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第六話 「抵抗」

「はあああああああああああああ!?」


 カイザーが俺に特訓をさせると言い出した。

 意味が分からん。

 つーか、魔王軍の兵士ってなんだ!?

 なんでそんなもんになる必要がある!?


「さて、予定を変更せねばならぬのう……」

「予定? 何言ってんだ!?」

「お主が説明しろと言うから、時間を掛けて説明したじゃろうが! そのせいで今日の予定がパーじゃ」


 そんなの知るかよ。

 勝手に予定を立てた、そっちが悪いだろ。


「それでは座学はすっ飛ばして、さっそく塔に行くか。ついて参れ」


 カイザーはそう言うと家の外へと出て行った。


 ……無視しよう。

 何が悲しくて特訓とか受けなきゃならんのだ。

 今日は、このまま家の中で過ごそう。


「早う来んか!!」


 外からカイザーの声が聞こえるが無視だ無視。

 俺は半引きこもりのニートだぞ? そう簡単に家から出ると思うなよ!?


 俺はカイザーの声を無視して、自分の部屋へと向かった。

 あの何もない部屋で、今日一日これからのことを考えるのだ。


 俺はベッドの上に飛び乗り、この先の人生について考えた。

 いやスライム生について考えた。


 これからどうすればいいのか……。

 まず、魔界での生活基盤が欲しいよな。

 このまま一生カイザーの世話になるのは無理だろう。

 俺を創る前に、このまま一人寂しく死んでいくのか……とか何とか思ってたらしいからな。

 もしかしたら寿命が近いのかもしれない。


 ん? カイザーが死んだらどうなる?

 俺は世間的にカイザーの息子になってるんだよな?

 ゴブリン魔王が、神官の息子パントロ! って言ってたからそうだよな。

 と言うことは、カイザーが死んだ場合、この家は、俺の家にしていいよな。


 よし。未来の住居ゲットだな。

 あとは食事だな。

 つーか、腹減らないな。

 スライムの体って、どうなってんだろう。

 水だけ飲んでればいいのかな?

 だとしても、今日は一滴も飲んでない。

 いや、カイザーの水の玉を食らったか。あの時少し口に入ったな。


「ごるぁああああああああああああああああああああああ!!」

「うぉっ!! なんだよ!? うっせえぞ!!」


 気がついたら目の前にカイザーがいた。

 どうやらお怒りの様子だ。

 俺はベッドから飛び降り、カイザーから距離を取った。


「パントロ! 貴様! 何をしとるか!!」

「あ!? 俺は家から出ないぞ! 特訓なんて受けないからな!」

「ほほう。では強引に連れて行くしかないのう……」

「あ? やれるもんならやってみろよ!」


 全力で抵抗してやる!

 そもそも、どうやって俺を連れて行く気だ。

 手も足もないくせに。


「いいのじゃな?」

「はっ! 何もできないくせに」

「本当にいいのじゃな?」

「やってみろよ。ほら。どうせ何もできないだろ。何をするって言うんだよ?」


 カイザーのあの態度、何かあるのか?

 う~ん。何か忘れてる気がする。

 ……あ。


「ちぇすとおおおおおおおおおおお!!」


 しまった! と思ったときには遅かった。

 カイザーの体当たりが俺を直撃した。

 が、以前に食らったのとは何かが違った。


「なっ!?」


 俺は空中にいる。カイザーの真上に……。

 どうやら俺は真上に飛ばされたようだ。


「ほれ。いくぞいっ!」


 カイザーが落ちてくる俺に向かって、今度は真横に突き飛ばすように体当たりを繰り出す。


「ぐはっ!」


 俺は何もできないまま、それを食らった。


 気がついたとき、俺はリビングにいた。

 どうやら横に突き飛ばされたときに、部屋のペットドアをくぐったようだ。


 ペットドアに向かって狙いをつけたのか?

 すごいコントロールだな。

 いや、感心してる場合じゃない。

 カイザーが俺の部屋から出てきた。


「くっそ……。強引すぎだろ!」

「ふぉっふぉっふぉ。さて、行く気になったかのう?」


 ムカつく顔だ……。

 意地でも行かん!


