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第十話 「獣人」

 塔からの帰り道、カイザーが変なことを言い出した。


「パントロ。ちょっと脇道へ行くぞい」

「あ? なんでだよ? このまま街道を通って行けばいいじゃねーか」

「いいから、ついて来るのじゃ!」


 カイザーの顔が、焦っているように見えた。

 俺は仕方なく、カイザーの後を追っていった……。


 しばらく進むと、小高い丘のような場所に着き、そこからはスライムの街が一望できた。

 すばらしい景色だったのだが、少し様子がおかしい。

 街の一角から煙が上がっていたのだ。


「まさか……もう来おったのか?」


 カイザーがボソッと呟いた。


「あ? どういう事だよ? 何だアレ?」

「おそらく鳥獣族じゃ。奴らが街を襲ってきたのじゃ!」


 鳥獣族……。ゴブリン魔王が演説で言ってたヤツか。


「マジで!? どうすんだよ!?」

「パントロ。お主は、ここで待っておれ」

「え? 待ってろって……まさか街に行く気か?」

「当たり前じゃ。ワシが行かんでどうする」


 俺を気にする様子もなく、カイザーは鋭い目で街を見下ろしている。

 

「ちょっと待てよ! 襲われてんだろ!? 死ぬぞ!?」

「安心せい。魔王様や仲間達と協力すれば死ぬことはないわい」


 そんなこと言われても……。


「では、しばし待っておれ。念のため、お主は身を隠しておくのじゃぞ?」

「え? ちょっと――」

「ちょええええええええええええええええええ!!」


 カイザーは俺の言葉も聞かず、丘を飛び降りるように大きくジャンプした。


「えええええええええええ!? 何してんだよ!? この高さから落ちたら死ぬぞ!?」


 俺の心配をよそに、カイザーは綺麗に着地を決め、そのままもの凄いスピードで移動していった。

 あっという間にカイザーの姿は見えなくなった。


「マジかよ……。この高さから落ちたら普通死ぬだろ……。カイザーの体どうなってんだよ……」


 俺はしばらくの間、呆然とカイザーが消えていった先を見ていた。


 おっと、こんな事してる場合じゃないな。

 カイザーに言われたし、隠れられる場所を探さなきゃな……。


 俺は辺りをキョロキョロと見渡しながら、隠れられる場所を探した。

 この辺りは、木々が立ち並んでいる林のような所だ。

 木の陰や、木の上くらいしか、隠れられそうにない。

 俺はとりあえず、木の上に登って、カイザーの帰りを待つことにした。



――


 カイザーと別れてから、一時間くらい経った。魔界は基本的に薄暗いのに、更に少し暗くなってきた……。

 カイザーは、一向に戻ってこない。

 だが、街の様子は落ち着いたように見える。

 先ほどまで立ち上っていた煙は消え、平穏な街に見える。


 もういいかな? 街の方向はわかってるし、勝手に帰ってもいいんじゃねーの?

 でも、鳥獣族がいるかもしれないのか……。

 はぁ……。さっさと帰って寝たい……。


 そんなことを考えていると、何やら草をかき分けるような物音が聞こえてきた。

 俺は物音がする方向を、恐る恐る確認した。


 なんだあれ……。あれが鳥獣族ってヤツか?

 怖っ! 鳥獣族めっちゃ怖っ!!


 俺が見たのは、二足歩行で歩く、虎のような顔をした魔物だった。

 所謂、獣人ってヤツだろうか?

 顔はどう見ても獣のそれ。人間のように服を着て、そして二足歩行で歩いている。

 手足も毛で覆われており、ガッシリとした体型の魔物だ。


 やばい……。見つかったら殺される……。

 さっさとどっか行けよ……。何をそんなにキョロキョロと見てんだよ……。

 何か探してるのか……? ここには何もないから、さっさと消えてくれ……。


 俺は息を殺し、ピクリとも動かず、祈るようにして隠れていた。


「……そこか」


 獣人が何かを見つけたようだ。

 気のせいだろうか? 獣人の目線の先が、どうもこちらの方向を向いている気がする……。


 まさかバレた……? いや、そんなわけ……。


 獣人はスタスタと歩き出し、俺の登っている木の真下にまで来た。


「ふん!」


 突然、獣人が目の前の木を殴り、木が大きく揺れた。


 うおおおおおおおおおおおおおおおお!! なんだ!? 急になんだ!?

 やっぱバレたのか!? どうする!? 全力で逃げるか!? いや逃げ切れるのか!?

 てか落ちる! 落ちるから止めて! そんなに殴らないで!!


「ふん! ふん! ふん!」


 俺の願い虚しく、獣人は木を殴り続ける。

 二発、三発と、何度も何度も……。


 まずい! このままじゃ本当に落ちちゃう! どうする!?

