ラザノフの決意
第二章 成り上がり
第八十八話 「ラザノフの決意」
ルカルス対ミルトライン。
背はルカルスさんが10センチ程度高い。
ミルトラインさんは槍を右手前で待つ左利きか。
ルカルスさん得意の呼吸を呼んだ突きが当たるタイミングで飛ぶが、ミルトラインさんの痩せた身体がゆらゆらと槍をかわす。
そして、踏み込んだミルトラインさんとの近距離での打ち合い!
お互いかなり被弾しているけど、気にせず打ち合う姿は迫力あるしレベルも高い。
体格に勝るルカルスさんが少し押してると思った時、ミルトラインさんの槍が少し流れ、チャンスと見たルカルスさんの打ち下ろしの上段が当たったと思えたのだが……
勝ったのはミルトラインさん。
槍を滑らせた瞬間、持ち手を変えてルカルスさんの左側頭部を叩いた。
きっとルカルスさんは今も何が起こったか分かってないはず……
その後、兵団の練習を俺も一緒にして午前中の稽古は終わった。
ゾフさん家での昼食。
当然、ゾフさんとガルフさんも午前中の試合を見ていたので、午前中の試合の話題となった。
「いや、面白い試合だった。 武器を待っていてもお互いに全く拘らない試合をする」
ゾフさんが俺を見て言った。
「俺も驚きました。 足を踏んだり武器を投げたり、全く予想外で面白かったです」
「だが、リュウ君が一歩先を行ってた」
心なし嬉しそうにガルフさんが言った。
「やっぱり何度かやってみたいですね。 最初の一回を勝っただけかも知れないし」
「ああ、ナラサージュから連絡があるまではゆっくり出来る。 ゼブンやゴルゾフと何度だって戦うがいい」
でも、回復薬には限りがある。
「それにしてもドムフ、瞬殺だったな」
ガルフさんがニヤけて言う……
「正直、目が合った時に負けたとは思った。 でも、想像してたより鮮やかにやられた……。 リュウさん、俺も一緒に稽古をさせてください!」
ドムフは思う……
目が合った一瞬、カッコいいと思ってしまった。
対戦相手に、試合中に憧れを覚えるとは思わなかった。
「いいよ。 兵団での稽古はどんな感じ?」
「6時から1時間半、朝飯挟んで9時から昼前までです」
「それじゃあ、朝の稽古は被っちゃうかも。 俺は5時から1時間から2時間、夕方も同じくらいやってるから夕方の稽古を一緒にやろう」
「いや、毎日ってわけじゃないし、朝もゴルゾフ隊長に言っておくんで大丈夫です」
ルカルスさんはルカルス団長と言われてるけど、ゴルゾフさんは何故、隊長なのだろう。
別にどうでもいいけど。
「それよりリュウ、俺は何故負けた?」
ルカルス団長さん…… さっきから話をしたそうだった……
よっぽど悔しかった?