「あ? イヤだね」

「ちぇすとおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぶはっ!」


 またもカイザーの体当たりを受け、俺は出入り口の方向へ吹っ飛ばされた。

 今度は、ペットドアをくぐった感覚があった。

 吹っ飛んだ先はもちろん外だ。


「くそっ……!!」


 あっという間に外に出された……。

 何をやってるんだ俺は……。

 何もできないのは俺の方じゃねーか! 全力で抵抗するんだろ俺!!

 次は絶対避ける! 体当たりなんぞ、もう二度と食らわんぞ!

 むしろ、体当たりを避けたあと、こっちから食らわせてやる!!


「ふぉっふぉっふぉ。どうじゃ? ついて来る気に――」

「うっせえ! 絶対行かないからな!」

「そうか、仕方がないのう……。ちぇすとおおおおおおおおおおおお!!」


 三度、いや四度目か、俺はカイザーの体当たりを食らった。

 見えなかった……。

 避ける気マンマンで待っていたのに、カイザーの動きが全く見えなかったのだ。


 次は絶対に、絶対に避けるからな!!


 俺は宙を舞いながら、そんなことを思った。

 が、そのチャンスは俺には無かった。


 俺はカイザーの真上に飛ばされていた。

 俺はそのまま下に落ちるわけだが、真下のカイザーが俺に向かって頭突きのような体当たりを繰り出す。

 空中で身動きが取れない俺は、その体当たりが直撃し、またも俺はカイザーの真上に飛ばされていく。

 俺は、そのまま落ちるしかないのだが、真下のカイザーが放つ体当たりによって、また上へと飛ばされる。

 落ちると、体当たりで上へ飛ばさされ、落ちると、上へ飛ばされ、落ちて、飛ばされ、落ちて、飛ばされ、落ちて――。


 サッカーのリフティングのような状況。そう言えばいいだろうか。

 そう、俺はボールのように扱われたのだ。


「ぐはっ! て、てめえ! 何をぐほっ! して……ぶほっ!」

「ふぉっふぉっふぉっ! こうでもせんとっ! ついて来んのっ! じゃろうて」

「いい加減にぶごっ! しろよこの野ろぶふっ!」


 少しずつ移動してる……。

 カイザーはこのまま俺を連れて行く気か。


「ちょっと待っぶべっ!」

「ふぉっふぉっふぉ。お主がっ! やれるもんならっ! やってみろとっ! 言うたのっ! じゃぞ」

「だからってかはっ! こ、こんなやりかぶごほっ!」


 俺の抗議は受け入れられなかった……。


――


「着いたぞい」

「ぶべっ!」


 地面に顔面から落ちた……。

 結局あのまま目的地まで連れてこられた……。


「て……めぇ……」


 全身ボロボロだ……。

 動ける気がしない……。

 一体どれだけの間、リフティング状態が続いたのか……。

 自分でも分からない……。


「ふぉっふぉっふぉ。さてさて、お主が今日行う特訓はこの塔じゃ」

「……あぁ?」


 ぼんやりとした目で見上げてみた。

 確かに円柱型の塔のようなものがある。

 目線を下げると塔の入り口のような扉が見えた。


 一体ここはどこだろうか。

 こんな塔、見たことがない。


「ここで……、おれに……、何をしろと……?」

「この塔の最上階まで行くのじゃ」


 何言ってんだ?


「おい……、クソカイザー……」

「だれがクソじゃ! 名前の前に付けるのは、天才もしくは神官にせんか!」


 ん? 何か言ってるが、よく分からない。無視だな。


「おれ……、ボロボロなんだけど……。こんなの登れるはずないだろ……」

「ふぉっふぉっふぉ。安心せい。ちゃんと考えておるわ」

「ああ……?」


 カイザーが塔の入り口へと近づくと、扉が開き一匹のスライムが出てきた。

 黒っぽい緑。深緑ってやつだろうか。そんな色のスライムだ。


「神官様。ようこそおいでなさいました」

「うむ。前に話した通り息子を連れてきたぞい」


 なんか仲良く話している。


「ここに………………てたと……ことは、…………を………………すね?」

「うむ。…………その……じゃ。…………を…………く…。……つ、そろ…………か…………」


 急に話し声が聞こえなくなった……。

 小声で話し出したのだろうか……。 


「…………!」


 カイザーがこっちを見て何か言ってる……。


「パ…ト…! だ…………ぶ…!」


 ぱとだぶ?

