68、大陸大脱出
どういう事なのか分からなかった。
この二人が今このタイミングで何故だと信じられない気持ちだった。
そんな事をシュウが考えている間にもバルバとゼッドはシュウへ武器を振るおうとしている、何の冗談でもない。嫌でも感じる殺気は本気だと思わされる。
「っ!」
ヒュォォォーーーーーーーーーーッ ドガァンッ
咄嗟にシュウはバルバ、ゼッドに向けて風の魔法を発動。二人へと強風の衝撃が襲いかかり王の間が暴風となって二人の身体は後方へと吹き飛ばされ壁へと激突した。
「二人とも、どうしたと言うのだ!?何故急に!」
「ハァァ……戦い無くして俺は生きられん……無くなれば自ら作るまで……そしてお前ら程強い者はいない……!だから俺はお前らと戦う!」
ゼッドの闘争心が暴走しているのか、しかし剣を交えてきたカリアはゼッドが突然そのような行動に出るような男ではないと思っていた。此処まで戦闘狂ではないはずだ。
「人間と共に暮らすなんざよく考えりゃ……まっぴらごめんだ……!魔王様よ、そんな世界の実現させねぇよぉ!」
バルバの人間を下に見る姿勢が悪い方へと出て来たか、今になってバルバは人と魔の共存する世界を拒み魔王へと逆らい剣を向けた。
「正気ですか、バルバ!ゼッド!あなた方がそのような愚かな行動に出るなど……想定外にも程があります!」
珍しくミナが声を荒げてバルバとゼッドへと叫んだ。長である二人がこんな暴挙に出るなどミナは可能性としては考えていなかった、まさかヴァント王国との戦いが終わってすぐのタイミングで裏切るなどと。
しかし二人はミナの言葉には耳を貸そうとはせず、再び武器をそれぞれ構えていた。
「(凶暴化?それとも洗脳?どっちにしてもこれで解く!)レスト!」
シュウはバルバとゼッドへと正気に戻す為に魔法を唱え、二人を魔法陣が取り囲む。これでどっちの可能性だろうが状態異常は解かれ正気へと戻るはずだ。
シュゥゥゥゥ
「な?!」
だが、そうはいかなかった。まさかの光景にシュウは表情が驚きへと染まる。唱えたはずのレスト、その魔法陣がバルバとゼッドを取り囲んだと思ったらかき消されてしまった。
「どういう事だ!?レストは凶暴化した者などに効果を発揮して正気に戻す魔法のはずだろう!」
「まさか…………二人はこれが正気だって言うのか?」
信じられない様子のカリア、必死にシュウへとどういう事なのか問うとシュウは驚きつつも効かない理由の一つとしては何の状態異常に陥ってはいない。
凶暴化でも洗脳でもなんでもない、そうなればレストをかけても何も意味は無いのだ。
「ぐおおおーーー!」
「っ!」
ギィィィンッ
ゼッドがシュウへと斧を振り下ろす、しかしその前にカリアが大剣を既に抜き取っており自身の剣でゼッドの斧を受け止める。最初の頃の決闘以来となるゼッドの斧、その力はやはり並外れており受け止めるカリアも辛そうだ。
「それが正気で、お前の本心だと言うなら……我々を斬ると言うなら!私は貴様を斬る!」
ドカッ
ゼッドの腹へと鍔迫り合いの中、カリアは右足による前蹴りを食らわせて一旦距離を取る。魔王軍として同じ釜の飯を食べたりとゼッドやバルバと交流はある。だが今の彼らは明らかに自分達を狙っており、それも何の異常状態ではない正気だ。
つまりゼッドとバルバは何者かの意思ではなく自分自身で決めて引き起こした事になる。
どちらにしてもカリアはゼッド、バルバを斬らなければ自分達がやられると判断して剣を両手で構えた。
「ゼッド、バルバ!キミ達は……最初からこうするつもりだったのか?戦いが無くなったら自分達の手で新たな戦いを引き起こそうと……?」
「どう考えるのもあんたの自由だ魔王様、とりあえず潔く死んでくれや!」
