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第三夜 僕、早くも凌辱フラグが立ちます。

前夜:ブラジャーを買いに行ったが、そもそも転生後の世界にブラジャーという単語がなかった。東奔西走した挙句手に入れたのはいいが、想像していたよりエグい下着で、更に高価(日本円で2万3千円)だった。そして本人の知らないところでエルフの秘宝「ブラジャー」が誕生した。

 どうしよう……たかがブラジャーに金貨二枚と銀貨三枚使ってしまった……!

こんなに値が張るなんて信じられない。世の女子たちはこんな高価なものを日々服の下に忍ばせていたのか。


 月明かりの下僕はとぼとぼと帰る。転生前も転生後も彼女はおろか女友だちすらいない僕には、あまりにも衝撃的な現実であり手痛い出費だった。


「勢いでセットで買ったけど、下の方だけでもキャンセルできないかなぁ」


 当たり前だけど女性の下着など買ったことがないからわからないが、上下バラバラの下着ではいけないんだろうか。しかし、今から店に戻ってパンツだけ返品です、ってつき返すのはなんかかっこ悪い。というかあの娘さんに申し訳ない気がする。

 時折さらりと風が髪を(もてあそ)ぶ。あちこち駆けずり回ったせいか、蒸れた首元が涼しい。


「やあ、ハニー」


 下宿先の前でいかついゴブリンが立っていた。あ、昨晩(わめ)いていたやつだ!やべぇ。


「今日は遅かったね。何度か廊下から呼んだんだけど、返事がなくって……」


 やめろよ、近所迷惑じゃないか!僕まで追い出されちゃうだろ!


「ごめんなさい、少し探し物をしてて」


 とりあえず穏便にやり過ごすしかない。歩みを緩めず自分の部屋に向かう。


「なぁ、キミの名前を教えてくれ。オレの名はルッソっていうんだ」


 しつこいな、こっちは明日からの生活費をどう捻出(ねんしゅつ)するかで頭がいっぱいなんだ。


「月がのぼるときにって約束したじゃないか」


 ゴブリンはなおも(すが)りつくように話しかけてくる。そんなこと言ったっけ?やり過ごすために必死でついた嘘だから覚えてないや。


「今とても疲れているしとても悩んでいるの。また今度にしてくれるかしら」


 ちらりとゴブリン、ルッソを見る。そんな悲しい顔をするなよ。こっちが悪いことしているみたいじゃないか。とにかく今日はお引き取り願おう!


「オレ毎晩ここでキミに愛を捧げるから! キミが、キミからこの扉を開いてくれるまで諦めないから!」


 勢いよくばたんと扉を閉めるが、ルッソは諦める気配なく大声で何か言っている。もしかしてこれが毎晩続くのか? 勘弁してくれよ。


 昨夜から続く寝不足と今夜のブラジャー巡りの疲労からもう動けない。ベッドにドスンと倒れこんだ。あー寝る前に歯を磨かなきゃ。あと簡単にでも水で体を拭かないと汗臭くなっちゃうよなぁ。あーそれとブラ外さなくっちゃ……



「起きよ」


 耳元で涼やかな声がする。平坦で無感情な聞き覚えのある声だ。


(われ)が起きよと命じたのだ、さっさと起きよ」


 再度催促される。それ昨日も聞いたよな? 足がパンパンに腫れてて痛いんだけど。うつ伏せになんていた体を無理くり起こす。やっと眠れたと思ったのに。


「吾は月に住まう夜の神、月の女王である」


 一言一句かわらず高らかに言う。仁王立ちで。


「わかってますよ。おはようごさいますこんばんわ」


 強引に起こされて機嫌が悪い。ついそっけなく答える。ちなみにまだ体はダークエルフのままだ。


「うむ、吾のことを忘れたのかと思ったぞこのたわけ」


 おそろしく整った顔で(けな)される。心に余裕があればご褒美に違いない。


「いったいどうしたんですか?」

「どうしたもあるかこの尺取虫(しゃくとりむし)。吾に尻を向けるな無礼であろう」


 この身体のベースは自分じゃないか。仕方ないヨレヨレになった腕で上体を起こし正座する。


「貴様は吾に約束したのは忘れておるまい?」

「なんかしましたっけ?」

「存分に吾を楽しませると誓ったではないか! 貴様の頭はカボチャか」


 あれはあんたが一方的に言ったことじゃないか! 僕は約束なんてしていない!


「なにをいう。毎夜毎夜とエルフを称えていたから吾は楽しみにしていたというのに」


 あれは誤解だ!


「加護を与えてなにをするかと覗いてみれば、乳当てに走り回り、あとは寝ているだけではないか。虫でももう少し活動するぞ。それに扉の向こうのゴブリンはやかましくて仕方がない。耳が腐る。黙らせよ」


 よくもまぁ表情を変えず、流れるように苦情が言えたものだ。


「仕方ないですよ。まずはこの身体に慣れないと」

「これ、吾の顔で乳を揉みしだくでない気色悪い」

「いいじゃないですか今は僕の身体なんだし。で、具体的に楽しませるって何をしたらいいんですか?」

「うむ、実は貴様に加護を授けた後、貴様がこの世界にやってくる前の情報を解析した」


 え?そんなんできるんすか!?