「仕込まれた可能性が高いですね。 狡猾な試合運びをする人って印象を持ちましたよ」
「ああ、ミルトラインはそうなんだ。 餌に飛びついてしまったと言うことか…… 次はそうはいかんぞ」
「やられたらやり返す、目には目を歯には歯を、じゃないですか」
ん……? って感じだったルカルスさん、でも直ぐに閃く。
「なるほど、面白い。 あの時のことは覚えてるか?」
「ええ、5手前くらいから覚えてますよ」
蓮撃の癖で覚えがいい。
「それなら夕方俺も行く。 稽古に付き合ってくれ」
そんな話をしていてもラザノフは居ない。
何でも幼馴染のスエメルさんと里の外に食材を取りに行ってるらしい。
ゴルゾフさんとスエメルさん兄弟。
土竜族の父と氷竜族の母から産まれた。
ゴルゾフさん85歳、スエメルさん20歳と65歳の歳の差があるので普通はお爺さんとお孫さん。
ただ、人間的な見た目だと若いお父さんと娘くらいに見える。
ゴルゾフさんもスエメルさんも6歳までは土竜族の里で両親と暮らした。
丁度ムジカと同じ境遇。
スエメルさんはラザノフと歳が近いので、小さな頃は土竜族の里でよく一緒に遊んだ。
丁度、同じくらいの歳の子が居なかったので、お互いに意識してた⁈
ラザノフは歳上が好きと言ってたのはスエメルさんを指しているのだろう。
ゴルゾフさんは若い頃に結婚したけど、奥さんとは死別。
その後は妹を男手一つでスエメルさんを育てたので、兄弟と言うより親子関係に近いか。
夕方の稽古。
ルカルスさんとミルトラインさんの試合を模倣しながら、最後の場面をゆっくりと再現。
徐々にスピードを上げて返し技までを創っていく。
更にパターンが変わることまでを想定してこの日の稽古は終了、息子ドムフはほぼ見ているだけになってしまったが満足そうだ。
「本当に全く違う視点の稽古、勉強になりますリュウさん。 そ、それで俺がラザノフに勝つには何が必要ですか?」
ラザノフのお兄様の前で言えってか?
「正直、ラザノフは凄く強いと思うよ。 明日はミルトラインさんとラザノフの勝負もある。 どう戦うか見た方がいい」
「リュウ。 其方の見立ては?」
ルカルスさんが口を挟む。
「7、3でラザノフ。 つまり10回やったら7回はラザノフが勝つと思う」
7、3の力の差は結構ある。 ……と思う。
「クッ…… そこまでラザノフは強くなっているか……」
ドムフも悔しそうだけど、ルカルスさんも悔しそうだ。
「お、俺がラザノフに追いつくには何が必要ッスか?」
「ごめん、俺はまだドムフのことを知らない。 だから的確なアドバイスは言ってあがれないよ」
ドムフを知らなければアドバイスなど出来ない。
それに、ルカルスさんとミルトラインさんのように実力が拮抗していればいいけど、ドムフとラザノフの実力は拮抗してない。
「そ、そうッスか……」
俺はドムフに色々と言われたけど、ドムフみたいなタイプは嫌いじゃない。
何となく波長みたいな物も合うと思う。
「それじゃあ、ゼブンさんは?」
これはルカルスさんの質問。
「まだ勝てないと思います」
「何回やってもか?」
「分かりませんが、厳しく思います」
ラザノフは完全な守りのタイプ。
今後、ラザノフはもっと強くなり、俺のライバルに相応しい強さを身につけると思う。
だけど今のラザノフはトリッキーな攻撃タイプを苦手としている。
そして何より攻め手に甘いところもある。
しかし…… 俺が生きていた時代の前世では、スポーツ、格闘技から麻雀や碁、将棋まで、守りに強い人が強かった。
攻めより守りが強いのが主流となりつつあった理由は、攻め手の攻略をし続けた結果かもしれない。
空も同じ。
上手く飛べることよりも、上手く着地出来ることが大事になる。
「リュウさん、飯の前に温泉に行こう」
っとドムフが言うので温泉へ。
氷竜族の温泉。
幾つかあるうちの1つの洞窟の奥に、暖かい川が流れている。
その川から横に温水を溜めたスペースを幾つも作ってある。
基本は混浴だけど、8時から10時までと20時から22時までは女の人しか入ってはいけないらしい。
「ふぅ〜、やっぱりこの里に来たら温泉がいい」
ルカルスさんの言葉で俺はユーリスを思い出した。
旅行で別々の風呂場だったけど、あの旅行はとても楽しかったしユーリスは可愛かった。
今、ユーリスは何をしているのか……
なんて思い出している時に、結構女の人がいることに気づく。 ……っと言っても幾つもある風呂場なので、女の人にとっても気にしなくていいレベルなのかも。
