第278話 最終決戦?
最後の一撃が誰のものだったのか、正直わからない。
それほどまでに、寄ってたかってボコられたという感覚だけが残っている。
ログを確認すれば、トドメを刺した相手はすぐに分かるだろう。
……だが、知らないままでいるほうが、きっと幸せだ。
そう思って、確認するのはやめておいた。
「それより、ルシフェルと合流を急がないとな」
俺がスタート位置に戻ってきたことで、今のルシフェルはソロ行動だ。
三組を俺が一時的に足止めしたとはいえ、あれで本当に逃げ切れたかどうかはわからない。
運悪く、別のタッグと遭遇してしまう可能性だってある。
マップ上のマーカーを確認する。
――動いている。
ひとまずは安心だが、戦闘状態で追われている可能性も否定できない。
油断は禁物だ。俺はすぐに駆け出した。
ほどなくして、前方から金色の髪をなびかせながら必死に走ってくる姿が見えてくる。
ルシフェルだ。
後ろに追手の姿はない。
「……うまく逃げ切れたみたいだな」
無事に合流し、声をかける。
「……ショウのおかげだ」
妙にしおらしい返答だった。
ルシフェルらしくない態度に、思わず一瞬言葉に詰まる。
「……いや、俺のことはいい。お前が無事なら、それで十分だ」
そう、ポイント的には十分だ。
俺が撃破されてマイナス1にはなったが、大量のスターを抱えたルシフェルが健在なおかげで、現在のポイントは「+8」。
三組に囲まれるという最悪の状況から考えれば、被害は最小限だ。
「私が無事なら、それで十分って……そこまで私のことを……」
ルシフェルが、ぼそりと何かを呟いている。
……多分、ポイント計算でもしているのだろう。
うん、きっとそうだ。
「残り時間は、とにかくポイント維持を優先する。ただし――確実に勝てそうな相手がいたら、そのときは戦いを仕掛けよう」
「……いいのか? 逃げの一手ではなくて?」
そこは正直、迷いどころだった。
9ポイントでの逃げ切りを狙っていたが、1ポイント失ったことで、少し不安が残る。
それに、クマサン&シア、メイ&ソルジャー、ミコト&フィジェット――三組が同じエリアに集まっていた。
俺が死んだあと、三つ巴の争いになり、どこかがポイントを総取りしている可能性もある。
もしそうなら――それは無視できない脅威だ。
「さっきの遭遇で、状況が変わった。安全策も大事だが、攻める気持ちを失ったら、頂点には届かないのかもしれない」
そもそも、三組に囲まれる展開になったのも、俺の弱気な判断が原因だった可能性がある。
最強アタッカーを名乗るなら――本当は、もっと積極的な策を取るべきだったのかもしれない。
「……だから、周囲を警戒しつつ移動しよう」
「……わかった」
そうして、歩き出した――そのときだった。
「ショウ!」
「ショウさん!」
聞き慣れた声に振り返る。
そこにいたのは、クマサンとシア。
……またか。
「うまく撒いたはずなのに……」
ルシフェルが悔しそうに唇を噛む。
実際、さきほどまではほかのタッグの姿はなかった。一時的には逃げ切れていたはずだ。
それでも、再び見つけられた相手がこの二人というのは運が悪い。
戦闘力的にも、最も警戒すべき相手だ。
「なんとなく、ショウがこっちにいる気がしたんだ」
クマサンが、なぜか誇らしげにそう言った。
リアルで言われたら嬉しく感じたかもしれないが、今はその勘の鋭さがちょっと怖い。
攻めの姿勢を忘れるな、と自分に言い聞かせたばかりだが――相手が悪い。
戦うのは、あくまで確実に勝てそうな相手の場合の話だ。
「逃げるぞ」
俺はルシフェルの腕を掴み、再び逃走を図ろうとした――
だが、これまで素直に従ってくれていたルシフェルが、今回は頑として動かなかった。
「おい、どうした……!?」
「……ここで、ショウの仇を討つ」
真剣な表情で、ルシフェルがそんなことを言い出した。
おいおい、一体どうしたんだよ!?
氷の知将とまで呼ばれるルシフェルは、どこへ行った!?
そもそも――
この二人に俺がトドメを刺されたかどうか、俺自身だって分かっていないんだぞ。
「冷静になれ! 今ならまだ逃げられる!」
「……ここで二人を倒せば、少なくとも+2ポイント。計10ポイントの大台に乗る。そうすれば、私達の勝ちは固い。そう……私とショウの勝ちが……」
……確かに、ルシフェルの言うことにも一理ある。
もしクマサンとシアが、メイ&ソルジャーやミコト&フィジェットを倒していれば、相当なポイントを抱えているはずだ。
一位を取るためには、この戦いは避けて通れないのかもしれない。
迷っている間にも、二人はすでに戦闘可能範囲へと踏み込んでいた。
ここから逃げても、移動力補正で追いつかれる――
……もう、やるしかない。
「……仕方がない」
ルシフェルの腕を掴んでいた手を離し、包丁を構え、狂気の仮面を被る。
名前とは裏腹に、これを装備すると不思議と頭が冴える。
迷いは、もうない。
――ここで、雌雄を決する。
思えば、クマサンと本気でやり合うのはこれが初めてだ。
PvPが実装されたのも最近だし、それ以前も敵陣営として競い合う機会はほとんどなかった。
タンクとアタッカー。
役割は違えど――戦えば、どちらが上か。
正直、興味はある。
「クマサン――勝負だ!」
「ショウ……手を繋いで仲良く逃避行とは、なかなか面白いことをしてくれたな」
……あれ?
何だろう。
俺とクマサンのテンションが、微妙に噛み合っていない気がする。
その違和感が一瞬、頭をよぎったが――今は確かめている場合じゃない。
俺はルシフェルを庇うように一歩前へ出る。
対するクマサンとシアは、並ぶように距離を詰めてくる。
一触即発。
――クマサンが「挑発」を使うなら、狙いは俺か、ルシフェルか。
それ次第で、戦いの形は大きく変わる。
遠距離攻撃ができるルシフェルに先制させる手もあるが、あいつもクマサンの出方を待っているのだろう。
どうする、クマサン?
あまり悠長に構えていると――こっちから仕掛けるぞ。
さらに一歩踏み込んだ、その瞬間。
クマサンの視線が、鋭さを増した。
――来る!
【クマサンはショウに挑発】
俺のターゲットが、クマサンへと固定される。
――やはり、俺か!
それでこそ、クマサンだ!
自慢の生存力で攻撃を受け止め、時間を稼ぐつもりだろう。
なら――俺は、その耐久を料理スキルで叩き潰すだけだ。
「いくぞ、クマサン!」
「来いっ、ショウ!」
包丁を構えたまま、一気に距離を詰める。
同時に、シアもダモクレスの剣を抜き、俺へと迫る。
俺達がクマサンを倒すのが先か。
それとも――俺が沈むのが先か。
その勝負が始まる――
――そのはずだった。
【終了】
スキルがぶつかる寸前。
視界いっぱいに、イベント終了を告げるメッセージが表示された。




