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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに! リアルでは女の子達と配信はじめます  作者: グミ食べたい
第3章 ドラゴンスレイヤー編

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第40話 猛攻

 いくら敵が巨大でも、その攻撃力が単純にサイズに比例するわけではない。ここはゲームの世界だ。現実とは違う。

 クマサンが受けるダメージは決して軽くない。

 それでも、ミコトさんの防御バフ、俺の料理による補助効果、そして何よりクマサン自身の異常なまでの耐久力によって、致死圏に踏み込むことはなかった。

 ミコトさんの回復も的確だ。危険域に入る前に戻し、無駄なオーバーヒールもない。


 その結果――


 俺達は、危なげなくインフェルノの体力を二割以上削っていた。


「みんな、いい感じだ! この調子で攻め続けよう!」


 巨体は確かに圧倒的だ。一撃は重い。

 とはいえ、正直――外見ほどの恐怖はない。

 そう思い始めた、その瞬間だった。


 インフェルノの動きが変わった。

 体はクマサンを正面に据えたまま動かない。

 首だけがゆっくりと揺れ始める。

 まるで、周囲を飛ぶ小さな獲物を探すかのように。


「インフェルノの様子が変だ! みんな、気をつけて!」


 メイの声が飛ぶ。

 クマサンが正面から受け止め、俺が背後に回る。インフェルノを前後から挟む形だ。

 その直線とは少し距離を置き、ミコトさんとメイが横並びで位置を取っている。近接の俺達を援護しつつ、敵の全体を見渡せる場所。

 だからこそ、わずかな異変にも真っ先に気づけたのだろう。


 インフェルノの首が、ぴたりと止まる。

 その視線の先――

 ミコトさんとメイ。

 嫌な予感が、背骨をなぞった。


 ゆっくりと、口が開く。

 その奥で赤が脈打つ。


 ――ドラゴンブレス。


 それは、ドラゴンの象徴とも言える必殺の一撃。

 炎ではない種もいる。だが、こいつなら――来るのは、炎だ。


「ブレスが来るぞ! 二人とも気をつけろ!」


 赤光が膨れ上がり――

 奔流となって吐き出された。

 まさに灼熱の塊。

 大人一人を丸ごと呑み込めるほどの火球が、轟音とともに二人の立っていた地点へ一直線に迫る。


 着弾。


 爆炎が地面を抉り、衝撃が空気を震わせた。


 あれが直撃していれば――

 想像するだけで背筋が凍る。


 だが――

 二人はすでに動いていた。

 ブレスが放たれる直前、ミコトさんはクマサンの側へ、メイは俺の側へ。着弾地点から十分な距離を取っている。


 安堵が胸に広がる。

 その瞬間――


【ミコトに炎の余波 ダメージ50

 メイに炎の余波 ダメージ30】


 視界に浮かんだ文字列が、心臓を冷やした。

 直撃ではない。

 着弾地点からも離れていた。


 ――それでも削られている。


 爆心地から広がった熱が、空気そのものを焼き払ったのだ。目に見えない炎が、遅れて襲いかかる。

 ミコトさんのダメージが大きいのは、わずかに動き出しが遅れた分だろう。


 ――もし直撃していたら。


 喉がひりつく。


「二人とも大丈夫か?」

「問題ありません」

「このくらいなら回復するまでもない。それより……避けたつもりだったのに、甘かった」


 二人の声は落ち着いている。

 それが何よりありがたかった。

 戦闘でいちばん危険なのは、パニックだ。

 冷静さを失った瞬間、崩れる。

 俺も息を整えた。


 今のブレスは、明らかにクマサンではなく別のプレイヤーを狙っていた。

 ヘイトは維持されている。

 クマサンは完璧に役目を果たしている。


 それでも――狙われた。