「リュウ、明日はゴルゾフさんだ。 勝算はあるのか?」
「相手のことを知らないので分かりません。 ただ、ゼブンさんよりも強いなら厳しい戦いにはなるでしょう」
上位亜人の中でもトップレベルに強いと有名なゴルゾフさん。
俺の中で今までで1番強かったのは能面の白い肌の人。
体術で圧倒されたけど、剣なら逆にする自信はある。
お風呂を出た後はドムフに案内されてゴルゾフさん家へ。
家はよくある竜族の古民家っぽい家。
スエメルさんに案内されて中に入ると、何とラザノフも居た。
ゴルゾフさんに挨拶した後に、ラザノフが話しかけてくる。
「おう、リュウ。 ゼブンさんに勝ったと聞いたぞ。 流石でござるな」
でも、驚いた様子はないので予想通りって感じか。
しかし、ゴルゾフさんとの試合の見立ては俺が不利って言ってたので、ラザノフの見立てが当たってても嬉しくない。
「ラザノフは朝から何か食材を取りに行ってたらしいね。 何を取って来たの?」
「特殊な木の下に生る、ゴーレストラと言うキノコでござるよ」
キクラゲか? それとも松茸?
「まあ、それをスエメルが料理している。 その前にその眼についてリュウは何を知っている?」
ゴルゾフさんが言った。
「昔の大魔導師が残した遺物の1つ。 他に鼻と耳がある、短命で良く見える。 ……くらいですかね」
「ああ、裏で良く伝わってたな。 だが1つ付け加えるなら短命になる理由が、小さな頃にその眼の性能に付いていけないから、だ。 頭が割れそうに痛くならなかったか?」
「ええ、小さな頃は特に」
今は慣れたけど、小さな頃は情報の多い場所だと必ず頭が痛くなってた。
「ベッダの話をしよう。 ベッダは小さな頃、目隠しをして暮らしていた。 そして徐々に慣らしていけば短命になることはない、っと言っていた。 この真実をもう少し広めていけばリュウ以降のその眼の持ち主も短命になることは少なくなるだろう」
なるほど…… 目隠しか、いい案だ。
ここでどんどんと料理が運ばれてくる。
ゴーレストラというキノコもシンプルに油で炒めてある。
そんな料理を見て、俺はルイースを思い出していた……
食材をとにかく集めて煮ていたルイース。
そんなある日、奇跡的に美味い配合が生まれ、ルイースの得意料理になったが……
3日目に飽きた。
だって3日連続で得意料理なんだもん。
「さぁ、食べてね、リュウ君。 今日はラザノフに貴方のことやラリィちゃんのこと、ナラサージュでの暮らしぶりなど色々と聞いたのよ」
スエメルさん。
180センチ弱の長身。
少しきつめの美人顔の20歳。
「頂きます」
と言って料理に手を付けると…… めちゃ美味い。
スエメルさんは料理が上手いのかも。
……っと、まだ話の途中だ。
「そのベッダとの試合はどうでした?」
「その眼が強い訳ではない。 簡単な言い方をすれば良く見える眼ってだけだ。 まぁ、強くはなかったかな⁈」
あまり印象になさそうだな……
確かに見た目の派手さとは違って、ビームやロケットが出るわけじゃない、しかしギリギリの場面では頼りになる。
「ただ、その眼を開眼させたのは50を過ぎてからと言っていた。 リュウは17だったな。 末恐ろしく思うぞ」
「開眼の条件はベッダさんは何か言ってましたか?」
「死を意識するくらいの修羅場の数じゃないか、と言ってたけど本人も確信はないようだったぞ」
俺の眼が開眼した時も、木刀だったけど死を意識する場面ではあった。
実際に意識をなくしてるし……
「まあ、ベッダから何人挟んでリュウに宿ったかは知らないが、俺も歳をとったと感じるよ」
確かに…… 前回この眼に合ってから65年、ゴルゾフさんが20歳の時か……
まぁ、この眼って言っても本質は魔法陣で、この眼は俺だけの眼で、ベッダの眼もベッダだけの眼だ。
別に共有してる訳ではない。
「お爺さんがこの眼の魔獣と合ったとか?」
「ああ、里では有名な話だ。 ウサギ型の魔獣だが、当時の氷竜族の戦士を嘲笑うかのように毎日、狩場に現れたらしい。 そして逃げまくり誰も仕留められなかった」
逃げる動物にこの眼は最強かも。
俺も逃げるの得意だし。 ……まぁ、この眼は使ってないけど。
「鼻や耳の遺物には会いましたか?」
「いや、俺はないが、土竜族の長老が耳を保有していた人物を知っていたらしいぞ」
長老…… ガハハのハのプ、っとか笑う人。
「拙者は知らんでござるな〜」
「長老が若い頃の話だ。 俺もここに来る前に聞いた古い話だから本人ももう忘れてるかもな」
80年前に聞いた話で、150年くらい前の出来事?