バルバが空中を舞い急降下でシュウへと剣を振り下ろしにかかった。彼の剣に迷いなど無い、何の躊躇もなく先程まで絶対なる上の存在だった魔王に対して剣を向けている。
「っ!」
シュウは杖の先端から炎の玉を飛ばす、瞬時に発射しておりパワーはそれ程ではないがそれでもそれなりの大きさのボール状の物だ。
「おっと!」
しかしそれをバルバは軽やかに空を舞って躱す。空中戦において彼の素早さは魔王軍随一、それに恥じないスピードを持ってシュウの魔法を避けた。
クイッ
それをシュウは杖を持たない左手でこっちへ来るような動作をする。
ヒュッ
「何ぃ!?」
するとバルバが避けたはずの炎の玉が何時の間にかバルバの後ろにまで迫っており、背中に感じる熱さに気付いて後ろを向くと魔法が迫りバルバを驚かせる。咄嗟に避けるも間に合わず…。
「ぐわぁっ!」
炎の玉がバルバへと当たるとプスプス身体を焦がしながらも空中から地面へと落下。ダメージは受けているだろうが命は無事のはずだ。
急に敵になったとはいえシュウはバルバの命を絶つような事は出来ずにいた。
「ぐおおお!」
ドォォーーーーンッ
ゼッドの戦斧が振り下ろされ、城の床が砕ける程の強烈な一撃。だがカリアはその場にはいない。城の床が砕けホコリが舞うとゼッドの視界は大半が白く見えた。
ズバッ
「かっ!」
何処だと探させる余裕をカリアはゼッドに与えたりなどはしなかった。埃で目眩しをさせ、死角から大剣を横薙ぎに振るってゼッドの胴体を切り裂いた。
手応えあったと感じればカリアはその場から離れ、シュウの姿が視界に入ったので一旦傍まで駆け寄る。
ゼッドとバルバは共にダメージを負っていてこのまま行けば殺さず抵抗出来ない状態にまで追い込める事は充分可能だろう。
そこに王の間に慌ただしい声がした。
「ま、魔王様ー!大変ですー!!わぁ!?こっちも大変!?」
駆けつけて来たのは魔王軍の女料理長メリルだ、報告に来たのかと思えば負傷したバルバとゼッドを見てビックリしたリアクションをしていた。
「メリル!どうした!?」
何やらただならぬ感じがしたシュウはメリルへと何があったのかと距離がある中大声で訪ねた。
「あ、あの!魔王軍の兵士達が…………暴れだしました!その中に「殺せ、魔王を殺せ」という声もあったので魔王様の身が危ないと思ってそれで……!」
「!?」
ゼッドとバルバが暴れたと思ったら急に魔王軍の兵士達まで暴れ始める、それも主の魔王に敵意、殺意を向けての事らしくメリルはこれに慌ててすぐシュウの居る王の間へと慌てて駆け込んで来たという訳だ。
これにミナが素早く反応し、バルコニーの方へと出るとそこには殺意が充満していてシュウが率いる魔王軍の兵士達が揃って城を睨みつけておりミナと目が合うと魔族の兵士が飛びかかっていった。
ビシュッ ドスッ
「がは!」
そこに躊躇なく弓矢を引き、魔族の命を絶つ者が居た。テシが険しい表情で弓矢を持ち、ミナを助けたのだ。
「魔王様!こいつは駄目だ、逃げた方が良いよ!城が完全にあんたの魔王軍兵士達に包囲されてる上にあれが居るんだ!」
シュウにそう叫ぶと共にミナが見据える先に居るのはダメージを受けつつも立ち上がるバルバとゼッド。
今、カリアとシュウ達は完全に彼らに囲まれる形となってしまった。
「一体何がどうなってるんだよ……!?」
「知らん!ただ言える事は、状況は非常に良くない。それは確実だろう!」
魔王軍の長だけでなく魔王軍の兵士達まで魔王を裏切り襲いかかって来ている。シュウはこの原因が全く分からず珍しく動揺しており、カリアはシュウの前に立ち剣を構える。
