じっちゃんと
「ちょっと待て、リュウ。 このタイトル、嫌な予感しかしねぇ」
「何で?」
「前にタイトルで "お爺さんとお婆さん" ってあったよなぁ。 ところが読み進めても全く本編と関係ねぇ、ちょっと道を尋ねた相手ってだけだ」
「他の人の作品も同じだよ。 まぁでも、今回は大丈夫」
第一章 旅立ち(亜人国編)
第二十二話 「じっちゃんと」
ゴムを取りに行くのもひと段落し、ソマルさんは刀の製作よりもゴムボート作りを優先させている。
と言っても、刀はもう殆ど出来上がっている。
クナイも先日最後の1つを作り上げた。
ソマルさんにはあと1歩と言われたけど、それは職人目線での事。
俺から見れば中々出来がいい。
そして階段下りもやっと完走する事が出来た。
1番嬉しかったのはリリカが凄く喜んでくれた事だ。
あの笑顔は可愛いくて、物忘れの激しい俺でも一生忘れないだろう。
5ヶ月もかかったけど霜や雪が無くなり、階段のコンディションが上がるにつれ記録も伸びて行った。
思ったより時間がかかったけど記録が伸びたのは蓮撃のセット数も同じだ。
思った通りだけど、今度は体力が先に限界がくる。
今は蓮撃を、10セットは続ける事が出来るようになっている。
リリカのその後は、本当にドスケーベ達に付き纏われる事がなくなったらしい。
ただ今度は後輩達に言い寄られて困ってると言っていた。
おモテになるようですが、もう今度は俺は戦いません!
亜人との戦いは思うところがあった。
魔術勝負は兄が言っていたように、魔術師は弱かった。
詠唱に時間がかかり過ぎる! でも魔術師は5人1組で動くとも言っていた。
そりゃあ、5人いれば強いだろう。
でも5人なら、前衛に剣術や槍術が出来る3人、後ろにサポート出来る魔術師2人の方がいい気がする。
もっと言えば、強い前衛2人に、攻撃の出来る魔術師2人、そして貴重と言ってた闇の魔力持ちの回復役の魔術師1人で、パーティーを組めばいい気がする。
そう言えば、兄は剣術も出来る魔術師になりたいと言っていた気がする。 ……となると、兄は中衛のポジションだな……
いや、待て。 それだと剣術も魔術も出来る俺まで中衛のポジションになってしまう。
でも俺は前衛が好きだ〜! 大好きなんだ〜っ!
剣術勝負にも思うところがあった。
魔術と体術に比べ、威力が弱い。
もちろん木刀だからだけど、それでも魔術や体術より威力が弱いとは思わなかった。
まぁ、刀ならドスケーベはあっという間に屍になってるけど……
最後に体術勝負。 ……正直、鼻ちゃんは強かった。
体術だけなら兄より上(と言っても兄とは数年前に勝負しただけ、その強さは体格や体力とともに上がっているとは思う)。
その強さを支えているのがスキルだった。
虎鉄…… これはやはり禁術。
鼻ちゃんは回復薬を飲んだ後もずっと肩を押さえていた。
全治にするとひと月以上、思った以上にヤバい技だ。
虎峰…… これは思った通りの技。
完治まではしなくても、回復薬を飲めばほぼ治るようだしいい技だ。
慣れれば連発も出来るようになるかも⁈
でも、1番思ったのは亜人とは無闇に戦わない方がいいという事。
戦いながらスキルを探るのは危険過ぎる。
なるべく仲良くしよおっと。
ーーーーー
夕方の稽古。
基本練習後に気になっていた術を試す。
その技とは宇宙ジーンが最後に出した魔術、石飛礫。
初めて見たけど宇宙ジーンとの距離が近かったので、一瞬俺の魔力も動いた。
地の魔力のみで、複雑でもなかったので再現してみる。
丁度いいので、ここで俺の覚えた(覚えてる)魔術を紹介しておこう。
