旗を求めて
最初からそれに向かって走り続けていたわけではない。最初からそれを目的としたわけじゃない。
ただどうすれば楽しいか。どんな遊びなら大勢と交流できるか。自分にとっての楽しさを追求した結果だ。
フラッグウォーズ。その始まりは竜宮健斗と籠鳥那岐がそうやって考えた他愛ない子供のための子供による遊びだった。
今では地底遊園地でも遊ぶことができる、アンドールを交えた競技。開催されている遊技場の前で竜宮健斗は立ち尽くしていた。
流川綺羅が作り上げた電脳世界。幸せだけの、争いのない木曜日。そこではアンドールを抱いた子供はいても、アンドールを動かす子供はいない。
遊技場の中に入れない。開かない自動ドアを見上げて仁寅律音は肩を竦めた。開催されている、というのは言葉だけだった。
「……なんか安心した」
言葉通り穏やかな表情を浮かべた竜宮健斗に対し、仁寅律音も同意を示す頷きを返す。
幸せだけの世界でフラッグウォーズが改悪されていたら。そう思うと四つ葉をしまっている箱を開ける時と同じ気分だった。
野に生える植物をなんの処理もせずに詰めていた箱を開けるのは恐ろしい。虫が湧きでてたらどうしよう、悪臭がしたら、と思うと鳥肌が立つ。
それでも箱の中に大事に仕舞いこんでいたのは、それが幸せの象徴だったからだ。これだけあれば一つくらい幸せになるだろうと思ったからだ。
二人にとってフラッグウォーズは四つ葉に似ていた。参加すれば幸せになったわけではないが、大事な物を得られる機会だと感じていた。
「でもこれは木曜日だから入れないのか?争いがないから?」
「……再現できないんじゃない?」
開かない自動ドアを触りまくる竜宮健斗を横目で眺めつつ、仁寅律音はつまらなさそうに呟く。
流川綺羅は十年以上前の事故で情緒不安定になり、その直後でほぼ植物状態のまま生きているに過ぎない。
せめて体が動かなくて脳が動いている状態ならば会話を聞けていたかもしれないが、彼女は幸せな夢に逃げ込んだ。
与えられるのは夢を都合のいいように弄りまわすジョージ・ブルースが好む情報だけ。本来ならアンドール関係はいれたくなかったのだろう。
だが十年もの間彼が望む結果は得られていない。逆転の性質を持つ主人公を求めた結果、その性質を含んでいると判断した竜宮健斗と周囲の情報を組み込んだ。
竜宮健斗の情報を取り入れるならばアンドールは不可欠だ。そしてアンドールを取り入れたならば、フラッグウォーズも追加要素として入れなければいけない。
竜宮健斗の情報を入れるだけで他にもアンロボットや地底遊園地などの様々なデータを形成しなければいかない。
だがそれ全てを機能できるわけではない。流川綺羅やシステムエッグにも容量というものがあり、限界を超せば不要なのは削除しなけれないけない。
そこで優先的に情報だけで機能しないとなったのはフラッグウォーズなのだろう。実際に流川綺羅はアンドールを所持していない。
アンドールですら流川綺羅が長い眠りに入った数年後に開発されて普及した物だ。所持したところで彼女が望んだ一週間を再現する邪魔になるだけだ。
「土曜日が地底遊園なのは、南エリアにある小さな遊園地よりも楽しそうだからかもね。クオリティじゃ地底の方が圧勝だし」
「そういえば俺、小さい頃に遊園地行った時迷子に会ったんだよな。同時に俺も迷子でさ、すっげぇ怒られた」
「どうでもいい情報ありがとう。なんにせよ君の情報を入れたせいでこの一週間も大分変わった。その結果が狭間進歩だろうね」
「進歩?」
のんびりと会話していた二人の背後から聞き慣れない声がした。慌てて振り返れば、夏の空に相応しい日焼けをした少年。
今まで見ず知らずの人間が声をかけてくることはなかった。イレギュラーな出会いによる処理を回避するために行わなかったはず。
もしかしてジョージ・ブルースが日曜日になる前に竜宮健斗達を削除しようと動き出したのか。冷や汗をかく二人に対し、少年は年に似合わない様子で声を出す。
