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ANDOLL*ACTTION登龍門編  作者: 文丸くじら


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いざ進め、目的のために

帽子屋達というかつての敵、イタリアからやって来た迷惑娘アントニオ・セレナ。それらを加えた地下室大捜索が始まっていた。

目的はシステムエッグを探すこと。ジョージ・ブルースが持っている手駒で一番重要な役割を持っている物だ。

しかし立ちはだかるのは子供達の手には余るほど強力な狼型ロボットである。今も大きな口で袋桐麻耶の頭を狙って飛びつく。


「極道娘ぇっ!!」

「はいぃいいい!!!太郎くん背中を支えてくださぃいいい!」

「わかったんだなぁ!」


ゴリラのような大きな体の筋金太郎に肩を掴まれ、子供が持つには不釣り合いなバズーカ砲で狙いをつける凜道都子。

地底遊園地の時に使ったモデルガンのゴム弾ではなく、信管を抜かれた巨大な実弾が狼型ロボットの頭上にめり込む。

爆発はしないが、鉄の塊が火薬によって速度を上げてぶつかったに等しい。威力が相殺できずに狼型ロボットは弾んで他のロボットも巻き込んで転がる。


一塊になったロボットの群集に袋桐麻耶が手製のかんしゃく玉と油瓶を投げる。ただしかんしゃく玉は音だけでなく弾ける威力や光の強さなどをいじった、悪ガキ仕様である。

三人は被害に巻き込まれないようにすぐに走り出す。筋金太郎が重いバズーカ砲を持ち、後ろから響く盛大な音を聞きながら冷や汗を流す。

油瓶が割れてかんしゃく玉が弾けると同時に炎が立ち上がる。それもすぐに消化用スプリンクラーで消えるが、損傷した狼型ロボットは漏電によって動けなくなる。


「おっし!次だ、次!楽しくなってきやがったなー」

「こういう時麻耶くんって輝くね。他の皆は大丈夫かな?」

「神楽は律音……中身はシラハだけど、そっちについていったんだなぁ。戦力的に不安なんだなぁ」


そうやって話しながら走りつつ、部屋がないか見回す。もし壁で隠れていたとしたら見つけるのは困難だ。

三人が走っているのは一番下の地下一階だ。侵入した場所がそこなので、どうしても一階のイメージになるが、実際は地下三階である。

袋桐麻耶は適当に壁を叩きながら音を確認する。向こう側が部屋なら、音の響き方が変わると漫画で読んだ知識を利用している。


しかし音の細かい違いなど袋桐麻耶にはわからない。今も通り過ぎた場所に隠し部屋があったのを聞き逃している。

これ以上は新しい発見はないかと二階へと向かおうとした矢先、袋桐麻耶は指令室に向かう途中で壊したテレビが稼働していることに気付く。

先程はジョージ・ブルースが映っていたため遠慮なく壊した。今は砂嵐を発生しつつも、どこかの街並みの映像を流している。


見覚えのある風景に袋桐麻耶はテレビを蹴飛ばして直らないか確認する。凜道都子が壊れると怯えた反面、テレビは綺麗に映像を流し始めた。

夏のNYRONが映し出され、五人の子供達が楽しそうに虫取りをしている。訳がわからない様子で袋桐麻耶は他のテレビ画面を確認し始める。

すると仁寅律音が父親とヴァイオリン演奏しているもの、玄武明良が弟と楽しそうに談笑しているところ、籠鳥那岐が扇動涼香と楽しそうに話しているところ。


幸せを切り取った偽物を見ている気分で、袋桐麻耶は嫌そうな表情を浮かべる。特に玄武明良が和やかに笑っていいるのは彼にとって鳥肌ものだった。

ホラー映像集かと冗談をかまそうとした矢先、あるテレビでは不吉な映像が映っていた。仁寅律音が飛び降り自殺して死んでしまう映像だ。

それを画面の端で立ち尽くしたまま動かない竜宮健斗が眺めている。袋桐麻耶は今度こそホラー映像かよと恐怖した。


「今すぐ全員に連絡!あのクソ野郎こちらのライフ根こそぎ奪うつもりだぞ!!」

「あわわわ……あ、青い血って頭撃てば死にますか?」

「慌てているようで変な部分冷静と見せかけて、大分混乱しているんだなぁ。人外とはいえ殺しは駄目なんだなぁ」


殺気の光を目に灯す凜道都子を落ち着かせる筋金太郎。本当にカチコミをしそうで怖い姿なのだ。