地の魔力を使う魔術は土の盾しか知らない。
水の魔力はアイスシールドと氷の矢(アイス何とか)の2種類を使える。
なので盾は2種類の盾を作れる。
火はファイアーボールだけ。
宇宙ジーンは俺の知らない火の魔術を使っていたけど、あれだけ離れていると俺の魔力はピクリとも反応しなかった。
光はサンダーを放つ時に補助的に使うだけ。
闇は使ったことがない。
風は教わった記憶だけで、兄との楽しい思い出しか残ってない。
イシツブ〜テ! と再現すると、宇宙ジーンより多く大きい石が飛んで行った。 単純に魔力量の差だろう。
これで地は2つの魔術を使える……と思っていると、リリカが話しかけてきた。
「珍しいね、魔術の練習なんて。 …… ねえ、リュウのお兄さんって約束守る人って言ってたよね。 …… 私も守りたいなぁ」
「何か約束してたっけ?」
「キスしてあげるって言ったでしょ!」
忘れてた……
「言ってたけどアイツ等が凄く喜んでたからさ、何か分からなくなっちゃったって言うか…… 」
「でも私はリュウに言ったの。 リュウにしか言ってないの」
「兄弟か…… 亜人国は進んでるね。 兄弟でブチュブチュキスするなんて…… でもお兄さん同士のキスは想像したくないな。 人間としては……」
人間国が同じ習慣じゃなくて良かった。
「私だって想像したくないよ! もうバカ! そんな訳ないでしょ!」
ホッ…… これで安心して眠れる。 いつ、お兄さんが帰って来るかと思ってビクビクしてたよ。
でもそれなら尚更キスなんて出来ない。
俺はもう直ぐ去る人間。
別れをこれ以上辛くするような事は出来ない。
ーーーーー
ソマルさんが作っていたゴムボートは、それほど時間がかからずに完成した。
縦1.5メートル、横1メートルの1人乗り。
でもしっかりとした作りなので2人乗っても平気そう。
空気を抜くと俺のデカいリュックに収まる。
川での試運転を済ませ、完成となった。
そして刀の完成も本当にあと数日だろう。
今は4月に入り、いつの間にか枯れ果ててた木が葉を付けている。
ソマルさん家族とこの村の風景が、俺はとても好きだった。
まだ少し寒い日もあるけど、全てが揃えば約束なので飛んで行くしかない。
数えきれない恩は、いつか戻ってきた時に必ず返そう。
リリカ…… 俺も自分の気持ちに気付いたよ。
最後まで気持ちに応えてあげられなくてごめん。
俺の、初恋の人。
その日の夕食後に皆んなに告げる。
「ソマルさん、ナッソーさんにリリカ、俺は刀が出来た日の夜、リーブルへ飛びます。 今まで本当にありがとうございました」
「リュウ、確かにあと2日もすれば刀は出来上がる。 でも今年の春は寒い。 もう少し暖かくなってから行けばいいぞ」
「ありがとうソマルさん。 でもいつまでも甘えられません。 約束通り刀が出来上がったらここを発ちます」
出来れば新しい孤児院に寄って…… と言っても空高くから様子を伺うしか出来ないけど、シスターとローチェの姿を一目見たい。
「リュウ…… 私はまだ約束守ってないよ…… リュウ、私ね、リュウにプレゼント作ってるんだ。 でもまだ途中だから、出来上がったらリーブルに行きなよ。 そんなに時間はかからないからさ。 ちょっと持ってくるね」
と言うと、自分の部屋からプレゼントを持って来た。
皮の腰袋? 皮で出来ていて、何かを入れる小さなポケットが5つ、大きめのポケットが1つ付いている。
「まだ完成じゃないけど、リュウが作ったクナイを入れる専用の腰袋なんだ」
これはカッコいいデザインで、めちゃ嬉しい。
でも6つ?
