蓮撃
第二章 成り上がり
第八十九話 「蓮撃」
ラザノフが気を失うほどに負けた日、それでも夕方の稽古は休まない。
一通りの練習が終わると、ドムフが話す。
「リュウさん、俺もナラサージュに行きたいッス」
「それはラザノフに言って。 俺はお尋ね者で隠れるように過ごしてる身だから」
「そ、そうだった…… ところで何をやったの?」
「別に普通のことだよ。 ウチのお姫様が辱めを受けそうだったから相手を半殺しにしただけ」
「他の国の教師、しかも貴族。 半殺しではなく、8割殺してた。 別に普通じゃないでござるぞ、恐ろしい」
「み、見たかった〜。 どうだったの、ラザノフ?」
「美しい剣筋だった……」
1つ下のリュウはゼブン殿に連勝してる。
拙者はゼブン殿との実力差を思い知らされたのに……
「そんなボコボコにしちゃったんだ⁈」
「二撃でござるよ。 時間にして1秒」
水に流れる木の葉のようにスムーズに、そして急に不規則に移動する身体に大きな弧を描く剣筋、本当に美しかった…… 拙者もああなるにはどうすればいいか。
「リュウ、拙者はゼブン殿に勝てると思うか?」
今回の滞在で、という意味だろう。
「勝つ目がないわけじゃないと思うよ」
「そうか! ア、アドバイスなんか貰えると嬉しいでござるが……」
「仕込めば? その1回なら勝てるかもよ」
「な、なるほど。 ……流石にズルい男でござるな」
え〜と、褒めてらっしゃる?
「リュウさん、俺も聞きたいッス」
……という事で、俺の見解。
先ずは敗因と悪かったところ。
ラザノフの敗因は、足を踏まれると分かっていながら反応が遅れたこと。
遅れたなら避けるか、捌くを選択するべきだった。
最初は五分でも形勢が悪くなると慌ててしまい、更に形勢を悪くした。
良かったところ。
序盤はしっかりラザノフの試合運びが出来ていた。
大負けしても直ぐに前を向いた。
仕掛け所。
当然、ゼブンさんの得意技、足踏み攻撃。
現在、分かってるパターンは3つ。
1 最初の俺との戦いで使った、踏み込んでジャンプしながらの頭突き。
2 俺との2度目の戦いでは、踏んだ足の膝を槍の柄の根元で叩きに来た。
3 ラザノフ戦で見せた、飛び膝蹴り。
「皆んなで考えよう。 1はどうしてゼブンさんは頭突きを選択したと思う?」
ドムフとラザノフは考える……
「分かったッス。 流れ的にじゃないッスか?」
「いや、ゼブンさんが一発で決めにかかったからでござるよ」
なるほど。
「まぁ、本当のところはゼブンさんに聞かなきゃ分からない。 でも、俺もドムフと同意見。 あの場面でスピードに乗ったいい攻撃だと思ったもん」
「ヨシ! 俺の勝ち!」
え〜と、答えは分からないって、今、言ったよな。
「次はどう思う?」
ドムフとラザノフは考える……
「分かったッス。 流れ的にじゃないッスか?」
貴方、考えてる?
