冒険・じゃがいも迷宮4
地下階層に関する情報と、必要そうな道具を買い求め、いよいよ第二階層へと挑むことにした。
俺とレベッカが前衛。後衛はアリサとジョージ。
本当は五人くらいいるのがベストらしいが、現状この四人でどうにかするしかない。
「第二階層から先は、イミテーターの出現が極端に少なくなるみたいだね。踏破済みのところは、一定距離ごとにフラッグが立てられているから、それを目印にしながら行くといいみたいだ」
ジョージが昨日集めた情報をまとめている。
この階層は、いわゆる魔法生物と呼ばれる、ゴーレムの類が多い場所になる。幸い、そいつらのサイズはさほど大きくはない。
倒せば、ゴーレムを形作っている素材は魔力を帯びていて、金稼ぎの材料にはなるんだそうだ。
ただし、中堅冒険者でなければ入れない迷宮に出てくるモンスターだ。けっして弱くはない。
「よーっし、あたしが支える! ロッドはあれを試してみな!」
「おう!」
第二階層の通路は広い。
つまり、前衛の数が少なければ柄が長い武器だって振り回せるということだ。
アリサはいつもの武器の、大型の斧を手にしていた。
それがガツンと音を立てて、目の前の動く鎧に食い込む。
そう、敵は動く鎧。
レベッカを邪魔しないように横に回りながら、昨日買っておいた革ベルトによく似た道具を取り出す。
これに短い手槍をセットしながら、いい距離に動く鎧を捉えて……投擲だ。
遠心力で放り投げられた槍が、動く鎧の首にぶち当たる。
そして、兜を吹き飛ばしながら襟首を貫いた。
「動く鎧の五感は兜が担当してるのよ! だから、頭がなくなったら兜を回収されないようにして、それでこのモンスターは怖くなくなる!」
「兜を回収したよ!」
アリサの言葉通り、動いたジョージが動く鎧の兜を小脇に抱えている。
兜の中では、ガランドウのはずなのに目に当たる部分が光り輝いてギョロギョロと動いている。
「アリサ!」
「ええ……本当にやらなくちゃだめ?」
「アリサしかできないだろ。よろしく!」
「えーん」
アリサは泣き真似をした。
何をやれということか。
頑丈な動く鎧の兜を、二度と胴体が取り戻せないようにするならどうするべきかは決まっている。
「えいっ」
ジョージが上に構えた動く鎧の兜を、アリサは白くて小さな手のひらで掴んだ。
掴んだ部分が、まるで紙細工のようにひしゃげた。
兜が金切り声を上げる。
彼女の指先が、兜をどんどんと細切れにしていく。
摘んで千切る、それだけの動作なのだが、魔法がかかった金属をそんな動きでバラバラにしていっているのだ。
これぞ、アリサの有効利用。
彼女が怪力に悩んでいることは知っているが、解決するまでは使えるものは全部使わないとな。
やがて、兜だったものは、ただの金属の破片になった。
動く鎧の胴体が、動かない鎧になる。
「大したもんだ」
レベッカが笑いながら、敵の胸を小突いた。
すると、動く鎧は無抵抗に、どどんっ、とひっくり返る。
まずはこれを回収して、売る。
俺たちは第二階層の序盤で引き返すことにした。
「ほう、動く鎧の胴体か。美品だなあ。……兜はちゃんとばらしてあるんだろうな?」
「そりゃもう、完膚なきまでに」
「どういう手段を取ったかは知らんが、兜が残ってりゃ、胴体もそっちに引き寄せられる。こいつがこうして大人しくしてるんなら、どうにかしたんだろうな」
ここは、市の奥にある、幸運神の出張所だ。
この場所で、モンスター関係のアイテムを買い取ったりしてくれる。
無論、商売するセンスがあるなら自分で店を構えて売ったっていい。
「ほい、これ、代金ね」
幸運神の神官が、俺に金を手渡してきた。
結構な額だ。
これで、あの短剣を買えるかもしれない。
「……買っていいか?」
「あたしは異論はないさね! うちのパーティの苦労担当はロッドだし、こういう役得はあるべきさ」
「うんうん。ロッドのかっこいいところ見てみたいなあ」
「僕は武器が必要ないし、異論は無いよ」
満場一致で、俺の短剣用の資金となった。
市に急ぐ。
すると、昨日の冒険者が同じ店に座っていた。
「売れてる?」
「おっ、昨日の兄ちゃんか。売れてねえぜ」
なんだかヤケクソ臭が漂う。
「だが、うちの売り物は下の階層で手に入れた逸品ばかり。値切られても絶対値下げしねえ。俺たちの命の値段だぞ」
「散々値切られたみたいだねえ……」
レベッカが同情する。
実際、迷宮の下層で手に入るアイテム群は、非常に希少なものばかりだ。
徘徊するモンスターは凶悪無比な奴ばかりだろうし、そいつらと戦って手に入れたアイテムなら、安売り何てもっての他だろう。
自分たちの必要経費や、儲けも考えて値段設定しないと、とてもやっていられないだろう。
「でも、あんたたちが使わないのかい」