「だってここは今のNYRONじゃないか。あいつは昔バスの事故で死んだ。そんな夢みたいな話、というかまじでここどこだ……」
一人で勝手に困惑し、捲し立て、落ち込んだ。話を聞いている内に仁寅律音は少年が実畑八雲だと気付く。
しかも流川綺羅が知っている、作り上げた実畑八雲ではない。十年以上先まで生きた、大人の実畑八雲である。
何故それがと問う前に、気になることは姿が少年であることだ。嫌な予感がした仁寅律音はおそるおそる尋ねる。
「もしかしてマスターという人にクロスなんとかによるなんとかとか小難しい説明受けませんでしたか?」
「君エスパー!?そのクロスなんとかで電脳世界に無理矢理インストールとかよくわからないこと言われたけど、ここで綺羅に会えるって」
予想通り過ぎて苦虫を噛み潰した顔になる仁寅律音。目の前の綺麗な顔が歪んで驚く実畑八雲。
要はクロスシンクロを応用して電脳世界にいる実畑八雲を目印として、大人の実畑八雲の魂を無理矢理アニマルデータにして送信したのだろう。
しかしクロスシンクロしたとなると実畑八雲の本体である大人の体がどうなっているか。仁寅律音は他に説明を受けなかったかを聞く。
「一方送信だから、俺の体は病院内にある機材で補助するからと。羽田くん達がなんとかするって息巻いてたけど……大丈夫かなぁ?」
「光輝達が?うーん、ということは白子や七園関係かな。どうも最近青い血との付きあい方とか悩んでたし」
「あっちもこっちも綱渡りすぎる。もう少し自己利益について考えようよ。利己的は保守的と紙一重なんだから」
苛立ったようによくわからない理屈をこねる仁寅律音に、実畑八雲が落ち着くように諭そうとするが強く睨まれて委縮する。
竜宮健斗は少し考えた様子を見せたが、すぐに自分の頭では解決策は出ないと理解して別のことを考える。それは簡単なことだ。
来てしまったものは仕方ない。ならば実畑八雲がこの後どう活動するかだ。日曜日まで半分もないが、半分近くはあるのだ。
「とりあえず八雲さんに事情を説明して、進歩の助けになってもらおう。さっきの黄色の空の意味も気になるし」
流川綺羅は親しい友人以外を近づけないようにしている。そのせいか竜宮健斗や仁寅律音も迂闊に近寄れない。
もしも機嫌を損ねてこの世界から投げ出されたらどこへ向かうかわからない。ジョージ・ブルースも怖いが、この世界の実権を握っているのは流川綺羅だ。
彼女をどうにかしなければ、この世界は終わらない。幸せは一週間を繰り返すことによって、彼女の命が尽きるまで続く。
先程竜宮健斗達は遊技場に向かう途中で空一面が黄色に染まるのを見た。黒い字が浮かび上がったが、竜宮健斗は読めなかった。
エラーという英字が描かれていたことを仁寅律音は知っているため、システムの根幹にかかわる不都合が起きたのだろうと予測している。
しかし不都合は排除されただけで終わり、暑い空はあっという間に戻ってきた。結局二人はなにが起きたか知ることはなかった。
仁寅律音がなるべく混乱しないように説明していく。実畑八雲は理解し辛そうに頷き、顔だけを百面相の如く変えていく。
単語などは理解できるが意味がわからない、という顔だ。少し面倒になってきた仁寅律音は適当に話し方をくだけさせて語る。
要はこの世界は流川綺羅が作り、全てがデータであり、これが終わらない限り流川綺羅は目覚めないということを伝える。
「……そっか。やっぱあいつはバス事故から立ち直れなかったのか」
「狭間進歩も彼女が作ったデータだよ。花山静香との約束を守るためだけに活動してる」
「進歩がぁ?」
狭間進歩について簡潔に説明した時、実畑八雲がなんの冗談だと笑うように疑問を挟んできた。
これには竜宮健斗と顔を見合わせるほど仁寅律音は驚いた。てっきり死んだ狭間進歩は自分達が知っている人間だと思っていたのだ。
しかし考えてみれば狭間進歩はあくまで流川綺羅が再現した存在に過ぎない。そして実際の狭間進歩を知っているのは流川綺羅以外にもう一人、実畑八雲だけ。
