69、船上の生活
ギーガ大陸から大型船で離れ、勇者カリアと魔王シュウ。
先日までは彼らは大勢の魔物や魔族の軍勢と共にヴァント王国を攻め込んで制圧間近まで来ていた、これで一つ時代が変わる。
その間近まで来ていたはずだった。
それが共に戦っていたはずのバルバとゼッド、更に大勢の魔王軍の兵士達がシュウを裏切り刃を向けて来たのだ。
部下であり魔族の暮らしやすい世界を実現させようと共に戦う同志だったはず。彼らの裏切りはシュウにとって完全な想定外だった。
「………」
シュウは船内の客室、そこの窓から変わらぬ海の景色を見つめていた。
船旅が始まり1日が経過。あれからバルバ率いる空の軍団による襲撃の気配は無い、どうやらしつこく追って来る事はなく意地でもシュウを葬るとまでは行っていないようだ。
向こうとしてもいくら空を飛べるからと言って大陸を離れて何時自らの翼を休めるか分からぬ大海原へ飛び立つというリスクまで簡単には踏み込まないのかもしれない。
「おい、シュウ」
「ん…?」
そこに女性の声がしてシュウが気付き、海を見ていた視線から声のした方へと振り返る。見ればカリアが右手、左手にそれぞれ皿を持っていた。
「食事の時間だと何度も言ったんだが海の景色に夢中のせいか中々気付いてもらえなかった、せっかくのシチューが冷める所だったぞ」
「それはごめん。いただくよ」
カリアの持つ皿には海の幸を使ったクリームシチューが盛られており、カリアはシュウの分も持って部屋に来ていたがシュウはそれに中々気づかなかった。
一言謝るとシュウはクリームシチューの皿をカリアから受け取り、スプーンを持ち食べ始めるとカリアも同じくシチューを食べ始めた。
新鮮な海の幸、此処の海に生息するエビは絶品であり美味い。ナジャスの船乗りもこの辺りのエビを取っており港街で振舞われている。
フライにしても絶品だったがこうしてシチューにするとまた違ったエビの美味しさを感じた。
「さっき考えていたのは、あいつらの事か?」
「……」
カリアがシチューを早々に食べ終えるとシュウが先程海を見ていた事について聞いてきた、彼の事なのでただ海を見ていた訳じゃない。何か考えている、それで一番可能性の高い考え事してはバルバやゼッド。魔王軍の者達の事だろう。
「僕は……彼らに利用されて裏切られたのかな」
シュウは魔族の暮らしやすい世の中を実現させようと魔王軍を作り出す、魔王として力ある彼に引き寄せられるように次々と力ある者が加わっていった。
そうして魔王軍は誕生、案外すんなりと行ったと思っていたのだが誕生したあの時から魔王軍は魔王であるシュウを利用して人間の国を侵略し領土を奪い取り自分達の力にしようとしていたのだろうか。
憶測ではあるが彼らが敵となった今その可能性はあった。
「私もかつてはその魔王軍を倒そうとヴァント王国と共に戦っていたが結局裏切られた、まさか魔王軍でもそういう事があるとはな…人間だけに限らないという訳か。裏切りというのは」
今はこうして共にいるが以前は敵同士でありカリアは魔王軍を打倒しようとヴァント王国騎士団と共に戦ってきた。しかしベンがカリアを魔王もろとも抹殺しようと企んでいて、そしてそれはベーザの命令であり国がカリアを、勇者を利用していたのだ。
人間に利用された勇者、魔族に利用された魔王。
利用された真逆の立場の者達が今こうして同じ船に乗って船旅をしているとは不思議なものである。
「操られていた、という方がまだ気が楽だったんだけどね…あのレストが効かないとなると自分の意思で僕を裏切った。そういう事になるのかな…」
最初は催眠、または凶暴化を疑った。ミーヤが凶暴化して襲いかかった時はレストがしっかりと効いた、あの時のバルバやゼッドを見れば正気は保っているように見えており凶暴化の類いでは無いだろう。
シュウの魔力によるレストならばいかなる強力な洗脳も解かれるはずだ。それが効かないのであれば彼らの意思、それしか考えられない。
「シュウ、裏切られた今…お前はその魔王軍をどう思う?」
カリアの時はベンに裏切られ、ベーザが最初からカリアを消そうと企んだ事を知った時は怒りの感情が生まれ彼らを倒そうと完全敵対関係となった。
今のシュウはどうなのか、それが気になりカリアはシュウへと問う。
「正直、今も信じられない。バルバとゼッド、そして多くの魔王軍兵士が最初から僕を利用しようと今まで共に戦っていた事が…」
