落とし穴
第三章 フリーダム
第九十五話 「落とし穴」
予定通り走る馬車、出発から4日。
ここからはナラサージュを抜けてコーラン国。
コーラン国の町に一泊する予定だったので、初めからユキナとラリィは楽しみにしていた。
俺はキャビンの後ろに座って、帆を少しだけ上げた後ろの景色を見ていた。
個人戦、並々ならぬ意気込みで俺を倒そうとしてるのは間違いなくラザノフ。
兄との稽古では口から魔術を多用するよう要求していた。
対戦表は大会の朝。
是非とも決勝で当たりたい。
まぁ、他にも強敵は居るだろう。
大会に選抜された亜人、もしくは人間でも、ほぼ上位亜人の血が流れているらしい。
もちろん俺だってそうだ。
スキルを継承した人間は強い。
余談だが、ラリィはソナーに影入りと、2つもスキルを継承して更に継承が難しい、特性まで継承した奇跡の子。 ……っと言っても吸血族は戦闘に特化した民族ではないけど。
コーラン国、プリミア町。
この町は塀で囲まれた町なので身分証明などの書類が必要だ。
だけど俺達は問題ないので1時間半の審査後に中へ。
町は東から西にかけてぇ川が流れぇ、北と南に別れて町が発展して行ったんだべや〜。
ただなぁ、近年は町の発展に面積が足りなくぅ、塀を取り壊しては少し広げてといった無駄を繰り返してるんだぁ〜。
ー町のオッサン調べー
「結構、ごちゃごちゃした町でござるな」
「うん。 俺は配達ではこういう町には来ないから新鮮だけどね」
配達でも書類はある。
だけど、審査はいちいち面倒くさくて敬遠してしまう。
「ラリィ、どう?」
「うん、もうちょっとだの。 にいちゃん持って来てくれるかなぁ」
ルークが持って来た試作品が底をつきそうだ。
明日からは影の中で過ごして、少し残しておきたい。
町は狭いスペースを上手く使った作りで、川には水車がある。
とても珍しいけど何処かでも見た気がするので初めて見た訳ではない。
「お兄ちゃん、アレ何だの?」
「ラザノフに聞いて、今忙しいから」
「皆んなで歩いてるだけでござるがな。 ラリィ、アレは向こうに見える田に水を送る装置だ。 な、リュウ」
「ああ…… そうに決まってる。 ラザノフ、忙しいのに良く説明したな」
「皆んなで歩いてるだけだけどね。 って言うかリュウ君はどんな場面でもカッコつけれるよね、モテるわけだ。 ……あそこの宿屋よ」
サーラの一見依頼、ユキナはちょっと俺への風当たりが強い。
科学技術が一番発展してる国、コーラン国。
ただ宿屋はサンカルムの方がいい。
ちなみに宿屋は全てルークとユキナで相談して予約したらしい。
もちろんパルモでも。
「コーランでも首都に行きたかったでござるなぁ」
「まぁ、一般的な町なら科学技術だとか、普通に関係ないだろうからな」
「特別はなしか…… でも服は変わってたでござるぞ」
「良く気づきました〜、ラザノフ君。 服は民族衣装があって、白を基調としたカラフルな模様の服で女の子はミニスカート、男の子は短パンなんだよ。 皆んなで買おうよ〜」
「ユキナ姉ちゃん、ラリィは買う!」
え〜と、どなたが支払いですか?
