出発前夜
最終章が始まりました。
最終章はピッチを上げて書く予定(願望)です。
第三章 フリーダム
第九十四話 「出発前夜」
サーラとの一泊旅行は決まったが、まだ卒業までは日がある。
とりわけ何もない日を過ごしていたが、ある日ザッカーさんが訪ねて来た。
やはり内容はフォルマップル国のことだった。
貴族街や学校で俺を見かけたフォルマップル国の関係者が、ナラサージュ国に抗議したが、ナラサージュは平民リュウとは別人の貴族、フノウ・リュウと突っぱねる。
そしてフノウ家の家系図をフォルマップルの大使館に持って行くが……
フノウ家の家系図にはリュウはリズーン国、サーファレイ家からの養子とある。
養子とした時の証明書も見せる。
それでも納得しないフォルマップル国はサーファレイ家の家系図を見せてほしいとリズーン国に立ち会いを求めるが、それをリズーン国は拒否。
そこでかなり面倒くさい手続きをリズーン国はフォルマップル国に要求する。
フォルマップル国は渋々色々な書類を用意して、やっと正式にサーファレイ家の家系図を見ることになった。
そこに兄も一緒に立ち会ったようで、フォルマップル国のリズーン駐在の大使は納得せざるを得なかったようだ。
「俺とルーク、似てますかね?」
「全体的なシルエットはそっくりですね。 何よりルーク様は貴族チャンピオン、リュウ様との血の繋がりを感じるはずです」
シルエットは似てるのか……
「しかし、フォルマップル国が本当に信じたのかは分かりません。 だけどリズーン国も絡んでいるのが分かったので、もうリュウ様のことは諦めざるを得ないでしょう」
「ふぅ。 ザッカーさんや私兵の方には本当にお世話になりました」
フォルマップルの滞在は同じくらいか。
「3階でバーベキューをやるので誘いますね」
「はい。 タムリーンとギブソンも喜びます」
これで俺は海の家に戻っても大丈夫、ラザノフも向こうに居るので戻ろう。
それからはギルドの仕事を少しだけしたりして過ごした。
もう、ミナリとは2年生の間は仲直りするのを諦めた。
ある日の夕食。
今日はラリィの家庭教師の日だったので、ユキナがご飯を作ってくれた。
「リュウ、新学期はいきなり休むことになるでござるぞ」
大会だからな。
「知ってる」
「それでリュウに報告がある。 今回の大会には拙者の父者と母者、そして婚約者のスエメルが観にくる。 大会が終わればスエメルがこの家に住むことになるが良いでござるか?」
「ああ、構わないよ。 ガルフさん達を船で迎えに行くの?」
「いや、今回は直接パルモで待ち合わせにした。 ここより近いでござるからな」
確かにそうかもな。
「あっ、リュウ君とラザノフ君、今日ね、クラルさんから連絡があって、近日中には帰るって」
ラリィは普通に飯食ってる。 ……知ってたな。
「それは良かったな、ラリィ」
「うん。 リコも喜ぶと思うの」
それにしてもラザノフが婚約か……
その時にフとあの人を思い出した。
我がアイドル様、俺は貴方に会いたい。
ーーーーー
卒業式の日。
約束は午前の11時。
式はあっさり1時間くらいで終わるが、サーラは着替えて来るようだ。
この海の家で俺は待ってればいい。
旅行は当然、付き人の協力なくして実行するのは難しい。
だから充分に時間を取って仕込んだのだろう。
もし俺が考えたなら、デートは次の日かその次の日に船で遊ぶか、ミナリと行ったデートコースをサーラと行くか、くらいしか思いつかなかっただろう。
そしてサーラがやって来た。
とりあえず部屋に上がってもらう。
「凄くステキな家だね。 貴族街の家も凄くいいけど、ここは景色も最高だね」
今日のサーラは特別美しい。