「約束ブレイカーと言われ続け、静香に怒られてふてくされ、厚樹には心底呆れられ、俺も何度貸した漫画が返ってこなかったか」
「……ちょっと待って。今、僕達の大前提が覆されまくってんだけど。狭間進歩ってどんな子供だったのさ?」
「そこらにいる悪ガキと変わんないよ。悪態が多い、小さい頃の結婚の約束を思い出しては地面に寝転がって暴れる感じの」
もう言葉は出てこなかった。どう考えても流川綺羅が再現した狭間進歩と、実在した狭間進歩は別人である。同じ名前を名乗るのも苦しいほどだ。
笑いながら懐かしそうに昔のことを話し続ける実畑八雲。さっきまでの不安そうな表情は消え、子供に戻ったように明るい。
海林厚樹についても魔法使いとかファンタジー作品が好きな根暗で、いつも漫画や小説にあった作品の必殺技を使うような子供だったという。
悪ガキの狭間進歩に、どこか次元がずれている海林厚樹、底抜けに明るい実畑八雲。この三人が揃うと先生も手に負えないと溜息をつくほどだ。
そこに悪ガキ退治専門と言われた花山静香が怒りながら近づき、その後ろをついていくように流川綺羅がやってくる。実畑八雲が覚えているのはそんなささやかな五人だ。
しかしいつもそうやって揃うせいか仲は良かった。日曜日の社会科見学も五人揃って後ろの長席に座るほどだ。それのせいで落ちてきた鉄骨は真ん中にいた三人を押し潰した。
「本当に、あんなことなければ今頃五人揃って思い出話に花咲かせていたのかな、て思うくらいは腐れ縁だと思ったよ」
「実際腐ってんじゃないの?」
容赦のない仁寅律音の一言に実畑八雲は言葉が出てこなかった。現在腐れ縁を再現する流川綺羅のせいで、海林厚樹や花山静香も作られている。
この世界限定で五人は揃う。流川綺羅が望む腐れ縁の五人、腐りすぎて五人全てを果てのない痛みから逃がさないように糸を引いている。
実畑八雲もその縁に導かれて危険極まりないこの世界にやって来てしまった。腐れ縁もここまでくると呪いである。
「く、腐っててもいいんだよ!青かびチーズはそれで美味しいし、納豆だって健康にいい!」
「それは発酵してるからね。発酵食品は独特の臭みがあって苦手な人も多いよ」
「だけども!捨てられないんだよ、十年以上待った!もう待てないし、なにより……君のおかげで綺羅の本心が聞こえた」
そう言って実畑八雲は竜宮健斗を指差す。指された本人は目を丸くし、後ろを見るが誰もいない。
竜宮健斗の右腕はもう動かない。ジョージ・ブルースと流川綺羅の罠により、その神経データを奪われた。
仁寅律音の予想でいけば、彼の右腕は元の体に戻っても動かない。神経データを奪われたならば、脳から送られる電気信号自体が伝わらない可能性がある。
「助けて、ってさ。だから迎えに来た。それに……俺も一人は寂しい」
苦笑する実畑八雲。それは実年齢を滲ませるほど長い年月を生きてきた人間の顔だ。
それを聞いて竜宮健斗は笑顔を浮かべる。自分が起こした行動に、誰かが動いてくれた。腕一本の犠牲も吹き飛ぶような、重要な誰かが。
これで役者は揃った。あとは日曜日、世界が終わる前に流川綺羅が世界を動かすために宇宙エレベーターへ向かうのを追いかけるだけ。
「――とか、考えてないよね?言っとくけど約二名心の準備できてないし、この人も役に立たないと思うからね」
「え!?いやだってもうこれで結構最終局面的なアレじゃあ」
「最終局面突入直前くらいだよ。それなのに準備はできてないし、外もどうなってるかわからない。言っとくけど、最悪に近いからね、今」
「うーん。律音がそう言うならそっかもな。でもとりあえず、八雲さんのことは八雲さんに任せて、俺達はこの後の二日どうするかだな」
相談し始める二人に置いてかれた実畑八雲は、どうしようかと考えたが、すぐに目の前の光景が切り替わった。
実畑八雲は自宅にいた。テレビがあるリビングで勝手にテレビの電源がつく。慌ててリモコンの電源ボタンを押すが、画面は変わらない。
