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第九夜 僕、逮捕されそうです。

前夜:外で凌辱ENDを回避したが、自警団に連行される栄太。夜のうちに釈放されないと魔法がとけてしまい、男の姿に戻ってしまう。男だとバレれば女湯に入ったこともばれてしまい、逮捕&処罰の危機にさらされる。新たな危機を迎え栄太のSUN値は再び削られてゆくのだった。

 自警団の団署に来てしまった。窓口だけ灯りがつき、暗い廊下をほんのりと照らしている。


「こいつらを引き渡すからよ、ちょーっと廊下で待っててくれよ」


 自警団のカルラが離れてゆく。僕とマルリはすることもないから、廊下の長椅子でただ座って待っている。


 日本で自警団というと民間人で組織され、災害のときに自分たちで警備するイメージがある。しかし、この世界の自警団は半官半民で、さらに治安維持活動と犯罪捜査も国で認められている。


 かつてこの国は混乱期に移民が大量に流入したことがあった。当時の国王の命令で、移民が移民を監視するギルドが組織されたのが発端らしい。ちなみにこの自警団以外に国を守る組織は三つある。王国騎士団、王国兵団、そして冒険者ギルドだ。


 それぞれの役割はアメリカの組織に当てはめるとわかりやすい。軍事が騎士団、警察が兵団、保安官が自警団、民間警備会社が冒険者ギルドだ。ただこの国は階級制度が残っていて、貴族(広大な土地を持つ領主)、上級市民(高額税を納められる既得権益者)、一般市民(僕のようにあくせく働く労働階級)、非市民(移民や旅行者など定住しないひとたち)と分けられ、治安組織もそれによって割り振られる。


 貴族や上級市民は騎士団と兵団が対処し、それ以外は自警団が対処する。冒険者ギルドは依頼があればとこへでも行くが、戦争のない時代では誰もやりたがらないような仕事を押し付けられている。


「とりあえず、簡単に調書取ってあとは上司と話をするだけだから問題ないって」

 

 戻ってきたカルラは呑気に笑って見せる。冗談じゃない!自警団には一般市民と非市民にたいして執行権も与えられているんだ。殺人などの悪質な犯罪なら死刑だってあり得る。懐ぐあいを考えると、長期刑を課すくらいなら死刑に踏み切るほど思い切りのいい組織だ。この世界は問題の解決より問題の決着を優先させる。


「大丈夫! 私が弁護しますから!」


 隣にいるマルリが自信満々に励ましてくれる。日本では体裁を整えるために弁護士をつけてくれるが、この国ではざっくばらんというか国が弁護士を雇うなんてことはしない。この世界の弁護士は貴族と上級市民しか雇うことはできず、ペナルティとして発生する特別税に対してどれだけ低く交渉できるかが彼らの業務内容になっている。


 じゃあ一般市民たちはどうするかというと、弁護人を自分で用意するしかない。友人だったり仕事仲間にお願いするのだが、弁護人の調達が難しい場合は冒険者ギルドで人を雇うことになっている。特別な資格など必要ないから、誰かに、とにかくこのひとは悪い人じゃないですよ、って懇願して泣き倒して情に訴えれば、あとは自警団の胸三寸で決まる。窮地に陥ったときにコネとカネが優先されるのは、転生前と変わらない。


「まぁ弁護人がついてるし、アタシたちも報告したし、何よりエルフ案件だから、今夜の件はお咎めなしだよ」


 ユズも戻ってきた。僕の場合はマルリが弁護人を買って出てくれたので、一切の弁護を彼女に委ねることとなる。今回は、しつこく言い寄ってきたやつから身を守るという大義名分で、大した罪には問われないだろう、という判断だ。


 しかし、問題なのは僕のタイムリミットの方だ。今は月が出ているからエルフのままでいられるが、朝を迎え男の姿に戻ったら厄介なことになる。男の僕が故意に女湯に入ったと判断されたら逮捕、そして処罰される。もしマルリにそれがばれてしまったら弁護人を降りるかもしれない。


 なんとしても月が昇っている間にここを出ないと!