卒業式で髪の毛を整え、念入りに化粧をしてるからだろう。
「ああ、俺もこの景色が好きだ。 それよりサーラ、卒業おめでとう。 両親は来なかったの?」
「来たよ。 でも式の後は友達と遊びに行くってずっと言ってきたから。 ふふ、この部屋に連れ込んだ女は何人目?」
部屋はミナリくらいしか入れてない。
「友達1人だけだよ」
「ふ〜ん。 リュウ君ってあんなにモテているのに遊んでないんだね。 私は今日は恋人でいいんだよね」
「ああ、帰って来るまで付き合ってくれ」
「うん、嬉しい。 ……脱ごうか?」
直ぐに脱ごうとするな! ってか、完全に女を知らないチェリーボーイと思われてて揶揄われてるな。
そろそろ馬車の時間なので出かける。
馬車は船を停泊してるところから真っ直ぐ1キロくらいの場所にある。
「サーラ、帽子をあげる」
髪をセットしてるけど、誰かに見られるリスクよりいいだろう。
「こんなにたくさんの帽子…… リュウ君はオシャレさんなんだね」
配達の仕事は冬でも関係なくある。
寒いので立ち寄った町で帽子を買う。
次の依頼を出発した後に帽子を忘れたことに気づいて、町に立ち寄った時に帽子を買う。
また次の依頼でも帽子を忘れ、また帽子を買う。
捨てても増える帽子、永遠ループ。
「なんかそうみたい。 ラザノフやラリィなんてしつこいくらいにオシャレだ〜、オシャレさんだ〜って言うと思う」
「は…… え? まだ言ってはないんだ?」
「だからもう直ぐ言う」
予定。
「キャハハ〜、これもらっていい?」
「ああ、それはホオヒューガで買ったやつ。 丁度ラリィの里の帰りだから覚えてる」
「ヘェ〜、そういう思い出ある帽子は嬉しいな」
何かの動物の毛? がモアモアって付いてるやつ。
コトコトと進む馬車。
キャビンは8人乗り、席の指定はない。
サーラと俺は隣に座ったけど、一応知らない人設定。
男率の高いキャビンの中、ミニスカートで気品のある美人のサーラ、当然皆んなの注目の的となる。
徐々にサーラに話しかける男が増えてくる……
「お嬢さん、何処まで行くの?」
から始まり、サーラは当たり障りのない受け答えをしていたが……
「ザペッタは私が良く行く町なんだ。 良かったら私もお嬢さんと行って案内をしてあげよう」
下心が…… だってサーラの太ももをチラチラ見て喋ってるから……
俺は薄く目を瞑り、どうなるのかを見守った。
隣とはいえ、少し離れて他人感を出してた俺達だけど、サーラは思いっきり俺に寄り添い頭を俺の肩にもたれた。
「ありがとうございます、でもこの人と行くのですよ。 ふふ、楽しみです」
おいおい、結局バラしちゃったし、これからの長旅で気まずくなるじゃん。
まぁいい、目を瞑ってるし寝たふりをするか。
グガァ〜、スピィ〜、グガァ〜、スピィ〜……
「……ウ君、リュウ君!」
「……え、あ、ああ。 俺もそう思う」
「キャハハ、何が? 寝ぼけてる? ……もう着くよ」
寝たふりからの爆睡か…… 良くあるパターンさ。
馬車から降りると温泉街特有の硫黄の匂い…… 何かレトロチックな感じな場所だ。
大きな川の横を登った先に見えているいくつもの大きな旅館、きっと今日はあの旅館のどれかに泊まるのだろう。
坂道で手を繋いできたサーラと歩く。
途中、フと気になったことを質問してみた。
「サーラは付き合った人は居るの?」
居ない訳がない。
俺の病気を治してあげると言うくらいだ、結構、経験豊富なはず。
「1人だけね。 丁度、あの大会の前後だよ」
あの時か……
早いものでもう1年以上経つ。
「もうリュウ君のことは諦めてて、ずっと好きって言ってくれてた先輩の卒業生と少しだけ付き合った」
それでどうやって俺の病気を治すの?
