ヤキモチ
第一章 旅立ち(亜人国編)
第二十話 「ヤキモチ」
人間国と獣人国の戦争が再開された。 ……と言っても再開される事は初めから分かっていた。
俺は故郷を捨てた男、俺に出来る事は何一つない。
今日は工房も早く終わり、リリカも試験期間で早く学校が終わるので早めに夕方の稽古に来た。
今は縁側に座り、休憩中。
「戦争…… 再開されちゃったね。 リュウはお兄さんがいるんだよね」
「うん。 でもにいちゃんは強く賢い。 だから大丈夫。 ……と信じてる」
「リュウより強いの?」
「魔術を使われると厄介だったよ」
「そう…… 妹さんは?」
「今は王都の近くだから安心かな。 あそこまで攻め込まれたら人間国は負けるからね」
その前に降伏するだろう。
「そうなんだ…… あのね、リュウ。 わ、私、リュウのお姉さんになってあげるよ」
「えっ、何で?」
その時、階段から3人の男が姿を現した。
リリカは3人を見て、あっ、と声を漏らした……。
3人の男はリリカを見つけると真っ直ぐこちらは向かって来る。
リリカの知り合いという事は分かる。
問題は俺を見る目が敵意に満ちていることか……
左側の男
170センチほどの痩せ型。 耳が尖っている。
パッと見の印象はインテリ宇宙人の顔。
メガネをクッと上に動かす仕草が癖なのか? 凄くムカつく。 ……メガネを掛けてないからだ。
えっ、インテリ宇宙人の顔とはどんな顔だ?
インテリ宇宙人の顔はインテリ宇宙人の顔だ、説明しようがない。
敢えて言うなら宇宙人の顔をインテリにした感じだ。
説明になってない?
なら、インテリの顔を宇宙人にした感じだ。
真ん中の男
180センチほどで体格がいい。
鼻がデッカく、匂いに敏感そう。
トイレ(大)から出てきた時には会いたくない顔だ。
もちろん向こうも会い(匂い)たくないだろう。
体がムキムキでレスリングでもしていそうな感じ。
パワー系の体術でも習ってるのか⁈
右側の男
160センチほどでリリカより背が低い。
小太りでほっぺの肉付きがいい、スケベそうな顔立ち。
短髪で耳の上の方にツノがある…… リリカと同じ種族か。
足捌きから剣術をやってるのが分かる。
えっ、スケベそうな顔立ちとは何だ?
その説明は簡単だ。
鏡で自分を見ろ。 ……ソイツだ!
近くまで来るとスケベ顔が喋りだす。
「リリカちゃん、最近学校から直ぐに帰るのは、こんな所でこんな奴と居たいからなの?」
「ケーベには関係ない」
いいぞ〜、リリカ〜。
って、あいつケーベって言うのか。
スケーベなあいつにピッタリだ。
「そいつは親戚のハーフ人間だろ。 馬鹿で弱っちい人間! リリカは僕のリリカだ〜っ」
あ〜めんどくさ。
俺はソマルさんの妹と人間の子、という設定にしている。
つまりハーフな美男子設定。
「私はジーンの物になった事なんてない。 そしてなる事も一生ない!」
キツイけど… いいぞ〜、リリカ〜。
ってか、あいつジーンって言うのか。
宇宙ジーンなあいつにピッタリだ。
「リリカ、もうそろそろ我等の中から誰かを選べ。 人間といてもリリカの価値を下げるだけだ」
「価値なんて要らない。 ドノヴァンも放っておいて」
リリカ…… いいぞ〜。
ってか、あいつドノヴァンって言うのか。
鼻デッカチーンなあいつに…… あ、合ってない! ……チーンって名に変えなさい。
「放っておけないよ、リリカ。 卑怯で弱っちい人間なんかと一緒にいるな!」
宇宙ジーン…… やっぱりムカつく。
「お前はもう帰れ。 リリカは我等が送ってく」
「リ、リリカちゃん、じゃあ僕が手を繋いで階段を降りてあげるね。 ゴックン、ほ、他のところは触らないから大丈夫。 ゴキュリ、ほ、本当だから」
どんだけ生唾飲んでんだ…… 絶対触るだろ。
「ほら、弱い人間はさっさと帰れ!」
こ、この鼻デッカちんめ〜。
そのデッカい鼻の穴に指全部突っ込んで振り回すぞ!
……もちろん、その後は手を洗うし爪も切る。
「リュウは弱くないもん! それに優しいしカッコいいもん!」
う、嬉しい…… 今なら牛丼10杯は食える。
ってか何なの? コイツ等はリリカに惚れてて、俺にヤキモチを焼いてるのか?
「おい! 弱っちい人間! 僕と勝負しろ! 勝った方がリリカを好きに出来る。 グフ〜、ゴクリ、そ、それでどうだ!」
コイツ見た目通りのスケベだなぁ。
「あのねぇ、リリカの気持ちは? 好きに出来るってお前は何する気なんだよ」
「そ、それはリリカだけが知れる特権だ! ぼ、僕のすんごいテクで…… ムヒョ〜ッ!」
ダメだコイツ、気持ち悪い。
「とにかく弱い人間! 帰らないなら我等と勝負しろ!」
「勝負してどうするの?」
「リリカを好きに出来る。 さっきケーベが言っただろ」
「だからそこにリリカの気持ちは関係ないのかよ。 お前等にリリカは勿体なさすぎる」
「言い訳はするな! だから弱い人間はダメなんだ」
え〜と俺、言い訳した?