この状況で自分達が生き残れるかどうかは分からないが、ミナやディーにメリルといった者達を守りながら何処まで戦えるか未知数だ。
その時テシが決心したように口を開く。
「あいつらはあたしが引き付けとく、その間に魔王様……あんた移動魔法唱えて皆連れて逃げて!」
「!?テシ、何を言っている!そんな事……」
「どっちにしてもあたしらが終わる確率の方が高いんだよ!だったらより生き残る選択取るのが一番良い!このまま全員殺されて何も知らずに終わり、そんなの嫌じゃん!?」
カリアはテシの提案した無茶極まりない作戦に反対しようとしたがテシの珍しく真剣な表情と声にカリアは押され、反論出来ずにいた。
「ほら!敵は待っちゃくれない!迷ってる余裕なんか無いよ魔王様!」
そう言ってる間に魔王軍が、そしてバルバとゼッドが体勢を立て直そうとしている。もたもたしていたら両方からの攻撃が来るのは確実だった。
テシの言うように迷ってる暇など無い。
「こっちだよこっちー!」
テシは弓矢を放ち集団を引き付ける、決死の作戦は成功し魔物達の注意はテシへと向いていた。
そしてシュウは移動魔法を発動させるとテシを残し一同がヴァント王城から姿を消す。
「……それで良いよ」
テシはそれを見ていて、カリアやシュウ達が移動魔法で脱出した様子を見届けた後に魔物達やバルバ、ゼッドと向かい合う。
「こ、此処は!?魔物達は……!?」
「ガウー!」
大勢の魔物達に囲まれながらの逃走、次に姿を現した場所にメリルは冷静に回りを見れずディーへとひっついていた。
「いきなりどうしましたのあなた方!?」
そこに声をかけてきたのは聞き覚えのある女性の声、カリアとシュウがそちらへと揃って視線を向けてみれば玉座に座るミーヤの姿があった。となれば此処はロウガ王国の王の間だ。
察するにシュウがあの短い時間に大勢を運ぶ時に思い浮かんだ光景がロウガ王国であり、移動魔法を発動させて一行を此処まで運んだのだ。
「ミーヤ王女、急な訪問となり申し訳ない!ただ事態は一刻を争うのだ!急いで皆この国を離れてほしい!」
「え、ええ!?どういう事ですか!?何がなんだか分かりませんわ!」
カリアはミーヤへとこの国を全員離れるようにとすぐに伝える、ロウガ王国はヴァント王国に近い位置にある国。つまり今の魔王軍が追って此処に来るのは時間の問題だった。
「バルバが飛行部隊で追って来るとしたら彼らの部隊がすぐにロウガ王国へ襲いかかる可能性がある……戦えない民の避難は速やかに行った方が良いです」
ミナは向こうにバルバが居る事を考えると、ゼッドは白兵戦は強力といえど此処に辿り着くまで時間がかかる。となるとバルバが単独で空を飛べる者を揃え追って来る可能性がある。住民の避難はすぐ行うべきだと冷静に意見を述べた。
「どうやらただ事ではなさそうだな、今日は嫌な予感はしていたのだが……どうも当たりらしい」
「お父様!」
王の間へ入って来た負傷が癒えきれてないライザン、まだ至る所に包帯が巻かれているものの自力で歩ける程には回復していた。
「私は民へと避難を呼びかける!お前はセティアと共に避難の準備を急ぐのだ!」
「は、はい!」
そう言うとライザンはすぐに王の間を飛び出し街へと向かって走って行った、そしてミーヤは母親セティアを呼びに走る。
「カリア!」
そこにまた新たな人物が王の間へと入って来た。カリアの名を呼ぶその人物はアードだった。
「アード、何故此処に?」
「急にヴァント王国から魔王軍の兵士が凶暴になって出て来たから近くにあるロウガ王国に知らせようと飛んで来たんだよ、それでカリア達もロウガ王国に居て……一体何があったんだ?」
「それは僕達の方が聞きたいぐらいだよ……」