「好きって言ってくれる奴なんていっぱい居るでしょ」
「リュウ君もね。 でもそうだね〜、タイミングかなぁ」
確かにタイミングは大事だ。
ルイースとはバッチリタイミングが合った。 ……けどミナリとは合ってない。
「リュウ君は私が初めてでしょ。 大丈夫、私の方がお姉さんなんだから任せなさい。 ……って、私だってそんなに経験ないからね〜、ふふ、本で知識を高めて来ました。 楽しみ? ふふふ」
いや、貴方の方が楽しみにしてるでしょ。
……まぁ勘違いするのは分かる、静香チンの俺は当然チェリーボーイと思ってるはず。
陽が落ちはじめた茜色の空が似合う、温泉街。
俺達が泊まる旅館は流石に上級貴族が予約した、って感じの高級そうな旅館。
旅費は全てサーラが払って俺からは受け取らなかった。
ただ、明日の食事代とお土産のプレゼントは俺がしてあげる予定。
部屋は大きく洋風な部屋、ベッドが2つに大きなテーブルがある。
食事はこの部屋に持ってきてもらえるようだ。
「お風呂は食事の後に家族風呂の予約がしてあるからね。 私は今も入りに行くけど」
「俺も大きい風呂に入りたいから行くわ」
「うん。 でも髪の毛は洗わないで、治療プランに入って…… ゴクン…… あ、キャ〜」
何、想像してる!
男風呂は大きなガラス張りで下を覗くとさっき登って来た道と川が見える。
お客さんは俺の他に数人、若いやつは居ない。
そして風呂から出た後は食事。
でも、まだ少し時間がある。
「リュウ君のクラスの可愛い双子とはお付き合いしてなかったんだね。 でも、付き合ってるという噂はあったけど」
「ほとんど学校は通ってないからね」
「うん…… フォルマップル国とのいざこざは解決したって聞いたけど?」
「まぁ、一応かな」
「心配したよ、本当に……」
いきなり学校休んで、やっと回ってきた情報はフォルマップル国に捕まったという情報。
だけどサーラはラザノフと仲が良い方なので、逃げ出したまでは分かっていた。
その後、いきなり貴族街で見たという目撃情報に学校での対面。
一度だけでもデートしたい! っと決意を新たにしたようだ。
それぞれのベッドで話をしている俺達。
しかしサーラが動き、横になってる俺の上に跨がって来た。
「だからね、私にはリュウ君の病気が願ったり叶ったりだったの」
「何で?」
「治療にかこつけて……」
サーラはチャパチャパとキスをしてきた。
「ハァ、ハァ…… こんなことまで出来るでしょ…… まだ治療続ける……」
堂々と卑怯なオッサンみたいなことを言うサーラ。
治療はいいけどもう直ぐ食事だぞ……
「ハァ、ハァ、ハァ…… 治った?」
キスで治るなら、リコとしてるちゅ〜の。
「ピクリともしない」
「そう…… もう少し頑張ってみるね」
凄い勢いでキスをしてくるサーラ。
お姉さんが教えてあげる感が凄く出てる。
俺はいつまでチェリーボーイを気取ればいいのか? ……ハッ!
「あ、あの…… お食事宜しいでしょうか?」
仲居さんが食事の用意で部屋に入って来てた…… 恥ずかしい。
食事は豪華で14品目もある。
どの世界も、ついでに言うならどの星だって人を集めるには食事が大切だ。
流石に高級旅館、料理に力を入れている。
しっとり俺を見るサーラは気になるけど、とても美味しい料理だった。
そして家族風呂。
奥まった小屋まで歩いたところに露天の家族風呂があった。
どうせ後で見られるから堂々と脱ぐ。
もちろんサーラもそうだと思ったけど、しっかり手で隠しながら脱いでた。
「な、何よ、こっち見ないで」
「ああ…… ごめん」
どうやって治療するの、っと思ったが手からはみ出る胸を見た時、トクンっと何かが脈打った…… 気がした。
