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ANDOLL*ACTTION登龍門編  作者: 文丸くじら


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ここまで来たぞ

バスの中には二人の少年しかいない。エンジン音だけが響き、運転手の姿も見えない。

それでも真っ直ぐ宇宙エレベーターへ機械的に進む。実畑八雲は理解が追い付かないまま必死に昔を思い出す。

宇宙エレベーターなんて知らない。あの日、日曜日、目指していたのはNYRON中央エリアにある時計台だった。


もしかして上から鉄骨が落ちてくるのではないか。怯える実畑八雲とは逆に、狭間進歩は覚悟を決めていた。

幸せな世界が終わる日。一秒よりも長く、一日よりも短い、何度も繰り返した一週間。その最終段階。

やっと終わる、と思うと同時に、これで終わりか、という相反する気持ちが混じりあう。どちらにしろ終わることは変わらない。




竜宮健斗を先頭に、籠鳥那岐、仁寅律音、玄武明良、の順で走っていた。しかし玄武明良の足が遅すぎて速度は大変緩い。

外側から終わりの黒がデータを侵食しているせいか、電車どころが車も動かない。消去準備中なのか、自転車もペダルが回らないほどだ。

おそらく日曜日真面目に動いているのは狭間進歩達が乗っているバスだけだろう。こういった時、なんの能力もない一般的な子供体力が恨めしくなる。


「明良、頑張って!宇宙エレベーター十三階に用があるから、ここでへばってられないよ!」

「ぜぇ、ひゅうっ、はぁっ……し、しにゅ……」

「立ち止まってれば自動的に消去されるよ。でもそれじゃあ納得できないでしょう、僕達全員」

「当たり前だ。俺達の思い出を好き勝手に設定しやがって……今度こそあの二番に痛い目見せてやる」


一人燃え上がる籠鳥那岐。死にかけの玄武明良。平然としている仁寅律音。右腕が動かせない竜宮健斗。四人には特別な身体能力はない。




思わず画面を見ている錦山善彦達が心配するほどだ。魔法使いマーリンを救出し、狼型ロボットもあらかた倒せたため、一時的な余裕を得られた。

損傷が激しかったマーリンも扇動美鈴を始め、楓や柊、キッキの手によって修復が進められている。機械的な外見は隠せないが、歩行は可能となった。

人型サイボーグに近い外見となったマーリンに男子達が憧れの視線を向ける。気まずいマーリンは瀬戸海里に状況を尋ねる。


「えー、今健斗くん達が日曜日に入ったところで、これから宇宙エレベーター向かうとこです……ただ、その後どうなるかは予測もできない、です」

「そうか……確かクラカと豊穣雷冠だったか?クロスシンクロやらシンクロ現象についてクローバー博士に聞いていたが、こういうのはどうだ?」


マーリンが小声でクラカと豊穣雷冠に説明する。あっという間に親しくなった距離感に神崎伊予は少しだけ不満そうにする。

彩筆晶子や音波千紘はそれどころではない。大分治まったとはいえ、体の芯を揺らすような頭痛に呻き、体を壁に預けている。

駿河瑛太と氷川露木は二人に比べ軽度とはいえ、痛む頭を擦っている。ほぼ全員が指令室らしき場所に戻っていた。


「……確かに。シンクロ現象は体に異常をきたします。それは肉体の限界値を越えますが、データはその限りではないです」

「問題はシンクロ現象を起こすべき四人がほぼ散らばっている状況だな。遊園地のロボット達に通信取りたい。通信コードを教えろ地底人」

「人間兵器とは聞いていたけど……手ぶらで通信できるって見てる側からすると結構ホラーだなぁ」


ドリル片手に暴れるキッキには言われたくない、と誰もが思う中で、五十歩百歩だと冷めているのが求道哲也である。

分厚い哲学辞書を片手に戻ってこない人数を確認する。凜道都子、袋桐麻耶、筋金太郎、崋山優香、セレナ・アントニオと葛西神楽。

あとはロボットである帽子屋に、アニマルデータが入った竜宮健斗、仁寅律音、籠鳥那岐である。その内連れ戻すべきは三人。


「しかしロボット達全てを壊したわけじゃない……むしろ集中させているかもしれない」


マーリンが不安そうな顔で呟く。青い血の二番。どこまでも個人主義の、赤い血を認めない青い血。

今も安全な場所で高みの見物を決め込んでいるはず。そして子供達の様子を見ては打つ手を変えている。


「まー、外見アイドル霧乃ちゃんの見解から言わせてもらえば、ジョージ・ブルースは一人でしか行動できない。ならば多くても同時に行使できるのは二つ」