 そうだ! 隣の木に飛び移ればいい! 飛び移るときにバレなければ、そのまま隠れ、もしバレたら全力で逃げる。そうだこれで行こう!! あっ……。


 隣の木へ飛び移ろうと思った瞬間、俺はバランスを崩し、張り付いていた部分が木から離れてしまった。

 俺は木の上から、まるでカブトムシやクワガタのように落ちていってしまった。


「……やはりな」


 獣人が地面に落ちた俺を見てポツリと言う。


「あ、あ、あ……」


 殺される。そう思った。


「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!」

「っ!」


 俺は自分でも気が付かないうちに、獣人に向かって体当たりを放っていた。

 体当たりは獣人の腹へ直撃した。

 だが、獣人は涼しい顔をしたまま、微動だにしなかった……。


「……中々いい体当たりだな」

「あ、いや、そ、その……、ご、ごめんなさい!!」


 俺は、謝罪の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、その場から逃げるように、獣人の反対方向へと全力ジャンプを放った。

 だが……。

 着地をする直前、後方から頭を掴まれる感触が俺を襲ってきた。


「……そう逃げるな」

「うぉおおおおおおおおおおお! 離せ! 離せコラ!」


 ガッツリ頭を掴まれていて、俺は持ち上げられていた。


「離してください! お願いします! 何でもするから助けて!」


 気付けば、俺は命乞いをしていた。


「離してもいいが……、逃げるなよ」


 獣人は掴んでいた手を緩めた。


 今だ!!


 俺は地面に着地したと同時に、またも全力ジャンプを使い、その場から逃げ出した。

 が、すぐにまた掴まった……。


「だから逃げるなと――」

「何なんだよ!? スライム一匹くらい逃がしてくれよ!! 俺なんて殺しても何もないから! お願いだから逃がして! 頼むから! いや本当にお願いしますから! てか早く離せやごるぁああああ!!」


 俺はパニックになっている。自分でも何を言ってるのか分からない。

 そんな状況の中、後方から聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。


「ふぉっふぉっふぉ」


 カイザーの声だ!


「カイザーああああああああああああ!! 助けてえええええええええええええええええ!!」

「ふぉっふぉっふぉ。もう安心じゃ」


 なんだ? カイザーの声が異様に落ち着いている。

 目の前に獣人がいるんだぞ!? なんでそんなに落ち着いていられるんだよ!?


「神官殿か……、遅かったな」

「ふぉっふぉっふぉ。消火に手間取ったわい」


 なんだ? 獣人と会話してる? なんで? どうして?


「おい! 早く助けろよ! 何で獣人と話してんだよ!!」


 俺は未だに頭を掴まれている状態で、後ろが全く見えない。


「ふぉっふぉっふぉ。ドバイン殿、離してやってくれ」

「うむ……」


 獣人の手から力が抜け、俺はポトリと地面に落とされた。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は叫びながら獣人の股下を抜け、カイザーの方へと向かう。


「ふぉっふぉっふぉ」


 そんな俺を見て、カイザーが何故か笑っていた。


「笑ってる場合じゃないだろ!? どうする!? 逃げるか!?」


 俺は焦りながらカイザーに、そう問いただしたのだが……。


「ふぉっふぉっふぉ。そう慌てるでない。安心せよ。ドバイン殿は味方じゃよ」


 は……? 味方?

 え? 何を言ってるんだ?


「ど、どういうこと?」

「この方は鳥獣族でありながら、我らスライム族の味方となり、我らと一緒に戦ってくれておるのじゃ」


 はい?


「いや、でも、殺されそうになったぞ!?」

「……そんなことしておらん」


 獣人が酷く冷たい声でそう言った。


「ふぉっふぉっふぉ。パントロ。お主の勘違いじゃ。ワシがこの方に、お主を迎えに行ってくれと頼んだのじゃよ」


 え? 俺の勘違い? 迎えに来た?

 訳が分からないが、とにかく俺は助かったのか?

 ん? なんで獣人が俺を迎えに来るんだ? それに街は……。


「おい! 意味が分からんぞ! なんで獣人が迎えに来るんだよ!? つーか、街はどうなったんだ!? 鳥獣族に襲われてたんだろ!? この獣人が味方だっていうなら、街を助けに行くべきだろ!」

「あー。それがじゃな。ワシの勘違いじゃったわ」

「は?」

「煙が見えたのは、魔法の訓練をしておった若者のミスで、数軒の家が燃えておっただけじゃったわ。ふぉっふぉっふぉ」


 家が燃えていた? ただの火事だったってことか?

 いや、だとしても獣人が迎えに来るのはおかしい。なんで見ず知らずの獣人が来るんだよ!?


「ふぉっふぉっふぉ。改めて紹介するぞ。この方の名はドバイン殿。パントロ、お主の武術の先生じゃ」

「はああああああああああああ!?」



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