アードはヴァント王国の上空を赤い竜に乗って飛んでいた、すると上空から見えた魔王軍の兵士が様子がおかしくなり凶暴化したという姿。これにロウガ王国が危ないと感じ、竜を飛ばして早々に知らせに来たのだった。
「アード、その中にテシ……女のエルフはいなかったか?」
「いや……全体をくまなく見たという訳じゃなかったけど俺が見た限りではエルフの姿は見かけなかったな」
カリアは自分達を逃してくれたテシがどうなっているのかと気になりアードなら何か見ている事を期待して訪ねたのだがアードは魔物の中にテシが居たかどうかの確認は出来なかったようだ。
とりあえず今の状況についてアードへと話す。
「なるほど……それじゃあ空は俺が見張っておく、あの鳥野郎が来たら真っ先に知らせるよ」
「うん、助かる」
ドラゴンライダーの協力をとても心強くありがたいとシュウは礼を言うとアードは王の間を後にする。バルバが何時来るのか分からない中、アードによる見張りは心底助かる。
「ただ住民の人を避難させると言ってもあのバルバ率いる空の軍団を一般の人の移動スピードで……間に合うんでしょうかね?」
避難が進む中、メリルは思っていた不安要素を口にする。それはどれぐらいの速さで何処に住民達が避難するのか、全員が全員機敏に動ける訳ではない。身体の不自由な者が居れば多くの荷物を抱える者も居るはず、そうなると素早く避難するのは至難の業となってくる。
それも機動力に長けているバルバ達空の軍団が襲撃となれば更に迅速な速さの避難が求められるだろう。
だがいくら早めに避難と言ってもその速さを上げるのは一時的な物だろうし速さがどれぐらい増すかの効果もたかが知れてる程度と言っていいかもしれない。
「おい」
その時何処からか声がした、最近聞いた覚えのある物でありそれはシュウの持つ杖から聞こえた。
「!?つつ、杖が喋ったぁ!?」
「ガウー!」
その場にいなくて事情を知らないメリルは盛大に驚きディーに抱きつく。
杖に宿るデーモンロード、その身を移してから此処で喋る事も可能となっている。これもまたデーモンロードの持つ超魔力のせいなのか。
「何やら多くの者を何処かに移動させる事に迷っているようだが、お前の持つ移動魔法で纏めて全員移動させれば良いのではないか?」
先程大勢の魔王軍から逃れる為にシュウは移動魔法を使った。それをデーモンロードは見ておりシュウがその魔法を使える事を把握したようだ、それで悩むまでもなく魔法で全員移動すれば良いだろうと口に出した。
「簡単に言うけど僕一人でそこまで大勢の規模の大移動は、難しいね。そういうのはもう一人の使い手により協力があれば出来たかもしれないけど……」
以前シュウは城塞都市アムレート攻略の時に同じく移動魔法の使い手であるマリアンと協力し、二人で大勢の魔王軍兵士を移動させられるゲートを作っていた。
だが今回はマリアンがおらず、他に移動魔法を使える者がいない。アムレートの時みたいな手段を使う事は不可能と言っていい。
「それぐらいなら我とお前で協力すれば出来るだろう」
「!?手伝って……くれるの?」
「そう言っているのだが、不要か?」
「いや、是非手伝ってほしい。大いに助かるよ」
まさかのデーモンロードが協力を申し出た、かつては一般市民を恐怖のどん底に叩き落としたであろう古の悪魔王が今の魔王と協力して人間を助けようとしている。
なんとも奇妙な話ではあるが、しかし今はこの助力が何よりも大助かりなのに変わりは無い。
「だが、移動と言っても何処に行けばいいのだ?皆にとって最適という場所を知らなければ……」
「それはすぐにライザン国王に聞きに行こう!」
シュウはそう言うと王の間から駆け出して街へと向かい、カリアも後に続き、それにミナとメリル、そしてディーも追いかけた。