「……電脳世界の干渉と、ロボット操作、か」

「そう。そんで奴の鍵はシステムエッグ。ロボット操作はそこに集まる。だからここまでちょっかいは出せない」


一時的な安全圏の確保。それは敵の手の中にいる現状において大きなアドバンテージになる。実際、マーリンは行動可能な体まで戻れた。

しかし逆を言えば、現在システムエッグを目指している崋山優香達が危険ということになる。クラカが豊穣雷冠の服を小さな手で引っ張る。

クラカは人間に近づけた姿のアンロボットであるが、その体はとても小さい。少しでも費用削減のため、一メートルあるかないかだ。


「私に戦う力はありません。だから貴方の力を貸してください」

「……わかった。俺様が守ってやる。悠真、哲也、俺様はちょいと加勢に行ってくる。ここは頼んだ」

「嫌な予感しかしないけど……わかった。無茶しないでよ」


金髪のアンロボットを片手で抱え上げ、豊穣雷冠は電磁波を頼りに走り出す。地下室にあらゆる電気が目に見えない形で流れている。

殺害命令の電波、世界を作り上げるための通信、自我を手に入れたロボットが動くために必要な電流、今を生きようと走り続けている人間の電磁波。

原初の炎。それは空から落ちた雷とされている。人は生まれた時から、生まれる前から、暗闇を照らす猛々しい光によって動き続けている。


豊穣雷冠にとって世界は機械仕掛けのように規則正しくて、人の心のように気紛れで、それでも変わらない場所だ。

未来でも、過去でも、現在でも、豊穣雷冠は人間兵器でありながら、誰かのために走り続けている。雷の力を操る能力者として。

助けられなかった未来がある。自分が死んだ未来もある。全員消えた未来もある。それでも豊穣雷冠は嬉しそうに笑う。


兵器として鍛えられた自分は、誰かを助ける人間になれる。それが豊穣雷冠にとって一番楽しいことだった。




通信を受けた帽子屋は竜宮健斗、中身はセイロン、に子供達が集まっている場所へ戻るように伝える。

本当は託された通り崋山優香を守りたかったセイロンだが、竜宮健斗の体で戦えない上に、傷をつけるわけにもいかない。

今はロボットが見えないため、一人で安全に戻れると思うが、いつ状況が悪化するかわからない。セイロンは疑うように帽子屋に尋ねる。


「ちゃんと優香を守ってくれよ。狂わずに、きっちりと!」

<御安心ください、ロボットですから!って、私トチ狂ってるんですけどね!!ぶっははははははははは!!>


不安である。やはり残ろうかと考えたセイロンだが、崋山優香が力強い声で告げる。


「私は大丈夫。だからセイロンはケンを助けてあげて」


竜宮健斗以上に力のない少女の言葉に、セイロンは頷くしかなかった。それだけ強く、信頼された言葉だった。

友を助けるために去る男の背中に、帽子屋は最大の敬礼でもって見送る。トレードマークである帽子を脱ぎ、厳かに一礼。

そして可憐な少女を守るため、帽子屋は死地へ向かう。ジョージ・ブルースの鍵、希望と絶望をばら撒く、システムエッグの在り処へ。




システムエッグの設計図データをコピーし、演算能力も得た、花山静香の代用品。宇宙エレベーターの十三階で彼女は静かに終わりが来るのを待っている。

主人公には期待していない。ヒロインにも期待していない。最後はジョージ・ブルースに利用され尽くされるか、消されるかの二択。

データに混じった花山静香の意思は狭間進歩を待ち続けている。だが彼女は狭間進歩には期待してない。ただの消し損ねたデータがこの世界を変えるとは計算できない。


もしもこの世界を揺るがせるとしたら、やはり流川綺羅が想い続ける実畑八雲だろう。竜宮健斗でもなく、狭間進歩でもなく。

計算できない逆転が起きるとしたら、彼だけなのだ。結局データに主人公となれる素質はなく、ジョージ・ブルースの作戦はほぼ失敗と言っても過言ではない。

だから彼女は終わりを望む。花山静香を再現するのも、世界が終末を繰り返すのも、諦めずに立ち向かう少年達も、全て終わりになればいいと。


それでも花山静香の意思が、来週大きな海に行きたいと囁く。彼女はそれを静かに無視した。




青頭千里は揃った青い血の面々に久しぶりと挨拶する。しかし返事はない。これは忙しいところを呼んでしまったな、と察する。

昔から青い血は社会に根深く存在する虫のようなものだ。虫を殺す殺虫剤を使えば、樹も一緒に枯れるような、倒しても害しか残らない存在。

しかし資金、簡単に言えば金に関して彼らは強い。金銭面だけで生きているようなところもあるが、それだけで赤い血の中に混じれる人外なのだ。


