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ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!  作者: グミ食べたい
第15章 タッグイベント編

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第270話 罠

 俺は再び一人でねーさん達に倒されたあの行き止まりの路地へと向かった。

 彼女達が今もそこにいるとは限らない。

 だけど、俺はねーさんがそこにいると確信していた。


 このイベントの戦略は大きく分けて二つだ。

 有利な地形に潜んで獲物を待つ「待機型」と、スターと敵を求めて積極的に動き回る「巡回型」。

 前者は有利な場所で戦える反面、相手が来なければ戦えずスターも拾えない。後者は戦闘と獲得の機会が増えるが、不利な地形で戦うリスクを抱える。


 ねーさんとミコトさんが本来の役割であるタンク&ヒーラーなら第三の作戦――移動しながらスターを拾い、接敵を避ける生存戦略を取っただろう。

 だが今の二人は違う。タンク&アタッカー――何でもできる構成だ。

 普通の奴なら、二人の取る戦略を読み取るのは難しい。

 だけど俺は知っている。

 ミコトさんの「神降ろし」は効果時間に限りのあるステータス強化スキルであることを。時間切れになれば、彼女はヒーラーに戻ってしまう。

 つまり――逃げられたら終わり。時間稼ぎをされたら、彼女達の戦略は崩壊する。


 だからこそ二人は、敵を誘い込んで逃げ道を奪う「挟み撃ち」を狙うに違いない。

 ねーさんが「挑発」でターゲットを固定し、その背後からミコトさんが拳を叩き込む――あれは二人にとって最も強力な勝ち筋だ。

 そしてそれを実行するのに、あの路地は最適だった。

 囮のねーさんが行き止まりへ誘導し、隠れていたミコトさんが唯一の出口を塞ぐ――俺相手に成功した以上、彼女達は次の獲物もそこで狙っている。

 そう確信して歩みを進めた瞬間――


「……あっ」

「……あっ」


 角を曲がったところで、ちょうど一人でいたねーさんと鉢合わせた。

 ねーさんは俺を見るなり、すぐさま踵を返して猛ダッシュする。


 ――だよな。


 追いかけたくなる心理を突いた、典型的な誘導。

 追う側は妙に優位だと錯覚しやすく、罠を疑いにくい。

 前回の俺は、ねーさんが偶然スターを拾っていたこともあって警戒心ゼロだったが……今ならわかる。

 追いつけそうで追いつけない速度、曲がり角の使い方――全部考えられている。

 こういうのはミコトさんの策じゃない。間違いなくねーさんの策だ。

 普段は勢い任せなのに、こういうところだけ妙に冴えている。


「待てっ、ねーさん! 今度こそ倒してやる!」


 ここはバカを演じておく。

 二度も同じ手に引っかかるのは普通ありえない。

 だから少し大げさに、何も考えていない風を装っておく。


 ――ねーさんならきっと違和感に気づいているだろう。だけど、それでもなお、そのうえで俺を攻略しようと考えるのがねーさんという人だ。


 案の定、前と全く同じルートで、俺は再びあの行き止まりの路地へ誘い込まれる。

 そして今度も、背後からミコトさんが現れた。

 隠れ場所を探しながらねーさんを追いかけていたが――まったく見つけられなかった。裏路地で遮蔽物が多いこの地形は、姿を隠しておくのに最適ってわけだ。ねーさんはこの街を熟知している――それがよくわかる。


「ショウさんらしくないですね。二度も同じ手に引っかかるなんて」


 少し落胆したようなミコトさんの声が背後から届く。

 ……俺のこと、そんなに評価してくれてたのか。

 だが、振り返らない。

 俺はねーさんだけを正面に捉え、包丁を構え続けた。


「何か策があると思ったんだけど……買いかぶりだったみたいだね。――スキル『挑発』!」


【フィジェットはショウに挑発】


 これでターゲット変更は不可能。

 ねーさんは勝ちを確信しているのか、余裕の笑みを浮かべている。


「どうした、自慢の料理スキルは? 私の神聖守護盾(ディバインシールド)を警戒してるのかい?」


 スキルに続いて、今度は言葉での挑発が飛んできた。

 だが俺は包丁を握った右手を微動だにさせない。


「――諦めたのかい? まあいい。ミコト、ショウに引導を渡してやれ!」

「……ショウさん、ごめなさい。全力で行かせてもらいます。――神降ろし!」


【ミコトは神降ろしを使用した】


 強化されたミコトさんが、後ろから俺に駆け寄り、ワンツーで拳を叩き込む。


【ミコトはショウに攻撃 122ダメージ】

【ミコトはショウに攻撃 120ダメージ】


 背中に衝撃が走り、ダメージ表示が流れるが、俺は焦らずにスキルを使う。


【ショウは自分にヒール・大 体力が240回復】


 その瞬間、ねーさんの瞳が大きく揺れた。

 後ろからは驚きに満ちたミコトさんの声が響く。


「うそ……!? 『狂気の仮面』使用中は、攻撃スキル以外は使えないはずです!」


 想定通りの反応で気持ちがいい。

 俺は上半身だけ振り向き、ミコトさんに顔を向ける。


「――そうだね。『狂気の仮面』を被っていればね」


 彼女にはニヤつきそうになる俺の唇がきっと見えているだろう。仮面を被っていれば見えるはずのないその唇が。


「――えっ!? 仮面をつけていない!?」


 ミコトさんの顔が驚きに染まる。


「仮面!? そういえば――!」


 ねーさんも、ようやく気づいたようだ。戦闘態勢に入ってもまだ俺が「狂気の仮面」を装備してなかったことに。

 俺があの仮面を身に着けるのは、戦闘時のみ。中二病っぽいと思われるのがいやで、普段は決して身に着けていない。だから、数回しか一緒に戦ったことのないねーさんは、つい見逃してしまったってわけだ。

 これがミコトさんだったらきっとすぐに気づいただろう。だから、彼女には顔を向けないように注意していた。


「でも、回復できるからってどうだって言うんだい! 倒されるまでの時間が多少伸びただけ――」


 ねーさんが言い終わる前に、四人目のプレイヤーの声が響く。


零の嘆き(ラメント・ゼロ)!」


【ルシフェルはミコトに零の嘆き(ラメント・ゼロ) ダメージ340】


 眩い魔力の一閃がミコトさんを撃ち抜き、体力が大きく削れた。

 ミコトさんの後方――そこに右手を掲げて立つルシフェルの姿があった。


 ――ねーさん、ミコトさん、さっきのリベンジをさせてもらうぜ!


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