無機質なニュースキャスターが無情にも挨拶を始める。それを初めて聞く実畑八雲は、背筋を凍らせた。
『皆さんおはようございます。本日は夜に流星群が見られるそうです。世界滅亡前の煌めきをご覧ください。輝く良い金曜日を』
まるで過去の再現だ。笑えない実畑八雲は外を眺めて愕然とする。朝のニュースが流れたと思ったら、もう外は夕焼け空なのだ。
家に来客を知らせる音が鳴り響く。扉を開ければ流川綺羅と花山静香、そして狭間進歩が昔と変わらない姿で立っている。
しかし海林厚樹だけ姿が見えないのが不思議なため、実畑八雲は昔と同じような口調で流川綺羅に尋ねた。海林厚樹は何処、と。
「世界消滅前に引っ越しだって。両親が噂に踊らされて大変だよね」
花山静香が答えられない流川綺羅の代わりに明るく答える。その笑顔が怖かった実畑八雲は否定の言葉も出せなかった。
意気消沈する実畑八雲を驚くように見ているのは狭間進歩だった。あり得ないと思いつつも、当たり前に近い言葉が出た。
「お前……八雲なのか?」
意味は簡単だ。データではない、本物の、大人になった実畑八雲なのかと。繰り返され続けた一週間で、全く変わることがなかった実畑八雲が変わった。
しかし花山静香と流川綺羅はなに当たり前のこと言っているのだと笑い飛ばし、早く星を見に行こうと歩き出す。少年二人が付いてくるのを確認しながら。
狭間進歩と実畑八雲は横に揃いながら歩きつつ、小声でどういうことだと話し合う。一体なにが起こったのかを。
「なんで本物がいるんだよ?水曜日の見合いはどうした?み・あ・い」
「どうしてそれを進歩が知ってんだよ!?いやまだ期日があるから、今日にでも綺羅が目覚めれば……」
「俺はムーくんだよ。万結が持っていたアンドール覚えてないか?金龍の」
「はぁああ!?ちょ、おまっ、なんであの時正体言わなかったんだよ!?」
「俺は本物じゃないし、信じられる話か!?こっちだって状況把握で精いっぱいだったし、お前は見合い話とかあるし!」
「それは俺のせいじゃないし、見合いは話関連は止めよう!!本当に気が重いんだ……というか厚樹は?」
「あー。データでのあいつは魔法使いマーリンと言ってな、さっき外に排出したばっかだからもう戻ってこねぇよ」
「なにぃ!?あいつどこに行ってもそんな感じかよ?ち、ちなみにどんな必殺技叫んでた?」
「待て待て待て!あいつはそういう奴じゃないぞ?クールで落ち着きのある……」
「それこそ誰の話だよ!?これが健斗くん達が言っていた大前提の相違ということか!?」
あまりにもお互いの把握範囲が違うため早口になると同時に足も速くなる。そのせいで流川綺羅達を置いていきかけた二人である。
マスターはコーヒーカップ片手にのんびりしていた。狭間進歩がマーリンを排出する際に出したエラーを利用し、実畑八雲のデータを送信した。
送信先は少年である実畑八雲のデータ。同じ人物のデータ、他者から見た再現とはいえアニマルデータとクロスシンクロするには申し分なかった。
ANDOLL*ACTTIONを利用した魂をアニマルデータに変換、そして交換するのではなく押し潰すように送信。
つまり現在実畑八雲の体は魂のない抜け殻だが、生命維持さえすれば数時間くらいは保つ。流川綺羅の病室はそういった機材に溢れている。
羽田光輝達に指示をして、ハプニングがあれば質問に答える。おかげで今は少しだけ休憩が得られ、コーヒーカップに紅茶をいれたところだ。
紅茶には大量のミルクをぶち込んでおり、最早牛乳に紅茶を添えたという品になっているが、マスターは一切気にしない。
「どんな結果になっても私には一切被害がない。これぞ高みの見物。これぞ優雅。うむ、あとは青頭千里が死ねばなにも言うことはない」
「金髪美女はそう言って夜の闇に消えるのであった。完!次回からはミリオン・ブルーノ先生による歴史崩壊大作が始まるよんびーむ!!」