しっかりタオルを巻いて入ったサーラ、フルチンの俺を立たせて体を洗ってくれる。
「無理そうだね……」
分かっていたさ。
「で、でもまだよ、髪の毛を洗うね。 目を瞑って」
子供じゃないんだから髪の毛洗うのに目は瞑らねぇよ、と思ったけど何も言わなかった。
すると……
タオルを取って髪の毛を洗いだすサーラ。
至近距離でブルンブルンと揺れる胸は初めて見る大きさ。
トクンっとまた何かが脈打つが、何も変化はなかった……
風呂から上がってからのサーラは凄かった。
羞恥心をかなぐり捨て、本で読んだテクニックを色々と披露してくれたが、実戦で覚えたルイースのテクニックには遠く及ばない。
それでも彼女の大きな胸を使ったテクニックの時に奇跡が起こった。
確かにトクトクトクンっと脈打ち、一瞬だけど俺とサーラは同時に喜んだのだ。
しかし……
立ち上がるまでは至らず、俺ではなくサーラの落ち込みは酷かった……
次の日。
旅館から出て来た俺達はお土産を買おうとお店にいた。
「リュウ君、このブレスレットが欲しい」
綺麗な色のブレスレット。
「不思議な色だね」
「……うん。 サンカルムの西側のチコリットと言う海岸で、このブレスレットと同じ瑪瑙色の海が見れる時があるんだって。 瑪瑙色は光の反射、海の透明度や温度、塩分濃度によって奇跡的に現れる色。 恋人と一緒に見ると永遠に幸せになれるって言われてるんだよ」
多分、ミナリと行った方向の海だ。
「行ってみる?」
「ふふ、ここからじゃ…… 行けるかな?」
馬車さえあれば全然行ける。
「調べてみよう」
調べると馬車はブライスというチコリットの近くの町まで行けるのが分かった。
お土産を買って馬車に乗り込む。
馬車のお客は俺達だけ、だからか昨日のことをサーラは話してきた。
「一瞬だけど、立ったよね⁈」
「うん、1回だけどその感覚があった」
でも、完全ではなかった。
「ふふ、落ち込む暇もなく満足させてくれてありがとう。 思いっきり女の身体の扱いが上手いよね、凄く良かった…… ふふ、乱れ過ぎ?」
頑張ったサーラに何かしてあげたいと思った。
ノルマを決めて求めてきたルイースに、俺も相当鍛えられている。
「でもこれで貴方を何度でも思い出せる。 結婚してもね……」
サーラは他の地で結婚準備をした後に結婚する。
だからサンカルムからは4月中に居なくなるようだ。
ブライスに着いてからは歩いてチコリットを目指す。
もう4時過ぎ…… 7時には帰りたいと言うサーラなので海には1時間も居られないだろう。
まぁ…… 飛べばいいか。
海に着く。 ……が、普通の青い海の色。
「はあ、やっぱりそうだよね。 私達は結ばれない運命なんだよ」
「それでも俺はサーラを忘れない。 昨日見たサーラは世界で1番美しかったよ」
俺のために汗をかきながら頑張るサーラ、時折り見せる笑顔は最高だった。
グッとサーラを引き寄せて抱きしめた。
サーラは顔を埋めて涙を流した……
「もう帰らなきゃ、ここから3時間もかかるんだって、ちょっと遅刻かな」
そうか…… 俺が飛べるって言ってなかったんだ……
「サーラ、俺の産まれた場所は、この海の向こう側なんだ。 つまり、飛んで来た。 飛んで送れば間にあうよ」
「あ…… え…… リュウ君はリズーンの中級貴族の息子って聞いたけど……」
信じる人も居ると思ってた。
だって平民が城に何度も呼ばれてるし、竜族との繋がり、無詠唱、剣技など信じる要素は沢山ある。
まぁ、ここは人なんて居ない。
サーラを抱いて空まで上がる。
キャ、っと軽く悲鳴をあげたサーラ、でも現実を受け入れる。
「本当なんだ…… うん、リュウ君と会えて良かった。 私はこの景色も昨日のリュウ君も忘れない」
え〜と、フルチンで洗われてた俺かな?
