第五話 「転生」
「カイザー。さあ、説明しろよ」
リビングに出た俺はカイザーを見ながら説明を求めた。
カイザーは何かを知っているはずだ。
あの目の泳ぎ方はきっと何かを……。
「ふむ。少しは落ち着いたかのう?」
「あ? そんなのどうでもいいだろ! さっさと説明しろよ!」
「説明するのはよいが、ワシがお主について知っておることは二つじゃぞ?」
「二つ?」
「そうじゃ。まず、お主の生まれについて」
俺の生まれ…?
「そしてもう一つは、お主は別の世界からやって来たのであろうということ」
「やっぱり! 俺が別の世界から来たって、どういう事だ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。まあ、落ち着くのじゃ」
これが落ち着いていられるか。
別の世界から来たなんて、意味が分からん。
俺はカイザーの目の前まで一気に詰め寄った。
「さぁ、早く説明しろよ」
「ええい! さっきから何なんじゃ! 近いわ!」
カイザーは、またもや俺から離れるように後ろへ跳ぶ。
俺は逃すものかと、追いかけるようにジャンプをした。
その瞬間、カイザーの顔が一瞬ニヤリと笑ったように見えた。
『ウォーターボール!』
カイザーの真上に水の玉が現われ、俺に向かって飛んできた。
「ぶげぼっ!」
俺は身動きの取れない空中で水の玉をモロに受け、数メートル吹き飛ばされた。
水浸しになってしまった……。
ちべたい……。
「ふぉっふぉっふぉ。少しは落ち着いたかのう?」
「て、てめぇ……」
「さて、まずはお主の生まれについて説明せねばならんかのう」
「あ? 俺の生まれ?」
「うむ。パントロ。お主、自分がどうやって生まれたのか知りたくはないか?」
「はぁ?」
言ってる意味が分からん。
どういう事だよ。
どうやって生まれた……?
ん……? そう言えばスライムって、どうやって生まれてくるんだ?
自己増殖か? それとも分裂?
あ、これって一緒か……?
「お主はワシが創り出した」
「はあ?」
創った? 創ったって俺を?
「ど、どういう事だよ! 説明しろよ」
「ふむ。その前に、お主には色々と説明せねばならぬ……」
「あ?」
「転生の儀式と呼ばれる儀式がある」
「転生……? 転生ってあの生まれ変わるとかってヤツか?」
「そうじゃ。新たな体を手に入れ、新たな生を得るというものじゃ」
俺は転生したのか?
「転生の儀式には、三つの条件がある。」
「条件……?」
「一つは儀式を行える者がいること」
「ん? ああ、誰でもできる儀式じゃないのか」
「うむ。その通りじゃ。そして二つめは魂の欠片と呼ばれる玉を手に入れること」
「魂の欠片?」
「三つ目は己の魂を移すという意志」
「ん……? 意志?」
「この三つが揃うことで、転生の儀式を成功させることができる」
魂の欠片と、魂を移す意志?
何を言ってるのか全く分からん。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、何が何だかさっぱりだ」
「ふむ……。では、例えばじゃ、お主が人間に転生したいと考えたとするじゃろ?」
「お、おう……」
「人間の魂の欠片を手に入れ、儀式を行える者と一緒に儀式を始める」
「おう……」
「そこで魂を移す意志を強く持てば、転生の儀式は成功する」
「ん? 成功すると、どうなる?」
「儀式が成功すれば、お主は人間になっておる」
「マジ……?」
「マジじゃ」
「……」
「……」
「それでじゃな――」
「ちょ、ちょっと待て、嘘だろ?」
「何がじゃ?」
「何がって! 今の話! 転生の儀式の話が!」
「なんでじゃ? 嘘なんてついておらんわ!」
「いや、あり得ないだろ! そんな簡単に、転生ができるはずないだろ!」
「何を言うておる! 簡単ではないわ!」
え? そうなの?