「勝手に入って来て勝手に私の独り言に参戦するな魔女。きもい」
「うわぁあああああああああん!!ひどい、鬼畜、どえす、巨乳、美人、頭脳明晰!だけど人格最悪の人に禁句ワード使われずに罵倒された!!これはもう生きるしかない!」
よくわからない勢いのままよくわからない言動を撒き散らしよくわからないポジティブで立ち上がるミリオン・ブルーノ。
最初から部屋の中にいた気がするし、最初からいなかった気もするため、マスターはどうでもいいから話しかけてくるなと思っている。
とりあえずミリオン・ブルーノに関しては、面白くない、と言わなければどんな罵倒だろうか身の安全は保障される。罵倒一つにつきその数倍の言葉は返ってくるが。
「お前達の出番はまだ先なのだろう?さっさと戻れ。邪魔だ。うざい」
「そんにゃあ、おねえちゃまはミーちゃんが嫌いなのぉん?あたちは自分以外全てが嫌いだよっとぉ☆」
「人外、一番の人外。今すぐこの魔女を回収しろ。でないとお前の性格シミュレートからのRがつく画像厳選集を作るぞ」
「え、なにそれ面白そうでごわずんずん!!まじで性欲すら存在しているか不明の青い血一番好みってなにかなー、妹系だったら拍手喝采大爆笑」
直後、青頭千里は青い血の一番権限と称して速やかにミリオン・ブルーノをマスターから引き離した。その顔は今までにないほど切迫した物だった。
部屋から離れた青頭千里は溜息をつく。気付いた瞬間にはミリオン・ブルーノは腕の中から消えていた。
もしかしたらもう一度マスターの部屋に戻っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。魔女の気紛れは想像する暇すらないのではなく、想像したくないのだ。
下手に関われば貴重な一秒すら蟻を潰すように気軽に奪っていく。六人の魔女の中でも最悪の部類であり、最強の存在でもある。
「十二番と五番はいいとして、六番の相手するのは嫌だな。二番よりはましだけど。三番と四番は楽だけど、十一番がどうでるかだな」
血族の顔を思い出しながら番号で対処の仕方を整理していく。十三人しかいないため、思い出すのは苦ではないが、相手するのが気が重い。
しかしどれもミリオン・ブルーノとジョージ・ブルースに比べれば楽な物である。あくまで比較すればの話であり、決して生易しいわけではないが。
青頭千里は溜息をつきつつも、とても薄く笑う。血族全員を揃えることで行使できることがある。それには二番も逆らえないし、逆転できる者はいない。
「僕の計画の補助をしてくれた礼だけはしてあげよう」
いつの間にか竜宮健斗は自分の家に戻っていた。テレビから流れるキャスターの声も聞こえていた。
しかし仁寅律音の姿はない。どうやら自宅、父親と母親がいる家に戻されたとは思うが、詳しくはわからない。
金曜日になった。後は土曜日と日曜日だが、やるべきことは日曜日に集中しており、竜宮健斗が現在できることはない。
ソファに寝転がった竜宮健斗はフラッグウォーズについて思い出す。楽しいことだけ考えれば良かった日々。
まさかここまで命の問題に関わるとは思ってなかった上に、多くの人々に出会えるとも思ってなかった。
ただ最初に考えていたのは遊ぶことだった。初めてできた不思議な友人に浮かれて、新しく友達になった少年と楽しいことだけを思う。
「……随分遠いところまで来たな」
旗を追いかけるゲームに落ち着いて、大勢で色んな旗を探して走り回った。時には奪い合い、時には一点に集中して。
いつしか旗は別の姿に変わって、今度はそれを全員で追いかけてきた。そして今回が最後だろうと、予感のような物も感じていた。
過去と出会い、未来と触れ合って、現在を進んでいく。竜宮健斗は瞼を閉じて、脳裏に浮かぶ美しい金髪を思い出す。
「クラリス、俺達は生きてくよ。全部抱えて、いつかお前に渡すから」
最後に辿り着く場所に立つ旗は美しいほどの金色だと思い、竜宮健斗は寝言のように呟いてから、ひと眠りした。