「いや、先ずはリュウのスピードを潰そうとしたでござるよ」
ラザノフは1戦目は見てなかったな……
「これは俺もラザノフと同意見。 それで3番目は割愛させてもらう」
「な、何故でござるか! 一番大事な拙者のサンプルでござるぞ」
「答えは簡単、ラザノフの返し技の後では仕込み技が出来ないから」
何と言ってもラザノフの体勢が良くない。
苦し紛れに避けつつ右から槍を振った体勢では仕込み技など出来ない。
「そして2番目の膝への攻撃も割愛しよう。 その意味は、ラザノフ君?」
「僕ね〜、カッコいいリュウ君よりね〜、スピードがないござ〜る。 だからね〜、膝は攻撃してこないだの」
「リュウ! 拙者はそんな喋り方はせん! それにラリィまで入ってるぞ」
ドムフは思う。
氷竜族の里には自分と同じ歳の女は居るけど、男は上も下も6歳違う。
同世代とは言えないし、ラザノフは里まで出れて凄く羨ましい。
「とにかく頭突きに照準を絞る。 体格に勝るラザノフだから出来る返し技を創って行こう」
「ちょっと待った。 頭突き以外の時はどうする?」
「実力で勝てばいい。 無理なら負けるだけ、次の戦いに挑めばいい」
真剣に仕留めるなら1つに絞った方がいい。
あれもこれもじゃ中途半端に失敗して、もう二度と通用しなくなる。
「わ、分かった」
ゼブンさん役を俺とドムフでやり、なるべくゼブンさんの動きを真似て動いていった。
ーーーーー
夕食。
俺とラリィはムジカの親戚の家に招待されたので、ムジカと一緒の食卓につく。
2年前はムジカとラリィの背は結構開いてたのに、今は気にならないくらいになってる……
「リュウ君、ムジカを構ってくれてありがとう」
この人はムジカの母親のお兄さんのテラノスさん。
家族は奥さんと12歳の男の子、24歳の女の子は現在飛竜族の里へ花嫁修行中らしい。
「いえ、構ってもらっているのは俺の方です。 な、ムジカ」
ムジカはモジモジしながらもコクコクと頷く。
本当に可愛い子だ……
俺なら土竜族の里までムジカを連れて行き、また戻って来ることが数日で出来る。
そうすればムジカもムジカの両親もめちゃくちゃ嬉しいだろう。
ただ勝手なことは出来ないので、後でガルフさんやゾフさんに聞いてみよう。
それと、もし俺の問題が解決したらムジカをサンカルムの家に招待したい。
でも、それも許可がないと出来ないことなので聞いてみよう。
「君の剣を2本待つスタイル、どのくらいの練習量が必要か?」
土竜族の里では、俺を真似て二刀流に挑戦した人も居たらしい。
でも直ぐに諦めたと聞いた。
「自分はほぼ剣を持ちだした頃からです。 それでも最初は断然一刀の方が強い。 それでも続けられるかが重要だと思います」
もし俺が一刀で精進していたら、今の俺より強い可能性はある。
その答えは、俺が無詠唱魔術が出来るから。
空いた右手で魔術を使えば二刀と変わらない。
そう、二刀流を始めたあの時点で、俺は無詠唱持ちと知らなかった。
もし、無詠唱持ちと知っていたら……
それでも二刀流にしてたと思う。
その理由は2つの宝。
口から魔術と蓮撃だ。
口から魔術を打てるなら、わざわざタイムラグのある魔術より刀の方がよっぽど速く、威力も比べ物にならない。
そして蓮撃。
魔術を織り交ぜても蓮撃は一刀では無理、そもそも蓮撃はタイムラグを嫌う。
「そうか。 氷竜族は土竜族ほど槍を待つのに適してない。 だからゴルゾフ始め、里の連中は短めの槍にしている。 だから思い切って剣を待つのも有りと思うんだ。 ミカルフも剣に興味を持っているようだしな」
確かに土竜族は上半身が発達して腕も長いので槍を待つのに適してる。
「僕もお兄ちゃんみたいに剣を持って強くなりたい」
ラリィやムジカがお兄ちゃんと呼ぶので、里の子供達は俺をお兄ちゃんと呼ぶ。
「剣なら教えられるぞ。 ミカルフも夕方の稽古、一緒にやるか?」
「お兄ちゃん、私もやりたい」
ムジカもランニングくらいは出来るだろう。
「ああ、ラリィも居るから一緒にやろう」
っと言うことで、この里に滞在中は賑やかな稽古になりそう。
ーー ーー
ふぅ〜。
やはり貴族としての勤めは疲れる。
ただ今回のパーティーでびっくりするほど綺麗な人を見た。
ナラサージュのお姫様らしい……
もちろん私なんかが話しかけれる人ではないし、ゴールタールには花嫁修行に来ていると人伝に聞いた。
あんな女性と結婚する男はどんな人なのだろう?
まあ私が気にしてもしょうがない、この立場でも声さえ掛けれない人なのだから。
コンコン…… っとドアをノックする音が……
「田中幸夫(仮名)様、鈴木磯丸(仮名)様がお呼びです」
帰って来たばかりなのになんだろう?
そしてこの仮名の意味はあるのか?
まあいい、きっとあるのだろう。
「分かりました、直ぐに伺います」
もしかして、アイツが見つかった……?