「魂の欠片は入手困難! 儀式を行える者も数えるくらいしかおらんわ!」
「いや、でも……。そんな……」
「まあよいわ。とにかく転生の儀式というものがあると理解せよ」
「お、おう……」
まあいい。疑問は残ってるが今はいい。
問題は転生の儀式じゃない。
俺が創られたっていう話の方だ。
「それでじゃな、ここからは少し前の話になるのじゃが……」
「は? なんで? 俺の話は?」
「いや、ほんのちょっとじゃ。お主が生まれる少し前の話じゃ」
俺が生まれる少し前……。
「ワシは今まで一人寂しく生きてきたのじゃ……」
「で?」
「このまま一人寂しく死んでいくのかと思っておった……」
少しだけ気持ちが分かる……。
ニートを続けていれば、俺もいつか……。
「じゃが、ある日、名案を思いついた」
「名案?」
「寂しいなら子供を作ろうと!」
「お、おう……」
「じゃが、ワシはもう歳じゃ……。相手もおらんし、どうしたもんかと……」
「相手……?」
「そこで、ワシは転生の儀式を使い、新たな生命を誕生させようと思いついたのじゃ!」
「ちょっと待て、その前に相手って何だ?」
「何って言われてものう……。一人で子供を作るなんて無理じゃろう」
あれ?
「え? どういうこと? 自己増殖とかして増えるんじゃないのか?」
「はぁ!? そんなわけあるか!!」
怒られた……。
「いや、知らないからさ……。スライムって普通はどうやって生まれるんだ?」
「はぁ……。何を言っておる。普通に男女で交わり子をなすのじゃ」
「は? どうやって交わるんだよ」
そもそも生殖器が見当たらない。
男女がいる。それはいい。
でも、肝心の行為を行うためのモノがない!
「それはじゃな。ネッチョネチョのグッチョグチョにじゃな――」
「ちょっと待て、なんだそのエロい表現は」
「なんじゃい。お主が聞いてきたんじゃろうが」
「いや、そうなんだけどさ。なんか生々しくないか?」
「ふむ……。お、そうじゃ! パントロ。お主、ココ様とミミ様を見て、気にしておったではないか」
ココ様? ミミ様?
ああ、演説の時に魔王と一緒にいた側近の二匹か。
「あの二匹が何?」
「美しいお二方を見て、交わりたいと興奮しておったのではないのか?」
「興奮なんてしてねーよ! あいつらの立場がよく分からなかっただけだよ!」
はぁ……。もういいや。また今度にしよう。
このままじゃ話が進まない……。
「子供の作り方はもういいから、話を戻してくれ……」
「ふむ。そうか……。まあ、お主が立派な大人になれば、その内わかるじゃろう」
「お、おう……。そうだな……」
大人になったら自然と覚えるものなのか……。
「えーっと、どこまで話したかのう……」
「えっと、そうだな。一人寂しいカイザーが転生の儀式を使って新たな生命を……。ってところだ」
「うむ。そうじゃったな。転生の儀式を使い、新たな生命を誕生させることを思いついたワシは、すぐに試したのじゃ」
あれ? そう言えば……。
「ちょっと待った」
「なんじゃ? お主が話を戻せと言ったんじゃぞ?」
「はいはい。すまんね」
「それで? なんじゃ?」
「さっきスルーしちゃったけどさ、儀式をやれる人って少ないんだろ? カイザーって転生の儀式できるの?」
「当たり前じゃ。ワシを誰だと思っておる。天才神官カイザー様じゃぞ」
「知らねーよ! 何だよ天才って!!」
「天才は天才じゃろうが! パントロ。お主ワシのこと舐めすぎじゃぞ!」
そんなこと言われてもなぁ……。
いきなり体当たりされたし、話は噛み合わなかったし……。
第一印象最悪だったからな……。
一応、謝った方がいいのか?
「へいへい。すみませんでした。天才神官カイザー様」
「ほほう。中々素直じゃな」
なんかムカつく……。
まあいいや。話を進めてもらおう……。
「で? 転生の儀式を試してどうなった?」
「うむ……。結果は失敗じゃった」
「ああ、そう……」
失敗したのか。てか何だこの話。
俺に関係あるんだよな?
「そもそも材料が足りなかったのじゃ」
「材料?」
「先ほど説明したであろう。まず魂の欠片がなかった」
「は? じゃあどうしたんだよ」
「木材を、魂の欠片の代わりにして試したのじゃ」
「はぁ?」
「足りなかったのは、それだけではない。そもそもの話なのじゃが、魂がなかった」
「ん? 魂?」
魂? 魂の欠片じゃなくて?
ん? どういうことだ?
