幕間 スライム族VS戦鬼アショウ
リンジー視点です。お気を付け下さい。
『ストーム!!』
獣耳族の男が、魔法を唱えた。
突風のような強風が、ボク達を襲ってくる。
「ま、またぁ!?」
「ふぇぇぇ!!」
「ふぉっふぉっふぉ」
ボク、ユカリス、神官様の三人は、強風によって飛ばされていく。
計5回ほどの強風を受け、ボク達は湿地帯の端の方へと追いやられてしまった。
「ふぉっふぉっふぉ。お主ら大丈夫か?」
神官様が、ボク達を心配しながら声を掛けてくれた。
「は、はい! 大丈夫です!」
「ふぇぇぇ……、神官様ぁ……」
ボクもユカリスも無事だ。
強風を受けて吹き飛ばされただけで、怪我はしていない。
ここまで運ばれてきただけだ。
「ふむ。あやつの狙いは、なんじゃろうな……」
神官様は、獣耳族の男を睨み付けるようにして、そう呟いた。
確かに、そう言われればそうだ。
ボク達を襲う気なら、最初から攻撃の魔法を使えばいい。
それなのに、何故か吹き飛ばす魔法ばかり使ってきた……。
どういうことだろう?
「我が名はアショウ! 貴様らに恨みはないが、方翼のパントロを討つため、ここで死んでもらう!!」
アショウと名乗った獣耳族の男は、そう言いながら、右手を前に突き出した。
「ふむ。狙いはパントロか」
神官様がそう言った。
なるほど……。
パントロくんを孤立させるのが、アイツらの狙いだったのか……。
「我が力を、思い知るがいい!!」
アショウが、自信満々にそう言い放った。
その直後、突き出していたアショウの右手に、両刃の斧が出現した。
えっ!? 何あれ!?
急に何もないところから、斧が出てきた!?
「ふむ……? 空間魔法の使い手じゃったか」
空間魔法?
前にチラッと聞いたことがあるけど、アレがそうなの?
ボク達は、神官様から様々なことを学んだ。
その中でも、特別不思議な魔法があった。
それが空間魔法。
異空間に物質を閉じこめておき、自在に取り出すことが出来るという不思議な魔法。
スライム族の中で、最も多くの魔法を使いこなしている神官様ですら、使えないという謎の魔法。
空間魔法と名前は付いているが、アレは魔法ではないって、神官様が言ってたっけ……。
魔力を使うけど、別の技……、確かそう言ってた……。
「我が妙技を思い知るがいい!」
アショウはそう言いながら、両手で斧を握り、腰を落として構えた。
斧を武器にするってことは、近距離戦か……。
どうしよう……。
今のボク達には、前衛が居ない……。
神官様も、ユカリスも、もちろんボクも……、全員が遠距離型だ……。
「はああああああああああああああああああああああああ!」
アショウは斧を構えたまま、力を溜めるように声を出し始めた。
「ふむ。魔力を溜めておるな……。あの斧、おそらく魔導具じゃな」
神官様がそう言った。
魔導具というのは、魔力を使って様々な効果を生み出す道具の総称。
例えば、スライムの街にある神殿内には、明かりをともす魔導具があるらしい。
そういう生活に便利な物や、アショウが持っているような武器まで、様々な種類があるそうだ……。
ボクは見たことがないので、話に聞いたくらいの知識しかない。
「ど、どうしますか?」
ボクは神官様に意見を求めた。
アショウは魔力を溜めていて、未だに動いていない。
けど、すぐに作戦を立てないと、いつ襲いかかってくるか分からない。
「ふむ……、二人には無理じゃじゃろうし、ワシが前に出よう」
神官様がそう言った。
「わ、分かりました。じゃあ、ボクとユカリスは後ろから援護します!」
「うむ。ユカリスもそれで良いな?」
「ふぁ、ふぁい!」
ボク達は、一斉に移動を始めた。
神官様がアショウの正面に行き、神官様の右後方にユカリス。ボクは左後方だ。
「はあっ!!」
ボク達が移動し終わると、アショウが大声を上げた。
どうやら、魔力が溜まったようだ。
「どるぁああああああああああああああああああああ!!」
次の瞬間、大きな声を上げながら、アショウが斧を振るった。
もの凄い強風が、ボク達を襲ってくる。
「くっ!」
ボクは飛ばされないように、地面に張り付く。
「ふぉっふぉっふぉ。良い風じゃのう」
神官様は微動だにしない。
ボクと同じように、地面に張り付いているのだろう。
「ふぇぇぇ!」
ユカリスは反応が遅れたのか、後方へと飛んでいった……。
「ちょっ!? ユカリス!?」
ボクが、ユカリスに気を取られていると……、
「死ね!!」
アショウが、誰も居ない地面に向かって斧を振り下ろした。
「ほいっ!」
神官様が、何かを避けるように横に跳んだ。
ボクはよく分からずに、その光景を眺めていたのだが、すぐに理由が分かった。
神官様の後方に生えていた草木が、地面を削るようにして斬られていく。
よく見ると、神官様の前方の草も斬られている。
どうやら、見えない斬撃を飛ばしたようだ。
『フレイムボール!!』
神官様が、アショウに向かって炎の玉を放った。
ボクは魔力を操作しながら、少し移動する。
「ふん!」
アショウは、飛んできた炎の玉に向かって斧を振り下ろす。
炎の玉は真っ二つに切断されてしまい、その場で消滅した。
今だ!