「降りて、後ろに背負って飛んでくね」
もう5時過ぎ、帰る頃には暗くなってるはず。
「ちょっと待って」
そう言ったサーラは涙のキスをした……
ーーーーー
貴族街から海の家まで歩いている。
また貴族の子と悲しい恋をしてしまった。
ユーリス、リシファさん、ルイース、サーラと、俺はどうせ誰でもいいのだから平民の女にするべきだ。
でもこの病気…… 治るかも知れない。
ーー ーー
「リュウ君、明日も明後日もその次もリュウ君の家に行くよ。 まだ私には時間があるからね。 そして必ず治してあげる」
背負ってる時にサーラが言った言葉だ。
確かにそれなら治る気もするが……
「止めた方がいい。 嫁入り前の女が男の目立つ家に通って見つかれば、必ず人の噂になる」
王族が入る予定の家に俺が入ったんだ、目立つ。
きっと直ぐにバレる。
「いいの、貴方のためになるなら」
即答で応えるところがカッコいい。
覚悟が決まっている証拠だ。
でも…… 見つかって噂になれば結婚は御破算になって、怒った親は不埒な娘に何をするか分からない。
貴族は何より対面を気にする……
もちろん俺がサーラをもらうのはいいけど、治らなかった場合はサーラは子も産めないし、性生活もそのうちなくなるしで申し訳ない。
安易なことは出来ない。
「ごめん、サーラ……」
ーー ーー
……そんなことがあったが、彼女のおかげで一筋の明かりは見えた。
でも、エッチなことは付き合った人じゃないと出来ないし、これじゃ誰とも付き合えないしで……
八方塞がりってやつ?
海の家まで来た時に外からリビングが見えて、ある人が居るのが見えた。
中に入って抱きしめる。
「クラルさん、お帰り」
「うん、ありがとう。 貴族街にも家があるんだってね…… あ、デートどうだった?」
ラザノフか…… お喋りめ。
「楽しかったよ」
離れると他にも沢山の珍しい人が居るのが見えた。
「サーラさんでしょ。 あの子も良かったわね」
何回か話したって言ってたな。
「ジルベッタさんも遠いところご苦労さまでした」
「ああ、送って来たよ。 また数日お世話になる」
頷いて次の人を抱きしめる。
「フォルマップルのことでは迷惑をかけたね、ルーク。 何しに来たの?」
「あ、ああ。 ラリィの昼間動ける薬のサンプルが出来たから持ってきた」
早い! 何て優秀な兄なんだ。
「後で詳しく聞かせて。 どうやって来たの?」
「また補助具を作った。 だけどリュウの分はまだだ、悪いな」
「いいよ、そんなの。 ……ユキナもいらっしゃい」
今日は家庭教師の日じゃない。
「うん…… 泊まりがけのデートか……」
クラルさんが…… いや、ラザノフが言うから皆んなにバレる。
「ユ、ユキナはどうしたの?」
「ルークさんがギルドに見えたから…… 私も行こうかなって」
なるほどね。
「それよりリュウ君、ご飯は?」
クラルさんがいいタイミングで言ってくれた。
「腹減ってます」
さて、ルークの薬について。
ルークは光の成分の光合成や紫外線などに着目。
それらをカットする成分や変換をもたらす成分を合わせてサンプルを作る。
数人のパッチテストを終わらせてサンプルを持って来た。
「っと、こんな感じだ」
「ルークさんは凄いわね。 もしそれが効いたら……」
「ああ、一族の概念が変わる」
クラルさんとジルベッタさんが言った。
とりあえず明日の昼間に実験することになり、今日はお開きとなった。
ちなみにユキナは連れて来たルークが送って行った。
次の日。
朝から良い天気、実験するには最高のコンディション。
ルークが説明する。
「自然な物を組み合わせでパッチテスト済みですが、吸血族の肌でテストした訳ではないので異変を感じたら直ぐに戻って洗い流しましょう。 それと子供に使うのは初めてなのでラリィは特に変だと思ったら言うんだよ」
丁度、3人も吸血肌があるので全員でテストする。
「痒いとか塗ったところが熱いとか少しでもあったらにいちゃんに言うんだよ」
ラリィはルークを見て頷く。
……何その憧れの人でも見る視線……
俺にもよこせ!