「月はこの世界以外にもあるからな。造作もないことよ」


 自慢気にふふんと胸を張る。だから、いろいろ見えるって! ……なんかテンドンも飽きてきたな。


「転生前からエルフについて詳しく研究しておるそうだな」

「……まぁ(たしな)む程度に」

謙遜(けんそん)するな。なかなかの文献数ではないか。貴様の部屋を見たぞ」


 おいいい! 何してんだよぉ! 人の部屋を勝手に覗くなよ!


「卑小な身でありながら、吾の末裔にここまで関心を持つとはな。貴様の親も泣いて喜んでおるであろう」


 そりゃあ親は泣くだろうな。実家を離れてR指定の薄い本を大量に買い集めてるとわかったら。パパママごめんぼく立派なおまわりさんになれなかったよ。あとPCは中身を見ないでフォルダごと消しておいてね。


「そこで吾をどう楽しませるか(きゅう)しておる貴様に道しるべを授けてやることにした」


 急に僕の周りに小さな白い光の粒が立ち込める。僕の体の深いところからガチリと何かが噛み合う音がした。


「貴様の所蔵している文献を参考に貴様の運命を構築してやる!」


 文献って何?ひょっとして僕を押しつぶした薄い本のこと?

 

「吾の名声を高め、吾の子孫を繁栄させる、英雄として生きるがよい」


 ん?吾の名声を高め吾の”子孫を繁栄させる英雄”として生きるがよい、って今言った?

 つまり僕が持っていたエロい本の内容がこれから身に降りかかるの?僕が?エルフになって?たくさん子どもを産むってこと?


 こ れ は 絶 対 に ま ず い !


「ちょっと!僕の持ってる本知ってるでしょ? いくら女王さまでも見せられないですよ!」

「『指輪物語』『ロードス島戦記』『BASTARD!!』……棚の最前列しか解析できなかったがどれも面白そうではないか」

「それカモフラージュ用に置いたやつ! あと『BASTARD!!』はヤバい!」

「さあゆけ、今度こそ吾を楽しませろ」


 一向に話を聞かないまま女王さまは光を(まと)うと彼方へと消えた。僕はというと暗い部屋のベッドでひとり中座している。


「最悪だ」


 僕の本棚はR指定の中でも選りすぐりのハードなやつが揃っている。そのシチュエーションでエルフを産めよ増やせよだって!? 冗談じゃない!


 扉の向こうから延々と大声で騒ぐゴブリンがいる。ホントこいつうるさいな。まずは女王さまの言いつけどおりこいつを黙らせるか。悲鳴を上げる腿とふくらはぎを引きずり扉を開ける。


「ああ、こんなにも早く扉を開けてくれるなんて! オレは感激だよハニー」

「いや、いい加減うるさいから。もう寝ろよ……」


 と文句を言おうとしたそのとき、カチリと時計の針がすすむような、かすかな音がした。そして脳内で無機質な声が響く。


《ルッソ、ゴブリン運搬業25歳男性独身、フラグが立ちました。これより『悶絶 ~ゴブリン責め! あんなところもゴブリンに~』ルートに移行します》


 それ、去年の冬コミで買った鬼畜本じゃないか! あとこのアナウンスなに?


「わかったよ。もう寝る。おやすみ」


 急にスッと熱が冷めたようにルッソは身を引いた。めちゃくちゃ嫌な予感がする。もしあの本のとおりに進んだら、僕は心身ともにあいつにボロボロにされてしまう!


 『因果応報』と、でかでかと四つの漢字が僕の背後を通り過ぎた。人は良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるという意味だ。


 じゃあ、僕は、プレイ内容を問わずエルフの薄い本とデータを収集していた僕は、これからエルフになってどんな報いを受けるのだろう?


 何とかしなくては


 絶対に……


 絶対に凌辱ENDは回避したい!



 雨天月 八日 晴れ


 いつも通り昼間にたくさんのお客さんが来て、おとうさんと、男のお手伝いさんと私とでいっぱい対応して、お茶の時間だからお手伝いさんに持って行ってあげたんです。そしたらお手伝いさん、じっと女学生さんばかり見てたんです。


 きのうとなりに住んでるチコちゃん(10才)に


「男ってスケベなのよ。アンナちゃんも気をつけなさいよ。急におそってくるから」


 って注意されたんです。でも私の周りの男のひとなんて、おとうさんとお手伝いさんしかいません。だから


「大丈夫だよ、チコちゃん。だって、あのひとタマを引っこぬかれた羊よりおとなしいもん」


 ってこたえたんです。そしたら


「わからないわよ。男ってみんな羊の皮をかぶったオオカミなんだから!」

 

 って自信たっぷりに言うんです。

 だからチコちゃんの言うとおりにお手伝いさんを見はってたら、


「いやあ、どうしても(女の子の)胸が気になりまして」

「ええ、(女の子の)乳首を確認したくて」

 

 って。ケダモノって感じで怖くなってすぐ逃げちゃいました。おとうさんに相談したほうがいいかなってなやんでたら、つぎの日またお手伝いさんが平気な顔をしてやってきました。

 

 きのうのは聞きまちがいなんだって、自分にいいきかせました。今日は着がえるところからこっそり見はってました。

 そしたらお手伝いさんは男のひとなのに、下着のあとが背中にあったんです! くっきりと赤い線がはいってました。両方のかたにも細いあとがありました。そしてカバンの中から女性用のショーツもちょっとだけ見えたんです。


 私お手伝いさんがケダモノの変たいさんだなんて知らなかったの。おとうさん、チコちゃん私どうしよう?


『アンナの日記』より


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