冒険・じゃがいも迷宮5
さあ、探索の再開だ。
動く鎧を倒した翌日だが、あの迷宮に動く鎧はあまり多く出現しないらしい。
魔法生物たちは、迷宮入り口のイミテーターたちのように、倒しても倒しても出現する。
だが、一部のモンスターは出現数が少なめらしい。
「ああ畜生! こっちはだめだ!」
俺たち以外のベテランらしき冒険者たちが、慌てて駆けていく。
俺が嫌な予感がして、みんなに合図した。
「みんな、脇に避けろ!」
「? はーい!」
アリサを始め、レベッカとジョージも従う。
俺たちが壁際に張り付いたと同時、真横をものすごい勢いで駆け抜けていく集団がある。
そいつらは子どもほどのサイズで、無理やり人の形にこね回した泥の塊のような……。
「ゴーレム……! こんなにいっぱい!」
アリサが驚きの声を漏らす。
ジョージが慌てて彼女の口を抑えようとする。
だが、それは手遅れだったようだ。
一部のちびゴーレムたちが、ギョロッとこっちを向いた。
そいつらが足を止めて、こっちに飛びかかってくる。
狙いは音を発したアリサだ。
「やべえ! くっそ!」
俺は慌てて、腰に佩いていた魔法の短剣ドゥミナスを抜いた。
青い刀身が、僅かに輝きを放つ。
抜き打ちざまに、飛びかかるゴーレムに突き立てる。
すると、妙に体が素早く動いた。そして正確に、刃がゴーレムの首に向かって叩き付けられていく。
命中と同時だ。
ゴーレムが一瞬で砂になった。
「な、なんだこれは!?」
短剣で、子どもサイズの相手が飛びかかって来る衝撃など殺せるものではない。
だが、これを迎撃したのみならず、粉々にしてしまったのだ。
魔剣に秘められた力が発動しているのだろうか。
「きゃあああ!」
アリサの悲鳴が響いた。
いかん、物思いにふけってる場合じゃなかった!
だが、心配すべきはジョージの方だったらしい。
「ひえええ!」
ジョージが必死にしゃがみ込み、巻き込まれないように体を縮める。
彼の頭上では、パニックになったアリサがぐるぐる手を振り回しており、飛びかかったゴーレムは彼女の拳に当たると、脆い砂細工のように粉々になっていく。
飛びかかる端から、砕いて砕いて砕いて砕く。
これはアリサの拳の秘められた力が……というのではなく、単純にパワーでゴーレムを粉砕しているのだ。
「レベッカ! アリサの背中を押してくれ! アリサを盾にして前進するぞ!!」
「あいよ! ……っていうか、ロッドも鬼だねえ……。目的のためなら手段を選ばない」
「いや、俺もできればこの手段は選びたくないんだが、明らかにこれが最適解……! 頼む!」
レベッカは後ろからアリサを抱き上げると、彼女のぐるぐるパンチに当たらないように掲げ、前方へ前方へと歩いて行く。
飛びかかるちびゴーレムたちが、次々にアリサのパンチに打ち砕かれていく。
凄いぞ。
史上最強のぐるぐるパンチだ。
まるで無限に思えるくらい、次々に生まれてくるちびゴーレムだが、アリサがパンチを打ち出す過程で二体、三体と粉々になる。
それで進みながらぐるぐる振り回すパンチは、凄まじい効率で彼らを消費していった。
恐らく、熱々のスープが冷める程の時間もかかっていないだろう。
唐突にちびゴーレムの流れが途切れた。
つまり、全滅させたのだ。
「ぷひー……」
アリサが目を回しながらぐったりとした。
体力切れだな。
彼女が起き上がって、不意に腕を振り回したりすると危険なので、フラッグが立っている適当な通路に入って一休みすることにする。
フラッグがあるということは、探索済み。
さっきのようにゴーレムが出てくる可能性があるかもしれないが、基本的には割りと安全な場所だ。
「いやあ、危なかったねえ。だが、あれが第二階層の魔法生物と。動く鎧よりもよほどたちが悪いよ」
ジョージは崩されたちびゴーレムの破片を持ってきている。
「見てくれ。これはオーク語だ。つまり、この迷宮はロッドの魔剣も含め、オークが築き上げた文明のを礎として存在している」
「ジョージはやたらとオーク語に詳しいな……」
「ああ、それはね、あたしの村の近くに、オークの国の遺跡があったのさ」
アリサに膝枕をしていたレベッカ。
意外なところから話が飛んできたぞ。
「蛮神様はね、それなりにオークたちに味方してたのさ。連中はやたらややこしくて分かりづらい文化を作ったし、蛮神様にはそいつが何なのか分からなかったけれど、オークたちは蛮神様に敬意を払ったし、蛮神様はオークたちを守ったんだってさ。蛮神様は、魔神様とも交友があって、オークたちが崇めてるのは魔神様だった」
「ははあ、なるほど」
「で、色々あって、オークの文明は滅びたんだけど、オークに味方した蛮神様と魔神様は立場をなくして、魔神様に至っては代替わりしちまった」
「ああ、それは俺も知ってる。今の魔神様は二人目なんだよな」
そういう言い伝えはある。
どうも、レベッカが知っている蛮族の村の言い伝えとは違うようだが。
俺の神である盗賊神は、至高神側の神様だ。
ってことで、基本的には至高神に都合の良い言い伝えしか無いのかもしれない。
「うーん」
「おっ、アリサが目覚めたぞ」
