第272話 次の敵
タッグチーム一覧のウィンドウに目をやる。
俺の名前の下には撃破マークが一つと被撃破マークが一つ。
ルシフェルの名前の下には撃破・被撃破マークが一つずつに加え、スターを示す星印が一つ。
二人の名前の右側には「+1」と、チームとしての総合ポイントが表示されている。
自チームの詳細は見られるものの、残念ながら他チームの撃墜数やスター、ポイントは確認できない。
つまり「スター持ちを優先して狙う」ような戦法は取れないわけだ。
だが裏を返せば――こちらもスターを持っていても狙われないということでもある。
だとしたら――
「この先、もうスターを見つけたら、ルシフェルが拾ってくれ。敵を倒すときも、できるだけルシフェルがトドメを刺すようにして、できるだけスターをお前に集中させよう」
「……いいのか?」
意外そうな反応だ。同じアタッカー同士ゆえ、撃破を譲るという発想が想定外だったのかもしれない。
だが、俺とルシフェルでは役割上のリスクが違う。
近接の俺のほうが前に出ざるを得ず、当然撃墜されるリスクは高い。
安全圏から攻撃できるルシフェルにスターを集めておけば、失う可能性を減らせる。合理的なだけだ。
それに――自分がトドメを刺せるとなれば、ルシフェルのやる気も上がるだろう。
仲が悪い同士で連携を取るなら、相手のモチベーションを上げるのが大人ってやつだ。
「タッグとしての勝ちが優先だ。俺は撃破数には拘らない。それより……ここからは俺が盾になってやる。――お前は死なせない、安心しろ」
「――――!? そこまで私のことを大事に思って――」
なぜかルシフェルが顔を赤らめ、うつむいた。
「お前さえ生き残っていれば、スターのポイントが維持できるからな」
言葉を続けたけど、聞いてるのか、こいつ?
HNMギルドのギルマスを務める男だ。俺に言われなくてもわかっているということかもしれないが……
「……ルシフェル、わかっているよな?」
念のため確認すると、ルシフェルは顔を紅潮させたまま、妙に潤んだ瞳をこちらへ向けてきた。
「……みなまで言うな。お前の気持ちは――わかった」
やはり心配する必要はなかったようだ。戦術理解度が高い者相手だと話が早くて助かる。
「じゃあ、これからの動きだけど、ほかのプレイヤーの位置が見えない以上、移動しながら探すしかない。不確定要素の大きい複数タッグの同時戦闘は避けて、二対二で確実に勝てる相手を狙う。……まあ、どれだけ敵と遭遇できるかは運次第だけどな」
十二組ものタッグがいるとはいえ街は広い。
屋内は侵入不可だが、三十分のあいだ一度も他プレイヤーと出会えない者がいても不思議じゃない。
運よく遭遇しても、誰と出会うかは完全にランダム。
その場その場で戦術判断を切り替える必要がある。
冷静に考えると、なかなかハードなイベントだ。
そんなイベントをソロで攻略しようとしていた奴がいるらしいが――恥ずかしすぎるので記憶の隅に封印することにしよう。
「……ほかのプレイヤーの位置はわからないとショウは言ったが、一組だけなら居場所に心当たりがある」
自分の黒歴史を忘れようとしていたところに、ルシフェルが不意に口を開いた。
同じギルドなら行動パターンを読めるということだろうか。
だとしたら恐るべきギルマス能力だ。
俺なんてクマサン、ミコトさん、メイ……誰の動きもまったく読めないというのに。
「……誰の場所ならわかるんだ?」
「ソルジャーとメイ。あの二人の居場所ならわかる」
よかった。「片翼の天使」絡みじゃなかった。
その二人はルシフェルを撃破した相手だ。つまり、やられた場所はわかる、ということだろう。
だが、本来プレイヤーが同じ場所に留まり続けるとは限らない。
俺がねーさんとミコトさんを同じ場所に誘導できたのは、あの二人がそこを再利用すると読めたからであって、誰にでも通用するわけじゃない。
「……おまえが倒された場所のことを言っているのか? 二人が同じ場所に留まっているとは限らないと思うが?」
「いや。あの二人は間違いなく、そこにいる」
ルシフェルは力強く断言した。
スターを拾うチャンスを増やすなら移動したほうが有利だ。ソルジャーはともかく、ゲーム巧者のメイが同じ場所に留まるとは考えづらいが……よほど戦いやすい地形を確保したのだろうか?
とはいえ、相手がソルジャーとメイならこちらに分がある。ソルジャーは俺たちと並ぶ最強アタッカーの一角だが、メイはサブ職ヒーラーの準ヒーラー。
俺とルシフェルでソルジャーを落とせば勝負は決まる。たとえ俺とソルジャーが相打ちになっても、残ったルシフェルがメイを落とせばいい。
最低でも1ポイント、運が良ければ2ポイント。さらにメイ達がスターを持っていれば上積みも期待できる。
メイには悪いが……ここは狙わない手はない。
「――わかった。ならソルジャーとメイを倒そう。さっきは俺のリベンジを果たした、今度はお前がやられた分を返してやろうぜ」
「――――!? それってつまり、私の……敵討ちをしたいということか……!」
いや、俺は二人に恨みはないんだけど……。お前がリベンジしたいんじゃないかと思って言っただけなんだけど……。まあ、いいか。
「――とにかく、メイ達のところへ案内してくれ」
「……わかった。――ショウの想い、伝わってきた」
何が伝わったのかは知らないが、ルシフェルは妙に力強くうなずいてみせた。
やる気になっているなら深く突っ込まないほうがいいだろう。
そう判断して、俺はこのまま流すことにした。
――そして俺たちは、次の戦場へと駆け出した。