「拙者はリュウとお揃いは…… キツイでござるよ〜」
「そっくりそのまま俺も同じ」
でも貴族街の家で着る分にはいいか。
「分かりました。 それは日頃の感謝の気持ちをこめて、私が皆さんの分を買いましょう」
「本当〜、どうしたの、リュウ君。 ぶっ壊れた?」
し、失礼な……
「ユキナにカミラさん、ラザノフにジルベッタさん、ラリィにクラルさんは全く同じ柄で揃えてプレゼントしたい。 ちゃんと選べる? ユキナ」
「うん、私はお姉ちゃんと同じ柄か」
「グフフ、ラリィは母ちゃんと同じだの」
「そして大男の2人が同じ柄の服でしかも短パンで出かける。 どう、ユキナ?」
「プフフフ、想像すると…… キャハハ」
ハッキリ気持ち悪いと言ってあげなさい。
「ムッ、それならリュウとルーク殿とポンタのお揃いで拙者がプレゼントするでござるよ」
「それいいよ〜。 イケメン兄弟のお揃い…… キャハハ、ギャップある〜」
そんな感じでお土産として本当に買った。
物は薄い生地で甚兵のような感覚。
夏の暑い日なんかに部屋着でいいかも。
夕食はユキナが予約したお店。
早速、買った服を着て出かけたがるラリィ、着せてあげると凄く可愛い。
「おーっ、可愛いでござるな〜。 リュウも着るでござるか?」
本当に可愛い。
ただ白が基調なのでミュランも凄く似合うはず。 ……もちろんサートゥランも含めてお土産として買ってある。
「いや、ラザノフが着てあげなよ」
ラリィとお揃いの服着て出掛けたいのだろう。
でも俺も一緒だとやっぱり気持ち悪くなる。
「おお、じゃあ着て出掛けるでござる」
部屋から出ると、もうユキナは自分の部屋から出て待っていた。
「あれ? 着ないでござるか?」
「うん…… ちょっとミニスカートが際どいから恥ずかしいかな……」
それこそ見たい! っと思ったのはラザノフも一緒だろう。
「見たかった?」
ユキナが俺を見て言った。 ……機嫌が直った?
「うん。 待ってるから着て来てよ」
「ふふ、じゃあリュウ君も着てくる〜?」
それだとお上りさん丸出しの集団になる。
「いや、俺は着ない」
「……じゃあ、私も着ない。 彼女に着てもらえば」
サーラの分は買ってないけど、ミナリとセシルさんの分は買ってある。 ……世話になってるから。
意外と美味しかった夕食を終えて就寝。
コーラン国の滞在は1日だけ、次に泊まるところはリズーン国になっている。
あれから2日、相変わらず後ろの席で外を見る俺……
何かしらのアクションを興すかも知れないと思ってたフォルマップルだけど、リズーンに入れば少しは安心か。
そんな道中を終えて着きましたパルモ。
パルモ リズーン国で3番目に大きな都市。 ギルドがあるので冒険者が多く、必然的に宿屋が多くある。 雰囲気的にはプユスタールに似てる。
宿屋は貴族街にある貴族専用の宿屋、でもユキナは問題なく入れるのはルークが話をつけてくれたかららしい。
色々と手が回る兄だ。
「リュウ君、ギルドに行ってみない?」
「そりゃ〜いいね〜、カミラさん居るかな?」
「そのはずだよ」
っと言うことでギルドまで出掛ける。
下町にあるギルドは基本的にはどのギルドも大差ない。
噴水の近くにあることまで。
ギルドの中でカミラさんを探すと、冒険者に説明中だった。
久しぶりのカミラさん、やはり魅惑的な雰囲気で美しい。
冒険者もやたら嬉しそうにカミラさんと話してる……
「リュウ君、やっぱり邪魔したら悪いから明日まで待とうか」
「うん。 馴染めてそうだね」
結婚してても関係なしでモテるカミラさん。
リョーキさんも大変だな……
次の日の夕食、皆んなで出掛けてカミラさんと約束したお店へ。
カミラさんとリョーキさんは先に来てお店の前で待っててくれた。