実は西エリアの面々では一番物騒な思考をしているんじゃないかと、袋桐麻耶は思っている。もちろん自分は棚上げした上でだ。

しかしこんな悪趣味な真似をしているあたりで情状酌量の余地はない。仲間の手を汚すのは厭うが、誰か青い血の外道に痛い目見せてくれないかとは袋桐麻耶も考えている。




崋山優香と一緒に行動しているセイロンは連絡を受け取り、テレビ画面を見て驚愕する。

確かに竜宮健斗が仲間の死を見て立ち尽くしている。どういった状況かはわからないが、これが罠の正体なのだと理解する。

仲間の死を並べ立てて心を殺す算段なのかもしれない。崋山優香が見ていたら、その目を覆いたくなるほど酷い映像だ。


しかし崋山優香はテレビ画面に見向きもせず走り続けている。今も壁を触っては隠された部屋がないか探している。

必死なあまり余裕がないとは違う。どこか芯を持った動作で的確に探索を続けている。

気になったセイロンは声をかける。体が竜宮健斗のため、崋山優香はうっかりケンと呼びそうになる。


「優香は映像が気にならないのか?いや見てもらいたいわけじゃないが、健斗のこと心配だとかそう言うのは」

「心配だから早くシステムエッグを探したいの。あの馬鹿でも人を大事にするから、耐えられるかどうかわからないもの」


そう言って走るスピードを上げる崋山優香。首を動かしては荒い息を吐き続けている。

竜宮健斗の罠にしろ、狭間進歩がいる世界にしろ、システムエッグが根幹に関わっている。

外側にいる子供達が二つに干渉するには、システムエッグをどうにかするしかない。


「私はケンが大事。だから絶対に助ける!」

「優香……この体の中にいるのが俺であるのが悔しいほど、良い言葉だぞ」

<ぶっははははははは!まさに混迷の極み!!やはりお嬢さんは私を楽しませてくれる!>


さり気なくついてきている帽子屋に対し崋山優香は言葉を返さない。下手に相手しても疲れるだけの相手だからだ。

しかし帽子屋は戦力としては申し分なかった。ステッキに色々仕込んでいるのか、刀や銃といった武具を自由自在に操っている。

ただし笑いのツボにはまると笑い続けるので、なるべく笑わせないように努めている。だが笑いのツボもトチ狂っているので、面倒な相手である。


「帽子屋さんも無用の長物扱いされたくなければ、頑張ってください!」

<無用の長物!?ぶっは、用も無いのに長い物ってほんとうになんですかぁ、それぇっ!!ぶっはははははははははははははははははは!!!!>

「またわからない笑いのツボにはまりやがった。布団が吹っ飛んだには笑わないくせに」

<いやだってそれシュールすぎて意味わかりませんもん、と真顔になるくらい面白くないです。私に顔はないんですけどね、ぶっはははは!!>


一人で永遠に笑っていけそうな帽子屋を放置しつつ、崋山優香達は進む。崋山優香の手にはバットが握られている。

皆川万結の能力で生み出された写真。もしそれがこの先の確実を予知していると言うなら、崋山優香は自分の役割がわかってきた気がした。

だからこそ帽子屋に抱く怒りも、時間が迫る焦りも、途方もない不安も呑み込んで、システムエッグを探し続ける。




相川聡史は猪山早紀と扇動美鈴、そしてチェシャ猫と共に行動していた。時たま他の面々とも出くわしながら、おそるおそる進んでいる。

チェシャ猫が透明化してロボット達に近づき、隙をついて関節部分に細い針のようなスタンガンを当てて壊している。

ロボット達が動かなくなったのを確認してから歩きだし、扇動美鈴がパソコンを使ってロボットのCPUにアクセスする。


ネット通信の切断や認識プログラムなどを即座に組み替えて、警護ロボットとして動けるように改造している。

天才級の頭脳を持つ扇動美鈴がいるからこそできる芸当であり、他のロボットと個体差がつくように適当な色塗りを相川聡史が行う。

下手な迷彩柄のような色になった狼型ロボットは忠犬のようにお座りの体勢で命令を待つ。


「地底遊園地の時にウィルスAliceが行ったロボットのプログラム書き換えが参考になりました。あらかじめアラリスさんに簡易書き換えのシステムを組み込んでもらったのも良かったです」

