐ろしい女だ。
まるで黒幕プロデューサーのような立ち回りで、キャサリンよりもメイの方がラスボスなんじゃないかと思えてきた。
「俺は別に貴族との繋がりを作りたいわけじゃないんだが……」
クマサンは何か言いたそうだったが、俺達の目の前には「10日目終了時点の吟遊詩人総選挙予想順位」のメッセージが表示され、全員が押し黙る。
この瞬間の緊張感は半端ない。
最下位だけはいやだ!
俺は祈るような気持ちで発表を待った。
下位から順に、名前が読み上げられていく。だが、並ぶのは知らない名前ばかり。20位はトーニャ。エルシーの名がないことに、まず胸を撫で下ろす。二回連続の最下位だけは、なんとか免れたらしい。
六姉妹の名が、ぽつぽつと混じり始める。そして――
『16位 ウェンディ』
俺達の中で最初に出てきたのは、クマサンの担当するウェンディだった。
クマサンは顔に出さない。だが、付き合いの長い俺にはわかる。そこに、悔しさが滲んでいる。
ウェンディの後も、エルシーの名は、なかなか出てこない。15位、14位……六姉妹や知らない名前が続き、ついに11位まで来てしまった。
……おいおい。これ、まさかトップ10に入っているんじゃないか!?
最下位を恐れていたはずなのに、ここにきて欲が出てくる。握った拳に、力がこもる。
『9位 エルシー』
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
前回20位だったエルシーが、いきなりトップ10入り。しかも9位。一気に11ランクアップの、大躍進だ。
「エルシーさん、頑張ってましたもんね」
ミコトさんが嬉しそうに笑う。
俺ではなくエルシーを褒めてくれたことが、なんだか嬉しい。
そして、その直後だった。
『8位 カレン』
カレンの名前に、ミコトさんの表情が、ぱっと緩んだ。喜び八割、悔しさ二割といったところか。前回19位からの、こちらも大躍進。同じステージに立った仲間の躍進は、素直に嬉しい。
「カレンの実力がちゃんと評価された証だね」
「ありがとうございます!」
残るは、メイのイングリッドと、キャサリンだ。
メイは、ここで自分の名が出るはずがないという顔で、緊張一つしていない。
発表は上位へ進み――
『3位 イングリッド』
前回6位から、さらに順位を上げてきた。
チラリとメイに目を向ければ、悔しげに舌打ちしている。本当に1位を狙っていたのかもしれない。
そして、1位は――発表されるまでもなくわかってしまう。
『1位 キャサリン』
予想通り、頂点は揺るがなかった。
さすがに強い……。
これで、10日目のすべての予想順位が出そろった。
エルシーが順位を上げたのは喜ばしい。
だが、メイのイングリッドとの差が縮まったとは思えない。
人気があるほど集客力が上がり、あらゆる行動が有利になる。しかも、メイは資金の心配をする必要もない。これからさらに攻勢を強めてくるはずだ。
そして――そのメイよりもさらに高みにいるキャサリン。
残り日数は20日。
逆転の手段は――
まだ、残っているのだろうか?