「先ほど説明した、移す方の魂じゃ」
「えーっと……。なんだっけ?」
「もう少し説明が必要かのう?」
「ああ頼む」
「そもそも転生とは、魂を別の体へと移すことじゃ」
「魂を移す……。ああ、さっき言ってたな。己の魂ってヤツか」
「そうじゃ。次の肉体があったとしても、移すべき魂がなければ何も起きん」
なるほど。
木材に魂を移そうと思ったけど、そもそも魂が無かったって事か。
カイザー。お前バカすぎだろ……。絶対天才じゃないぞ……。
「そこでじゃ、ワシは考えた。それはもう考え抜いた」
「お、おう……」
「そして思いついた! 移すべき魂がなければ、そこら辺から拾ってくればよいと」
「拾う……? 魂って見えるのか?」
「見えぬ」
「は? じゃあどうやって拾うんだよ」
「まあ、聞け。実はこれも失敗したのじゃ」
「なんだよ。失敗してんのかよ!」
話が進まねぇ……。
何なんだよ……。
カイザーが如何にバカかって話を、聞かされてるだけじゃねーか。
「ワシはそれでも諦めなかった」
「もう諦めたらよかったのにな……」
「まず、魂の欠片の代わりを変えたのじゃ」
「ん? ああ木材を変えたのか。何にしたんだ?」
「ワシの体の一部じゃ」
マジか……。
「ワシの体は、すぐに再生したので、全く問題はなかったのじゃが……」
「お、おう……」
再生するのかよ……。
「しかし、魂の問題がクリアできなかったのじゃ……」
「そもそも魂がなきゃ何もできないんだろ?」
「そうじゃ。ワシはどうするべきかと悩んでいたのじゃが、ある日の事じゃ」
「ん?」
「唐突にイケる! そう思ったのじゃ」
「はあ? 何言ってんの?」
「こればかりは自分でも分からんのじゃよ。天才故にそう思えたのか、ただ何となく成功すると思ったのじゃ」
言ってることが意味不明すぎる。
魂がないのに、なんで成功すると思えるんだよ。
「ワシはすぐに儀式の間へ行き、魂の欠片の代わりを置いた、そして転生の儀式を始めたのじゃ」
「お、おう……。でも結局、魂はないんだよな? どうするんだ?」
「問題は解決したのじゃよ。儀式を始めてすぐに魂が引っかかったのじゃ」
「はあ!?」
「通常、魂というものは肉体から離れると雲散する。それなのに何故か転生の儀式に魂が引っかかったのじゃよ」
ダメだ。全く意味が分からん。
どういうことだ?
「ちょっと待ってくれ、引っかかったって何だよ? なんでそこに魂があるんだよ?」
「ふむ。それに関してはワシも分からぬのじゃよ。謎じゃ」
「は? それじゃ、カイザーがイケるって思って儀式を始めたら、魂がそこにあったってこと?」
「まあそうじゃな」
あり得ないだろ……。
何だよその話……。
「儀式は成功。完璧じゃった。しかし問題が起きたのじゃ」
「問題?」
「そうじゃ。成功したはずの者が、目を覚まさなかったのじゃ」
ん? もしかして……。
「そこでワシは目覚めの儀式を行ったのじゃ」
目覚めの儀式……。
俺が目覚めたときにカイザーが言ってた言葉だ。
「えっと……。カイザー?」
「なんじゃ?」
「今の話で創られたのって……、俺だよな?」
「そうじゃな。その話をしておるのじゃから当然じゃ」
そうだな。当然だよな……。
「簡単に説明すると、カイザーは寂しくて転生の儀式を使って俺を創った。って事でいいんだよな?」
「まあ、ざっくり言うとそうじゃな」
「……」
「なんじゃ? どうした?」
「全部お前のせいかああああああああああああああ!!」
俺は、渾身の力を込めて、体当たりを放った。
「ぐべら!!」
カイザーは油断していたのか、俺の体当たりは直撃しカイザーを吹き飛ばした。
凄まじい勢いでカイザーは吹っ飛び、そのまま壁に叩きつけられた。
ふぅ……。スッキリした。
いや。問題は解決してないんだけどな。
それでもイライラは解消しないとな。
「な、何をするか!!」
「それはこっちのセリフだ! お前何してんの!? 寂しいからって強引に子供を創った結果、俺がこんな事に巻き込まれてんじゃねーか!!」
「魂のまま儀式の間におった、お主の方が悪いじゃろ!!」
「なんでだよ!? お前が儀式なんてやらなきゃ、こんな事になってないだろうが!!」
「ふむ……。てへっ」
プツンと、何かがキレた音が聞こえた……。
気がする……。
「何がてへっだ! クソジジイがああああああああああ!!」
俺は、もう一度力を込め、体当たりを放った。
「ふんぬ!!」
カイザーが、銀色へと変わっていくのが見える。
やばい! アレはまずい!