「なんか天才の片鱗を見た気がする。失敗は成功の母、ってか」

「それよりも早くシステムエッグを探さなきゃ!明良くんが心配になってきたもの!」


猪山早紀は慌てた様子で二人を急かす。動いている途中で見たテレビ映像が忘れられないのだ。

玄武明良と一緒にいた弟らしき少年はおそらく十年前に死んだものだ。猪山早紀ですら驚いて言葉を忘れるほどだ。

多くは母親に似ていたが眉毛が父親そっくりで、そこが玄武明良によく似ていた。幸せそうな家族像、玄武明良が失った全てだ。


そんな世界があれば良かったと第三者の猪山早紀でさえ考えるほど、失った時の玄武明良は酷い状態だった。

しかしいざ目の前にすればそんな世界はすぐに消えてしまう幻で、下手したら玄武明良自身さえも失ってしまう危険性が高い。

せっかく好きという言葉が聞けた矢先に別れる羽目になるのは猪山早紀にとっては最悪だ。だからこそ早く玄武明良をあの世界から離脱させたかった。


「僕も明良さんの弟とはいえ、幻風情があの人を笑顔にしているのは腹が立ちます」

「……ん?なんかおかしくないかそれ。ちょっと美鈴嫉妬してんのか?」

「いいえ。ただすこーしだけ自分の持てる頭脳全てを使って状況を好転させようとは企んでいます」


頼もしく聞こえるはずの言葉が、不穏な影を見せたことに相川聡史は何も言わなかった。

ただ何故か味方になった迷彩柄ロボットが可愛い前脚を相川聡史の肩に置き、兄ちゃんも大変だねぇと言いたげなのが笑えなかった。

扇動美鈴は玄武明良の弟分として、あれには負けられないと対抗心を燃やしていた。チェシャ猫はそれを眺めて一言呟く。


<にゃんちゅう修羅場>




御堂霧乃は画面の向こう側で笑い合う籠鳥那岐と扇動涼香の姿を見て歯軋りしている。

その様子を伊藤三つ子と柊、錦山善彦が眺めていた。両手でテレビ画面を掴んで揺さぶる姿は荒れ狂った動物のようだった。


「ぬがぁああああああああ!!なっちゃんが涼姉独り占めとかどんな罰ゲームだこのやろぉおおおおおお!青い血許すまじ!!」

「絶対怒りポイント違う気がするんやけど!?いやぁ、それにしても将来美人さんになりそうな娘さんや」

「そんな将来はないよ。この世界でも、目の前に広がる世界でも、涼姉は大人になれない」


一瞬真面目な表情をして御堂霧乃は吐き捨てるように呟いた。すでに死んだ人間、記録から構成されたデータの塊。

たった一週間で終わる世界で笑う扇動涼香はどこにも向かえない。笑って、笑い続けて、日曜日には消えてしまう存在。

幸せな世界で終末が訪れるまで笑い続けるだけ。流川綺羅は望む世界はそういう仕組みだ。


「なっちゃん、データの涼姉にどんな答えを出すつもりなんだろうな。地味能力の錦山善彦さんの意見はどうでしょうか?」

「ニュースキャスターが専門家に尋ねるような口調やなぁ。ボスなぁ……ちゃんとケジメつけると思うで。じゃないと一番苦しいのを知ってるんやから」


肩の力を抜いた微笑みで自然に出てきた解答を口にする錦山善彦。今まで見てきた籠鳥那岐を思えば、先読みする能力など使わなくてもわかることだ。

一本筋で、一途で、一直線にしか動けないような少年。それが籠鳥那岐であり、南エリアのボスを務めた者だ。

優しい性格ではないし、真面目というには少しずれたところがある。ただし誰よりも融通が利かない。一度決めたら、曲げない。


「ボスの中で彼女は死んどる人間や。どんなに目の前で笑っていても、それを忘れられへん。だから最後はちゃんとしめると思うで。それが、なっちゃん、やろう?」

「うーわー。今の呼び方をお前がしたと言えば絶対なっちゃんのアイアンクロウが決まる!三つ子、今のを覚えとくんだ!面白いことになる!!」

「あかんあかん!!俺はボスの力技には慣れてへん!能力使って先読みした結果、受けた時の俺の悲痛な顔が目に浮かぶんで、ほんま止めてください!!」

「ぐすっ……大丈夫。私達が忘れても、ロボットの柊さんは記録としてデータ保存できるから」


錦山善彦にとっては大丈夫じゃない言葉が伊藤三月の口から発せられる。柊は急に巻き込まれたことに動じず、周囲の状況を観察する。

画面を眺めている間は狼型のロボットは近くで待ち構えているようだ。空気を呼んでいるのではなく、子供達がどんな酷い状況になっているか思い知らせるための配慮なのだろう。