 なんだろ?

 何を言ってるんだ?


 目の前が暗くなってきた。

 なんだこれ?

 ああ。そうか。

 俺、意識が朦朧としてるのか……。

 数え切れないほど体当たりを受けたからな……。

 このまま死ぬのかな……。

 はぁ、俺の人生……、いやスライム生、短かったな……。




 冷たっ!!

 急に全身に冷たさを感じた。


 水……?

 水をぶっかけられた!?


「いきなり何だ!! 冷たいだろ!!」

「ほっほっほ。これはこれは。元気なお方で」


 俺の前にはさっきの深緑のスライムがいた。

 水をぶっかけたのは、この深緑か?


「パントロ! 礼くらい言わんか!!」

「はぁ? 礼? なんの?」

「ほっほっほ。礼など、よろしいですよ」


 ん? あれ? 体が痛くないな。

 意識もはっきりしてるし。

 なんだこれ?


「パントロ。お主、助けてもらって何とも思わんのか!」

「助けてもらった?」


 さっきの水か……?

 あの水で俺の怪我が治ったのか?

 状況から考えるとそうだよな……。


「あ、ああ、そうだな。助けてもらったのなら、お礼言わなきゃな」

「その通りじゃ」

「助けていただいたみたいで、ありがとうございます」

「ほっほっほ。よろしいのですよ。当然のことをしたのですから」


 お? 深緑いい奴っぽいな。

 こういう紳士と仲良くなりたいな。

 一応さっきのことも謝っておくか。


「助けていただいたのに失礼なことを言い、申し訳ありませんでした」

「ほっほっほ。いえいえ。よろしいのですよ」


 うん。やっぱりいい人……、いや、いいスライムだ。


「お主、本当にパントロか?」

「あぁ? 急になに言ってんだ?」

「お。いつものパントロじゃ」

「ほっほっほ。神官様、そろそろ時間がありませんよ?」


 時間……? なんだ?


「うむ。そうであったな。ではパントロよ、塔に入るのじゃ」

「え? なんで?」

「なんでって、お主の特訓を始めるからじゃよ」

「はぁ……。だからさ、俺は特訓なんてしないから!」

「つべこべ言わず行かんか!」

「イ・ヤ・だ!」

「ほっほっほ」


 深緑が微笑ましい光景を見るような目で俺達を見ている。

 なんか恥ずかしくなってきた。


「パントロ。さっさと行くのじゃ。時間がないぞ」

「あ? さっきも言ってたな。時間がないってなんだよ」

「ほっほっほ。もう無理ですなぁ」


 無理?


「まだじゃ! ちぇすとおおおおおお!!」


 カイザーの体当たりを食らい、俺は空中に飛ばされた。

 油断してた……。

 真下にカイザーが見える。


「くっそ! いきなり何だよ!?」

「いいから、さっさと行けええええええええ!!」


 落ちてきた俺に、カイザーの体当たりが炸裂する。

 俺は塔の入り口方向へと、ぶっ飛ばされた。


「いってえな!! さっき死にかけたんだぞ!? もう少し優しさはないのかよ!?」


 ん? 何か暗いな。


 俺はどうやら、塔の内部までぶっ飛ばされたようだ。

 ゴゴゴ、と何かが動いているような音が鳴っている。


 何の音だ……?


 そう思い、キョロキョロと辺りを見渡していると、扉が閉まっていくのが見えた。


「えっ? ちょっ! 待って!!」


 急いで扉に向かったが、間に合わなかった。

 扉は完全に閉まり、俺は塔に閉じこめられたのだ……。


「マジかよ……」



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