『アースアロー!!』
ボクは、土の矢をアショウに向かって飛ばした。
「ほう? スライムにしては、上等な魔法を使うのだな」
アショウは余裕なのか、斧を振り下ろした状態のまま、そんなことを言った。
土の矢の数は、約30本。
それなりに範囲はあるし、速度もかなりある。
避けられるはずがない。
ボクは、そう思っていた。
「かあっ!!」
アショウは、振り下ろしていた斧を、今度は凄い勢いで振り上げた。
もの凄い強風が、ボクの方に吹いてくる。
ボクが放った土の矢は、次々と失速し、アショウに届く前に地面に落ちてしまった……。
もうっ!
勢いよく振ったら強風が吹くなんて、あの斧ズルいよ!
魔導具って、こんなに厄介なの!?
ボクはそんなことを考えつつも、移動を始める。
ユカリスが戻ってこないので、ボクと神官様の二人で戦うしかないのだ……。
「黄色! まずは貴様だ!」
アショウは、そう言いながら、神官様に向かって突っ込んだ。
神官様は、その場から動かない。
そして……。
「どるぁああああああああああああ!!」
神官様に向かって、斧が振り下ろされた。
「し、神官様!?」
神官様は避けることもせず、真っ二つに切断されてしまった……。
「ちっ! ミラージュか!」
アショウが、そう言った。
え? ミラージュ……?
ミラージュって、幻影の魔法だったはず。
ん?
ボクは、神官様を良く確認してみた。
その場でユラユラと動かずに、神官様そっくりの幻影が創られている。
どうやら、真っ二つにされたのは、幻影の方だったみたいだ。
じゃあ、神官様はどこに!?
ボクは、すぐに辺りを見回す。
けど、神官様の姿が見当たらない……。
ボクとアショウの、二人だけになってしまっている……。
「おい! そこの白いヤツ! お前は見捨てられたみたいだな!」
アショウが、ボクに向かってそう言った。
見捨てられた……?
ボクが……? どうして……?
神官様はどこに……。
そこまで考えて、すぐに気付いた。
あ……、そうか……、パントロくんを助けに……。
ユカリスも、きっとそうだな……。
だから、戻ってこないんだ……。
じゃあ……、ボクの役目は……。
「見捨てられた訳じゃない! ボクは、お前を足止めするんだ!」
ボクは、アショウに向かってそう叫んだ。
おそらく、ユカリスと神官様は、パントロくんを助けに行った。
それは当然のこと。
スライム族の魔王である、パントロくんを助けに行くのは当たり前のことだ。
だったら、ボクはアイツを足止めしなきゃならない。
二人が無事にパントロくんを助けるまで、アイツをボクが引きつけなきゃならないんだ!
「ほう? たった一人で、我を止めるつもりか?」
「止めてやるさ!」
ボクだって、師匠の弟子の一人なんだ。
ガルディウスくんも、リーダーも、鳥獣族と戦って勝った。
だったら、ボクにだって、足止めするくらいは出来るはずだ!
「ふっふっふっ……。我を甘く見るなよ?」
そう言いながら、アショウは斧を構え直して、腰を落とした。
ボクは、アショウの様子を窺いつつ、距離を取る。
アイツの目的は、ボク達を殺すこと。
ボクが殺されたら、すぐに二人を追いかけて行くだろう。
だから、ボクは負けられない……。
アイツに勝てなくても、せめてパントロくんを助け出すまでは、アイツを足止めしなきゃならない。
「行くぞっ!」
そう言ったアショウは、ボクの方へと走り出した。
『ウィンドボール!!』
ボクは、アショウに向かって風の玉を放つ。
そしてすぐに……。
『バースト!!』
次の魔法を使った。
ボクとアショウの間にあった風の玉が爆散され、辺りに強風が吹き荒れる。
ボクは、その強風に乗りながら、更にアショウから距離を取った。
アショウは、強風を受けて少し移動速度が遅くなったが、走り続けている。
これじゃ止まらないの!?