鈴木磯丸(何処かで聞いた名前だけど仮名)の部屋へ着くと、鈴木磯丸はこの国で流行っている紅茶のリキュールを勧めてくれた。
「田中幸夫(何処かで聞いた名前だけど仮名)、ナラサージュから連絡が有り、例の男が帰って来たようだ」
例の男…… 意味はないけど剣崎健太、通称ケンケンと今は呼んでください。
ん…… 天の声か?
……ケンケンと呼べばいいんだな。
「ケンケンが……」
「ああ、そのケンケンだ。 前は勝てないと言ったが今もか?」
「普通に戦えば負ける確率が高いでしょう」
「ん…… 普通とは?」
普通とは同条件では、の意味。
私の有利な地形や場所、色々と仕込める条件なら当然自分が勝てると鈴木磯丸(あっ、分かった〜、ソマルさんじゃ〜ん)に説明した。
「ほう…… ならば必ず勝て。 其方が勝てば、ケンケンを助けると約束しよう」
田中幸夫(仮名)は思う。
ケンケンだと良く分からなくなるから、やっぱりリュウでいいのでは……
「分かりました、充分に仕込んで必ず勝ちます」
「では、どのくらいの準備期間が必要だ?」
サンカルムの近く、丁度いい物件、仕込み時間……
「ひと月あれば」
「分かった。 少し休息してから出るがいい。 追って連絡する」
「分かりました……」
今回は私が勝たねばならない試合。
しかし、私はケンケンの強さを知っている。
1年半前にはギルド個人戦3位だった人にもケンケンは勝った……
私がケンケンに勝てるのか……?
……一応、聞いておく。
もうケンケン止めていい? それと田中幸夫も何かイヤだ。
ーー ーー
ここは氷竜族の兵舎前の練習場。
朝一番で対峙するのはゴルゾフさん。
2メートル20センチ近くある身長に氷竜族特有の逞しい下半身、構える姿からも強さが伺える。
氷竜化したゴルゾフさんはデッカい般若のようで、ごめんなさいと謝って逃げたくなる。
発動条件は相変わらず分からないが、試合が始まる前から眼の魔法陣が広がる……
魔法陣のおかげか……
スッキリした気分で試合が始まった。
お互いに探るような立ち上がり、それでもゴルゾフさんの圧力はハンパない。
普段ラザノフの槍を受けているけど、この人ほどのパワーはラザノフにはない。
そして大きい体格に似合わず、非常に器用に槍を扱っている。
……が、全てがオーソドックス、ゼブンさんのような特化してるタイプではない。
そう言う意味では俺も同じ。
ただ俺は変化球も得意だ、その変化球で突破口を開く!
口から魔術のファイヤースネークを、ブッとゴルゾフさんの右足に吐く!
ファイヤースネークは見事にゴルゾフさんの右足にヒット! ……が、同時に放った俺の下段を思いっきり弾かれ少し流れてしまった。
形勢はゴルゾフさんがいい。
弾かれた後から俺は防戦一方だ……
当たったファイヤースネークが効いてない…… いや、効いてても我慢してるだけか。
そもそも我慢出来るような攻撃で仕掛けること自体が不味かった。
それにしてもゴルゾフさんのラッシュが止まない、上手く槍を扱い、クルクルと回しながらも力強い一撃で反撃の隙がない。
しかも一発一発がやたら重くて手が痺れている…… このままではマズい。
観客、というより兵団の人の反応が気になる…… もう勝負が終わったかのような安心した表情、逆にルカルスさんは諦め顔?
終わらないラッシュに俺は確信する。
これは槍での蓮撃!
二刀流は防御に向いてない。
二刀をクロスさせての防御はいいが、一刀での防御は片手で、ゴルゾフさんの重い一撃を受け続けるには限界がある。
もう一度、ファイヤスネークを仕込む。
ブッと、もう一度ゴルゾフさんの右足にファイヤースネークを打つ!
……が、自然と言えば自然に槍の軌道を変えてファイヤースネークを弾くゴルゾフさん!
しかし、ここが勝負どころ! ほんの僅かな隙を突く!
次のゴルゾフさんの右上からの攻撃をワザと力なく受け、そのまま押し込まれ自分の木刀ごと右肩に被弾。 ……しかし、次のゴルゾフさんの攻撃は少し遅れたので先に左を上段へ!