戦うのは構わないけど、それは刀が出来てから。
俺はこの国では密入国者なので、問題になったらマズい。
「お前等と戦うつもりはないよ。 ってか、リリカが好きならリリカに惚れてもらえよ。 関係ない奴と戦って勝ったらリリカを好きに出来るって、お前等アホだろ」
「それが弱い奴の言い分と言っている! 我等が怖いならもう口出しするな!」
え〜と、微妙に会話が噛み合ってないような……
「リリカ〜、俺は良いよ〜。 勉強も出来るし魔術だって凄いだろ〜。 俺に決めなってぇ」
「リ、リリカちゃん、僕の方がいいよ。 剣術の腕は学校1だし、ふ、太ってるから抱き枕としても使える。 きょ、今日から使う?」
「リリカ、我を選べ」
鼻デッカちんはセールスポイントないんだ。
それにしてもスケーベ…… 気持ち悪いな。
リリカは泣きそうな顔で、俺をチラチラ見てる。
「リュウ、戦ってよ…… 私のために……」
「戦ってもいいけど、刀が出来てからだね」
「なんだかんだで逃げるのが人間。 リリカ、もう3人の中から選べ」
リリカはポロッと涙を流し、決意を決めたように言った。
「もう戦ってよ! 勝ってくれたら、キ、キスしてあげるから!」
な、な、な〜にを言ってるんだ〜、こ〜んの娘っこは〜!
い、いや待て! さっきリリカはお姉さんになると言っていた。
もしかしたら亜人国は、兄弟でキスするのが当たり前の国なのか〜、くっ、なんて国だ、亜人国!
いや待て! リリカと兄弟になると言う事は、リリカのお兄ちゃん達とも兄弟と言う事だ。
……帰って来ないよな⁈
「やった〜、僕が1番にやるよお、グフ、グフフ、リリカちゅわ〜ん」
「ま、待て。 1番は我がする。 我は年上だし、虫歯もない。 いいなリリカ」
「年は関係ないよ。 先ずは魔術勝負! 学校でも最初は魔術じゃん」
なんだ…… 俺に言った訳じゃないのか。
まぁ、リリカのお兄ちゃんが帰ってきて、ブチュブチュされるの嫌だしな……
リリカは俺を見ながら「何で…」と呟いた。
奴等が去り、俺とリリカだけになった。
奴等は勝手に自分の得意分野で、俺と勝負をするようだ。
魔術勝負は魔術が得意な宇宙ジーンと。
剣術勝負は自称学校1の剣術の腕のスケーベと。
体術勝負は本当に強そうな鼻デッカちんと勝負する。
何で俺がリリカの恋人選定しなきゃいけないんだ。
そんなのは亜人同士やって欲しい!
「リュウ、ごめんなさい……」
「……いいよ、でもリリカはあの中の誰と付き合いたいの?」
「えっ…… 何言ってるの?」
「キスまでしてあげるんでしょ」
「バカ〜ッ! リュウに言ったのに〜! ひどいよぉ〜、うわぁぁ〜」
そう…… だよな、でもアイツ等が喜んでたから……
もしかして俺もヤキモチ焼いた……?
何にしても勝負は決まった。
問題になれば俺は直ぐに亜人国から離れる。
人間の父親のところに帰ったことにすれば、ソマルさん家には迷惑かけないはずだ。
そしてリーブルに行く前にソマルさん家に寄って刀をもらえばいい。
その時までシスターとローチェのいる孤児院に戻りたいけど、多分俺は死んだ事になっている。
なので何処か山の中にでも待機していよう。
リリカはずっと泣いている。
明るくて元気でよく笑う子なのに……
「リリカ、帰ろう」
「ひ、1人で…… 帰ってぇ〜」
「…………」
かける言葉も見つからず、ふらっと階段のところまで来た。
ここから見る景色が好きだ……
雪が降ると更に美しくなる。
毎回、リリカは階段の途中で声を出して応援してくれてる。
まだ1回も全部飛べてないけど、最近はいいところまでは飛べている。
それも後ろで泣いてるリリカが応援してくれてるから力が湧くんだ……
リリカのところまで戻ってきた。
「リリカ、俺は負けないよ。 一緒に帰ろう」
「うわぁ〜、ごめんなさいぃ、リュウゥ〜ッ」
「リリカは何も悪くないじゃん。 大丈夫、俺が守るよ。 いいよね…… 俺で」
リリカは何度も頷く…… でもまた涙が溢れてきたようだ……
落ち着くまで待とう。
その日の夜、寝る前に考える……
今はもう3月、10月の半ば過ぎにここに来て、もう4ヶ月以上も世話になっている。
いくら仕事の合間に刀を作っていると言っても、出来上がるのが遅すぎる。
それは多分、ソマルさんが調整して作っているから。
寒い時期では俺は飛んで行けない。
それが分かっているからゆっくり作っているのだ……
でも、もうすぐ出来そうではある。
リリカの恋人選定の戦いは、試験の終わる1週間後になった、と言っても俺が全員に勝てばいいだけ。
3連戦で戦うので、怪我の回復薬を買っておいた方がいいだろう。
リリカには負けないと言ったけど本当は分からない。
相手とのレベル差が全く分からないからだ。
俺が戦ってたのは、主に兄と他の孤児の仲間達。
亜人ではない。
剣術勝負は負けない。
負ける事を俺自身が許さない。
あんなスケーベ野郎に負けたら兄にも、ずっと見ていてくれたローチェにも申し訳ない。
圧倒してやる!