「鼻の持ち主の話は聞きましたけど、耳はないですね。 どんな感じですか?」
「逆に後で鼻の持ち主の話を聞かせてくれ。 そうだな…… 持ち主は耳全体が魔法陣で、遠くから見ると赤い耳に見えたらしい。 本人は耳栓と鼻栓をして口呼吸、いつも鼻詰まりのような喋り方だったようだ」
鼻からも音が流れてきたのだろうか?
それにしても、眼以外は悲劇でしかない。
「それに動き自体が凄く遅い。 いつもスローモーションで動いているから便所に待に合わないことも多々あったようだ」
自分の心臓の音までうるさかったのかな?
それとも、慌ててトイレに行こうとしてナベでも落として大きな音が出たとか?
「歳をとってからが大変そうですね」
「ああ。 でも、それはバケツを側に置いて解決したらしい」
やっぱり一生物の罰ゲーム。
「悲劇ですね。 鼻も酷い話でしたよ。 良く匂いすぎるので『臭い』が口癖で、良く自分のオナラで気絶してたようです」
「笑える話のようだが、笑えんでござるな…… リュウも一歩間違えればそっち側だったかも知れんでござるな」
3択で良いのを引き当てた気分だ……
「もうこの話は止めましょう。 美味しい料理を作ってくれたんだから。 そうだ、スエメルさんもゴルゾフさんもナラサージュの俺達の家に遊びに来てください。 俺は居ないけど、ラザノフやラリィ親子が居るので」
部屋は充分余ってる。
「リュウ…… ここからは拙者の話をさせてもらう。 ゴルゾフ隊長殿、拙者とスエメルは小さな頃、土竜族の里で将来を約束した仲でござる。 そのまま今日まで拙者もスエメルも約束を忘れてない。 そして4年前にこの里に来た時、スエメルが20歳を過ぎたら迎えに来ると約束した。 もちろん口約束なのでお互いに半信半疑ではあった。 でも今回でお互いに確信したでござる。 どうかスエメルを拙者にください!」
……はっ?
「俺だって小さな頃から気付いていた。 だがラザノフ、俺達は竜族だ。 欲しいなら力で示せ!」
「ウグッ、ゴ、ゴルゾフ隊長殿に勝てと?」
間違いなく数十年は無理だね。
「いや、そこまでは求めん。 そうだな…… ルカルスと同等の力だとすると…… ミルトラインに勝ったら考えてや」
「ありがとうございます!!」
ゴルゾフさんの言葉に被せながら礼を言った……
それはラザノフが自信のある証拠か?
「ラザノフ、今の貴方は学生で旅の途中でしょ。 ちゃんと説明して」
スエメルさんの指摘、確かに結婚など出来るわけない。
……って言うか、俺との旅の終わり? ラリィは? あの家は? 全然、説明不足じゃん!