昨日より1段階アップした美しさのカミラさん、もしリョーキさんが現れなかったらナラサージュで俺と暮らしてた未来まであったかもしれない。
その時は俺の病気はなかったろう。
「リュウ君、久しぶり…… また大きくなってるね。 あ、ラリィちゃんも」
2年近くになるか……
「うん、この前はありがとうね」
随分前だけど。
「ふふ、空を飛んだことは凄い思い出になったよ」
……ごめんなさい、俺はすっかり忘れてた。
「さあ入ろうよ。 お姉ちゃんとリョーキさんのことも教えてよ」
中に入ると、もう注文は決まっているようだった。
「私達のことを聞きたいと言われても、この街にはまだ1年も暮らしてないからなぁ、ね、リョーキ」
「うん。 でも住みやすい街だと思うよ、プユスタールも良かったけど。 それよりユキナちゃんは恋人出来たの?」
ユキナは何となくその話題を嫌うと思って、俺達はずっと聞いてない。
「居ないよ、お姉ちゃんと違ってモテないから」
「ユキナはサンカルムのギルドの1番人気でござるよな」
お〜、ラザノフが話を繋いでくれた。
「人気とはまた別なの。 私は性格も悪いし、そうでしょ、リュウ君」
俺に振るか……
「俺は明るくて可愛いユキナが好きだよ。 別に変な意味じゃなくて」
バッと俺から目をそらしたユキナ。
でも口元は嬉しそう。
「お兄ちゃん、ユキナ姉ちゃんまでたらしたらダメだの」
たらしてねぇ〜! っと世界の中心で叫びたい。
「ありがとう、リュウ君。 ちょっと自信を失ってたから嬉しい」
俺だけじゃない。
ラザノフだってポンタだって、多分ルークだって同じ思いだ。
ここで前菜が配られる、ラリィも同じだ。
「ラザノフ君は婚約したんだってね」
「ガハハ〜、リュウばっかりモテてたでござるからなぁ、拙者にも春が来たでござるよ〜」
俺は逆にラザノフと代われるならどれだけ幸せか。
カミラさんもそうだけど、結局別れの辛さばかりが胸を絞めている。
次は別れのない人がいい。
相手はユキナ…… いや、ミナリ…… 別にセシルさんでも別れがなければ構わない。
俺は誰でもいい男だから。
「治れ〜、あ、治れ〜」
「な、何のこと?」
「いや別にこっちのこと。 ところで明後日は見に来るの?」
「リョーキは仕事だけど私は初日は行くよ。 でも、決勝は仕事だしチケットも取れなかったしで行けない」
そうか…… まぁ、チケットも高く付くし2人は色々と大変だからな……
それからどんどんと運ばれる料理を食べながらの会話。
「貴族になったんだってね」
カミラさんが俺を見て言った。
「うん。 今でも身分がどうとか言うのは嫌いだけどね。 それと兄もこっちに来たんだよ」
「ふふ、ユキナから聞いて知ってるわよ。 リュウ君思いのお兄さん、会ってみたい。 似てる?」
旅の宿屋は必ず安全に注意するよう宿屋に通達してあったと言う。
もちろん、この店も同じ。
ルークは食べ物に毒を盛られることを恐れてる。
「シルエットだけ似てるって言われたな」
「素敵なお兄さんだと思う。 本当に……」
ユキナが言った。
「お兄ちゃんのにいちゃんは優しいの。 それにカッコいいし頭もいいの」
ルークを1番評価してるのはラリィだな。
そんな2年ぶりの食事会だった。
次の日はお城でパーティー。
正装を着てお城に行くと、キャプトマン王子家族が居た。
「おお、やっと来たかリュウ。 明日は頑張ってくれよ。 それと帰りの護衛を頼む」
「ええ、もちろん。 それで俺の知り合いって誰ですか?」
貴族の知り合いは、ラリィ事件の奴隷商の男しか思い当たらない。
ぶっちゃけ会いたいとは1ミリも思わない。
もしかしたら…… リシファさん?
