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その先にあるもの  作者: HARUNE
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眩しい季節

 集落の中に恵さんの事を良く思っていない人達がいるのは知っていた。そして恵さんもその事を恐らく知っているのだろう。

 そんな中にあっても恵さんはいつも静かにいた。

 のぞみは恵さんと時を過ごす中で少しずつ恵さんの事を知って行った。

 恵さんが凄く博識な事。のぞみが読んだ事のある本はほぼ全部知っている事。儚げな外見の割に思い切りが良くて良く笑う人だと言う事。旦那さんとは別れて街を出て来た事。そして、のぞみと同じ名前の子供がいた事。その中には人から聞いた事もあるし、本人から聞いた事もある。

 恵さんの側は不思議と心地良かった。

 そしてのぞみは今日もコウタの家にお邪魔していた。


「恵さん。こんな感じでいい?」

 今日は恵さんと一緒にスイートポテトを作っている。のぞみはマッシュして形を整えたさつまいもを恵さんへ見せた。

 恵さんの手料理を食べた日からのぞみは恵さんに胃袋をがっつり掴まれてしまった。もう恵さんの作るご飯なしではいけない、気がする。

「うん。いいわよ。」

「じゃあ、天板に並べて焼いたら出来上がりよ。」

 一緒に天板に並べて焼き上がるのを待つ事5分。

 焼きたてのスイートポテトは香ばしいバターの香りがした。

 恵さんの手料理はとても素敵だ。

 今日のさつまいもは父の畑で採れたものだ。祖母はいつもそのさつまいもで焼き芋や大学芋を作ってくれる。もちろん美味しいのだけれど、恵さんの作るお菓子は祖母とは一線を画していた。

 のぞみのまだ知らない世界を垣間見せてくれる。

 まるで恵さんの様に。

「沢山作ったからお家に持って帰ってね。あとトオル君の分も。」

 帰りに恵さんは沢山のスイートポテトを渡してくれた。当然のようにトオルの分も。

「ありがとう。」

 のぞみは大きな包みを受け取りコウタの家を後にした。

 コウタの家の前には田んぼが広がっている。

 夕陽を受けて稲穂が金色の輝きを放っていた。

 稲穂を渡る風に金色の波が走る。

 のぞみはその風の音に心を乗せて眩しさに目を細めた。

 綺麗過ぎてなんだか切ないなとのぞみは思った。

 季節は巡ってもうすぐ刈り入れの時がやって来る。


「おっ。のぞみちゃん来たか。」

 工場に行くと池田さんがいち早くのぞみを見つけて声をかける。

「トオルー。嫁さんが来たぞー。休憩入っていいぞー。」

 騒音を掻き消す大声で池田さんが言った。

ちょっ。やめて欲しいその呼び方。

 トオルが手を止めてこっちへ来る。

 トオルはのぞみを見て笑った。

 どうしよう。笑顔が眩しい。

 のぞみの胸がトクンと跳ねた。


「凄え。美味しい。」

 トオルは喜んでくれた。

「のぞみの料理はどれも美味しいな。」

 あっという間に平らげてトオルはお茶を飲み干した。

 最近は恵さんと一緒に料理やスイーツを作ってトオルに差し入れをするのがルーティンとなっている。

 トオルはいつも喜んで気持ちの良い食べっぷりを見せてくれて、笑顔をくれる。

 何故だか最近トオルの笑顔が眩しい。

 その笑顔にドキドキする。

 ずっとトオルの側にいたいと思う。

 のぞみは自分の気持ちを自覚せざるを得なかった。


 トオルの休みの日には恵さんに教えてもらったレシピでお弁当を作って二人で良く一緒に出かけた。

 りんご狩りに紅葉狩り、渓流釣りや洞窟探検。

 繋いだトオルの手は大きくていつも暖かかった。

 こんなに世界は輝いていただろうかと言うくらいキラキラ眩しい日々だった。

 仄かに芽生えた恋心を温めながらのぞみ達はそんな風に時を過ごした。


 もうすぐ長い冬が来る。

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