それぞれ塗って出かける。 行き先は上にある父ちゃんのお墓。
最初は3人とも驚くくらいに順調。
お墓までは着いた。
皆んなで歩いて来たので25分かかってる。
お墓を教えてあげるとクラルさんが涙ながらにお礼を言う。
「リュウ君、本当にありがとう。 ラリィのこと、サークのこと、私のこと…… 本当に何てお礼を言っていいか分からないよ……」
色々なことにタイミングがある。
あと1日俺達があそこを通るのが早くても遅くても、ラリィとは会ってない。
必然か偶然か……
「まだ途中。 ラリィがお嫁に行く時にでもお礼を言ってよ」
「ふふ、本当にカッコいい子ね。 女の子が放っておかないのが分かるわ」
でも中身は役立たず。
最初のリタイアは涙を流したクラルさん。
顔が少しヒリヒリするという症状でラザノフと家に戻る。
その後20分でジルベッタさんも同じ症状が出たので俺が付き添い帰る。
ラリィがルークと帰って来たのはお昼近くだった。
食後にルークが話す。
「今回のテストは成功だと思います。 だけどこれから時間を延ばすために何度も改良が必要でしょう」
クラルさんは30分、ジルベッタさんは50分、ラリィは2時間も大丈夫だった。
「子供の方が長く大丈夫だったのはなんで?」
「ハッキリとは分からない。 単純に肌質の違い、父親の影響、薬を子供に合うように作ったから…… どれも言えるからこれから調べるよ」
俺の頭は本当に戦いに特化してるだけなのか? 付いていけない。
それでも分かってるフリはする。
俺は大袈裟に頷いた。
……ここで、やったぜ、でも付けとくか?
「やったぜ!」
……不思議顔の皆さま、冒険し過ぎたか⁈
「ところでルーク殿は個人戦に出るでござるか?」
「打診はあったけど、この前リュウに負けたばっかりだし貴族チャンピオンの箔を落とすのもね…… トゥルフ王子と相談して断ったよ」
確かに色々仕込んでも俺には余裕があった。
それに転移がめちゃ厄介だけど、会場には仕掛けられないだろうからな。
それでもムジナさん以上と思うので優勝争いには加わると思うけど。
「ユキナ、今いちルールが分からないから教えて」
「うん、任せて」
個人戦のルール。
人選 各国4名。
プラス枠 開催国の2、前回大会優勝者の出身国2、準優勝と3位がそれぞれ1。
計32名によるトーナメント戦。
初日に3戦、勝ち上がれば2日目に準決勝、決勝の2戦を戦う。
両日共に高回復薬1本が使用出来る。
「ちなみにラザノフ君とリュウ君は初日には当たらないよ」
「お互いにナラサージュ代表だからでござるな」
ユキナが頷く。
「ユキナさん、ラザノフ君のように上位亜人は出るのですか?」
「稀に出ます。 でも負けるとその種族が弱いみたいに思われるから……」
ラザノフ〜、プレッシャ〜。
「ウグッ、正直、初日にリュウと当たらないのは助かるでござる……」
「ユキナレポートは?」
「ふふふ、うん、少しだけになるけど、作るよ」
まぁ、個人戦なので真面目なレポートだろう。
「ルーク殿、いつまで居れるでござるか?」
「明々後日に予定があるから明後日までお世話になっても良いですか?」
「もちろんでござるよ。 それで、拙者に稽古を付けてほしいでござるが……?」
オッ、ズルいぞ……
「ええ、いいですよ。 俺の稽古にもなる」
「じゃあ、俺も」
「……お前はヤダ。 この前やったし今は自信を回復したい」
もう直ぐ大会なのに……
「それより今はどんな稽古をしてるの? また変わったことしてるの?」
変わったこと…… 素潜りのことかな?