それなら1番嬉しいかも。
あ…… ルイース……
ルイースならどうだろう? 嬉しいと苦しいと…… 複雑すぎて取り乱すだろうな……
「は、入れば分かるさ」
いつの間にか抱っこされてるミュランを見ながらキャプトマン王子が言った。
俺もいつ抱っこしたか分からないけど、ラリィはもう抱っこされるのを嫌うので嫌じゃない。
ちなみに小学校で言うなら、まだ小学2年生だ。
「お父様、そのままリュウ先生に付いて行っても宜しいですか?」
キャプトマン王子はチラッとサートゥランを見る。
サートゥランはラリィと笑いながら話してる。
「良いか? リュウ」
「全然いいですよ、任せてください」
「ああ、頼む。 ターミナ、踊りに行こう」
キャプトマン王子は学生の頃からターミナさんを好いていたらしい。
王子なので4人の妻がノルマだが、俺が出会った嫁さん達はどの人も幸せそうに感じた。
城に入るのに招待状や各種の登録証を見せる。
すると執事の人が部屋まで案内してくれる。
貴族のパーティーは朝から行うので、招待客はそれぞれの部屋がある。
疲れたら部屋で休んで、疲れが取れたらまた社交をしたりして顔を広める。
今はもう3時過ぎ、俺達はパーティーが苦手なので遅く来た。
何もしてないけどホッと一息つく。
「リュウ君、この子達は将来の王子様とお姫様?」
「可能性はあるんじゃない。 ミュラン、降ろすよ」
「はい、リュウ先生」
サートゥランと違ってミュランはしっかりしてるけど、甘えん坊かもな。
「凄く美しくなりそうな子ね……」
確かにミュランは雰囲気も含めて何か違う感じがする。
「お初にお目にかかります。 キャプトマンとターミナの長女のミュランです。 リュウ先生の恋人ですか?」
「えっ、ち、違います、違います。 リュウ君とラザノフ君のギルドの担当職員です」
「よろしくお願い致します。 お兄様、挨拶しなさい」
「え〜、別にいいじゃん…… チェ〜、サートゥランです、よろしく」
ちなみにサートゥランとラリィが仲良しなので、休憩中などはミュランは俺のところに居ることが多い。
「そろそろ行くでござるか」
「そうだね。 ラリィとサートゥランを頼める?」
「ああ、任せるでござるよ」
っと言うと2人をヒョイヒョイっと抱き上げた。
俺はミュランを抱っこする。
会場に行くとテーブルには豪華な食事。
食べたければ近くに制服で立ってるアルバイト貴族男に言うか、勝手に自分で取ればいい。
お酒は……
「いかがでしょうか?」
……っと、めざとく見つけて酒を勧めて来るアルバイト貴族女に、一杯だけもらって飲まないのが正解。
会場は大きく分けると4つ。
テーブル食事スペース。 基本立ち食い。
ソファー、テーブルスペース。 食ったり飲んだり喋ったりスペース。
踊りスペース。 いいから踊れ。
城の外スペース。 人酔いした人には観葉植物鑑賞や2階からの景色など一息つくことが出来る。 ……が、仲良くなった男女がチューしてることもあるとラザノフが嬉しそうに言ってた。
「何か食べるでござるか?」
「そうだね、向こうに移動して持ってきてもらおう」
テーブルを指して言った。
食事をしながら踊りスペースを見ると、キャプトマン王子はいいけど、女性と踊るルークを発見。 ……踊りは俺の方が上手そうだ。
キャプトマン王子が俺達を見つけてテーブルに合流する。