現在三人は電脳世界で与えられた幸せに抗えず、もう一人は罠の中で陰惨な光景を眺め続けている。重要データの少年は同じ一週間を繰り返し始めた。


先行きは不透明なままだ。それなのに押し寄せる不安すらも呑み込むように、時間だけが無慈悲に進んでいく。

青い血など大人達は眺めているだけで、必死に動いているのは子供やデータ、ロボットなどの類だ。

夜明けまで続くであろう戦いに、柊は意図せずに拳を握りしめた。ロボットとして行動してきた中で、初めての無意識だった。


「笑えない状況なせいか、一哉の表情が強張ってきたんだがどうしよう?」

「代わりに二葉が笑えばいいじゃない。兄弟でしょう?ぐすっ……」

「怒るぞ?お前だって三つ子の末っ子のクセに毎日毎日生意気なこと言って、そろそろ俺が本気出してもいいはず!」

「なら出してみなさいよ、本気。涙目で眺めてあげる」

「ごめんなさい」


兄の意地を見せようとした伊藤二葉だったが、妹の伊藤三月に勝つことはできなかった。三つ子の関係性が明らかな構図である。

実は三人の喜怒哀という特徴は無理なキャラ付けだったんじゃないかと、錦山善彦は他人事なのだが心配していた。

それすら気にせず御堂霧乃は画面向こうで笑う扇動涼香を写真に残そうと、柊に画面映像をダビングしろと命令する。


うっかりそこ通りかかった楓と東エリアの三人組、基山葉月と有川有栖と布動俊介、さらに瀬戸海里と鞍馬蓮実は関わらないように、すぐ回れ右をした。





仁寅律音の中に入っているシラハは困惑していた。周囲を付きまとうように歩く葛西神楽が頼りないことではない。

いつもより表情が柔らかい籠鳥那岐、そして好き勝手に暴れ回るアントニオ・セレナ。この四人組の構成になると予想していなかったのだ。

アントニオ・セレナは葛西神楽と籠鳥那岐に大きな荷物袋を持たせ、その中から手榴弾や拳銃などを好き勝手に使う。


最初はサンタが持つ袋みたいだとはしゃいだ葛西神楽の顔は、今では萎びた青菜のように見る影もない。

籠鳥那岐、正確にはシュモンのデータが入った彼は子供がすることじゃない、と頭痛がしてきたようで頭を抱えている。

ヴァイオリンケースを持って体に被害が出ないように眺めていたシラハは、アントニオ・セレナに他愛ない質問をする。


「暴れるのが好きなのか?」

「ノンノーン、自分の思うがままにやれるのが楽しいだけですし。私はずっとレディであることもポイ捨てて、シークレットに生きてきたつもりでーす。それが今は違う」

「マフィアの跡目を継ぐ男を手に入れたからか?」

「ダーリンは素晴らしい。闇の世界をさらに濃くする劫火として、畏怖の象徴となるでしょう、と思春期ハイスクール的な設定付加をしてみました☆」


お茶目な口調でおどけるが、目が笑っていない。そんな少女を目の前にシラハは早くも帰りたかった。

データとしての体でスーパーコンピュータ内でゆったりと過ごしたい。それくらいアントニオ・セレナは得体が知れない。


「しかし暴れるのも限界がありますし、早く終わらせてほしいもんですし」

「そうだな。ただ夜明け前まで続きそうだが、大丈夫か?」

「え?」


アントニオ・セレナが真面目な顔で疑問符を浮かべた。明らかに不意を突かれた人間の顔である。

そして全てを悟った。短期決着のつもりで考えもなしに重火器を乱射していたということを。

重い沈黙が流れたが、葛西神楽が明るい声で励まそうとした。


「大丈夫なりよ!いざとなれば能力を使って……」

「お前の能力は能力無効化で、ロボット相手には意味がないだろう、馬鹿めが」

「そうそう。下手に踊って馬鹿なことをしないように」

「馬鹿に付ける薬はないんですよー?無駄な薬品使用はお勧めできませんですし」

「ぬがぁああああああああ!!シラハもシュモンもセレナも全員酷いなりぃいいいいいいい!!」


葛西神楽の叫び声によってロボットが軽やかな足音で迫る。

アントニオ・セレナは溜息をついてから、鋭い犬歯を見せて笑う。

ちょっとしたアクシデントくらい乗り越えなくては、これから先は生きていけない。


マフィアの道を歩く者として、女も男も関係なく、アントニオ・セレナは火力を振るう。