「取り調べを担当するヴァン・スプリングだ。そこに座って。カルラご苦労。退室していいぞ」

 

 腹の底から響く低い声で席をすすめる。ギガスという種族だ。立派な体躯を誇り男女ともに2メートルはゆうに超える。見ての通り力仕事が得意で街中でも巡回しているところをよく見かける。


「まず今夜の件について。我々が捕まえた男二人だが、いきなりエルフが魔法を使ってきた、と訴えている。本当か?」

「待ってください!こちらのエルフさんは言い寄られて、乱暴されそうになったから、やむなく魔法を使ったんです!」


 すぐさまマルリが僕を弁護する。


「弁護人はこちらが求めたときのみ発言すること。これは取り調べだ。まだ裁判ではない」


 よくもまぁ、あそこまで怖い顔ができたものだ。マルリが怯えて黙ってしまった。


「これは本人の口から聞かねばならないことだ。どうなのだ?」

「確かに魔法は使いました。しかしそれは自分の貞操を守るためにしたこと」


 それは本当だ。男に襲われたら腕っぷしではかなわないからな。


「カルラとユズの報告では、身体のいたるところに店の広告をはっているらしいが、それは本当か?」

「はい、本当です。この額の紋様もそうです」


 前髪をめくって見せる。うーん……このいかついおっさんには宣伝にならないかなぁ。


「店の名前は?」

「マジックショップ『猫の目』です」

「その店は普段からそんな過激な宣伝活動をしているのか?」


 過激?なのか?まぁこの世界では斬新なのは確かだけど。


「わたしが提案しました」

「『見張り猫アッシュくん』なるグッズの宣伝も兼ねているのか?」

「それは……」


 くどいようだが商品化は出まかせだ。どうする? 嘘をつくか? もし、このあとプロントさんに確認して、嘘がばれたら僕の立場が危うくなる!


「どうした? なぜ答えない?」

「……黙秘します」

 

 すぐばれる嘘はデメリットにしかならない。ここは沈黙するのがベターか。


「そうか。では質問を変える。それはいくらで手に入る?」

「へ?」


 欲しいの?鬼瓦のような表情を変えず淡々と話す。



「その触れられると弱体系魔法が発動するというコンセプトは我が自警団にも有効な手段だと思ってな」

「価格設定については私はわかりません。店主のプロントさんにお尋ねください」


「服の上からでも様々な種類がありそうだが」

「デザインに関してもプロントさんにしか答えられません。私はあくまで宣伝するだけですから」


「魔法の発動に制限はないのか?」

「単発式と充填式があるようですね。そこは媒体者によるらしいですが」


「魔法の効果は調整できるか」

「付呪が得意なコボルトなら造作ないと思います。プロントさんもコボルトですし」


「コボルトか……」


 何やら思案気な様子だ。コボルト嫌いなのかな?あんなかわいいのに。


「付呪を施してもらったときの話をもう少し詳しく聞かせてほしい」


 ずいぶん熱心に聞いてくるな。これは大口の顧客をゲットできるか!?よーし、アッシュくん売り込むぞ!



 あれは付呪をしてもらったときのことだ。プロントさんから付呪の形式を教えてもらった。


「魔法の付呪ですが、単発式ではなく充填式にしてみてはいかがでしょう?」


 単発式?充填式?


「単発式は一度発動したらそれで終わりの使い切りです。一方で充填式は回数に限度はありますが、何度も繰り返し使えます」


 なんか乾電池みたいだ。


「デメリットはないんですか?」

「もちろんあります。一つは単発式も同じなんですが、媒体によって威力が変動することです。充填式の場合、媒体から魔力を補充するので魔法適正の低いひとは2回目以降は想定した威力が望めません」


 そう言えば働き始めたときにプロントさんに教えてもらった。同じ魔法が封じられても巻物と聖水と水晶では威力が違う。羊皮紙に比べて聖水の方が、聖水に比べて水晶の方が魔法の伝導率が高いらしい。


