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冒険・じゃがいも討伐5

 俺と、アリサと、女魔術師。ユーリカという名前なのだそうだが、この三名しか今動ける人間はいない。

 別に、俺たちで避難をして、翌日対策を練ってもいいんじゃないかと思うのだが、それではユーリカのパーティが全滅してしまうかもしれない。

 それは気分がよろしくないし、冒険者としての道義みたいなものにも反する。

 ということで、この少人数で作戦を決行する。

 作戦というのは……。


「おびき寄せて、お酒を手前にまくの。じゃがいもの根っこは、とても水分や栄養を吸収する効果が高いみたいだから……」


「あの、そのじゃがいもっての、緊張感がなくなるので何か呼び名はないかなっと考えてみたんですが」


 俺が提案した。


「どんなの?」


 アリサが興味津々な様子。

 そんな大した名前でもないのだが、俺は考えていた呼び名を告げた。


「キラーポテト」


「うん、うん。分かり易くていいんじゃないかな。それでは、これからあのじゃがいもたちをキラーポテトと呼称します。作戦は、キラーポテト酔っ払わせ作戦。決行!」


「おー!」


「おー!」


 アリサが元気良く拳を突き上げた。

 俺も合わせて拳を突き上げておく。

 手持ちの酒は、さほど多いわけではない。

 取り急ぎ、役人さんに協力を仰ぎ用意できた分だけで、どれだけのキラーポテトを相手に出来るかは不明。

 だが、この一人を除いて非力で、しかも物理的な戦闘が苦手なメンバーが取れる作戦は限られている。

 これに賭けるほか無いのだ。





 第一段階。

 俺が、キラーポテトと遭遇したあたりに出向き、地面を踏み鳴らしたり手を打ったりと音を立てる。

 今いるメンバーの中で、俺がダントツで足が速いからこそできる役割だ。

 ユーリカさんは魔術師で、肉体的に強いわけではないし、アリサは俺が見るところ運動音痴というやつだ。

 そんなわけで。


「出て来い、キラーポテト! どらぁ!」


 ガンガンと足を踏み鳴らし、パンパンと手を打つ。

 ここはキラーポテトの縄張りのはずで、一度は去っていったあいつらも、根っこで振動を感じてすぐに戻ってくるだろう。

 おお、来た来た。

 地面が震える。

 キラーポテトどもがこちらにやって来たのだ。

 周囲では、家畜たちですら息を殺し、虫の音も聞こえない。

 そんな中で暴れる俺の声や音は、さぞかし分かり易いことだろう。

 そして、作戦のもう一つの肝。それは……。


 俺は、接近してきたキラーポテト目掛けてこちらから駆け寄った。

 体勢を低くして、四つ足みたいな格好だ。

 というのも、キラーポテトはそれなりの高さに向かって、ソラニン入りの芽を飛ばしてくるのでは、とユーリカさんが推測したからだ。

 案の定、接近する俺に応じて、キラーポテトが芽を放つ。

 それは俺の頭をかすめて飛んでいった。

 多分、子牛の頭くらいの高さか?

 俺は駆け寄りざま、腰に据え付けた水袋の口を解放する。

 溢れ出た酒が、キラーポテトの目の前に注がれた。

 奴らもこちら目掛けて進んできていたところだから、酒が注がれた地面も立ち止まることなくそのまま通過……しようとして、いきなりつんのめった。

 キラーポテトが転んだ!

 酒が通用してるぞ。

 地面の下に張っていたはずの根が地上に出てきて、ばたんばたんとでたらめに動き回っている。

 それを見てか、感じてか、周囲にやってきたキラーポテトが、暴れるキラーポテト目掛けて一斉に芽を吹きかけた。

 こいつら、仲間を判別しているわけじゃないのか?

 いや、アルコールで動きが狂った仲間を、判別できなくなったんだろうか。

 俺は後ろに下がりながら、また手を打ってキラーポテトを誘導する。

 アリサとユーリカさんがいるところまで誘い込むのだ。


「こっちよ!」


 アリサがランタンを掲げている。

 その場所まで、俺は猛ダッシュした。

 決められた位置まで飛び込むと、ユーリカさんが呪文を唱える。


「”力が産み出しし大地、土は硬き壁となる! 構造変換、石壁作成(ストーンウォール)”!!」


 俺の背後に、ゴゴゴゴッと地面から灰色の石壁が盛り上がっていく。

 後ろまで迫ってきていたキラーポテトの一つが、勢い良く石壁にぶつかって、べちゃっと潰れた。

 俺は立ち上がりざま、この石壁を登る。


「ロッドくん、これ!」


「ロッド、こっちも!」


「了解了解!」


 放り投げられる、酒入りの水袋を受け止める。

 アリサが投げたやつは、とんでもない高さまで飛び上がっていってしまい、落下してくるのをなんとかキャッチした。


「ご、ごめーん、投げすぎた……!」


「アリサちゃん、肩が強いのね……!」


「えへへ」


 アリサの今の投擲は、絶対に軽く投げただけだ。

 すぐに落ちてくる高さだったからな……。

 さて、俺は抱えた水袋の紐を解き、中に詰まったぶどう酒を撒き散らす。

 役人さんの家には、麦酒などもあったが、これはアルコールが弱いから効果が薄いだろうという事で、醸造酒を主に持って来たのだ。

 酒を吸い込み、早くもいくつかのキラーポテトがひっくり返る。

 だが、こうして見ていると、後から後からやって来るではないか。

 一体どれだけいるんだ?