「素潜りは気が向いたらかな⁈ 他は昔と変わってないよ」
「そうか。 俺もリュウに教わった柔軟や体幹トレーニングは出来るだけして来たぞ」
まぁ、戦争中では出来ない時もあったろう。
それでもやっぱり"継続は力なり"なのだ。
「ドムフが驚いてたのは素振りでござるな。 一振りに凄く時間をかける」
バランス良く振らないと力も伝わらない、蓮撃のスムーズさも欠く。
そう言えば新しい稽古は階段降りがあったな。
でもミナリと約束したのでミナリを連れて行きたい。
早く仲直りしてルークやラザノフ…… あっ、ユキナも、その時はスエメルさんも連れて行きたいな。
それから2日、ルークは大会で会うことを約束して帰った。
大会中はフォルマップルに気を付けろ、っと言い残して……
明日は馬車でラザノフとユキナ、そしてラリィで出発する。
ジルベッタさんとクラルさんは留守番なので、貴族街の家で待っててもらうことになった。
この辺りの治安はいいけど、やはり貴族街の超高級住宅地とも言える俺の家の方が安心だし、ケルンやリコも放し飼いが出来るので更に安心だ(ここだと紐で繋がれてるので不審者が居ても吠えるだけ、しかも昼間はずっと繋がれることになる)。
食後にユキナレポートを見る。
「ところでナラサージュのもう2人の代表は誰でござるか?」
ラザノフがユキナに質問した。
「ベネッタ所属のタスバーンさん。 ラザノフ君と同じ槍を使うわよ。 上位亜人の血が入った人間でリュウ君より大きいの」
「ム、強いでござるか?」
同じ槍持ち、反応するのはいいけど俺は次の人が聞きたい。
「知らない。 もう1人は……」
ワハハ〜、流された〜。
「ほう…… 謎の男でござるか……」
あ…… 心の中で笑ってたら聞き逃した。
まぁいい、そろそろ本題だ。
「当然、先ずはこの人ね」
ムジナ。
パーティー戦で素敵な変人達を撃破したチームのリーダー。
獣人で足技を得意とする。
短評 リュウ君に娘のミコトを取られたことに恨みを抱いているムジナ。 今回は勝って娘を取り返すと周りに息巻いている。
「ちょっとさ。 俺は取ってないけど?」
「ふん! 心を奪ったじゃん!」
そのキャラ誰?
「つ、次、お願いします」
アイスダン
前回優勝者。
ゲラー族ハーフのアイスダンは強力なスキル絶対零度を受け継いだ。
剣術との組み合わせは強力。
短評 アイスダンは歯槽膿漏になり治療中。
また関係ないこと調べてる……
俺達が心配するとでも思っているのか?
「ラザノフはゲラー族って知ってるの?」
「ああ。 痩せ型で背が高い。 絶対零度は口から吹雪のように出す。 まともに当たれば骨まで凍るでござるよ」
こういうことを書いて欲しい。
歯槽膿漏の治療中って……
「リュウ君、何か不満でも?」
「な、ないです、次、お願いします」
レッドスリー
前回準優勝。
珍しい武器で勝ち上がったが、絶対零度に武器が壊され優勝を逃した。
今回は鉄の取手をチェーンで結んで万全で挑む。
短評 もうお子ちゃまなんだからぁ、って言われると異常に喜ぶ。
短評だけ書かなきゃいいのに……
「……ラザノフ、レッドスリーとどちらかが当たった時に言ってみよう」
「もうお子ちゃまなんだからぁ、をでござるか?」
喜べないぞ。
「い、いいね〜。 でも…… ウフン、もうお子ちゃまなんだからぁ、の方が良くない?」
「あ、ああ、いいで…… ご、ござるな」
めちゃくちゃ嫌そうな顔してるけどな。
「ご、ごめんなさい…… きっと貴方達じゃ無理……」
知ってるけど改めて言われるとやな感じ。
ユキナレポートは少なめなこれで終わり。
まぁ、個人戦なのでこんなもんだろう。
明日は早いのでユキナも泊まって行く。
皆んな、それぞれの部屋へ……
パルモは大陸の中心付近ではあるので各国からは集まりやすい。
予定では小さな町を経由しながら1週間程度の旅。
途中の色々の町での買い物を、ユキナとラリィはとても楽しみにしている。
パルモには大会の3日前に着く予定。
もし遅れそうなら飛べばいいだけなので遅れても別にいい。
大会の2日前の夜にカミラさんとリョーキさん、そしてユキナと俺達が夕食を一緒する予定。
予約済みのお店で待ち合わせをしてる。
大会前日はパルモにある貴族街の中のお城でのパーティーに俺達は呼ばれてる。
もちろんユキナも一緒だし、俺も驚く人に会えるとキャプトマン王子が言っていた。
