第42話 攻略の糸口
尻尾を攻撃していようが、後ろ脚を狙っていようが――インフェルノは問答無用で尻尾を振り抜いてくる。
その理不尽さを前に、俺は決断を迫られていた。
このまま尻尾や後ろ脚を狙い続けるか。
それとも、尻尾の届かない正面へ回るか。
問題は――どちらも正解には見えないことだ。
後ろにいれば、また宙を舞う。
正面に立てば、クマサンに向けられた一撃をまとめて受けることになる。
受ければ当然、回復が飛ぶ。
――削られるのは、ヒーラーのSPだ。
一瞬だけ、攻撃をやめるという選択肢が浮かぶ。
だが、即座に振り払った。
――それじゃ意味がない。
タンクのクマサンが出せるダメージは限られている。
サブヒーラーをこなしつつ魔法スクロールで削ってくれるメイも、無限じゃない。
本気で体力を削れるのは――俺だけだ。
俺が止まれば、この戦いは終わる。
「俺がやらないで誰がやるんだよ!」
ダウンが解けると同時に立ち上がる。
迷いは切り捨てた。
どうせ食らうなら、回避は捨てる。
攻撃に全振りだ。
仲間のSPが尽きる前に、俺が削り切ればいい――それだけだ!
「メイ、ミコトさん! 尻尾に戻る!」
「了解!」
「わかりました!」
返事は即答だった。
巨大な尻尾へ駆け寄り、包丁を振り上げる。
また吹き飛ばされるかもしれない。
それは、俺だけじゃない。二人もわかっている。
それでも止めない。
止める代わりに――支える覚悟を選んだ。
「スキル、みじん切り!」
大木より太い竜の尾に刃を叩き込んだ。
【ショウはインフェルノにみじん切り ダメージ550】
削れている。
尻尾は連続では来ない。
今なら――押せる。
「スキル、乱切り!」
【ショウはインフェルノに乱切り ダメージ461】
いける――
そう思った瞬間、視界が反転した。
【インフェルノはショウにテイルスマッシュ ダメージ205】
天井が見える。
次の瞬間、背中に衝撃。
……またか。
身体が動かない。
遠くで金属音とスキルの発動音が響く。
俺だけが、地面に転がっている。
唇を噛みしめた。
【メイはショウにヒール・中 体力が216回復】
回復のログが表示される。
ありがたい。……でも、またSPを使わせた。
その時――
「炎がきます!」
――ミコトさんだ。
見えない。
首だけを動かすが、インフェルノの口元は視界に入らない。
尻尾で吹き飛ばされ、距離が開いている。
あのブレスは遠距離を焼く。
今の位置。
この体勢。
標的になれば、避けられない。
……やばい。
ダウンが終わらない。
尻尾を食らうたびに、復帰までの時間が伸びている。
もし俺を狙われたら――直撃だ。
冷たいものが背筋を走る。
心臓がうるさい。
頼む。
こっちを狙うな……!
【ミコトに炎の余波 ダメージ10】
……息が抜けた。
俺じゃない。
ミコトさん、余波だけだ。
ダメージは10。
ほとんどかすり傷だ。
助かった。
ダウンが解ける。
立ち上がりながら、俺は呟いた。
「……きっと見落としてる何かがあるはずだ」
テイルスマッシュは見てから避けられる攻撃じゃない。
しかも食らうたびにダウン時間が伸びる。
ブレスと重なれば、即死だ。
だからこそ――予備動作がないはずがない。
「みんながベストを尽くしているのに、俺だけやられっぱなしってわけにはいかないんだよ!」
自分に言い聞かせるように吠え、再び尻尾へ走る。
今度は尻尾だけじゃない。
背中、後ろ脚、筋肉の収縮――すべてを見る。
どこかに微細な動きがあるはずだ。
料理スキルを叩き込みながら、視線を走らせる。
攻撃と観察を同時にこなす。
脳が焼ける。
それでも――止めない。
このまま食らい続ければ、ブレスとのコンボで死ぬか、仲間のSPが尽きるか。
だから、見つけるしかない。
だが――変化はない。
「絶対にどこかに何かが――ぐわっ!」
【インフェルノはショウにテイルスマッシュ ダメージ202】
また、視界が反転する。
集中はしていた。
見逃したつもりはない。
それでも、尻尾は予告なく振り抜かれた。
「……本当に、何もないのかよ」
天井を見つめながら、呟く。
近接を潰すための仕様か?
それとも、正面で戦えと言いたいのか?
「きついな、まじで……」
理不尽な敵が実装されることはある。だが、もしこれが、近距離を排除する設計だとしたら――
俺は、戦力外だ。
【メイはショウにヒール・中 体力が216回復】
ダウン状態が終わり、立ち上がる。
体力は戻った。
だが、気力が戻らない。
また突っ込めば、同じことの繰り返しだ。
……メイにスクロールを分けてもらうか?
アイテム枠には限りがある。
弱点が分からない以上、雷や土も持ち込んでいるはずだ。
尻尾に張り付くより、後方から援護する方がマシかもしれない。
俺は力なくメイへ顔を向ける。
その瞬間――
メイは、宝物を見つけた子供のような顔でこちらを見ていた。
「ショウ! 見つけたぞ!」
「――――?」
何を見つけたというのだろうか?
俺は言葉の意味を掴めない。
「予備動作を見つけたぞ!」
「――――!!」
消えかけていた闘志に、再び火が灯る。
「尻尾攻撃の前に、インフェルノの瞳が一瞬後方へ動く! 四回目の尻尾攻撃の時に気づいて、もしかしたらと思っていたが――今の五回目の攻撃で確信した! 目が動いてから約三秒後、尻尾攻撃が来る!」
メイのやつ……攻撃と回復をこなしながら、ずっと予備動作を探していたのか。
目の動きというわずかな変化を拾い、検証まで終えている。
メイが戦闘で本当に凄いのは、財力じゃない。
きっとこの観察力だ。
「……ありがとうな」
「ん? ショウ、何か言ったか?」
「……いや、一緒にインフェルノを倒そうって言っただけだ」
「ああ! 目が動いたらすぐに伝える!」
「頼んだぞ!」
尻尾に向かって駆け出した。
今までよりずっと足が軽い。
インフェルノの瞳の動き、それは敵の背後にいる俺からは絶対に見えないものだ。
俺一人なら永遠に辿り着けなかった。
だが、今の俺は一人じゃない。
最高の仲間がいる!
「食らえ、インフェルノ!」
俺は料理スキルを叩き込む。
ダメージは出せる。それでも、この戦いは俺一人じゃ届かない。
俺にできるのは、料理スキルを使うことだけ。
でも、それでいい。
みんなが支えてくれる。
「尻尾!」
メイの声。
思考より先に、身体が動いた。
後方へ跳ぶ。
直後、さっきまで俺がいた空間を、巨大な尾が薙いだ。
一拍遅れて、風圧が頬を叩く。
――避けた。
「ナイスだ、ショウ!」
「メイのおかげだ!」
メイが親指を立てる。
俺も同じように返す。
「俺だって格好いいところを見せないとな」
動きを止めた尻尾へ踏み込む。
ここからは――俺達のターンだ。