「あ、ああ、分かったでござる…… 近い将来に夫婦になるのを許してほしいでござる。 つまり数年は婚約者という形で、スエメルに色々な世界を見せてあげたい」
それはスエメルさんにとってもいいと思うけど……
「ラザノフ、スエメルだけ竜族の女の定めを無視させるわけにはいかん。 婚約はミルトラインに勝ったら考えてやる。 だがスエメルを連れて行きたいなら俺を倒して行け」
まぁ、正論。
とにかくラザノフは勝つ以外はない。
それはラザノフも予想してたろう。
「リュウ、こうしてはおけん! 今すぐ帰って稽古をするぞ!」
「え〜と、僕は夕方の稽古はやったし、まだ食べてるし……」
「こんな一大事に何を甘えたことを言っている! もう助けてやらんでござるぞ!」
「え〜と、僕の方がいっぱいラザノフを助けてると思うんですけど……」
「グダグダぬかすな! さぁ、行こう!」
女絡むとコイツ、人格変わるな……
こうして稽古に付き合わされた俺は、夜中にやっと部屋に戻った。
……コンコンっと、ドアを叩く音。
開けるとクラルさんが立っていた。
「リュウ君、一緒にお風呂に行こ」
……この時間まで待っていた?
驚いたけど、何か大事な話があるのだろう。
「ラリィは?」
「うん、ラリィもラザノフ君も一緒だよ」
という事で、あの家で暮らす者達だけで温泉に来た。
湯船に俺とラザノフとラリィ、隣の湯船にクラルさんが入った。
静かに流れる川の音と少しぬるめの湯のせいで、眠気が襲う。
「今日ね、この里に吸血族から連絡が入ったの。 もう、1年以上も吸血族の里に帰ってない、もう帰って来ないつもりか、って」
そうだよな…… 俺がルイースと別れて久しぶりに帰った時、もしかしたらクラルさんはいなくなってるかもと思ったくらいだ。
「クラル殿、それでもリュウの一件が解決するまでは、あの家にいて欲しいでござるよ」
クラルさんが抜けたら、ラザノフは学校にも通えなくなる⁈
「私もそう思う。 それでも一度は戻らないと、もう一生あの家に戻れない気がするの……」
「母ちゃん……」
こうなることは予想出来た。
でも、皆んなが目を背けていた。
「分かったでござる。 拙者が明日ミルトライン殿に勝って、あの家にスエメルを連れて行く」
それだとクラルさんが……
って言うかゴルゾフさんに勝つ条件は?
「ラザノフ、スエメルさんをあの家に連れて行くには、俺の問題とクラルさんがあの家に帰って来た後だ。 それ以外は認めない」
ピクッとラザノフは強張る。
「……リュウは拙者とスエメルのことを反対するでござるか?」
「反対なんかするはずないだろ、むしろ大賛成さ。 だけどクラルさんの代わりをスエメルさんは出来ないし、やらせるのは可哀想だ。 ……って言うか、ラザノフはゴルゾフさんに勝てるの?」
いきなり子守しながら家政婦じゃ、そんなの新婚じゃない。
「済まん、周りが見えなくなってたでござる。 ゴルゾフ隊長殿には何度も何度も挑戦するつもりでござるよ。 拙者だって強くなっている、10回やれば1回くらいは勝てるかもしれんでござる」
まぁ、俺はゴルゾフさんの強さを知らないから何とも言えん。
「……クラルさんはこの先はどうするつもり何ですか?」
いつかは里に帰るのは確定している。
それはあの事件の時にクラルさんが決意したことだ。