「しかし魔法適正が高いエルフを媒体にするのですから、ひょっとしたら水晶より効果が出るかもしれません。こればかりは個人によりますので試してみないとわかりません」


 では試行錯誤が必要だな。


「もう一つは媒体者の負担です。魔力を補充するわけですから媒体者の魔力が豊富でないと身体に負担がかかります。エルフのような長命種は魔力が豊富だからこそ長寿を維持できています。ですから、自身の保有する魔力を越えて補充をしてしまうと絶命することもあります。これでは本末転倒です」


 自分を守る魔法で命を落としたら笑えない。


「なるほど、じゃあ自分の魔力と相談して付呪の数を決めないといけませんね……」


「それだけではありません。最後に魔力補充のスピードです。一度発動したとして二度目の発動にどれだけ時間がかかるかも肝になります。例えば補充に一週間かかるようでしたら単発式の魔法を付呪した方が身の守りは良くなります」


「やはりそれも個人による?」

「そうですね。ただ、繰り返しになりますが、エルフの魔法に対するポテンシャルは私では計り知れません。試してみる価値はあるかと」


 誠実なプロントさんのことだ、僕のことを悪く扱うことはあるまい。


「わかりました。では充填式でやりましょう!」

「ええ、承知しました。ではさっそく……その……服を脱いでもらえますか?」



 てな具合だった。うーんと目の前のギガスがうなる。どうだろう?採用されるかな?


「それで、話は戻るが。なぜ貞操を守るためと言いつつ、そのように露出の高い格好で夜の街をうろつくのだ?不自然じゃないか?」


 露出高いかな?これしか持ち合わせがないんだけど。プロントさんと交渉したときとは違う。胸がきついから胸元を開けているけど。


「店と商品の宣伝のために、わざと不特定多数の男性を誘惑し、不要な騒ぎを起こしているという見方もできる。マルリくん、近くで見ていた君もそう思わないか?」


「そうですね。このエルフさんは自分のお身体に自信があるようで、これ見よがしに胸を大きく開けています。ズボンだってずり落ちるギリギリのところで腰穿きしてますし、どう見たって露出魔ですよね。淫靡(いんび)な身体の紋様だってどれだけ男性を誘惑していることか」


 おいいいい! 弁護になってねぇ! サイズが合わないから仕方なくだ!


「しかし、それは我々の常識に照らし合わせただけのこと。もともとエルフは露出が高い服を好むのかもしれません。この方は一般的な常識に欠けるだけで、男性を誘惑するという意識はないと思います。お風呂のときも髪を湯船につけていましたし。同じ女の子としてあり得ない行動ばかりです」


 待って! 酷い言われようじゃない? ひょっとして僕、嫌われてるの?


「もう少し女性らしい仕草を覚えれば、今後このようなトラブルは起こらないと思います」

「ふむ。ここで生活してゆくなら、彼女にもそれらしい振る舞いを身につけてもらおうか」

 

 険しい顔のままギガスは僕を見る。うっわ、怒ってんのかな?巻き込まれたとはいえ、今夜の件も含め僕が関与しているわけだし、これ以上自警団に目を付けられるのも嫌だな。


「わかりました。以後気を付けます」

「わかってもらえて何よりだ。付き添いの娘も協力感謝する。今日はこれまでとしよう」


 お、やった! もう帰れるのか。朝まで拘留されるのではないかとヒヤヒヤしたが杞憂だったようだ。


「ありがとうございます。それではわたしはこれで……」


 (きびす)を返し退席しようとしたところ、腕をがしっと掴まれた。


「どこへ行く? 君はここに拘留だ」


 腕から感電魔法が放たれているにもかかわらず、表情を変えることなくギガスが言う。


「これから署長自ら取り調べを行う。頭突きをして回っている件も、まだ聞いていないからな」


 そんな! マルリに目をやると心配そうな顔をして退出していった。弁護人がいないだと!


「なに、明日の昼までには返してやるさ」


 朝までじゃなかったっけ? 伸びとるやんけ!

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