魔術勝負は自信がない。
忘れちゃった魔術もあるし、魔術練習はずっとしていない。
正確には虎峰も虎鉄も魔術だけど、魔術として使う気はなく体術として使うつもりだ。
その体術勝負。
リリカが言うには鼻デッカちんは本当に学校1、体術が強いと言う。
なので戦いは単純にどちらのレベルが高いかの勝負。
まぁ、リリカの笑顔が見られるように頑張ろう。
ーーーーー
ある日の昼食後、ソマルさんに山に取りに行きたい物があるので付き合ってくれ、と言われて山へ入った。
俺達がいつも来ている稽古場の階段を登らずに、そのまま真っ直ぐ坂道を上っていく。
そして山道を歩くこと2時間。
ようやくソマルさんは足を止めた。
「この木だ。 リュウ、分かるか?」
「そりぁあね、木だ」
「違う、何の木か分かるか?」
木は木じゃないのか?
「え〜と、ほんのり薄汚れた木?」
「ブフッ、違う、これはゴムの木だ」
ゴムの木。
木に斜めの傷を付けて、白い液体をこぼさないように受け皿を置いておく。
「ゴムを取ってどうするの?」
この辺りのゴムの木に、同じ仕掛けを作った後に質問してみた。
「ゴムボートを作る」
ゴムボート…… この辺りは海から遠い。 でも川はある。
夏に川下りでもするのだろう。
「面白そうだね、川下り。 暑くなったらやるの?」
俺は出来ない、もう直ぐ刀が出来上がるから。
「フッハッハ、確かに面白そうだ、だが違う。 このゴムボートは折り畳めばリュウのデカいリュックに入るように作る。 リーブルに行く時に必ず役に立つはずだ」
マジか…… 恩の大きさ半端ないな……
タダで刀を作って貰って、無償で泊めて貰い3食付きって……
いくら前世でソマルさんが日本人に世話になったからと言っても、俺は何もしていない。
「ソマルさん…… ありがとう。 でも俺は何も返すことが出来ない…… なんて言っていいかも分からないよ…… とにかくありがとうございます」
「いや、俺達だってリュウが来てから楽しいぞ。 リリカは毎日生き生きとしてるし、ナッソーだって料理が趣味のように作ってる。 仕事の手伝いもリュウは素人とは思えねぇほどハンマーを振るのが上手い。 そう言えばこの前リリカが、リュウのお姉さんになりたいって言ってたぞ」
兄弟でキスをする国、その名は亜人国!
リリカと想像すると…… 俺までスケーベになりそうだ。
そんな時はリリカのお兄さんを思い浮かべる…… や、やめて〜!
「そのかわり明日から朝早くにゴムを取りに来てくれ。 朝の方が良く取れるって聞いた事があるんだ」
お安い御用だ、俺は朝も夜にも強い。
稽古代わりにランニングをしてくれば、1時間もかからないだろう。
そうだ…… 魔術練習もしながら走ろう。
次の日からゴムの木にゴムを取りに行く。
ばっちゃんが出るかも知れないからリリカには遠慮してもらった。
魔術勝負、俺の知ってる最高の魔術は、サンダー。
でもサンダーは広範囲に被害が出る。
勝負では使えない。
それなら改造は出来ないか? 俺は自分の中の魔力を、虎峰と虎鉄の開発でこれでもかと言うほど動かしまくった。
それをヒントに探っていこう……
ランニングで45分、ゴムを取るのに1時間半、帰りにまた45分かかった。
帰った時にはもうリリカは学校に行き、ソマルさんも送って行ったのか居なかった。
ナッソーさんと2人で朝飯。 ナッソーさんは俺1人では可哀想と待っていてくれたようだ。
そして工房では、刀が形を成している。
まだ完成ではないが、青紫色に不気味に光る刀身はどんな物でも斬れそうな雰囲気がある。
クナイも後1本で全て完成する。
ソマルさんが作ったクナイは斬れ味鋭く、投げると真っ直ぐ飛んでいく。
俺が作った2本は今のところ斬れ味は悪くないけど、何か歪んでる、だから真っ直ぐは飛ばない。
もう本当に全て揃ってしまう。
予想以上に長く滞在してしまって、予想以上に此処での生活が好きだった。
まだ少し寒いけど、全てが揃えば出発だ!