……確かに俺の体勢が良くなかったと言えなくもない。
だけど蓮撃は体勢が悪くなろうと構わず続ける技なので言い訳でしかない。
先に俺の上段がゴルゾフさんの頭に当たったが、それをものともせずゴルゾフさんの槍は俺の脇腹を貫いた。
吹っ飛んだ俺を追いかけるゴルゾフさんに、戦いの審判をしていたゼブンさんが『勝負あり』を言い渡し、俺はゴルゾフさんに完敗した。
ハァ、ハァ、ハァ…… 何も出来なかった……
麻痺してる右肩より、抉られた脇腹がズキズキと痛む……
「ふぅ、何とか勝てた」
ん、何とか? ゴルゾフさんを見ると頭から大量に血が流れていた。
だけど見た目ほどのダメージはないはず……
「凄い強かったです。 でも、また挑戦します」
「ああ。 あの技を発動して破られそうになったのは初めてだ。 右を完全に捨てて左にかけるとは…… 真剣だったら逆の結果になってたかもな」
ラザノフは思う。
咄嗟に右を捨てる選択が出来るリュウの格闘センスが羨ましい。
初見でアレならもしかしたら……
ゼブンは思う。
にゃにゃにゃにゃにゃ〜にゃ…… てじな〜にゃ……
「その時はその時でゴルゾフさんが勝っていたと思います。 でも、今回は。 次回は蓮撃を破ります」
「蓮撃? そうか、リュウの技は蓮撃と言うのか…… それでは俺もこれから蓮撃と呼ぼう」
自然に出来たゴルゾフさんの蓮撃、今まで破られたことがないと言う。
一方、俺の蓮撃は速攻で兄に破られ、ルカルスさんにも破られ、大会でターレルさんにも破られた。
でも、悲観はしない。
その度に進化しているからだ。
兄の仕掛けた口から魔術は今の俺には通用しない。
兄が口に魔力を貯めれば俺の魔力も疼くから分かるのだ。
今なら蓮撃を崩さずに避けれる。 ……もし、避けれなくても容量の少ない口からのファイヤーボール辺りでは、今の俺なら我慢できる。
ルカルスさんの返し技も攻略済み。
ターレルさんの返し技を破るのは実質無理、今回の俺の返し技もこの部類に入る。
俺もターレルさんも"肉を切らせて骨を断つ"が出来なかった。
まぁ今回は蓮撃を破る役回り。
俺にしか出来ない破り手を創ろう。
でも、蓮撃を先に仕掛けるのがベストか。
その後のラザノフ対ゼブンさんの戦い。
この試合、ゼブンさんは足踏み攻撃をしてこなかった。
普通に実力でラザノフは負けた。
ただ試合が終わった後にゼブンさんが回復薬を飲んでいたように、ラザノフの実力も侮れないとゼブンさんは思ったはずだ。
倒れてるラザノフにまたもや泣きながら寄り添うスエメルさん。
次回はスエメルさんにカッコいいところを見せてほしいところだ。
やはり複雑な表情のゴルゾフさん、何を思う……
その日の夕食時、俺にナラサージュへ帰還して欲しいとの命が届いたことを知る。
ただ飛んで帰ろうと思っているので、あと2、3日はこの里に滞在出来る。
その間に高回復薬を飲んでも痛む脇腹を治して、ゴルゾフさんにリベンジしたい。
ゴルゾフさんの蓮撃。
俺の防御の綻びが右側(片手での防御、利き手ではないので多少左手より握力が弱い)にあることを自然と感知して、右からの攻撃が多かった。
そして勝負を焦った俺が、右を捨てる選択をした。
しっかりと先に上段を当ててるし、竜族以外なら倒れてただろう。
だけど相手は竜族、しかもゴルゾフさん。
あの上段の後に二撃は入れたかったところだ。