どうする!?
いや、どうしようもない!!
「いっっっってええええええええええええええ!!」
俺は銀色になったカイザーに、顔面から衝突した……。
「ふぉっふぉっふぉ。学習せんからそうなるのじゃ。ふぉっふぉっふぉ」
カイザーの色が、徐々に黄色に戻っていく……。
が、そんなことはどうでもいい。
今は顔が痛くてたまらない……。
マジでいてえ……。
「パントロよ。お主の生まれについてはここまでじゃ」
「あ、ああ……、いてぇ……」
「では、もう説明はいいかの?」
ん? 何言ってんだ……?
ダメだろ。
「ちょっと待て、俺が生まれた理由はわかった。でも、なんで俺が別の世界から来たのを知ってるのか、説明されてない。それを説明するまで終わらんぞ……。てか、顔がいてぇ」
「ふむ。そうじゃったのう。じゃが、大した理由はないぞ?」
「ああ……」
「それも、おそらく、そうであろうと思った。という程度の話じゃぞ?」
「ああ、それでもいい。何でか教えろよ……」
顔がヒリヒリする。
痛い……。
「ふむ。では説明するが……」
「ああ頼む……」
「まず、お主は目覚めてすぐに言葉を理解し普通に言葉を操った」
「あ? 言葉?」
いや、普通の日本語だろこれ。
あ、少しずつ痛みが治まってきた……。
「そうじゃ。魔界語を苦もなく操っておるのを見て、この者の魂は、元魔界の住人かと思ったのじゃ」
「あ? 魔界語ってなんだよ。日本語だろこれ」
「ん? 我々の言葉は魔界の共通言語じゃ。そのニホンゴなどではないぞ?」
ああ……、これアレだな。
日本語だって言い張っても無駄っぽいな。
話を先に進めよう……。
「まあいいや。で? 元魔界の住人だと思ったんだろ? そのあとは?」
「最初はそう思ったのじゃがな。すぐにその思いは消えた」
「あ? 何でだよ」
「パントロ。お主、自分で何を言ったか忘れたか?」
「はぁ?」
何か言ったっけ?
「目覚めてすぐに、ワシのことをキモイと罵ったであろう」
「お、おう……」
「魔界の住人が、スライム族を知らないというのは変じゃと思ったのじゃ」
「そうか……? スライム族を見たことがない魔界の住人がいても変じゃないだろ。それにスライム族を気持ち悪いって思う魔界の住人だっているんじゃないのか?」
「まあ、そう言われればそうなんじゃが……。理由はそれだけではなく、もう一つあるのじゃ」
「もう一つ?」
「そうじゃ。あの緊急用の移動方法を、何の疑いもなく練習しだしたことじゃ」
「はい?」
あの潰れてから移動するアレか?
「魔界の住人の中には手足がない者も多いのじゃ。その者達は飛び跳ねて移動するのが基本じゃ。その事を全く知りもせずに練習しだしたからのう」
「な、なるほど……。魔界の住人なら、手足がない場合の移動方法を知ってて当然ってことか……」
最初に緊急移動方法を教えたのは、俺のことを試していたからか……。
「次に、空を見て太陽はどこだと探し出したときに、お主は元人間界の住人かと思ったのじゃ」
「なるほど。魔界には太陽はないからな。じゃあ俺は人間界から来たって事か?」
「と、ワシも思ったのじゃが、冷静になって考えるとそれも違う」
「はぁ?」
いや、俺人間だから。
今は、こんなスライムだけど、元人間だから。
人間界から来たんじゃないのか?
「人間界の言語は、人間語の一つだけじゃ。お主は魔界語を使っておるが人間語は知らんじゃろう?」
「人間語……? ちなみにどんな言葉だ?」
英語とか中国語とかの外国語の可能性が……。
「∴∃∠∂∫」
「あ? なんだって?」
何を言ってるのか全く分からなかった。
「今のが人間語の挨拶らしい。ワシも意味は知らぬ」
「そ、そうなのか……」
「これらを総合的に考えると、おそらくじゃが、元人間界の住人だとは思う」
あれ?