「仲間が死んでるんでね。この価格で買ってもらわないと、復活費用がペイできないんだよ」
「なるほど……! 分かった。ここに金を用意した来たんだけど」
「昨日の今日でかよ!?」
冒険者は目を丸くした。
俺が差し出した、幸運神から受け取ったままの包みを受け取ると、半信半疑という顔でそいつを開いた。
「ああ、こりゃ確かに……! ああ、ああ、間違いねえ」
信じられなさそうな表情だ。
だが、徐々に顔が笑みに変わった。
「いいぜ、持ってけ。うちの事情が事情でなければ、俺が使ってたぜ」
魔剣を手渡してきた。
刃から柄が一体の金属で作られた、青白い魔剣だ。
刃には、呪文みたいなものが刻み込まれていた。
「ありがとう! あんたの仲間が復活することを祈ってるよ!」
「これだけの金がありゃ、幸運神の神殿も神様に口を利いてくれるだろ。あいつら、金を払うほど融通を利かせてくれるからな! こちらこそありがとよ!」
なんだか、今回の取引はいい感じで終わった。
幸運神神殿側としては、払った金が即座に戻ってくる形になるわけか。
「ロッドロッド! 見せてー!」
「いいぜ。だけどアリサ、触るなよー」
「あ、僕も見たい!」
アリサとジョージが寄ってきて、俺のものになった魔剣を眺める。
「へえ……、これ、何かの名前みたいだ」
「? 私には読めないなあ」
「ひどく癖のある文字だけど、オーク語だよこれ。彼らはほとんど文献を残していない。だけど、鳴き声に似た単音節に多くの意味を含めているんだ。ええとね……」
ジョージは口の中で、何かの鳴き声みたいなものを呟いた。
最初は意味の分からない響きだったが、それが段々と理解できる言葉になっていく。
「ドゥミナス……。多分、この剣を作った人……いや、迷宮の主ならば、魔王かもしれない。そいつの名前だ」
「ドゥミナスって、あれ? 蛮神の言い伝えにあったんじゃないかい? 至高神様に戦争を仕掛けた魔王の名前だろ」
レベッカの言葉で、アリサが目を丸くした。
「あ、思い出した。それって、知識神の間では秘密にされていることだよ! 名前をみだりに唱えるだけでもいけないって!」
「そりゃどうして?」
「魔王が復活するから」
アリサは声を潜めた。
雰囲気はあるんだけど、人通りの多い喧騒だとあまり聞こえてこないような。
「ひとまず、今日はもう一回潜るかい? 入り口をうろうろして、動く鎧をやっつけただけだから、あたしの体力はまだ有り余ってるけど」
「いや、やめとこう。お釣りでそれなりに余裕があるから、ちょっと休んどこう」
俺の提案に、みんな異論は無いようだった。
昨日取った宿に戻ることにする。
途中、幸運神の出張所に向かう、棺を引っ張る連中がいた。
あの冒険者がいる。
復活できるといいな。
ジョージが早足で歩いてきて、俺の隣に並んだ。
「随分慎重だね? 今の勢いなら、第二階層を踏破できるんじゃないかって思うけど」
「ああ、いきなり動く鎧に会えて、そいつをやっつけて換金できた。凄く物事がうまく行ってる。だけど、ちょっとうまく行き過ぎだって思うんだ。俺はビビリだから、調子がすごくいい時はワンクッション置く。俺のテンションが高くて、注意力散漫になったら目も当てられないだろ?」
「そういうとこ、ロッドは苦労性だよねえ。冒険者なんて、みんな楽観的でイケイケな性格だと思ってたんだけど」
「俺が死んだら、アリサが一人で放り出されるだろ? 俺を復活させるにしろ、金はかかるしまだ冒険者ローンは残ってるし……」
「分かった! 分かったよロッド。それ以上続けると君の胃が辛そうだ。一休みしよう」
ジョージが話のわかるやつで助かる。
レベッカは難しいことは考えていないし、アリサは基本的に俺を肯定してくるから、乗せられてしまう。
「ま、僕は魔法を使うくらいしか取り柄がないが、女の子たちよりは悲観的な男だよ。頼ってくれよ」
「うむ……。なんか、ジョージがすげえ頼もしく見えてきた」
「悩んでるのはあれだろ? たかが魔法生物一匹に、総掛かりで掛かったから、自分たちの戦力が大丈夫かっていう? 大丈夫だよ。ロッドはその剣で強くなるし、僕は隠し玉を持ってる。レベッカだってとっておきがあるし、アリサは精神的には弱点があるけど、肉体的には見た感じ無敵だろ?」
「ジョージの方が楽天的じゃないか」
「そうじゃない。客観的に僕らの強みを並べてみただけだよ。これ見てると、僕らはかなりいい線行けると思うんだけどな」
そんな会話をしてる俺たちの間に、レベッカが割って入ってきた。
俺とジョージの肩に腕を回し、
「はいはい。分かったからさ。まずは酒でも飲んで、パーッと騒ごうじゃないかい? 辛気臭いこと言ってたら、運も逃げて行っちまうよ」
「お酒……!」
アリサが目を輝かせる。
うん、当座は、アリサが飲みすぎないように目を光らせておかないといけないな。