ターミナさんが話す。
「リュウ君のお兄様も凄くモテるのね。 色んな女性に誘われてたわよ」
皆んな王子と勘違いしてるんだろう。
「悔しいけど全く羨ましくないですね。 是非そのまま踊り続けてほしいです」
「ガハハハ〜、リュウはまだ1回も誘われてないでござるな〜」
フと、サーラの顔が過った。
サーラと踊りたいな……
「ふふ、子連れじゃ声はかけれないわ」
ターミナさんが隣に座るミュランを見て言った。
「リュ、リュウ君、私と踊って」
珍しいユキナからの誘い。
おめかししたユキナは目立つ可愛さ。
「ああ、行こう」
ユキナの笑み、美しい。
ユキナとのダンス。
この世界は基本的に男女のダンスは7種類に別れてる。
社交ダンスで言うなら…… 社交ダンスを知らないので社交ダンスでは言えなかった。
7種類のステップは基本的には各国で流行ったステップが有名になっていった、と言う感じだ。
ちなみにスローなステップは3種類あり、ナラサージュのステップはその中でも早いステップの部類になる。
体を寄せ合うダンス。
至近距離でしっとりと俺を見るユキナはやっぱり可愛い。
完全に機嫌は直ってるな。 ……っと思っていると、いつの間にか近づいて来たルークが話す。
「次、代わってくれ」
はっ? って顔したのはルークの相手。
しかし、俺をチラッと見て何も言わず。
「リュウ君、それなら私、いいかしら?」
知らぬ方向からの声。
見るとマインさんだった。
……あ、ユーリスが居る⁈
「わ、私が先です!」
ルークの相手が主張した……
ーーーーー
マインさんと踊る。
そして直ぐに会話が始まる。
「ユーリスは?」
「色々な男性を連れて散歩に行ってるわよ」
おモテになるようで。
「貴族になったんだってね。 さっきキャプトマン王子からリュウ君のお兄さんを紹介してもらったのよ」
チラッと兄を見て言った。
兄は…… まだユキナと踊ってる。
「3階のDの45室、後で…… 6時に来て、話があるの」
ここでは話せない話なら、俺だってある。
何故、急に行ってしまったのか、本当に連絡は出来なかったのか……
「分かった。 皆んな元気?」
曲が終わる。
「うん、リュウ君は?」
一部分以外は……
「モロに元気だよ」
ふぅ、自分のテリトリーのテーブルまで戻る。
「あの、私と踊って頂けませんか?」
ふぅ、テリトリーに着く前に捕まってしまった。
「すいません、向こうで待たせているので」
断ったのを見て、近くに居た女の人も近寄る。
「あの! では私と踊って頂けますか?」
ふぅ、今まさに待たせてるから無理って言ったよな。
「すいません、待たせているので」
「では私と……」
「いいえ、私と……」
今日の教訓、貴族女は聞く耳持たず。
by 本当に不能リュウ
我がテリトリーに着いてもチラチラ狙う目の貴族女達、俺は部屋に戻ることにした。
部屋に付いて来たのは子供達。
確かに子供にとっては暇だろう。
でも、12、3才の子供はもう踊っていたな……
「リュウ先生、皆んなで遊ぼうよ」
サートゥランが言った。
「いいよ。 じゃあ、体の部位のしりとりね。 俺から右回りで。 ……足」
次はミュラン。
「シか…… 心臓」
ラリィ。
「ウ…… うんち」
体から離れて行ったけどな。 ……まぁ、残ってたとしよう。