「大きい1つは刀を差すの、あとの5つはクナイ。 リュウが階段の上で説明してくれたよね、蓮撃は5パターンの組み合わせだって。 だから一生懸命、階段下りしてたんでしょ。 それならクナイも5本が良いよ」
そう言われると、5本の方がいい気しかしない。
「リュウ、遠慮しないで良いのよ。 もう1本、ゆっくりクナイを作ってから、行きなさい」
「そうだよ。 もっと出来のいいやつ。 パパと同じくらいの出来のやつ」
「ハハッ、それだと何十年もかかるから!」
「うん、いいよ。 とりあえず20年ね」
クソッ、可愛いぜ、リリカ。
でも俺は何本もクナイを作っているから時間はかからないで作れる。
それにしてもこの家族は皆んな優しい。
数日が過ぎ、刀が出来た。
青紫色に不気味に光る刀身は魅入られる。
ソマルさん曰く、前世を含めても5指に入る出来、だそうだ。
その言葉通り、試し斬りでは木の上から落ちる葉っぱが気づかないかのように、真っ二つになっていた。
クナイはまだ殆ど手を付けていない。
ゆっくりと言われたし、どうせ作るなら今度はソマルさんに良い出来だと言われたい。
階段下りはもう殆ど失敗しない。
なので難易度を上げることにする。
3段飛ばしの時に、空中で右回りにクルッと回って着地する。
次の3段飛ばしの時は、左回りにクルッと回る。
3段飛ばしにだけ制約を付ける事にする。
ちなみにこれは、バランス感覚と体幹が大きくものを言う。 俺は大得意だ。
でも連続で3段が続くと苦労するし、階段の下の方で疲れている時はバランスを崩しやすいので難易度は高い。
ーーーーー
その日の朝の山には、いつもと違う空気が流れていた。
鳥の囀る声も聞こえない。 とても静かな朝だった。
リリカとの体幹トレーニング。
リリカは体幹トレーニングをするようになってから更にスタイルが良くなった気がする。
また、おモテになる事でしょう。
「何、私の事ジロジロ見てるの? ダントツ2号君」
「スタイルいいね、ダントツ3号も直ぐに現れるとみた」
「私は2号君で大好き。 だから3号はいらな〜い」
なっ…… クゥ〜!
「でも2号君は、何か忘れてない?」
あっ…… 昨日風呂入るの忘れた。
近くにいるから匂うのだろう。 海が近くに欲しい。
「ごめん、今日は入るよ」
「何が? もう…… 2号のバカ。 私に興味なさすぎだよ、……寂しいな」
違ったのか…… でも、
「そんな事ない! 俺だってリリ……」
奴は突然現れた。
3号ではない。 じっちゃんだかばっちゃんだ。
もしかしたらパンツさんだったかも…… いや、それはいい。
リリカとの甘い会話でデレデレモードの俺は、こんな近くにばっちゃんが現れるまで気づきもしなかった。
ばっちゃん 5メートルはある猛獣。 顔つきは狼と熊の中間って感じ。 大型肉食動物特有の威圧感。
まだ俺達とばっちゃんとの間は10メートルはある。
リリカをゆっくり下がらせ、俺は少し前に出て様子を伺う。
リリカは…… 更にゆっくり下がっている。 ……いいぞ、リリカ。 必ず守る!
ばっちゃんの鼻息が豪快だ。
俺に気づいているけど、下の地面の匂いをしつこく嗅いでいる。 ……でも俺に少しづつ近づいてる。
俺との距離は2メートルないくらいになった。 相変わらずこちらを見ずに、下を匂っている。
ま、まさか…… 昨日俺が風呂に入らなかったから、俺からいいダシの匂いが匂っているのか〜!
鼻が良すぎるぞ、ばっちゃん!
鼻デッカちん、負けたな、ばっちゃんの勝ち〜、じゃなくて!
一応言っとくか……
「あのね、僕ね、今日、風呂…… 入るよ」
出来るだけ少年っぽく言ったけど、どうだ?
イメージは小学2年の時の磯丸少年。
無視して俺の周り、グルグル回っております。
ダメか…… 仕方ない。
左手に虎峰、右手に虎鉄を仕込む……
ばっちゃんと対峙する。
圧倒的な威圧感。
あの刀でもあれば勝てたかも知れない。 でも今は無手だ。
相変わらず俺の周りをグルグル回っていたばっちゃんだが、急にバッと走り出した。
俺にではなくリリカに向かってだ。
なっ、一瞬反応が遅れた。
直ぐにジェットを起動してばっちゃんに追いつく。
そして虎峰! しかしばっちゃんも体を捻って左を振る。
バシッパーンと相打ちになり、ばっちゃんは倒れる。
けれど直ぐに起き上がり尚もリリカに向かう。
俺は吹っ飛ばされ右肩に激痛と熱さを感じる……
何とかジェットで踏ん張るけど、ばっちゃんはもうリリカの直ぐ側まで行っている。
『リリカァッ!』っと大声で叫んだのがよかったのか、ばっちゃんは一瞬こちらに気を取られた。
その隙にばっちゃんとリリカの間に入り込んだ、その時! ガブッ!っと左腕を噛まれ、バキッと何かが折れる音がした。
気を失いそうな激痛。
でも容赦なく俺を振り回すばっちゃん。
まだだ…… 俺にはまだ仕込んでる 虎鉄がある!