「それを里にしっかりと伝えようと思っているの。 ラリィ…… 母ちゃんは貴方が10歳になるまでは一緒にいたい。 強い2人に守られてるけど、2人だってまだ子供、ラリィのお世話ばかりは出来ないの、分かるよね、ラリィ」
「母ちゃん……」
「でも、10歳になればある程度は自立しなきゃ。 里の子供も8歳から飛行訓練をするように、どんどん自立して行く歳なのよ、だから…… あと3年、あの家に居させてほしいし、里の長や父に頼んでみるつもり……」
ジルベッタさんとの子作りは、4年後か5年後って聞いたような気がする。
3年なら大丈夫かもな……
「母ちゃん、ラリィはもう飛べるだの。 心配しなくていいよ……」
ラリィは大人で頭もいい。
でも、俺とラザノフにはワガママ娘になる。
……それでいいと思う。
「それじゃあ、クラルさんがいない間は俺と一緒にいよう。 影から勝手に出て来ない約束でな」
俺を守ってくれている王子の私兵3人がいるので、俺と一緒の方が安全だ。
「うん。 分かってるだの」
こうしてクラルさんが一旦抜けることになった。
明日にでも吸血族の里に連絡をとって、ジルベッタさんに迎えに来てもらうようだ。
ちなみに、ブラッドドックのリコは餌だけユキナに頼み、ナラサージュの家に置いてきている。
兵団の練習場、今日はラザノフも一緒だ。
そして、昨日より観客が多い。
その中にはスエメルさんもいる。
真っ先にミルトラインさんに挑戦したラザノフ。
ルカルスさんもリベンジしたいようだが、ラザノフの強い決意がルカルスさんの思いを上回る。
ラザノフ対ミルトライン。
ラザノフは昔はルカルスさんに似ていると思ったけど、今は似てない。
ルカルスさんはバランスタイプだけど、俺との稽古でラザノフは守りのタイプへと変わった。
静かに槍を待つラザノフに隙はない。
ボッ、ボッ、っと突きから詰めるミルトライン、ラザノフは捌くが侵入を許す。
そして近距離での撃ち合い、ミルトラインの距離か。
昨日のルカルスさんとの撃ち合いと似ているが、ラザノフの手数は少ない。
それでも少ない手数でよく当ててるし、相手の打ち込みもよく捌いている。
ラザノフの集中力が凄い……
どちらが格上か分からない試合……
ラザノフの小手がミルトラインに決まり、一旦ミルトラインは離れる。
スタミナを消費しているミルトライン、逆にラザノフの呼吸は静かなままだ。
ここでミルトラインが氷竜化。
呼吸を整えてまた距離を詰めるミルトライン、得意の距離での撃ち合いを望む。
流石に竜化したミルトライン、攻撃が当たりだす。
それでもラザノフも応戦、撃ち合いでも負けてない。
互角以上に戦うラザノフに焦ったミルトラインが仕掛ける!
ミルトラインの胴突きが流れ、チャンスと見たラザノフが上段を狙う……
これは昨日、ルカルスさんがやられた技と全く同じ。
ルカルスさんは返し技を練習してきたが、ラザノフはこの技自体が初見、やはり左側頭部に……
ドサッと倒れたのはミルトライン。
あの瞬間、ラザノフは左手を離して左側頭部をカバー、片手でそのままミルトラインの頭に槍を撃ち下ろした。
ラザノフの防御は完全には間に合ってない。
しかし、強い決意がミルトラインの攻撃を半減させたし、何が何でも決めるという決意のある最後の一打だった。
ラザノフ、勝利!
よって、婚約おめでとう〜!
「何だラザノフ、俺を騙したな…… ラザノフ、竜族なら力を見せて証明しろ! ゼブンに勝てたら認めてやる!」
ご、強引に、い、言い直した……
ラザノフは思っているに違いない!