サートゥラン。
「チか。 ちんぽ」
下ネタ凄えな……
俺か。
「ポ、ポ…… ないからコでもいい?」
「ダメだよ〜、何でコなの?」
「ちんこでも同じじゃん」
「同じじゃないよ。 ラザ兄のはデッカいもん」
「デッカくても小っちゃくてもちんぽはちんこだろ」
「違うだの!」
「だから同じ。 ちんぽとちんこは同じ犯人!」
「ん、んんんん〜! 何やってんのかな、貴方達?」
「リュウ……」
ハッ…… ユキナとルークが戻って来てた……
絵に描いたように呆れてるな……
その後も続々と戻って来る人達、でもキャプトマン王子の部屋はこの部屋じゃないでしょ。
すんごくユキナが居心地悪そうだぞ。
「そろそろ行くでござるか、リュウ」
ん…… ラザノフも呼ばれてる⁈
とりあえず一緒に出て来たけど、ラザノフもユーリス…… あ…… 部屋番忘れた。
「ユーリス、何の話かな?」
「さあ、分からんでござる」
やっぱりユーリスの部屋だ。
これで後ろに付いて行けば良い。
ユーリスの部屋に着いて、ノックをすると久しぶりのラースビーさん。
「ラースビーさん、元気?」
「ふふ、そうね、問題児君」
「その呼び方やめて、お父さんが言ってたの?」
ラースビーさんのお父さんは学校の校長だ。
「前代未聞の問題児だって言ってたよ」
ふ〜ん。
「良かった、1番で」
「ふふ、歴代で、ね」
ユーリスは部屋の遠く、カーテンのところでチラ見してた。
ドキッと心臓が脈打った。
「ユーリス…… おいでよ」
そう言うとワァーっと声を出して走ってきた。
ガシッと抱きしめる。
あの時の思い出が蘇る……
泣いてたユーリスが落ち着くのを待って、マインさんが俺とラザノフに椅子に座るように言った。
「順を追って話します。 私達のことはほぼ秘密になってるから……」
確かに情報がなかった。
俺もラザノフも静かに聞いた……
あの日の朝、突然ゴールタールへ向かえと言うビッシュ王の伝言を聞いたユーリス姫は、ビッシュ王に面会を求める。
ビッシュ王との会話は堂々巡り、行っても良いと言った、予定が変わったの繰り返し。
そこで私達が予期出来なかったユーリス姫の行動。
「私はもう生きていたくない。 この旅行だけで全てを受け入れる決心があったのに……」
この言葉の後に、ユーリス姫は珍しいナイフ(クナイ)で自らの喉を引き裂いた。
あの場に居た全ての人が凍て付き、狼狽えた。
噴き出る血と、血の気が失せて倒れたユーリス姫。
それから2ヶ月が治療にかかった時間だ。
ユーリス姫は入院中、リュウ君がナラサージュの村人との交換でフォルマップル国へ捕まったことを知る。
そこでユーリス姫はフォルマップル国への嫁入り修行をビッシュ王へ提案する。
それは却下されるが、後にユーリス姫にとって吉と出る行動となる。
自暴自棄とも言えるユーリス姫の態度にビッシュ王の態度は徐々に軟化。
通常の花嫁修行を1年に短縮してくれる。
が、ユーリス姫はその後の時間の自由を要求。
つまり、通常の2年の花嫁修行、マイナス短縮した1年、その余った1年の自由を要求。
その代わり、ビッシュ王の言う通りの他国の殿方へ嫁ぐことを約束した。
もちろんそれにはフォルマップル国も含まれている。
凄い人だけど、俺のクナイをそんな事に使うとは思わなかった。
……って言うか、ラザノフ居る?