 つまりインフェルノは、ターゲットを取っている相手とは別に、他のプレイヤーを狙う攻撃手段を持っているということだ。

 狙いがランダムなのか、条件付きなのかはまだわからない。

 確かなのは――タンクが機能していても、安全ではないということ。


 とはいえ、ブレスには明確な予兆がある。

 首を大きく振りかぶるあの動き。

 あれさえ見逃さなければ、余波は受けても直撃は避けられる。

 対処不能な攻撃ではない。


「みんな、今のブレスはクマサン以外を狙ってきた。次も同じ可能性がある。首が動いたら、すぐ声を掛け合おう」

「了解」

「任せてください」

「気づいたらすぐ言う」


 即座に返る声。

 このパーティの連携と信頼は揺るがない。

 怖い攻撃だが、直撃さえ避ければ対処できる。


「よし、みんな! このまま慎重に戦えば、勝つのは俺達――」


 言い終えるより早く、それまで地面に垂れていただけの尻尾が、唐突に跳ね上がった。

【インフェルノはショウにテイルスマッシュ ダメージ208】


 衝撃。

 俺の身体より太い尾が叩きつけられ、視界が弾ける。

 身体が軽々と宙を舞った。


 ――しまった!


 地面に叩きつけられる。

 HPが大きく削られ、強制ダウン。短時間、起き上がれない。

 ダメージを与えすぎてヘイトを奪ったか!?

 追撃を受ければ、クマサンと違い、俺の装甲では耐えられない。

 地面に伏せたまま、視線だけを上げる。


 だがインフェルノは、俺を見ていなかった。

 向きすら変えず、クマサンへ前脚を振り下ろしている。


 ……違う。


 今の尾撃も、ブレスと同じ。

 ヘイトとは無関係の攻撃だ。


「ショウさん、すぐに回復を――あっ、距離が離れすぎてます」


 俺のHPが大きく削れたのを見て、ミコトさんがすぐに駆け寄ろうとする。


「待て、ミコト! ショウの回復は私がやる」


【メイはショウにヒール 体力が108回復】


 淡い光が身体を包む。

 ミコトさんはメインヒーラーだ。クマサンの維持と全体管理が最優先。俺の被弾にまでSPを割かせるわけにはいかない。

 メイがサブを白魔導士にしているのは、まさにこういう場面のためだ。

 俺は落ち着いて立ち上がる。


「すまない、油断した。尻尾の動きにもっと注意する」

「ああ、頼むぞ。私のSPも有限だからな」


 軽く片手を上げて応え、俺は再び前に出る。

 敵の大技には、たいてい予兆がある。

 ブレスがそうだった。

 さっきは視野が狭くなっていた。

 だが、今度は違う。

 ブレスの監視は仲間に任せる。

 俺は――尻尾に集中する。


「スキル、いちょう切り!」


【ショウはインフェルノにいちょう切り ダメージ276】


 攻撃を重ねながらも、視線は尾から一瞬たりとも外さない。

 筋肉のわずかな収縮。

 地面を擦る鱗の音。

 空気の震え。

 すべてを拾うつもりで、神経を研ぎ澄ませる。


 ――来ない。


 敵の体力ゲージが、確実に削れていく。

 読めている。

 そう、思った直後だった。


【インフェルノはショウにテイルスマッシュ ダメージ204】


 次の瞬間――視界が弾けた。

 気づけば、俺の身体は再び宙を舞っていた。


「……嘘だろ」


 背中から地面を打ち、仰向けのまま天井を見上げる。


 見ていた。

 尾に集中していた。

 瞬きすらしていない。


 ――なのに。


 尾は、動いていなかった。

 いや、違う。

 「動いた過程」が存在しなかった。

 気づいたときには、そこにあった。

 時間を飛ばしたみたいな、完全なノーモーション。

 こんなの――見てから避けられる攻撃じゃない。


 距離を取れば、余波を受ける炎のブレス。

 背後に立てば、予兆なき尾撃。

 レッドドラゴン「インフェルノ」。

 ファンタジー世界の最強種は、甘さを一切許さない強敵だった。


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