虎鉄をばっちゃんの喉に撃つ。
技が発動するまでの間が、スローモーションのように感じる。
早く発動してくれぇ!
ボフッと音がして、ガハっと吐血しながらばっちゃんの口が開いて俺の腕を離した。
そのまま顎下から脳天に突き抜くように、虎峰!
スッパーンっと音がして、一瞬ばっちゃんが伸び上がるような姿勢になる……
そして、ゆっくりばっちゃんは倒れた……
まだ…… 死んでない。 虎鉄を仕込む。
「ハァ、ハァ、リリカ…… 見ないで」
「…… はい」
虎鉄をばっちゃんの頭に撃ち込む。
数秒後、ボフッと音がして、ばっちゃんの目から血が噴き出した。
リュウ!っとリリカが駆け寄る。
だけど血だらけでボロボロの俺を見て、呆然と立ち尽くしている。
肩から流れる血も酷いけど、腕が…… マズい。
「リュウゥ… ごめんなさい……」
リリカは何も悪くない。
「また守れたよ。 泣かないで……」
リリカはハッとして、俺の腕にハンカチを巻きつけ血止めをする。
リリカは謝っていたけどリリカのおかげで勝てた。
俺だけなら速攻で逃げてたし、戦っても懐に入る前にやられていただろう。
リリカを何が何でも守る、この決意と懐に入れた流れがばっちゃんに勝てた勝因だろう。
腕は壊されちゃったけど……
リリカに支えられ階段を下りている時に、下からソマルさんが上ってきた。
……そう言えば、リリカの登校時間が過ぎている。
ソマルさんは俺を見ると、ギョッとして何があったかを聞いてきた。
「な、何があったんだ…… また階段で転んだのか?」
「違うのパパ。 パッツァンが出て、リュウが私を……」
「何ぃ! パ、パッツァンだと⁈」
誰が、ばっちゃんだ! ……最悪、パンツさんとまで言ってた奴がいたな。
バチが当たったか⁈
ソマルさんにことの経緯を説明すると、パッツァンを確認したいと言うので、また階段を上ってパッツァンを確認する事になった。
そしてソマルさんは俺に回復薬を飲ませてくれた。
どうやらまた階段で転び、怪我をしてると思い回復薬を持ってきてくれたようだ。
上に着き、パッツァンの前まで来るとソマルさんが口を開く。
「し、信じられねぇ、本当にパッツァンだ…… リュウ、お前本当にパッツァを素手で倒したのか?」
「結構やられたけどね……」
回復薬を飲んでも腕の傷がヤバい。
動かそうとすると激痛に襲われる。
「そういう問題じゃねぇんだ。 このパッツァンはな、ベニラムの自警団が数人がかりで倒す魔獣だ。 しかも武器を持ってな」
「リュウ1人なら…… リュウ1人なら怪我だってしてないもん! 私を庇って…… 私を庇って、リュウはぁ〜、あぁ〜っ、ごめん、リュウゥ〜ッ」
最近、リリカの泣き顔ばかり……
本当は明るくて元気な子なのに……
「リリカ、言っとくな。 俺はリリカを守れて良かったと思ってる。 でも怪我をしたのは俺が弱いからだ。 小さな頃から鍛えてきたのに、こんなの1匹に……」
チラッとパッツァン見てしまった。
「こ、こんなデケ〜のよく倒せた……な。 小さな頃から鍛えてて良かった」
言いたいこと、分からなくなっちゃった……
「リュウ、リリカを守ってくれてありがとう」
「いや、こんなんじゃ足りないくらいソマルさん達には恩義が積もってるよ。 でも本当にリリカに怪我がなくて良かった」
「ああ…… だがリュウがボロボロだ。 早くリーブルに行きたいかも知れねぇが、しっかり治してから行くんだぞ」
この怪我……
いつ治るのだろう……
「で、結局関係ねぇじゃねぇか。 何で "じっちゃんと" なんだ?」
「タイトルだけ言ってもらってもいい?」
「ん・・分かった。 じっちゃんと」
「ばっちゃん」
「わかりづれぇな〜。 そもそもパッツァンな! ばっちゃんですらねぇから。 しかも "じっちゃんと"
関連が薄過ぎる」
でも全く関係ないタイトルが、これからの主流になっていくのを、この時のソマルさんは気付きもしないのであった・・。