「そしてもう直ぐ1年、私達はサンカルムへ戻ります」
「ユーリスはその後にどうするの?」
「私は冒険者になりたい」
前に聞いた気がする。
自由に出掛けて自由に命をかけて討伐する、お姫様には堪らんだろう。
「現実的には無理でござるな。 ビッシュ王の監視、ギルドの登録、それに冒険者の仕事は危険だ」
そうなのだ。
いくらユーリスが大会で剣術の準優勝でも、実際は弱い。
「そこでラザノフ様とリュウ君を呼んだのです」
お〜、何か策があるのか?
「サンカルムに帰り、直ぐに私の故郷へユーリス姫は旅立つフリをします。 名を変えて冒険者登録するまでの手配は私どもで手筈は整えております。 問題はその後、私達までサンカルムに居ては誰かに見られてビッシュ王に知られてしまうでしょう。 なので私達は本当に故郷へ帰るつもりです。 そこでラザノフ様、ユーリス姫をあの家に置いてはもらえないでしょうか? そしてリュウ君、貴方のパーティーに入れてもらえれば私達は安心なのです」
なるほどね…… この人達は本当にユーリスのために命をかけるな……
「リスクだらけでござるな。 もしバレたら拙者もリュウももうサンカルムには住めない。 それだけの理は拙者達にあるでござるか?」
「……ありません」
「話にならんでござ……」
「ラザノフ。 俺も頼む、協力してくれ。 って言うか理とか言うなよ」
「ラリィはどうする」
「ラリィも幸せになるよう育てるよ、今まで通り」
どんな状況になってもね。
「リュウはユーリス姫をまだ好きなんでござるか? あれから別の恋をしたんじゃないのか?」
「気持ちはないよ。 ハッキリと言う、もう付き合わない。 でも大切に思う気持ちは永遠に変わらない。 命までかけてやりたいことをやろうとしてる友人の手助けがしたい。 そこに損得なんてないんだ」
ラザノフが考え込む。
「ユーリス姫のリュウへの気持ちは?」
「好きぃ〜、でも…… とっくに…… 諦めてる」
涙のユーリス。
どうしてこんなにも綺麗な人が、俺なんかみたいな不能ヤローを好きなのか。
「分かった。 だがこの決定は拙者もスエメルをあの家に連れてくると言う負い目があってのこと、本当は反対だ。 約束をしてくれ、リュウとは付き合わない、余計には出掛けない。 仕事はなるべく拙者かリュウとする、これが条件でござる」
「はいぃ…… ありがとうございます…… ラザノフ様…… リュウ……」
実際には、狙われてる俺は貴族街の家での生活がメインになると思う。
「あの…… ひとつお聞きして宜しいでしょうか、ラザノフ様」
ラザノフがマインさんを見て頷く。
「何故、ユーリス姫とリュウ君が付き合ったらダメなのですか?」
「貴族の女はさっさと嫁に行く、そして残され傷つくのはリュウだ。 拙者は何度かやるせない感じのリュウを見てるでござるよ。 だからもう友達の辛い姿は見たくない」
俺は態度に出したつもりはない。 ……が、ラザノフに気づかれポンタにも気づかれた。
やっぱりショックは少なくないか……
それにしてもラザノフ、優しいな。
ユーリスがジッと見てるので声をかける。
「ユーリス、髪の毛が伸びたね」
「うん、ずっと伸ばしてた、貴方に洗ってもらいたくてね……」
そう言えば約束してたな……
「首の傷、目立たないよ」
「病院の先生が気にかけて治療してくれたし、女は化粧でも誤魔化せるから」
自分で自分を傷つけるとは、バカなやつだ。
他のやつに傷つけられたのなら、俺がブチギレてる案件だぞ。
それでもユーリスは自らの行動でお姫様にはあり得ない自由を手に入れた。
「リュウ君が他国の貴族だったら、私達は全力でユーリス姫の相手に推したのに……」
「リュウはもう…… わ、私を好きじゃないぃ〜」
いや、好きだ。
でも、こだわりがないだけだ。
それにど〜せ貴族女は俺を選ばない。
「他国の王族じゃないの?」
「もしくは上級貴族ね」
ふ〜ん。
「とにかく戻って来たらもう一度話そう。 リュウ、明日がある、もう帰ろう」
そうだな…… 宿屋までも時間がかかるし夕食も会場に戻って食べるの嫌だし。
こうしてお城のパーティーは終わった。
だけど貴族になった以上、これからもパーティーに出席しなくてはならないだろう。
大会初日。
武闘大会は初めてではないので流れは知ってる。
この部屋で待ってて、ユキナが対戦表を持ってきて、セレモニーの後に試合。
正直、初日に気合いは入ってない。
明日の決勝トーナメント、相手はラザノフ。
ラザノフに剣術で負けてないと言っても、ラザノフの腕は上がってる。
しかも本番で思わぬ力を出してくるかも知れない。
「大変よ、リュウ君!」
ドアを開けるなり声をかけてきたユキナ。
このパターンはどうせ俺の相手が強敵なんだろ。
「ほら、見て」
対戦表には俺はDブロックでラザノフはAブロック。
対戦相手は…… やはりユキナレポートにあったアイスダン。
「アイスダンを倒したら次は?」
「……もう倒したの? 次は分からない。 正直、この大会は強いと言われてる人でも苦戦することも多い大会なの」
そうなんだ……
「拙者の初戦はゼウスと言う男、次は多分、お子ちゃまでござるな」
「レッドスリーね。 とにかく未知の強敵がいると思って油断しないでね。 特にリュウ君、昨日からちょっと疲れてるわよ」
よく見てる…… パーティーで一気に疲れた。
試合はグラウンドを半分にして、AとBブロックが終わった後にCとDブロックの試合となる。
ブゥゥゥ〜っと振動と音がしてセレモニーが始まることを教える。
お互いを見て何も言わずに歩き出す俺達。
暗くて狭い廊下を歩いている時に事件は起きた。
後ろの気配を感じて振り返ると、迫り来る短刀! ズズッと脇腹に激痛!
直ぐに気づいたラザノフのストレートが、ガスッと男に当たる!
ラザノフの反応がめちゃくちゃ早い、それだけ仕上がってる証拠だ!