「とりあえず今日はありがとう。これで思う存分二番を潰せる機会を手に入れた。次の二番については考えつつ、容赦なく潰そう」


笑顔で告げる青頭千里だが、これにも返事がない。七番の七園真琴や八番の白子泰虎さえ一切口を開かない。

別に全員が同じ親から生まれたわけでも、生活を共にした存在でもない。ただ同じ青い血が流れているだけの、血縁上の関係である。

なので別に容赦する心は元からない。中には一番を潰せるわけじゃないのかとあからさまに落胆している者もいる。


「……わかった。終わったら今日は僕の奢りで好きなだけ高い物を食べると良い!!!!」


苦肉の策で青頭千里が宣言した食べ放題。それには全員が歓喜の声を上げ、協力体制を約束したと同義の拍手を送る。

ちなみに普段から金を操り美味い物を食べ尽くしている青い血の食べ放題とは、百万や二百万で収まるものではない。

この世には想像もできない程高い食事がある。青頭千里の財布にかなりの打撃を与える食べ放題、それは下手したら金額が兆に届く物である。





ジョージ・ブルースは無言で自分がしたいことを進めていく。誰にも見せられない地味で退屈で、一人の男として戦う姿。

彼も幼い頃は一番を多く取るのが自慢な子供だった。転べば膝から赤い血が出て、心配そうに駆け寄ってきた母親に手当てをしてもらうような。

彼は順調に成長し、大人になり、青い血になった。突然に二番であることを決めつけられ、未来永劫変わらないことを突きつけられた。


不満だった。ジョージ・ブルースがここまでの行動をする理由はそれだけだった。


優しい母親が死んだからではない。青い血になったからではない。人外になったからではない。全て一番に他の男がいるという事実が気に食わなかった。

逆転したかった。だが青い血の序列は一度も変更されたことがない。だからジョージ・ブルースは悔しかったが、赤い血の人間に宿る逆転の性質を探そうと躍起になった。

赤い血の人間は弱い。それなのに時には青い血よりも優位になり、勝利をもぎ取り、仲間同士で集まる。まるで主人公のように。


もしもその性質だけをデータとして抜き出せたら。


十年弱。ジョージ・ブルースはそれだけの時間をかけて、青頭千里を潰そうとした。そして今、その結果が目の前に現れるか否か。

まずロボット操作。システムエッグを保管している部屋にやって来た子供を弄り殺すためのコード入力。指先一つで終了。

次に電脳世界への干渉。常に映像を監視し、時には口を出す。ゲームに余計な茶々を入れるプレイヤーのように、傲慢な方法。


「赤い血の子供達。ここまで来たならば、最後まで私の遊びに付き合ってもらうぞ」




そしてバスは宇宙エレベーターに辿り着く。にこやかに案内しようとするバスガイドを無視して、狭間進歩は十三階を目指す。

実畑八雲は不安そうにしつつも狭間進歩についていく。しかし宇宙エレベーターなのに、内部のエレベーターが稼働していない。

階段を見つけてひたすら走っていく。実畑八雲は、苦行の一種かよ、という声も出ないまま足を動かしていく。


階段の踊り場から外が見えた。街の端。そこから先は真っ黒な世界。青い空も、海も、白い雲すら飲み込まれた終末。

例え終末が来ても地球は残っていると思っていた実畑八雲には衝撃だった。なにも残らない、絶望も消えた、世界という形すら残らない終わり。

どこかで仲の良い夫婦が消えている。暖かい家族達が抱き合ったまま笑って消えている。壮年の男性が全てを受け入れるように消えている。


実畑八雲は先を行く狭間進歩を追いかける。これ以上終わりを目の当たりにしていては、足が動かなくなる。

九階で金髪の西洋人形の形をしたアンドールを抱いた少女が目に映ったが、それも無視して上を目指していく。

辿り着いた部屋は電子が壁を駆け巡る部屋。中央に今度は脳味噌ではなく、少女の姿をした流川綺羅が保存溶液の中で浮いている。


「ここまで来たぞ。合戦準備はできているか?」

「もちろんだよ、進歩。これで本当に……最後だよ」


花山静香を睨むように見据え、狭間進歩は部屋へと入る。そこへ息を荒げながらも追いついた四人の子供達。

約一名は半ば死人のような有様だが、構っていられなかった。戸惑う実畑八雲を押し込み、子供達も電子の部屋に入る。


世界が終わる。物語が終わる。契機となる戦いが火蓋を切って落とされた。


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