基本、体力がないインドア系神官のアリサである。
我がパーティにとって、最大の火力ともなりうる彼女だが、普段から前に出さない理由はこれが一つ。
もう一つは、アリサが自分の身を守ることが出来ない可能性がある点だ。
力の超神様の加護というか呪いというか、そういうもので凄まじい力を手に入れてはいるが、肉体の防御力も同じように極めて高い……とは限らない。
そして、俺はそんな彼女の肉体的な能力を知るための危険なテストをするつもりはない。
「悪かったなアリサ。ちゃんと隊列を組んでいこう」
「うん。私もパニックになっちゃった……。反省反省」
一眠りしたようで、アリサも完全復活だ。
ここで、レベッカの話す蛮神様とオークの話はひとまず打ち切りとなった。
ゴーレムたちの破片が残る通路に出て、先を急ぐことにする。
「わっ!? なんだいこりゃあ?」
レベッカが何かを踏んづけたようで、慌てて跳び上がる。
彼女の足の下には、一見するとゴワゴワした毛玉のようなものが平たくなっていた。
少しすると、平たくなっていたのがプクッと膨れ上がる。
そして、もぞもぞと動き始めた。
毛玉は、迷宮に散らばったゴーレムの破片に向かっていくと、次々と吸い込んでいく。
「迷宮の掃除屋だと思うよ。多分、ゴーレムを再利用するんだ。もしかすると、イミテーターもこの要領で再利用されてるのかもしれない」
「へえ……そんな迷宮、聞いたこともないわ。ここって、とっても変わってるのね」
ジョージとアリサの話を聞きながら、俺はこの毛玉を棒でつついてみる。
すると、こいつは突かれた分だけころころと転げると、俺の棒を避けるように動いて迷宮の掃除を始める。
どうやら無害なようだ。
こいつは無視していいのではないだろうか。
「ここから先は、フラッグが無い通路があるみたいだが」
「一応、フラッグが立っているところが探索済みなんだろ? それなら、開拓された下への降り口を探したほうが効率がいいんじゃない?」
「だがなジョージ。それじゃあ、お宝は見つからないだろ。未踏破のルートを行ってみてこそ、昨日の動く鎧みたいなお宝があるかもしれないんだ」
「ロッド、欲をかくのは危険だと思うな」
「…………確かに」
俺は頷いた。
今現在、ちびゴーレムたちが大量に出現したせいで、他の冒険者はここまでやってこれていないようだ。
第二階層で、この辺りにいるのは俺たちだけということになる。
探索の絶好の機会ではあるのだが、俺たちが基本的に、経験の足りない未熟な冒険者であることを忘れてはいけない。
「よし、フラッグがあるところを虱潰しにしていこう」
俺が提案し、みんなで手分けして、フラッグのある場所を確認していくことにした。
基本、男子グループと女子グループで手分けだ。
女子は、戦士であると同時に、狩人などの心得もあって臨機応変に状況対応できるレベッカを先頭。
男子は無論、盗賊の俺。
女子組は、壁や怪しいものに手を触れないこと。何かを踏んだら、こちらを呼ぶことを言い聞かせる。
「ロッド、恐らく、オーク文字が鍵になっていると僕は思うんだ。この欠片の文字に似たものを探してくれ。どんなに些細なものでもいい。小さなキズみたいなものでもいい」
「分かった」
ランタンを使って、細かにフラッグがある通路を見ていく。
どうやら、下に向かう降り口は、一見して分かる代物ではないようだ。
何組かの冒険者が通っているはずだが……。
「!」
足元にほど近い辺りを照らした時だ。
フラッグの真下に、爪で引っ掻いたような薄い傷跡を見つけた。
取り立てて、文字のようには見えないが……。
だが、ジョージはこれを見て目を細めた。
「オーク文字の一部だね。これと合わせて一つの意味を成すものが、どこかにあると思う。ひょっとすると、先に探索した冒険者たちも知らない通路を見つけられるかもしれないぞ……!」
ジョージの鼻息が荒い。
だが、耳寄りな情報だ。
俺はこの情報を共有するために、女子組の方へと向かった。
「レベッカ、アリサ、オーク語の文字を探してくれ!」
「オーク語の文字? それって、ロッドの剣に刻まれてるようなあれかい? いや、今までの通路には見当たらなかったねえ……」
レベッカが難しい顔をする。
俺の後から、ジョージがやって来た。オーク文字を羊皮紙に写してきたのだろう。
「レベッカ、低いところに文字があったんだ。足元を探してみて! さもなければ、上とか……」
「上!」
アリサが跳び上がった。
彼女の杖が、壁面をゴーンと叩く。
その壁に亀裂が入った。危ないッ。
「アリサ、注意してくれ。崩れたらやばい。生き埋めだ」
「ご、ごめん! でもね、オーク文字って、あれじゃないかなって……」
アリサの杖が指し示す先だ。
天井と壁の境目に、刻まれた模様のようなものが見えたのだ。
「これは……これだ、これだよ! オーク文字だ!」
ジョージが小躍りした。
そして、サラサラとこの文字を書き写し始める。
「分かるか?」
「うん。半日もあれば解析できるよ……!!」
「半日!!」
どうやら、ここでまた長い一休みになってしまうようだった。