1人目が早々に俺に気づかれ、一瞬足を止めた2人目。
サッと向きを変えて逃げる。
追いかける! ……が、それが安易だった。
ブァっと眼の魔法陣が広がった時に、ルークとの戦いを思い出し、俺は土の盾を出していた。
ドガーン!! っとかなりの大音量がした……
……パラパラと何かが落ちる音。
結構、吹っ飛ばされて色々とぶつけた時に抉られた脇腹をぶつけた……
気持ち悪くなるくらいにフラフラする……
金属王が鳴る耳の、キーンという音を聞きながら俺はユキナとラザノフの無事を願った。
辺り一面の壁が崩れるほどの強力な破壊魔法陣、粉じんで見づらいが……
とりあえず高回復薬を飲む。
犯人がボロボロで倒れてるのを発見。
背中側にくの字になっているので即死だろう。
自爆覚悟の攻撃、見えた男は若かった。
戻るとラザノフがユキナに覆い被さるように守っていた。
しかし、ラザノフの上腕部に突き刺さる鉄の棒。
「ラザノフ、ユキナ、大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫、ありがとう、ラザノフ君」
「拙者も大丈夫、リュウ、その棒を引っこ抜いてくれ」
ズズっと引き抜くと、ラザノフは高回復薬を飲んだ。
近くには口から血を流して倒れてる短刀男。
爆風で倒れたのではなく、毒を飲んだのだろう。
「リュウは大丈夫でござるか?」
「ああ、耳が聞こえずらいけど、俺も高回復薬を飲んだから徐々に良くなってくると思う」
脇の傷ももう直ぐ血は止まるはず。
それから直ぐに大会の運営委員が来て、状況確認をしてセレモニーの中止を決定した。
控え室。
心配して駆けつけた関係者達、それでもそんなには入れないので帰ってもらう。
残ったのはガルフさん、サラノフさん、スエメルさん、ルークにキャプトマン王子だけ。
ルークが話す。
「リズーン内で仕掛けてくるとは思わなかった。 ユキナさん、ラザノフ君、すいませんでした」
それでも警戒してくれていた。
宿屋は信頼できる人のようだし、旅の道中もそうだ。
「あれを防ぐのはルーク殿の仕事じゃないでござる。 ギルドの運営に問題がある」
確かにセキュリティの問題だ。
「リュウ、血だらけだけど大丈夫なのか?」
あ…… 着替えなきゃ……
それより……
「試合はどうなるのかな?」
ユキナが応える。
「今は他に爆発の魔法陣がないか調べてます。 その後に…… 多分、午後から試合が始まると思う」
観客が入っているから予想はしてた。
俺とラザノフはもう高回復薬を飲んでしまったし、それでも完全には治ってない。
「ラザノフ、腕は?」
「このくらい問題ない。 リュウこそ大丈夫でござるか?」
正直、吐き気がしてたまらない。
高回復薬で治りかけてはいるけど、きっと内臓系を痛めた可能性がある。
「ハンデで丁度いい。 正直、いまいち燃えなかった部分はあるからね。 ……ちょっと寝るわ」
ーー ーー
「速攻で寝たでござるな」
「脂汗が酷かったから絶対どこか痛いはずだよ」
この対戦表……
「ユキナさん、リュウの2回戦の相手は必ずフォルマップル国の人だけど、同じ国では初日に当たらないんじゃないですか?」
バッと対戦表を見るユキナさん。
「フォルマップル国はレッドスリーさんの出身国なので余剰枠が1あります、なので偶然では……」
確かに何処かのブロックで1回は同じ国同士の者が当たるけど、1回戦で当たるのは違和感がある。
いや、心配しすぎか……
リュウとまともに対峙して勝てる人はそうは居ない。
事実、ラザノフ君が言うにはもう上位亜人のトップレベルまで上がっていると言っていた。
暗く狭い通路での自爆攻撃も交わしたのだ、次の手は考えにくい。
それでも今の状態は良くなさそう。
昨日から何か落ち込んでる様子に見える時もあった。
精神的にも肉体的にも万全ではなさそう。
俺の予想ではラザノフ君が有利。
ーー ーー
「……ウ君、リュウ君、起きて」
ユキナ…… に、ルーク。
「今ラザノフ君の試合だから次だよ。 何か食べとく?」
時間は…… もう1時を過ぎている。
「いや、要らない。 水だけもらえる?」
そう言って身体を始動させる。
軽く伸ばすように柔軟をしていく。
「リュウ、体調は?」
動きながら応える。
「大丈夫、寝て随分と回復した」
徐々に戦闘モードになるのが分かる。
体調が悪いからこそ、集中度が増す。
ガタッと音がして、スエメルさんとガルフさんに支えられているラザノフが現れた。
ボロボロ…… 1回戦の相手も強かったのか……
「リュウ…… 済まん、負けた……」
えっ!
「怪我が治ってなかったか……」
それだと俺のせいでもある……
「いや、言い訳なしの実力でござる。 リュウ、相手は……」
「ラザノフ。 ……今は俺も余裕がない。 目の前の一戦に集中したいんだ」
ラザノフは思う。
いつでもどこかふざけた感じのリュウ。
だけど今回は全く余裕を感じない。
「分かった、夜に話そう。 リュウ、負けるなよ」
ラザノフが負けた。
相手は…… 聞いてないんだった。
とにかく俺は修羅モードに移行する!




