48、異様な女
マードン王国を制圧してから3日ほどが経過、魔王軍はターウォ軍と合流し、彼らと共にロウガ王国。そしてその先にあるヴァント王国へと向けて陽が昇り間も無い時間帯から進軍を開始していた。
ターウォの王であるレオンも自ら出陣して馬に乗り、自軍の騎士団と共に移動する姿が見える。
魔王軍の方もシュウが直々に出て四足歩行の茶色いドラゴンの背に乗っており、カリアがその手綱を握っていてシュウはその後ろ。更にディーがシュウの背にしがみついてる姿が見えて正確には2人と1匹がドラゴンに乗って移動している。
このドラゴンは空は飛べないが地上を移動する事に長けるアースドラゴンと呼ばれる種族だ、地を素早く動けるスピードを持ち機動力が高い。
本来ならドラゴンライダーぐらいしか人が竜の背に乗れないのだがシュウは魔物を手懐ける事に長けているようで、それはドラゴンも例外ではなくアースドラゴンを手懐けて背に乗れるようにした後にカリアは竜に乗る訓練を積み重ね此処まで乗りこなせるようになったという。
その姿は竜の軍団を率いるゼッドも驚いたそうだ、彼曰く短期間で竜の背中に乗って移動など魔王が懐かせたとはいえ人間の身でやってのけるなど見た事が無いと。
バルバは空を自らの翼で飛行軍団の魔物と共に空を飛んで移動し、ゼッドはシュウやカリア達と同じようにアースドラゴンに乗って先頭を走る。
行軍の後ろの方にクレイが自身の石人形に乗って不死身の軍団が殿を努めている、ちなみにクレイの背中にミニゴーレムがしがみつき共に乗る姿も見えた。
「お前ら、空を飛ぶ竜を見つけたらすぐ報告しろよ!ただしゼッドの旦那の所に居る竜と間違えないようにな!」
バルバの指示で空の監視は強化され、ドラゴンライダーが敵の戦力にあるという情報は既に全軍に行き届いている。彼らはそれに対して警戒し目を光らせていた。
現時点ではドラゴンどころか鳥の一匹も見当たらない。
「ロウガ王国か…ヴァント王国はともかくロウガの方と戦う事になるとは、いや…遅かれ早かれそうなっていたか」
「その王国だけは確かほとんどが重い税金取ってる中で全然それをやっていないんだよね。民の為に働いて更に自ら戦場に立つ戦う騎士王ライザン…王族の中で結構骨があるそうだよ」
ロウガ王国に関する情報は事前に会議でミナから聞かされ、シュウは頭に入っていてカリアは以前から知っているようだ。
「少数精鋭だが騎士団の中でも一番騎士道精神を重んじる、と言われ王であり騎士団長でもあるライザンは50歳を超えるが騎士としての力は高く今でも鍛錬を欠かさずヴァント王国にもひけをとらないどころかそれ以上、だそうだ」
「それはまた、人間の権力者の中じゃ珍しい元気なおじさんだ」
「ガウ」
シュウの言葉に同意するかのようにディーは小さく吠えた。
「それと会議では語られてなかったがライザンには一人娘が居る、名はミーヤ。王女という身分ではあるのだが度々騎士団の訓練に混じって剣の素振りをしている姿が見られていたらしい」
「カリア、色々知ってるね。その王国に知り合いでも居る?」
「その国に訪れた時に酒場で食事をしている時に酒に酔った者が話していたのを聞いただけだ」
お喋りな酔っ払いが居てくれたおかげでカリアはロウガについての情報、更に王の娘の事まで知る事が出来てそれをシュウへと伝える事が出来ている。
これはミナも話しておらず、ライザンが最大の壁と考えていて娘のミーヤは特に障害にならないから不要だと判断したのかもしれない。
以前ターウォの前王が亡くなりそれで弱体化したと思われたがレオンが短期間で立て直し想定外の敗北を喰らっているが今回はそれと違いライザンは健在、ミーヤの王女としてのカリスマがあったとしても名高い王であるライザンの指揮を超えるまでには至らないはずだと。
「魔王様!そろそろキリアム大草原は近いです!」
行軍の先頭に立って移動するゼッドが声を張り上げた、それはシュウの耳にしっかり入り伝わっている。周囲を見れば草木が目立ち始め自然がより豊かな道へと出ていた。
こちらを待ち伏せするに最も適しているキリアム大草原、そこに大勢の敵戦力が魔王軍を倒さんと潜んでいると魔王軍側は予測し注意深く進軍を続ける。
「後ろ…特に異常無し…」
殿のクレイは後ろからの襲撃が来るかもしれないと背後の確認をしており、そこに異変は感じられなかった。問題はその報告の彼の声が小さいぐらいだ。
その為、何かあればミニゴーレムは音を大きく響かせ味方へと知らせる機能が付いている。自分の声の小ささという欠点をクレイ自身が理解しての改良だ。