「何処に避難するのが最も最適か……」
街に出るとライザンが丁度避難を呼びかける姿があったのでシュウは早速話しかけ、避難場所について聞く。
「港街ナジャス、ミーヤがそこの者達と多く交流をしていてな。そこからロウガ王国での交流も始まり、大型船を作ってもらった事もある……なので、大型船でこのギーガ大陸を出て隣の大陸、グラン大陸へと向かうのがベストと考える」
グラン大陸
ギーガ大陸の西に位置する場所にある大陸で広さとしてはギーガ大陸に次ぐ広大さを誇る。隣の大陸まで行けば流石の魔王軍もそう簡単には追ってこれないはず、住民としてはそこが最も安全な場所と言えるかもしれない。
本当ならその大陸に一気に送るのが良いだろうがシュウもデーモンロードもその大陸については知らず、具体的な光景が見えないので移動魔法は不可能だ。
なのでシュウが覚えているナジャスの港街、そこまでが限界でありその先は大型船でグラン大陸を目指すしかないだろう。
「ナジャスまでの道は作る、だから住民達を此処に集めてほしい」
「うむ、承知した!」
シュウは港街への道を作り住民達の安全を確保するとライザンの顔を見上げ、言い切りライザンはこの小さな魔王に賭けてみようと決断し頷けば住民を広場へと集めるようにと兵士達と共に動き出した。
ロウガ王国の広場に住民達は各々荷物を持って集まっていた。不安を口にする者も当然いる中ライザンは皆へと状況の説明をしており、セティアは安心させるよう優しい口調で声をかけていた。
そしてミーヤは住民が皆いるのかどうか兵士達と共に確認している。まだ来ていない者はいないか入念にチェックすると全員揃っていると分かった。
「いいぞ、始めてくれ」
ライザンはシュウに準備が整った事を伝えるとシュウは広場の中央に立ち、杖を右手に持ち念じる。
「むうう~~……」
「(感じる……とてつもない魔力が杖から……これがデーモンロードの魔力……!)」
外からその魔力を感じ取った事は何回かあった。だが直にこうして間近で感じる魔力はまた一味違う、デーモンロードが杖の中で魔力を高めればそれだけで規格外の魔力が杖から溢れ出て来る。
これならば港街ナジャスまでの移動魔法、皆を運び繋ぐゲートを作る事は可能。
シュウが移動魔法を発動させると渦巻く異空間が出現、これに住民達は戸惑う。今から自分達は避難の為にこのゲートに飛び込まなくてはならない。
未知の事なので躊躇は当然あるだろう、だが迷ってる時間はそうは無い。今やらなくては待っているのはおそらく死なのだから。
「い、行くぞ!」
住民の男が勇気を振り絞ってゲートへと飛び込んだ。それを見て一人、また一人と次々ゲートへと飛び込む姿が確認出来る。
「子供や女性やお年寄りを優先に!皆慌てず進むのだ!」
ライザンは不安になる住民達へと度々声をかけ、不安を可能な限り軽くさせるよう努めている。自らはまだ避難せず民の安全を優先して残っていた。
「ミナにメリル、キミ達も先に行って」
シュウは此処でミナとメリルの女性二人も先に行くようゲートへと促す。
「魔王様が残っているのに先に行く訳にはまいりません」
「そ、そうですよ!そんなに頑張って皆の事守ってくれて一人安全な所行けないです!」
だが二人は共にシュウより先に逃げる事を拒否、逃げる時はシュウと一緒だと決めている。大半の魔王軍がおかしくなり、姿を見せないマリアンとクレイの行方は分からない。
二人は数少ない同じ魔王軍だ、そして女性。シュウとしては一般の女性と同じく優先して安全な場所へすぐ向かってほしいと思っているが自分についてきてくれてる事にも感謝する。