「リュウは17歳になったばかりか…… 裏の世界の男は強いやつばかりなのか?」
これは夕食時のゾフさんの質問、皆んなも興味ありそうだけど特にドムフが聞きたそう。
「実は知らないんです。 でも兄を秤にかけるならこっちと変わらないと思いますよ」
兄の剣術でも騎士団で通用するなら、俺の剣術ならトップクラスだったに違いない。
「ほう…… リュウの兄はリュウより強いのか?」
「6年くらい前は3回に2回は俺が勝ってましたよ」
「普通ならリュウが11歳、兄者が14歳でその対戦成績ならリュウの兄者はそれほど強くない。 が、拙者が剣術ではまだ1回も勝ってないリュウに3回に1回勝ってるとは、恐ろしく強い可能性もあるでござる」
ローチェが俺の剣が美しく変わった、みたいなことを言っていた辺りから、俺はどんどん強くなっていったと思う。
ただ兄も戦争という特殊な経験をして、俺以上に成長している可能性がある。
「兄がまだ来れないのなら、一度帰ろうと思います。 何か調べたいことがあるなら言ってください」
これはクラルさんを見て言った。
「ふふ、やっぱり吸血族が気になるわ、私は。 絶滅してなければいいけど……」
「帰ったら調べて来ますよ。 レイモンの竜族と吸血族の現状を」
ちなみにジルベッタさんはもうこちらに向かっているけど、あと1週間くらいはかかるようだ。
「でも数年は先でござるよな?」
「今回の件次第。 また人質交換とか言われたらすぐ帰るよ」
また拷問受けて、下半身バカになるのは……
い、いいかも。
でも…… もうルイースは居ない。
「お兄ちゃん、ラリィも行きたい」
「ああ、俺の兄ちゃんと育ての母さん、妹も居るから紹介するよ」
「リュウ君…… 危険はないの?」
俺が越えた海の滝は最短だった可能性も最長だった可能性もある。
でも、レミアの砂浜から行けば、だいたい同じルートになるはず。
「危険はあります。 ラリィ、行きたければその時は母ちゃんを説得するんだ」
「グフフ、その必要はないだの。 そっと影に入っているからお兄ちゃんが知らないふりして飛べばいいだけだの」
「それだと俺が悪者にならない?」
「呼べばいいだの、あの人を」
誰ですか、ソレは?
「ガハハ〜、だけどラリィ、あの人に刀を持たせたらダメでござるぞ」
「そうよ、ラリィ。 あの人は気軽に呼んじゃいけない人なのよ」
「ガハハハ〜! 何と言ってもあの人は処刑人でござるからな。 な、リュウ」
「よく覚えてるね〜、ラザノフも。 本当だと思ってたクセに」
「あの人はウソも上手だったわね」
「あっ、そうだ! 新しいポンチョ、買ってくれるって言ったのにまだ買ってもらってないだの」
コイツも記憶力がいいけど、都合よく記憶してるな……
「他にいっぱい買ってあげてるでしょ。 ラザノフの影響かラリィは少しはしたないですよ。 完璧にラザノフの影響で」
俺の影響を受ければスマートなイケメン姉さんになれるのに。
「グヌヌ、それではリュウの影響でラリィは下品でござる」
「じゃあまとめると、ラリィは下品ではしたない、おまけにがっついてる。 母ちゃん、元々では?」
「フハハハ〜、絶対に貴方達の影響です!」
「もう母ちゃんもラザ兄も嫌いだの!」
良し、俺だけ交わせた。
「リュウ君は?」
「大っ嫌いだの!」
何故、俺だけ大が付く!