シュウは本当に裏切られたのかとまだ割り切れずにいた。バルバと戦った時は彼を完全には葬れず魔法を加減し、死なない程度に痛めつけるつもりで戦ってきた。
敵と完全にみなした時のシュウは容赦無いがまだ仲間と思っている相手は倒す事が出来ない。次に彼らと再会したらその時は戦う事になる確率は高いだろう、その時まで考えをまとめなければならない。
出来る事ならもう一度話し合いたい。彼らの真意を確かめたい、シュウとしてはそれが望みだ。
「(そういえば、クレイやマリアンはどうしたんだ…制圧の時に姿が見えなかった)」
シュウの頭の中で思い出したのは残りの二人、魔王軍の要であるクレイとマリアンの行方が分かっていない。あの二人もバルバやゼッドのように最初からシュウを利用しようとしていたのか。それとも他の魔王軍の襲撃に遭ってしまったのか、彼らがどうなったのかも気になる。
多くの疑問を残したままギーガ大陸から離れ、今はグラン大陸を目指しての船旅となっているがいずれは全ての答えを明らかにする為戻る日は必ず来るだろう。
「勇者ー、いるー?」
そこに二人のいる部屋の扉が開かれると現れたのはメリル、足元にはディーの姿もある。参謀のミナも含め今や数少ないシュウの魔王軍の一員だ。
「あ…これは魔王様!失礼しました!」
メリルはシュウの姿を見れば慌てて頭を下げる、メリルは主であるシュウ以外にはくだけた感じのようになる。
「別に気にしないでいい、それよりカリアに何か用があったんじゃないの?」
「私に?なんだろうか」
「ああ、そうそう!そうでした、カリアお腹すいてるからって余分に食料もらったりとかしてない?」
「いや…配られた分の食事で済ませているが」
今この大型船には彼らの他にロウガ王国に住む多くの者が乗船しており、魔王軍の襲撃を避ける為グラン大陸へ一時避難をしている所だ。
彼らへ振る舞う食事の為、食料は充分に積んである事だろう。メリルは何故食料についてカリアへと問うのか。
「実は船員さんの話をちらっと聞いてねー、想定よりも食料の減りが早いって言ってたんだ」
「食料が?」
此処に来る前にメリルは船員同士の話を耳に入れていた。それによると用意していた食料が想定よりも減っているとの事だという。
食事は全員に均等に用意され配られているはずだ。王族であるライザン達も乗っているが彼らも特別扱いは受けずに全員と同じ食事量であり、そもそも彼らがそういった扱いを好まないだろう。
「カリアって人一倍以上にご飯食べるよね?だからそうなのかなって」
「……いくらなんでもこういった状況の時に好きに食べたりなどはせんぞ」
魔王軍に居た時からメリルは食事を作ってきて、カリアはゼッドに負けず劣らずの食事量を誇っていた。それぐらい食べる姿をメリルは見てきた。
だが食料に余裕あるあの時と違い今回は多くの者と共に乗船し、グラン大陸に着くまで限られた食料で生活する状況。そんな時にカリアがよく食べるからと言って自分だけ贅沢に食べたりなどはしない。
「誰か盗み食いでもしてるのかな、食料無くなって魔王様が飢えたら大変だからこれは犯人突き止めないと!」
あくまでシュウを中心にメリルは考えており料理人として、彼に仕える者として食料不足で飢えさせる訳にはいかないと使命感に燃えていた。
「ふむ、私も疑われた身としてはこの問題放置してはおけんな。此処で海の幸が取れて補給がある程度効くといえどそれも何時まで持つか分からん」
疑われたカリアもこのまま黙ってはいられなかった、船の食料がこのままもし尽きれば深刻な問題になってくるだろう。それが起こる前に片付ける必要がある。
「ライザン国王達には黙っておいた方が良さそうだね。皆がそれを知ったら不安からパニックになって騒動になるかもしれない」
この問題についてはシュウはライザン達には伝えずこちらで解決しておいた方がいいと判断。下手に一同を不安にさせる必要は無い。
勇者と魔王、そして数少ない僅かな魔王軍による食料を減らす犯人探しが今開始される。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます。
ブレイブ&ルシファー久々の更新となります、毎日は難しいですが走っていきたいと思います。
それでも良ければ変わらぬご贔屓よろしくお願いします。
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