「住民の避難終わりました!国王陛下も早く!」
「いや、先にお前達が迎え!先に行った住民達の安全を守るのだ!」
「!はっ……!」
「ミーヤ、セティア!お前達も先に行ってくれ!」
「お父様!」
「あなた……ミーヤ、行きましょう」
ライザンへと避難するよう言うがライザンは兵の方を優先した、自分は後の方にして残る。いきなり襲いかかる敵が居たら自分が受けて立つつもりで殿を務める。
その気持ちを察したかセティアはミーヤを連れて共にゲートへと飛び込んだ。
「来た!奴らだ!」
その時だった。
上空から赤いドラゴンに乗ったアードが敵襲の知らせをする、それにカリアとシュウが空を見てみれば予想通りだ。
バルバを先頭に空の軍団を率いて追って来てロウガ王国へ強襲をかけようとしていた。
「ミナ、メリル!ディーを連れて先に!これは魔王としての命令だ!!」
「!?は、はい!」
声を張り上げ、シュウは避難しない二人へと魔王の命令でゲートへ行くように言うとミナとメリルはディーを連れ、ゲートへと飛び込んで行った。流石に戦闘に巻き込む訳にはいかず強い口調で命令せざるをえなかったのだろう。
「アード、お前もライザン国王を守って共に行ってくれ!」
「OK!国王様、行きますよ!」
「むお!?私は最後まで残るつもりで……!」
「そんな負傷したままじゃ足引っ張るだけですから!此処は若いのに任せましょうって!」
カリアがアードへとライザンと共に避難をするよう伝えるとその場に残るつもりだったライザンの手を引っ張り赤い竜に乗ったままゲートに飛び込んだ。
「逃がすかよ勇者に魔王よぉぉーーー!」
バルバが叫びながらカリアとシュウへと空中から急降下し、剣を振りかざそうとしている。バルバ得意の剣術のよる空中殺法だ。
「フン!」
キィンッ
バルバの剣はシュウの前に出て大剣を抜き取っていたカリアがしっかりと受け止めた、ゼッドの斧による一撃を正面から受け止めた身からすれば素早いバルバの剣だが重さが足りていない。
パワーならばカリアに分がある。
しかし予想通りの速さの襲撃だ、魔王軍でバルバの事をよく知らなければ住民の避難も終わらずに襲撃を受けて大惨事の可能性があったかもしれない。
此処に残っているのはカリアとシュウのみ。そしてシュウはゲートへと視線を向けると……。
コォォォォッ
左手をゲートへ突き出し、シュウは自らゲートを消して消滅させる。バルバ達まで転送が可能となっているので彼らにこれを使わせる訳にはいかなかった。
「自ら逃げ道塞ぐたぁ、とことん俺達とやり合うつもりってか?上等じゃねえか。このロウガの大地を勇者と魔王の血で染め上げてやる!」
一旦カリアから距離を取って空へと逃れたバルバ、その後ろには部下である空の魔物達。バルバの空の軍団が勢揃いだ。
「逃げ道を塞いだ?そんなつもりは無いよ、そしてバルバ……出来ればキミとも、ゼッドともやり合いたくはない。何があったのかは知らないけど」
バルバと相対するシュウの心境としては複雑だった。
つい先程まで共に魔王軍として戦ってきた同志のはず、それがヴァント王国の制圧直前にゼッドとバルバ、そして魔王軍の兵士達ほぼ全員が魔王シュウを裏切り刃を向けた。
途中で心変わりでもしたのか、それとも最初からそうするつもりで今まで共に戦ってきたのかは分からないが確実に言えるのは今彼らは敵という事だけだ。
「そっちがやり合いたくないならそれはそれで良いぜ、抵抗なく死んでくれや!」
もはや分かり合う事は無いのか、バルバはシュウの言葉を聞いてからニヤリと笑い部下と共に再び空から強襲を仕掛けた。
だが、事前にカリアとシュウは目を合わせアイコンタクトを交わすとカリアはシュウの傍まで駆け寄っておりシュウは魔法の準備を既に終えていた。