ドムフは思う。
自分は族長の息子なので里から出る機会があるけど、他種族との交流は今回が初めて、ましてや吸血族なんて見たことすらなかった。
他の人はもっと酷くて人間すら見たことがない子もいた。
まあ今回はリュウさんが来たので、皆んなが人間と交流したことになるが……
ナワバリ意識が強い上位亜人同士でもラザノフは皆んなと家族のように会話をしている。
その光景はラザノフの両親以外、つまり親父達やルカルスさんでさえ少し戸惑っているように見える。
俺もリュウさんと一緒に行けば、きっと2年後にはミルトラインさんを超える強さを身につけ、更に色々な経験が出来るに違いない。
だけど、今はタイミングが悪い……
ーーーーー
ムジカに対して。
俺がムジカを土竜族の里へ遊びに連れて行くことは却下となった。
理由は両親と会うことでやっと慣れた氷竜族での生活が、また1からやり直す可能性があること。
その場合、ムジカを育ててるテラノスさん一家がまた悲しむムジカを見なければいけないことを俺は言われた。
ただ、やはり特別な境遇ではあるので、部外者の俺ではなく族長のゾフさんが土竜族の里に行く時に、ムジカを連れてってもいいと言っていた。
また、サンカルムの家にムジカを招待することも却下となった。
理由は未婚の竜族の女が、里から出る前例を作りたくようだ。
将来ムジカを見て羨ましがり、里を出て行く竜族の女が居ては困る、と言われた。
結局、俺が出来ることなどこんなもん。
上位亜人は不憫だけど、女はとびきり不憫だ。
またこの里に来たら、里の子供達と遊んであげよう……
ーーーーー
俺が滞在する最終日。
ジルベッタさんはまだ着いてないので、最後まで母ちゃんと居たいラリィは船で帰る。
ラザノフは、その後に3回ほどゼブンさんと戦い全敗。
ただ足踏み攻撃の頭突きは出てないのでワンチャンはある。 ……はず。
俺は最後にゴルゾフさんに挑む。
蓮撃対策はしてきたけど通用するかは分からない。
ふぅ〜っと、ひと息。
ゆっくり下から上へ視線を上げる。
構えるゴルゾフさんは上位亜人でも有名な強者。
事実、前回の対戦では苦し紛れに当てた一刀以外は何も出来なかった印象が強い。
横には審判を買って出たラザノフが今にも試合の開始を告げそうだ……
この試合、一番近くで見たくて拙者が審判を申し出た。
まだゴルゾフ殿の方が格上だと思うが、リュウが2度も同じ相手に負けるとも思えない。
だからこそ一番近くで見たいのだ。
試合開始から珍しく、いきなり打って出るリュウ。
ゴルゾフ殿も一歩も引かずに応戦する。
2人の絶対に負けないという気迫が近くだと凄く感じる。
この辺りも見習わなければいけない。
パワーのゴルゾフ殿にスピードのリュウという構図だが、剣技は若干ゴルゾフ殿が上か、ゴルゾフ殿が優勢になる。
優位に立ってからはゴルゾフ殿の連続の攻撃、いつのまにか始まるゴルゾフ殿の蓮撃だ!
拙者も何度も蓮撃の餌食になっているが、蓮撃のパターン、つまり次の攻撃に何がくるのか分かる時がある。
が、それの前に仕掛けることなど不可能。
分かった! っと思うだけであっという間に通り過ぎる。
アレが通用するのか?
蓮撃が始まって10数分、やっとあの攻撃にリュウが反応する!
ゴフゾフ殿の右の下段に逃げるように横に飛ぶリュウ。
そして身体を回転させて右ではなく左の木刀で受ける。
そのまま回転を続け、振り向きざまに右の木刀でゴルゾフ殿の右脇腹辺りに、ー斬ー 見事に……
いや! ゴンゾフ殿は咄嗟に槍から右手を離してリュウの攻撃を右腕で受けた!
あの流れるような攻撃に咄嗟に対処した!
更にもう長い腕を引き、片手でグッと突きを打つ姿勢になるゴルゾフ殿!
あの巨体で何でそんなに素早く動けるのだ!
しかし、リュウの動きがゴルゾフ殿の突きを諦めさせる!
これは…… ゼブン殿の得意技、足踏み攻撃!
そのままジャンプするように放った頭突きはゴルゾフ殿に交わされたが、二の矢の膝蹴りはカバーしたゴルゾフ殿の腕ごと顎先を掠めた!
一瞬よろけた隙をリュウは見逃さない!
リュウの蓮撃!
蓮撃が始まると直ぐに連続でヒット! このまま終わると思ったが、何とか持ち堪えているゴルゾフ殿。
……回転しての一撃を腕で受け、更に跳び膝蹴りも腕でカバーしている。
ゴルゾフ殿の腕はかなりの負荷がかかっているはずだが…… 持ち堪えている。
この試合、途中から雨が降り出したが、誰も気づかないほど皆が試合に集中している。
竜族にとってはこれほど苦戦するゴルゾフ殿を見ること自体が初めて。
リュウは親友だが拙者だって複雑な気分だ……
リュウお得意の、途中タイミングをずらす攻撃にリズムを崩したゴルゾフ殿に連続でヒット! 更に木刀を二本指で挟んで射程距離を変えてゴルゾフ殿に当てる! が、何という根性とタフさ、ゴルゾフ殿はその都度耐えて喰らい付いてきた……
蓮撃は体力の限界が勝負の負けになる、これが最大の弱点。
ここまであの状態から持ってくるとは、やはりゴルゾフ殿は竜族最強!