「ふん!」
アショウは、ボクから離れた場所で斧を振り下ろした。
マズイ!!
ボクは咄嗟に横に跳んだ。
ボクのいた場所を、見えない斬撃が通り過ぎていく。
あ、危ない……。
あんなの食らったら、真っ二つにされちゃうよ……。
そんなことを思いつつも、ボクは次の魔法の準備を始める。
『フレイムボール!!』
ボクが創った炎の玉が、アショウに向かって飛んでいく。
「無駄だ!!」
そう言って、アショウは炎の玉に向かって斧を振り下ろした。
今だ!
『バースト!!』
ボクの魔法によって、炎の玉はアショウの目の前で爆散。
炎の玉は、小さな火の玉になり、アショウを襲う。
「っ!? うるぁあああああああああああああああああああああ!!」
アショウは、火の玉を気にすることもなく、斧を振り下ろした。
ボクに向かって、突風のような強風が吹いてくる。
そして、小さな火の玉も、今の強風によってかき消されてしまった……。
そ、そんな……。
やっぱり、あの斧ズルいよ……。
「中々、良い腕だな。だが、我には通用せん!」
アショウはそう言って、ボクに向かって突っ込んでくる。
ダメだ……。
殺される……。
僕がそう思った瞬間。
『フレイムランス!』
どこからともなく、神官様の声が聞こえてきた。
「ぬぅ!?」
アショウは何かを感じたのか、咄嗟に動きを止め、右を向いた。
ボクは、釣られるようにして、アショウの目線の先を追う。
すると、炎の大槍が、もの凄い速度でアショウに向かって飛んできていた。
「どぉらああああああああああああああああああああああ!!」
アショウは、炎の大槍に向かって斧を振り下ろす。
次の瞬間。
『アイスアロー!!』
炎の大槍とは反対方向から、ユカリスの声が聞こえてきた。
炎の大槍は、斧で真っ二つに斬られ、その場で消滅した。
だが、アショウの後方から、大量の氷の矢が飛んできている。
しかも、ボクの土の矢よりも圧倒的に速い。
「ぐっ!!」
アショウは、後方から飛んできた氷の矢に反応が出来なかったようだ。
次々と、氷の矢が命中していく。
アショウの背中、肩、太もも、お尻……。
あらゆる場所に、氷の矢が突き刺さった。
「ぐあああああああああああああっ!」
アショウが叫び声を上げた。
す、凄い……。
でも、どうして……?
二人はパントロくんを助けに行ったんじゃ……?
ボクがそんなことを思っていると……。
「どるぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アショウが、ボクの方へと突っ込んできた。
背後から、大量の氷の矢を受けたにも関わらず、ダメージを感じさせないような動きだ。
あんなに食らったのに、まだ動けるの!?
ど、どうしよう!
「ふぉっふぉっふぉ。こっちじゃ! 『アイスボール!』」
神官様の声が聞こえたと思ったら、信じられないくらいの速度で、氷の玉が飛んできた。
『バースト!!』
またも神官様の声が聞こえた。
アショウの目の前まで飛んできた氷の玉が、その場で爆散した。
辺りに、小さな氷の玉が飛び散る。
「ぐあっ!?」
無数の小さな氷の玉が、アショウの全身に次々と命中していく。
アショウは、両腕で顔面を覆うようにして防御しているが、無駄に見える。
それほど、小さな氷の玉は多い。
ボクの方にも、小さな氷の玉が飛んできているのが見えた。
避けなきゃ!
咄嗟にそう思い、ボクは小さな氷の玉を避けながら、アショウから距離を取る。
神官様も、ユカリスも、一体どこから魔法を撃ってるんだ……?