騙したのはアンタだ〜! っと。
「ゼブン、前に来い!」
はい? って感じで出てきたゼブンさん。
「絶対にラザノフに負けるな、分かったな!」
「にゃ? にゃにゃにゃにゃにゃ〜にゃ、てじな〜にゃ」
……完全に転生者だろ、ゼブンさん。
「クッ、仕方ない。 聞いた通りだ、リュウ、いいな」
何が? にゃ、ばっかだったじゃん。
「え〜と、通訳お願いします」
「フハハ、分からんか? ラザノフの前にリュウにリベンジしたいと言ってるぞ」
分かる方がおかしいでしょ、普通。
まぁいい。
槍を投げたあとの処理がマズかったと思うだろうし、完全決着って訳でもなかったしな……
っと言うことで……
ゼブンさんと対峙する。
ゴルゾフ戦前に俺の引き出しを見せたくなかったが、それが通用する相手でもない。
それでも負けるつもりなどない!
氷竜化をしているゼブンさん、この後のラザノフ戦など全く考えてない。
逆にラザノフはチャンス、今日はゼブンさんはもう、氷竜化出来ない。
ゴルゾフさんに頭を叩かれてるゼブンさん、ここで全力か……
ここは氷竜族の里。
四方八方を高い崖で囲まれてるが、広いので圧迫感はない。
今日は観客に色々な人達がいる。
目立つのはピョンピョンと跳ねながら俺を応援してくれるムジカ、可愛い子だ。
対峙するのはゼブンさん。
昨日戦っているので思うところはお互いにあるはず。
試合が始まり、前回とは違って静かな立ち上がり。
それでも徐々にスピードアップしてくる。
流石に氷竜化の影響でこの前より速いゼブンさん。 ……でも、俺だって昨日は様子見だった。
速く鋭い踏み込みで攻めるゼブンさんだが、今日は俺もジェットを使って応戦する。
元々スピードは俺が上、だけどパワフルな下からの攻撃はリズムに乗ると厄介だ。
……そんなリズムに乗ったのか、ゼブンさんの推進力に押される、そして……
ガッと足を踏まれる!
これはゼブンさんの得意技かと思い、昨日のうちに対策は考えてきた!
踏まれてない方の足を蹴り上げ膝蹴り!
ドカッ、っとぶつかりお互いに吹っ飛んだ。
今の場面……
ゼブンさんは素早く槍の先端を持ち、踏みつけた足の方の膝を、槍の肢の部分を使って叩きにきた。
昨日と同じ頭突きなら、綺麗に膝蹴りが決まってたけど流石に同じパターンは使って来なかった。
結果、至近距離でぶつかり合ったが、お互いにダメージはない。
まるで野獣のように槍を低く構えて隙を狙うゼブンさん。
ゴルゾフさんの影響か、この里の人は少し短めの槍を使っている。
低い位置から、ボッ、ボッ、っと空気を引き裂いた突きが飛んでくる。
捌いて口から魔術のファイヤースネークを、ブッと吐く!
狙いは…… 打ち終わって元の位置にある槍!
しかし、ゼブンさんはあっさりと槍を離して俺に突進!
そしてショルダータックル!
木刀を振り下ろす暇もなく、肘をセブンさんの首元へ。
ゴッ、っと当たったけどそのまま押し倒される! ……が、巴投げの形でゼブンさんを引き離す。
チャンス! ゼブンさんの槍は反対側に……
しかし…… 振り返った俺目掛けて膝が……
バッ、っとゼブンさんの膝蹴りを交わす。
悠々と反対側に戻ったゼブンさんは槍を拾う……
仕切り直し……
やはり展開が目まぐるしく変わる。
油断したらやられる。
昨日と同じように無防備にゼブンさんとの距離を詰める、そして眼の魔法陣が広がるのも一緒。
ボッ、ボッ、っと突きが飛んでくるのも一緒。
ブッ、っとアイス何とかを飛ばすところまでが昨日と同じだった。
そのアイス何とかを避けたゼブンさん、更に下からの突き上げを仰け反るように交わすが、口から魔術の2発目のファイヤーボールを右足に被弾! しかしほぼ同時に打っていた上段は、ガッと受け止められた。
しかし、その時に一歩下がっている……
ー蓮撃ー
1セット目 押されながらも受けきるゼブンさん。
不思議そうな表情⁈
2セット目 反撃の隙を探そうとしているのが分かる。
3セット目 急所への一撃を捌いた後にゼブンさんが突っ込んで来る!