「うおおおおーーーーー!」
バルバの剣がシュウを切り裂かんと振り下ろされる。
ヒュッ
宣言通り剣で勇者と魔王の血をこの大地に染めさせる、その予定だったのだが剣は虚しく空を切る。
カリアとシュウの姿が何処にも無いのだ。
周囲の何処かにいるのかとバルバや部下達が辺りを見回すが何処を探してもその姿は発見されない。
「……くそ!」
獲物を逃した事にバルバは舌打ち、振るう相手がいなくなったので剣を収めた。
港街ナジャスへと降り立ったカリアとシュウ、二人だけ残り殿を努めてゲートを消せば相手はそれを利用する事は出来ない。
そして二人での移動ならシュウの移動魔法で楽々このナジャスへと運べる。作戦は成功だ。
いくらバルバ率いる空の軍団が速いスピードを持って攻めて来るとしても此処とロウガ王国までは相当な距離がある。
そんな距離を飛び続けるのは流石に翼に大きな負担がかかるはずだ。
バルバと少し戦闘を行い引きつけて時間が経過しつつも無事に着いたカリアとシュウは港へと走る、普段なら港の海風の心地良さを堪能し楽しみたい所だが今はそうも言ってられない。まずは全員いるのかどうかの確認だ、すると二人の姿を見つけた女性二人と小さいドラゴン1匹が近寄って来た。
「魔王様、ご無事でしたか」
「良かったー!絶対に無事だとは信じてましたけどね!」
「ガウー」
先にナジャスへ来ていたミナ、メリル、ディーはカリアとシュウ(というか主にシュウ)を待っていたようであり、それぞれにシュウは心配かけたねと一言返す。
「住民達は?」
「全員荷物を大型船へと運び終えてます、思ったより迅速で正直驚かされました」
シュウから状況を訪ねられミナは答える。二人より前にミナ達はナジャスへと来ており、彼女達が着いた頃には住民達だけでなくナジャスの住民達や船乗り達も避難の手伝いをしていた。
そのおかげで思ったよりもずっと早く避難の準備はほぼ完了まで来たのだ。
「おお、来たか!お前達が最後残っていたものだから心配だったぞ」
そこにライザンがカリアとシュウの二人を見つけ、駆け寄って来た。本来なら自分が殿を務めるつもりがアードに引っ張られゲートで運ばれてしまったので二人が心配だった様子。
「ライザン国王、思ったよりも避難準備のスピードが速いみたいで驚きましたよ」
「うむ。ナジャスの者達が手伝ってくれてな、それに船長である彼らの助けも大きかった」
カリアが速い避難に驚いてるようでそれについてはライザンは一人の男の方へと視線を向けながら語っていた。
「よおライザン、もしかしてそいつらか?お前が認めた奴らっていうのは」
視線に気付きライザン達の方へと歩いてきた男、ライザンに負けず劣らず大柄で立派な体格をしており青い船長の服を着ている。被っている船長の帽子からは白髪が見え隠れしており年としてはライザンと同年代ぐらいかもしれない。
「ああ。紹介しよう、彼はナジャスの大型船を操縦する船長ドラークだ」
「初めましてお嬢さんに坊ちゃん方、こいつとは腐れ縁でね。聞いた話じゃこいつの命を救ってくれたそうじゃねぇか、数少ねぇ良い王族を救ってくれた事に感謝するぜ」
ドラークという男はカリア、シュウへとそれぞれ握手を交わす。
「協力してくれるのは嬉しいけど、魔物が襲撃してくるかもしれない危険と隣り合わせな航海になるかもしれない。そういうリスクもあるのも大丈夫?」
海も完全に大丈夫とは言い切れない、しつこくバルバが追って来るなら彼が再び空から強襲を仕掛ける可能性は僅かにある。更に海に潜む魔物というのも存在し、普通の船乗りなら命が惜しくて断りそうとシュウは思いつつ改めてその事についてドラークへと聞く。