隠れられるような場所なんて、どこにもないのに……。
そう思いながら、辺りをキョロキョロと見回していると……。
「どこだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アショウが、もの凄い大きな声で叫んだ。
どうやらアショウは、神官様やユカリスを捜しているようだ。
魔法が飛んできた方向を、もの凄い形相で睨み付けている。
でも、その姿はボロボロだ。
無数の小さな氷の玉が直撃し、全身が傷だらけになっている。
身体のあちこちに、擦り傷、切り傷、穴のような傷まであり、傷口からは血が流れている。
氷系の魔法の恐ろしさが、少しだけ分かった気がする……。
「おい! 白いの! 黄色とピンクのヤツはどこだ!!」
アショウが、ボクに向かってそう聞いてきた。
「し、知らないよ! ボクだって驚いているんだ!!」
バカ正直に、答えてしまった……。
でも、本当にそうだから、仕方がない……。
神官様とユカリスは、パントロくんを助けに行ったと思っていたけど、実際は違った……。
声も聞こえるし、魔法も撃ってた……。
それなのに、何故か、二人の姿は見えない……。
ボクとは違って、二人は天才だ。
きっとボクには分からない方法で、姿を消して戦ってくれているんだと思う……。
「ふぉっふぉっふぉ。ほれ! 次の魔法が飛んでいくぞい!」
神官様の声が、右側から聞こえてきた。
「っ!?」
その声に反応するように、アショウも右側を向く。
だが……。
『フレイムアロー!!』
『アイスランス!!』
神官様と、ユカリスの声が同時に聞こえてきた。
何もないところで、炎の矢が創られていくのが見える。
1本、2本、ドンドン数が増えていく。
あっという間に、およそ100本の炎の矢が創られ、もの凄い速度でアショウに向かって飛んでいった。
「ふん!!」
アショウは、炎の矢が飛んでくる方向に向かって、斧を振り下ろす。
次の瞬間、強風が発生した。
大量の炎の矢は、次々と消し飛んでいく。
「次は後ろだろ!!」
そう言って、後ろを振り向いたアショウは、斧を大きく振りかぶった。
だが、後方からは何も飛んできていない。
「なにっ!?」
アショウは驚きの声を上げた。
もちろん、ボクも驚いている。
炎の矢が創られているとき、周りを確認したけど、氷の大槍が創られていくところは見えなかった。
魔法名を言った声は聞こえたのに、魔法は一向に飛んでこない……。
「どこだっ!?」
そう言って、アショウは辺りを確認している。
ボクは、アショウを視界から外さないように、辺りを見渡していた。
すると……。
う、上から!?
上空から、もの凄い速度で、氷の大槍が斜めに落下してきてるのが見えた。
アショウは周りを気にしていて、上を確認していない。
そして……。
「がっ!?」
そのまま落下してきた氷の大槍が、アショウの肩口に直撃。
氷の大槍は、アショウの身体を貫き、地面に突き刺さった。
アショウの右肩から進入した氷の大槍は、左の腹から突き出ている。
アショウは、ピクリとも動かない。
どうやら、絶命したみたいだ。
「やったぁ!」
「うわぁっ!?」
唐突に、ボクの真横から、ユカリスの声が聞こえてきた。
咄嗟に横を向くと、風景の一部分だけが、ぐにゃりと変な方向に曲がっていた。
え!? なんだこれ!?
ボクが驚いていると、曲がっていた風景が徐々に元に戻り、その場からスーッとユカリスが現われた。
「えっ!? なんで!? あれ!? どうなってんの!?」
ボクは何が起きたのか、サッパリ分かっていない。
「ふぉっふぉっふぉ。終わったのう」
そう言って、今度は神官様が現われた。
「神官様まで……? どうなってんの……?」
ボクが説明を求めると、二人はきちんと説明してくれた。
二人は、姿を消す魔法を使っていたらしい。
ミラージュという幻影を創り出す魔法を、発展させた魔法らしく、神官様が創った魔法だと言ってた。
ユカリスは、以前に、その魔法を教えてもらったそうだ……。
ちなみに、魔法名はまだ無いそうで、消える魔法と呼んでいるらしい……。
ユカリスは強風で吹き飛ばされたとき、神官様はミラージュを使ったときに、消える魔法を使い、ずっと隠れながら様子を窺っていたそうだ。
そして、アショウが油断したタイミングで、二人は魔法を使った。
後は、ボクが見たまま……。
アショウを倒して安全になったので、消える魔法を解除したという訳だ。
「はぁ……。もう……、ビックリしたよ」
「リンちゃん……、言ってなくて、ごめんねぇ……」
「う、うん……。それは良いけど……」
ユカリスに謝られてしまった……。
こんなんじゃ、ボクは……。
「あ! そうだ! パントロくんを助けに行かなきゃ!」
「パントロちゃんなら、大丈夫ぅ……」
どうやら、ユカリスはパントロくんの無事を確信しているようだ。
でも、ボクは心配だ。
僕たちを襲ってきたのは、鳥獣族の集団。
何人いるか、正確には分からないけど、結構な数が居るはず……。
パントロくんは強いけど、大人数で襲われたら……。
「ふぉっふぉっふぉ。まあ、ここにいても仕方がない。戻るとするかのう」
「は、はい!」
「はぁーい」
ボク達は、パントロくんと別れた場所に向かって、移動を始めた。