「じゃが、それはワシが知っておる人間界とは違い、別の世界の人間界なのではないかと思ったのじゃよ」
「別の世界の……、人間界……」
確かにそうかも知れない……。
カイザーが言った人間語の挨拶……。聞いたことがない言語だった。
俺が知らないだけで、外国の言語の可能性もあるが……。
例えそうだとしても、人間界の言語が、人間語一つだけというのも変だ。
俺の知ってる世界とはまるで違う……。
ん?
「俺が人間語を知らないって、なんで思ったんだ?」
「ふむ。目覚めてすぐに魔界語を話しておるのだ。そう考えるのが妥当じゃろう?」
そりゃそうか。いきなり魔界語を使ったんだ。普通そう思うか。
実際、人間語は知らない言語だったしな……。
総合的に判断してか……。
目覚めてすぐに魔界語を使い、元は魔界の住人だと思われた。
が、魔界の常識を全く知らないため、それはあり得ない……。
次は太陽を探し出したので、元は人間界の住人と思われた。
が、人間語を知らないため、それもあり得ないと……。
これだけを考えてみても、俺はこの世界ではあり得ない存在と言ってもいいくらいだな。
なるほど。
カイザーが、元の世界と言い出した理由がやっと分かった。
俺の知ってる世界を足して考えてみるか……。
と言ってもな……。魔界やモンスターは、ファンタジーの世界の話だからなぁ……。
現実に存在するこの世界とは全く違うって考えた方がいいよな。
そう考えると、やはり俺は知らない世界……。
つまり異世界の、さらに魔界に来たってことになるのか……?
そう考えると、妙にしっくり来るんだよな……。
う~ん……。
本当に戻る方法はないのか?
「元の世界に戻る方法はないのか?」
「ないのう」
「本当に?」
「うむ」
「戻れないなら、戻れない理由があると思うのだが」
「はぁ……。何のために、お主を創り出した話をしたと思っておるのじゃ」
「あ? どういうことだよ」
「転生の儀式によって、お主の体に魂が定着しておる。それだけで戻れぬ理由としては成り立つわい」
定着してる?
「どういうことだ?」
「そのままじゃ。魂は生命活動のある体がなければ消えて無くなるのじゃ。ここまではいいか?」
「あ、ああ」
「お主の魂は、儀式を行ったことにより、その体にピッタリと定着しておるのじゃ」
「で?」
「そこから無理に魂を引き剥がせばお主は死ぬし、魂も消えて無くなる」
「……」
「仮に魂が消えなかったとしても、お主のいう元の世界にどうやって戻る?」
「…………」
「パントロ。お主はこの世界で生きていくしかないのじゃよ……」
この世界で行きていく……?
俺が……?
このパソコンもアニメも漫画も何もない世界で……?
「ちょっと待ったああああああああ」
「なんじゃい。急に」
「俺の前の体はどうなった?」
「そんなもんワシが知るわけないじゃろ」
「だよ……な……」
俺の魂はここにある。
てことは、俺の体は魂がないわけだから、やっぱり死んでるのか?
いや違う。考え方が違う。
死ぬには理由があるはずだ。
前の世界で死んだから、俺の魂がここに来たんじゃないのか?
俺は死んだのか? 死んだとしたら何で死んだ?
えーっと……。
ダメだ! エロゲのCGをコンプして、そのまま寝たことしか思い出せない!
いや、今更、前の世界のことを考えても仕方ないか……。
どうせ戻れないんだ……。
諦めるしかない……。
「さて、パントロよ。やはりお主は、別の世界から来たと言うことは分かった」
「ああ……。そうだよ……。でも戻れないんだろ?」
「そうじゃな。お主は、この世界で、魔界で生きていくしかないのじゃ」
「魔界で……」
「パントロ! お主は、生きるために強くならなくてはならぬ!」
「はぁ……。そうですか……」
「ということで、これからお主を鍛える!」
「は?」
「お主を鍛えて、魔王軍の兵士の一員にするのじゃ!」
「え? は? カ、カイザー? 何を言って……?」
「これから厳しい特訓を始める!!」
「はあああああああああああああああああああ!?」
こうして俺は失意の中、特訓が始まることを知らされた……。