……誰かは知らない。
「ガルルルルゥ……」
喉を鳴らすケルン…… 誰か不審者が居るのかっと思い窓から覗くと……
サーラが居た……
リコは喉を鳴らさないから知り合いとは思ったけど、この時間に下町にサーラが来るとは思わなかった。
玄関の外で俯いているサーラ……
顔を上げて俺の部屋を見れば、俺と目が合うと思い持ってみたけど俯いたまま……
1階に下がると、1階で寝るユキナとケルンの飼い主のジルベッタさんが玄関前に居た。
「ごめん、俺の知り合い」
少し曇った目をしたユキナ、一度目を伏せて聞く。
「誰? ……女の子?」
「……うん」
またか…… そう思ってるのが分かる。
「大会だよ? そんな事してて勝てるの?」
そんな事とは何だろう? 分からないから無視して玄関を出た。
大会に出発すれば帰って来た時にサーラはサンカルムには居ない。
だから俺だって何も考えずに過ごした訳じゃない。
これでも色々と思ったり悩んだりしたのだ。
……それでも何も出来ないのが現実でしかない。
サーラは俺がドアを開けて外に出ると、驚いたような顔からみるみる泣き顔へと変わった。
トクンっと心臓が潰されたような感覚。
サーラは裸足。
そう、あの日のルイースと同じだ……
強く抱きしめると、サーラは嗚咽混じりの泣き声を我慢するように漏らした……
落ち着くまで待って抱き上げる。
そして玄関に入って座らせた。
俺はタオルを濡らしに洗面所に行く。
途中、ユキナが呆れるように部屋に戻った。
サーラの元に戻って足の裏を拭いてあげる。
貴族街から素足だったのか、足の裏の切り傷が酷い。
ゲリールで治す……
「ご、ごめんなさい……」
初めて喋ったサーラ…… いや、俺もまだ喋ってない。
「謝ることなんて1つもないよ」
そう言うとサーラは鼻水を啜りながら涙を流した……
リビングで椅子に座らせたサーラに紅茶を出す。
まだ居たジルベッタさんが俺にアイコンタクトをして部屋に戻った。
……何を意味するアイコンタクトだったのかは、謎だ。
「もう会えない。 そう思ったら玄関を飛び出してたよ…… 迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑なんてかけてない。 会えて俺だって嬉しいんだよ」
また瞳を濡らすサーラ、本当に美しい人だ。
落ち着いてきたのかサーラはあの事を話してきた。
「治った?」
「治るはずないでしょ。 正直あの時のサーラを思い出したりしたんだけどやっぱり反応しなかったよ」
思い出すだけで鼻の穴は倍くらいに拡張するのに、あっちは拡張しない。
鼻の穴と代わってくれないかな……
「私がもう少し早く声をかければ…… 本当に悔やむよ……」
俺は誰も受け入れないつもりだった。
あのタイミング、あの会話の流れだからサーラと深い付き合いが出来たのだ。
「内緒で出て来たんだろ?」
「……うん。 マズいかも……」
走って来ても1時間半はかかる道のり。
更にここで30分。
2時間か…… 誰にも気づかれずに出て来たなら大丈夫だと思うけど……
「それ飲んだら送って行くよ。 サーラの家の地図を俺の家から見て描いてくれる?」
「うん…… そんなに離れてないよ」
サーラを送って行く。
サーラを抱いて坂を上がって、お墓まで来てからジェットを起動する。
高く上がって地図で見たサーラの家あたりの上空で下を目を凝らして見る。
すると…… 命の危機とかしか発動しないと思っていた眼の魔法陣が広がる。
サーラの家付近に人影はなし……
「サーラ、これで最後だ。 急降下するから悲鳴は我慢して」
「うん…… 私ね、リュウ君に勇気出して声をかけて良かった。 ……あの子にも感謝しなきゃね」
きっとパミヤのことを言っているのだろう。
「最後にリュウ君からキスして。 あの時と同じように濃厚なやつ」
チェリーボーイと思ってた男がいきなりの豹変…… でも喜んでたよね⁈
「分かった……」
今までで一番長いキス。
サーラの唾液は紅茶の味がした……
帰りも同じようにお墓で降りて、そこから歩く。
治ると思った病気が、やはり治らないと確信した。
ルイースとなぞるような別れの展開が俺をそう思わせた。
それでもルイースにとって、サーラにとっての俺との付き合いが、悪いものだったとは思えない。
それだけで充分な救いだ……