 アリサの見立てでは、こいつらは元々地下を通じて繋がっている、一つの種芋から発生したということだったが……。


「ユーリカさん、だめだ、酒が足りない!」


「予想以上にキラーポテトの数が多い……!?」


「たぶん、私たちが依頼を受けて来る前までに、キラーポテトは自分たちの数を増やしてたんだと思います! ……あっ、こっち来た!」


 アリサの声を聞いて、俺はちょっと青ざめた。

 石壁で止めきれず、それを回り込むほど大量のポテトがやって来ているってことか!?


「やばい! 二人とも逃げて!」


「で、でも、石壁の効果時間は半刻ほどよ! これが解けたらロッドくんは……あうっ!?」


 ユーリカさんのくぐもった声がした。


「ユーリカさん!? ロッド! ユーリカさん、ポテトに体当たりされて倒れちゃった! すっごく大きいのが来てる! この、この、来ないでー!」


 アリサの杖が空を切る音がする。

 迫ってくるキラーポテトを威嚇しているんだろう。


「よし、今から俺が行くから……!」


 こんな状況になって、冷静でなんかいられるわけが無い!

 俺は石壁から飛び降りた。

 アリサのすぐ後ろまで迫っていたポテトの上に着地し、踏み潰す。

 そして理解した。

 ランタンの灯りが照らす範囲、全てを埋め尽くすほど、大量のキラーポテト……!

 一体どうやって、これほどの数のポテトが農場に潜んでいたのだろうか。

 これら全てが、ソラニンを含んだ芽を飛ばし、動物を苗床にするというのか。

 こいつらが町にやってきたら、それこそ町の終わりだ。

 だが、どうする!?

 俺たちがこんな数相手に、何ができる……!?


「も、もう、もうっ……」


 焦る俺の背後で、アリサの切羽詰った声が聞こえた。

 これは、アリサも限界か……!

 今にもプッツン来そうな声が……。


「いい加減にしてーっ!!」


『グッドスイング』


 被さるように、野太い男の声が聞こえた。

 えっ、こ、これは力の超神様?


 俺の視野の端で、高らかに掲げられたアリサの杖が、猛烈な勢いで振り下ろされるのが見えた。

 その瞬間、俺と、倒れているユーリカさんの体を、光が包み込む。

 そして、杖が地面を打つ。

 すると、まるで冗談のような事が起こった。

 アリサが打った地面が、まるで柔らかいものを殴ったあとのように、ぐにゃりと陥没した。

 一瞬遅れて、周囲の地面が反動なのか、いきなり大きく隆起する。

 これが、地面の上にいたキラーポテト全てを跳ね上げた。

 地面が弾力のある別のものに変わってしまい、浅い地中に張られていたポテトの根が、外へとはじき出されたのだ。

 ポテトたちの叫び声が響き渡る。

 連中にとって、感覚器であり、栄養を吸収する口であり、移動する為の足でもある根。

 これを空中に投げ出されてしまったのだ。

 空中に飛び上がったポテトが、不意に明々と照らし出された。

 ……月だ!

 今まで無かったはずの月が、煌々と照り輝いている。

 月は、知恵の超神が作り出したもの。月は海を産みだし、それが故に、月の満ち欠けで海は満ち引きする。

 なら、力の超神は何を作った?

 伝承が語る、力の超神の産物。

 それは大地だ。


 ポテトが引き抜かれた地面には、無数の穴が空いている。

 ここから、突如、湯気をあげながら、猛烈な勢いでお湯が吹き上がった。

 アリサの一撃が、地下を通っていた温泉を探り当てたんだろうか!?

 深い事情は分からない。

 だが、噴出した温泉は、空に舞い上がったキラーポテトを容赦なく直撃した。

 ポテトたちが断末魔をあげる。

 動物を襲う、恐るべきじゃがいもの群れ。

 それが、成すすべなく、高温の温泉によって茹で上げられていくのだ。


 地面に杖を打ち込んだ姿勢のまま、アリサは空中で繰り広げられる、その光景を見上げていた。


「茹でポテトが降ってくる……」


 すっかりと茹で上がった無数のジャガイモが、空から降り注いでくる。

 月明かりが照らし出す、茹でジャガイモの白さ。

 俺はこれを、幻想的というべきなのかどうか、少し悩んだのである。


次の話で、第一章は終わり。

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