「魔物達の大軍がこちらへ向かってます!おそらく魔王軍かと!」
ロウガ王国の騎士団の一人が偵察へと向かい戻ると国王ライザンの前に跪いて報告、空を飛ぶ魔物達と地上を移動する竜達。それらの姿が大軍として来ていて十中八九魔王軍であると、ライザンは判断した。
「よし、各自配置につけ!魔王軍を充分に引きつけてから迎え撃つ!仮にヴァント王国が先に出たら我々も共に出て総攻撃で協力し魔王軍を倒すのだ!」
「はっ!」
ライザンの指示で騎士達は各自散らばり物陰へと潜む。傭兵団はライザンの傍に控え、共に身を隠し魔王軍を待つ構えだ。
「見えてきました、魔王軍の飛行部隊です!ドラゴンも地上に居ておそらく主力の軍かと!」
ヴァント王国陣営の騎士の一人が偵察から戻りタウロスへと報告。バルバの空の軍団を目にし、その後に地上の方に迫り来るゼッド率いる竜の軍団の姿も確認していた。それらは魔王軍の要であると騎士団側は認識、マードン王国ではこの2つの軍によって制圧されたと聞く。
ならばこの2つが要であり総力をもって叩けば魔王軍に致命的ダメージを与えられるはず、タウロスは報告を聞いて腕を組み考えた。
「敵は充分に引きつけろ。仮にロウガの連中が我慢出来ずに出たとしても我々は待て、隙をついて強襲を仕掛けるんだ」
「ロウガと共に出ての総攻撃では…?」
「奴らと我々の急造で息の合う攻撃が出来ると思うか?むしろ混乱し非効率だ!ならば連中が単独で向かい戦力をある程度削ってもらいつつ、隙あらば突撃。またはロウガが倒れた後に戦闘終了したと油断している所に我々ヴァント王国騎士団で一気に攻撃を仕掛けとどめを刺す」
タウロスは充分に敵を引きつけてから総攻撃する気らしく、ロウガが堪えきれず出ていったら連中を助けるというより敵の状況次第で行動を決めていた。そしてその選択にはロウガ王国全員を見殺しという非情な物まであった。
ヴァント騎士団の中にはそれはどうなんだと思う者も居るが、副団長に強く意見する者はいない。
此処は既に戦場、利用出来る物は味方だろうと何でも利用しろ。タウロスの目は部下にそう語っている、部下はそう思う事にしたのだった。
これらをロウガ王国の方は知らないままだ……。
「今の所敵の姿は無しか…」
ゼッド達ドラゴン軍団はキリアム大草原に先頭で到着、真っ先に敵の姿を確認しようと辺りを見回すが特に騎士団はおらず人の姿も見当たらない。
しかし連中が迎え撃つとするなら籠城以外だと此処ぐらいしか無い、何処かで待ち伏せし潜んでいるかもしれないとゼッドは注意深く草原を隅々まで見ていく。
ゆっくりと前進していき、草原の中央付近へと向かった。
「ライザン様…!」
「待て、もう少し引き付ける。焦るな…」
ロウガの騎士の一人が出ようとしているが、ライザンはまだだと引き止める。竜の軍団は見えているが距離が遠い、あれでは気づかれ迎撃される恐れがある。
「俺の弓でもあれはまだちと遠いなぁ…」
「俺達も号令あるまで動かないでおくぞ」
遠距離から攻撃出来る弓矢を持つカーロンでも距離としては厳しい。仮に届いたとしても勢いが弱まって頑丈なドラゴンの皮膚に弾き飛ばされるかもしれない、ドルムも傭兵達に出ないよう伝え騎士団と共に待ち伏せを続ける。
カリアとシュウの乗るアースドラゴンもキリアム大草原へ到着、前方にはゼッド達の軍が見えており彼らが注意深く進んでいる所だ。
二人は一旦そこで止まり息を潜めて様子を伺う。
「(魔力の気配はある、隠れてるな…絶対)」
その中でシュウは一人の魔力を察知していた。それは傭兵団の一人で魔法使いのウィザが持つ魔力、隠れていようが魔法の使い手である大きな魔力は隠しようがない。
シュウは隠れている事をゼッドへと伝える為行動に出ようとする。
「…………」
「!?な、なんだ!?」
その時だった、ゼッドの前に立ち塞がる人影。まるでそれは不気味にゆらりとしており、ハッキリ見えて来ると軽装の鎧を身に付けて剣を構えるポニーテールの髪型をした金髪の女である事が分かった。
「コロス………コロス……テキ…コロス……」
ブツブツと呟きながら近づく女、その目は焦点があっておらず異様の雰囲気を漂わせる…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、双方激突な時に割り込んで来た回でした。特徴からしてあの人物が、という感じで次回へ持ち越しです。
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