「海ってのは時に穏やかに見えて俺らを飲み込む津波へと変化する時もある、そんなもんが怖くて海の上を四六時中移動出来るかってんだ」
ドラークは普通の船乗りとは違うらしい、彼にそのような恐れは全く無い。むしろ刺激的な方が面白い、そんな感じすらしていた。
「相変わらずだな、若い頃に海賊のキャプテンとして海を暴れまわっていた時のままだ」
「そう言うお前さんも変わっちゃいねぇだろ。流石に当時と比べりゃ渋さが増しちまったがな」
数十年前からライザン、ドラークは交流があり当時は互いに若くライザンは騎士。ドラークは海賊という立場で敵として戦いを繰り広げていた。
そして戦いを経て立場を超え、友情が芽生えたらしい。
騎士と海賊、相容れない敵対関係がこうして交流出来ている。それは人と魔の共存を追求するカリアとシュウに少し似ているかもしれない。
「さて、そろそろ出航の準備が整う頃だ。皆大丈夫か?一度出たら次にこの大陸に戻るのは何時になるのか分からないぞ」
船員から報告を受け、ドラークはもうじき船は出ると一行へと告げる。そして準備は大丈夫かと改めて訪ねた。
「大丈夫だ船長、むしろ一刻も早く出航した方が良い」
「僕も同意見。今はグラン大陸に行く事が最優先だよ」
「了解。そんじゃすぐに船を出すとするか!」
カリアもシュウも揃って船を今すぐ出すべきと口を揃えるとそれにドラークは口元にニヤリと笑みを浮かべて船員達へと出航の準備をするよう指示。
そして一行も大型船へと乗り込んだ。これでギーガ大陸とはお別れとなり、次に戻る時は何時になるのか。すぐかもしれないし遥か先になるかもしれない。
それでもあの魔王軍をこのままにしてはおけない。
シュウが率いていた時は無抵抗の力の無い市民を襲わせなどさせなかったが、今の彼らはシュウから離れてしまっている。
彼らがこれから何をするのか、シュウのいない今どうするつもりかそれは誰にも読めない。
大型船が出航。大きな船が港を離れ、大海原へと走り始める。
慣れ親しんだ大陸を離れ新天地を目指し航海が今始まったのだ。
「このままじゃ……終わらないよね?」
「当たり前だ。何が起こったのか全部を明らかにしなければならない、このまま放置など出来るか」
客室からギーガ大陸が遠くなっていく様子をカリアとシュウは揃って見ていた。
カリアが騎士団に、ベンに、そしてベーザ達国に裏切られた事から始まりシュウ率いる魔王軍に身を置いて戦い続け、ヴァント王国が滅び終止符かと思えば今度はシュウが魔王軍に裏切られたという形となってしまった。
今や彼の魔王軍はごくわずかな人数しかいない。それは軍とも呼べない程だ。
裏切られた勇者と裏切られた魔王。
二人は新天地グラン大陸へと向かう……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、そして本日をもちまして毎日投稿はこの話で終わります。
当初は毎日書こうと終わりまで走るつもりだったのですが想像以上にきつい、辛いと自分の身が日々削られ持たないなと感じて丁度前半が終わるこの話で毎日投稿は終わりにしようと決意しました。
毎日楽しみにしている方々には申し訳ございません。小説は思ったよりもずっと体力勝負、と思い知らされました。
とはいえブレイブ&ルシファーはこれで終わりではありません、あくまで前半終了ですから。いずれまた続きを書いていきたいと思っております。それまでお待ちいただけたら幸いです。
この話が良いなと思ったらブクマと評価よろしくお願いします。評価方法はページ下にある☆☆☆☆☆をタップです、こういう評価が執筆のモチベに繋がったりします!