……ゴルゾフ殿の強さの秘訣は運動神経の良さや体格が言われているが、拙者からすればあの体格なのにスピードがあること、それにとても器用なところも強さに直結してると思っていた。 ……が、この試合で恐ろしくタフというのも加わった。
この戦い…… もう優に30分は越えている。
やはり、攻め続けている方のリュウが不利。
蓮撃の弱点は体力の限界がそのまま戦いの負けになること。
リュウもこれほど蓮撃を出し続けたことなどないだろう。
ある地点から異常に噴き出てるリュウの汗、限界は近い……
26セット目 急激に増えてきた汗が気持ち悪いが、雨で流されて俺にとっては恵みの雨になっている。
ここまで何度も連続で当ててきたのに、この人はまだ立って捌いてくる。
決め手を欠いたのは事実、しかしまともには勝てない人だ。
目の前のゴルゾフさんは血だらけで、本当は勝負を止めても可笑しくないレベル、ただラザノフが審判なので止めないだろう。
もし止められたら、むしろ俺の負けを宣告されそう。 ……追い詰められてるのは俺だ、もう止まれば倒れるほど疲弊してる。
だが俺には最後の手段がある!
この技を考えて作り上げても試す機会さえなかった、蓮撃フィニッシュの型。
そう、この技が通用しなければ負ける!
蓮撃フィニッシュ、3の型。
この型は下段に攻撃を集め、そしてやっぱりここで上段か、と言った右上段を放つ。
待ってましたとばかりに強く跳ね返そう(別にそこまで重要ではない)とプッシュする槍を、当たるギリギリで木刀を離した手で掴む。
そして引き込み、左に待機させてた虎峰を放つ。
ただ1つの誤算は槍を引き込む時に、ゴルゾフさんはあっさり槍を離して右ストレートを打って来たのだ……
ゴッ、っとこめかみ辺りにゴルゾフさんのストレートが当たった瞬間、虎峰を喰らったゴルゾフさんは吹っ飛んだ。
バッと木刀を拾ってゴルゾフさんに詰めたところでラザノフから"勝負有り"の声がかかった。
ガハァ〜っと大きく息をして仰向けに寝転がる……
0. 数秒遅れてたら負けの世界。
……運が良かったか⁈
「ふぅ、全く逆の結果となったか…… こんな変な技まで隠し持っているとは…… まだ面白いやつが居るもんだ」
腹を押さえているが立っているゴルゾフさん。
本当にタフだな……
「また挑戦しますよ」
ムクッ、と立ち上がりながら言った。
「いや、挑戦するのは俺の方だが⁈」
「完敗に辛勝では内容が違います。 次は完勝出来るようにまた頑張りますよ」
「フハハ、それ以上は止めてくれ。 それより蓮撃中にタイミングをずらしたり射程を変えたりしてびっくりしたぞ。 俺の蓮撃でも出来るか試してみるよ」
それこそ止めてほしい。
その後、ラザノフの挑戦をゼブンさんは拒否した。
やはり竜族最強のゴルゾフさんが敗れたのはゼブンさんにとってショックが大きかったのだと、ゾフさんが言っていた……
ラザノフ達の滞在も、ジルベッタさんが来てクラルさんを見送るまでの2、3日くらいだと思う。
それまでにゼブンさんに勝てなければ今回の滞在では認められない。
しかし、次回なら十分な目があると思う。
ちなみに帰りは俺もラザノフ達もリズーンやコーラン国を通るルートで帰ろうと思う。
ラザノフ達はフォルマップルを避けたいから。
俺は飛んでるのでフォルマップルを通っても問題ないけど、リズーンを少しでも見たい(ギルド個人戦がある国、ドリアードが住むビジョン森はリズーンにある)。
そして帰る日の夕刻。
稽古が終わってから子供達(ドムフ含む)を空高くまで連れて行き、今回の氷竜族の里の滞在を終えた。