2年前、この方法で破られた蓮撃。
そして、この方法を何度もラザノフが真似てきた。
だけど、もうラザノフは無闇には突っ込んで来ない、それはもう対策済みだから。
ジェットを使い、ゼブンさんとの距離を一定に保つ。
その間にも蓮撃の攻撃は止まない、それを受け続けるゼブンさん。
そしてこのパターンの急所への攻撃、心臓への突きが当たる直前にゴルゾフさんから、『勝負あり』の声がかかった。
ふぅ…… 戦いにジェットを使うようになってから飛躍的にジェットの扱いが上手くなった気がする。
止まるの重視で練習したジェットだが、やはり扱いが上手くなれば自然と止まるのも上手くなることを最近感じている。
とりあえず、完勝⁈
「クッ、また負けたにゃ……」
跪き、血だらけで肩で息をしているゼブンさん、今のゼブンさんはかなりダメージがある。
ラザノフにとって正にチャンス。
「ゼブン殿、挑戦するでござる」
ラザノフ…… 開始線の前で槍を構え、土竜化してもうスタンバイしている…… ちょっと汚い。
「にゃにゃにゃにゃにゃ〜にゃ、てじな〜にゃ」
なっ! ……また俺にリベンジしたいのかよ。
「そうだぞ、ラザノフ。 回復薬くらいは飲ませてやれ」
え〜と、さっきと一語一句違ってないけど、今度の意味は回復薬を飲ませろなの?
と言うわけで、ゼブンさんが回復するまでルカルスさんがミルトラインさんと戦う。
すっかり忘れてたけどルカルスさんには大事な一戦。
ルカルス対ミルトライン。
ミルトラインさんは氷竜化出来ないけど、ルカルスさんも土竜化はしていない。
静かな立ち上がりから前回と同じような距離での打ち合いになる。
お互いにこの距離が得意なのだろう。
ルカルスさんの1発1発が重そうだが捌かれる方が多い。
逆にミルトラインさんの1発は軽そうだけど良く当たっている。
前回と同じようでもミルトラインさんはあの技を使って来ない。
今さっきラザノフに破られたので出せないのだ……
お互い消耗戦になってきたこの試合。
そんな時にルカルスさんの突きが捌かれ、若干ルカルスさんの足が滑った。
チャンスとばかりに左から打ち込むミルトラインさん!
バスッ、っとルカルスさんに当たったが……
倒れたのはミルトラインさん。
昨日は返し技と共に、仕掛け技も作っていた。
正にやられたらやり返すをしたルカルスさん。 ……だが、この2人の実力差は拮抗してるので、次回、どちらが勝つかは分からない。
そしてラザノフ対ゼブンさん。
ゼブンさんの怪我は回復薬で治っているが、2戦目なのでスタミナは万全ではない。
対するラザノフも2戦目だけど、初戦ではほぼ楽勝と言える内容だったのでこの辺りも有利。
試合が始まるとやはりゼブンさんが潜るように下から突き上げて攻撃する。
ラザノフも上手く捌いているがゼブンさんの圧力が上回る!
ラザノフも応戦して良く当ててるが少し焦りが目立つ。
結局、最後は足を踏まれて慌てて返し技を右から打ったが、ゼブンさんにとっては当たり前の返し技だったのか、捌きながらジャンプしての膝蹴りがラザノフの顎にヒット!
ラザノフは気を失った……
試合後、ラザノフに寄り添い号泣するスエメルさん。 ……そしてそれを複雑そうな表情で見つめるゴルゾフさん。
その後、ゴルゾフさんから今日の俺との試合の中止を言われた……