覚悟を決めたアントニオ・セレナの背後ではシラハとシュモンが葛西神楽相手に説教をしていた。

いまいち緊迫感が足りない四人組は、それでも前進しようと袋の中から新たな重火器を取り出した。





玄武明良、ドードー鳥、時永悠真、笹塚未来、絵心太夫。ドードー鳥は狭い廊下でも翼を広げては襲い掛かってくる狼型ロボットを薙ぎ払う。

背後からの奇襲には絵心太夫が重力を感じさせないフットワークと、子供ではありえないほど重い一撃を足に乗せてぶつける。

自分中心に重力を操作できるため、動く際には重力を軽くしている。そして相手に足や手が触れた際には重力を強くする。


ドードー鳥と絵心太夫の間に挟まるように状況を見据えているのが笹塚未来と時永悠真だ。

二人の傍に玄武明良、中身はガトというアニマルデータ、が床の上で寝そべっている。

というのも予想以上に玄武明良の体が老人の体よりも衰えており、鍛えた老人であったガトからするとあり得ない弱体なのだ。


「まさかこんなにも運動ができない体だったとは……恐れ入った」

「恐らくボスは激しい運動の時は気力で保ってるんだね。そういう意味ではすごい精神力な予感」

「言ってる場合かよ!?完全な挟み撃ちに出会ってんだよ、わかってんのか!?」


可憐な美少女顔でドスの利いた声を出す笹塚未来に時永悠真は曖昧な笑みを返すしかない。

なぜか普通に歩いていたら挟み撃ちをされたという、最悪な状況での会話。笹塚未来でなくても同じことを言うだろう。

しかし戦っている絵心太夫がヒーロー無双をしているようだと嬉しそうなので、大変コメントしにくい場面ではある。


「優しい世界かぁ。ガトさんはどう思う?」

「……ワシには関係ない話だ。どう足掻こうとも、消失文明がシステムエッグによって滅んだことは変わらん」


玄武明良の顔で神妙に呟くガトは疲れ切った老人の表情をした。それだけで別人の顔に見えてしまう。

全ては泡すら消えた過去の話。ガトが生きた時代は、文明は、夢を見るにも遠い世界の物だ。

耳に届いた言葉に満足した時永悠真は、そうだよねと頷く。笹塚未来は怯えた目で彼の顔を見つめる。


「ガトさんの過去も、僕の未来も、幸せな世界ではなかったことになるんだ。僕の目の前で死んだ雷冠も哲也も」

「……それがお前にとっての不幸だからか?」

「違うよ。流川綺羅、彼女の幸せな世界では不要な情報だから、だよ。人の不幸なんて考える暇もない、我儘な女王様が作り上げた電脳世界な予感がするよね」


皮肉な笑みを浮かべる時永悠真の顔を見て、笹塚未来の背筋に悪寒が走る。

彼にとっての過去とはもう二度と帰れない未来の話だ。それでも確かに存在した時間を覚えている。

それを何も知らない幸せだけを望む女性によって、否定される。幸せな世界での時永悠真はなにも知らないまま笑っている。


「だからぜひあの世界は壊してほしい。太夫くんだって、そう思わない?」

「ん?んー、そうだな。だが困ったことにあれを望む者も多い。どうなるかはフラグが立つまでわからないだろう」


狼型ロボットを片手で掴んでは投げ飛ばしながら、絵心太夫は珍しく見通しが立たない様子で言う。

いつもだったら自信満々に根拠がないような理論を告げるのだが、それがないということは本当に行く末がどうなるかわからないらしい。

ただ一つだけ希望観測を思いついて、後ろを振り返らないまま絵心太夫は時永悠真に語る。


「しかし何事も諦めずに一歩踏み出せば変わるものだ。必要なのは結果ではなく、一歩踏み出した事実である!!」

「失敗する方法ならいくらでもある。しかし成功する道はたった一つしかない。アリストテレスの名言、だよ」

「なるほど、それはいい!ならばやるべきことは一つだな!ドードー鳥、押し返すぞ!!」

<ワシにかかれば百万馬力よ!ホーホケキョ!>


狼の群れに向かって少年と鳥が果敢に一歩踏み出していく。

童話のような文言が似合いそうな状況の中、笹塚未来は頭の中でドードー鳥がウグイスの鳴き真似するなよとツッコミをいれていた。


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