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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第四章:本格的なり、ダンジョンハック!
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冒険・じゃがいも迷宮2

 並み居るイミテーターを、発見、攻撃、駆逐する。

 こいつらの存在に気付く事さえできれば、そこまで恐ろしい敵じゃなかった。

 俺とレベッカは、すっかりイミテーターへの対処に慣れてきて、アリサとジョージが発見するたびに、すぐさま対処する事ができるようになっている。


「しっかし……多いなあ」


 それでも、際限が無いんじゃないかというほど湧き出てくるイミテーターを相手にしていると、なんだか精神的にくたびれてくる。

 俺たちが討ち漏らした相手は、アリサが杖でぷちぷち潰しているが、彼女が攻撃に入るたびに、迷宮に凄まじい振動が加わり、通路や壁面が砕け散る。

 一匹たりとも後衛に通してはいけない。

 アリサの身の危険を案じるではなく、俺たちと、迷宮に潜っている冒険者たちのためだ。

 彼女が好き勝手に動いたら、きっとこのジャガイモ迷宮も崩れてしまう事だろう。

 そんな気持ちでイミテーターと戦えば、それは疲れるというものだ。


「本当に。こいつら、先行している冒険者たちがやっつけてたんじゃないのかい? どうしてまだまだ、こんなにいるんだろう!」


 腹立たしげに言いながら、レベッカは手斧を振るう。

 また一匹、イミテーターが潰れて床に落っこちた。


「これは案外、イミテーターを生産している輩が迷宮の奥にいるのかも知れないね。もし発見できたら大手柄だよ! それが例えば魔法装置なら、解析する事でイミテーターの生態がわかるし、動物ならばイミテーターのマザーを発見した、っていうことになる!」


「そもそも、イミテーターってどういう生き物なんだよ? 動物じゃないし、昆虫でも無いだろ?」


「食えそうには無いけどねえ」


 また一匹踏み潰して、レベッカ。

 顔をしかめている。無味無臭なイミテーターの体液が飛び散ったのだ。


「そうだね、一番近いとすると、原生動物かな。目に見えるか見えないかっていうくらい小さな生き物なんだけれど、自由自在にその形を変えるんだ。魚のえさなんかになっているよ」


「あれかー。そう言えばあれだよねえ」


 俺とレベッカにはサッパリ分からない説明だったが、アリサには理解できたらしい。

 うんうんと頷いている。

 ちなみにそんな彼女は、杖からローブまで、イミテーターの体液に濡れている。

 俺たちの中で、現在一番多くイミテーターの汁を浴びているのだから仕方ない。

 彼女も、濡れてしまう事に関しては完全に諦める事にしたようだ。


「でも、原生動物と同じなら、食べられるんじゃない? 焼いたりすればいけるかもしれないよ」


「無臭ってところがダメだと思う。絶対、何の味もしないよ、あれ」


 アリサとジョージが、イミテーターの味についての論議を交わし始める。

 ここはダンジョンの只中だから、そんな事をしている暇は無いと思うのだが。

 不思議なことに、イミテーターらしきものの襲撃がぱたりと止んだ。


「おや? ちょっと、二人とも黙ってくれ」


 俺は二人が口を噤むのを待ってから、耳を澄ませた。

 ごうごうと、低く空気がうねる音がする。

 指先を唾で濡らして頭上に翳すと、ひんやりとした空気の流れが、後ろから前に向かって存在しているのが分かる。

 じゃがいも迷宮に風が吹いているようだ。

 それに、ごうごうという音は、奥まったところから聞こえてくる。

 迷宮の奥に、空気が対流を作れるだけのスペースがあるのではないだろうか。


「みんな、どうやら到着したみたいだぞ。最初のキャンプ地だ」


「やっとかい……!」


 レベッカが気の抜けた声を出した。

 彼女としては、先日の下水道冒険が初めての閉鎖空間での冒険で、本格的なダンジョンはこのじゃがいも迷宮が初めてだ。

 くたびれる気持ちも分かる。

 俺だってそうだった。


「でも、みんな気を抜くなよ。最後の最後にイミテーターがいたりしたら大変だからな」


 俺は再び、長い棒を手に取った。

 キャンプ地に向かうこの短い道のりでも、足元や天井、壁を叩いて点検する事は怠らない。

 アリサとレベッカは、許される事ならすぐさまキャンプ地に駆け込んで体を洗いたいようだ。

 気持ちは分かる。分かるが、こらえてくれ。

 普通の迷宮なら、他の冒険者が通過した後はおおむね安全といえるが、このじゃがいも迷宮に関してのみはそれがいえない。

 なぜなら、イミテーターが自動的に補充される迷宮だからだ。


 やがて、見知った迷宮の作りと、床の構造ががらりと変わる場所にたどり着いた。

 ここから先は、目を凝らさなくても分かる。

 通路が途切れて、広大な空間が広がっているのだ。

 そこは、夕暮れくらいの明るさで、人々の話し声が聞こえてくる。


「やったあ! 人がいるよ!」


 テンションが上がったのはアリサだ。

 いきなり、俺よりも先に向かってどどんと踏み出した。


「あっ、やめろアリサ、あぶな」


 言い切る前に、床が突然、めくれ上がった。

 アリサが踏み込んだからめくれた、というのではない。そこはつまり……まるまる、通路がイミテーターだったのだ。


「ほえ?」


 変な声を漏らしながら、アリサが飲み込まれた。

 彼女を包み込んだそいつは、まるでツヤツヤの巨大な丸パンみたいな姿をあらわにする。

 表面は鏡のようになって、周囲の風景を映し出している。


「あ、アリサー!!」


 俺は完全に冷静さを欠いてしまった。

 目の前の巨大イミテーターに向かって、手にしていた棒で殴りかかる。 

 だが、渾身の力を込めて叩き付けた一撃は、凄まじい弾力によって無効化される。


「うわっ、ここはスタンボルトの魔法……ああ、だめだ! あいつには肘がない!!」


 おいちょっと待てジョージ。スタンボルトってどういうことする魔法なんだ。

 

「ちいっ、最後の最後で気を抜いたらこれとはね! 本当に、イミテーターってのはいけすかないよ! てやあっ!!」


 レベッカが俺の隣から駆け抜けていった。

 手斧が、丸パンの表面に突き刺さり、僅かにそぎ落とす。


「刃物は効くみたいだよ!」


「よし! こいつを切り裂いて、アリサを助けるんだ!」


 俺もダガーを抜いた。

 俺とレベッカが、並んでイミテーターに攻撃を仕掛けていく。

 こいつを挟んだキャンプ地からも、気付いたらしい冒険者たちが集まってきた。


「うわあ、でかいイミテーターだな!? こんな奴初めてだぞ!」


「こんなのが陣取ってたんじゃ、外に出られないじゃないか! おおい、松明をもってこい! 焼いてやれ!」


 俺は慌てた。


「待ってくれ! 中に一人いるんだ! 飲み込まれてるんだ!」


 だが、帰ってきた言葉は無慈悲だ。


「あきらめろ! イミテーターに丸呑みされたら、生きてはいないだろうよ! 窒息して死んじまう。ほれ、現にイミテーターが、ぶるぶると震えて……震えてる……?」


 向こう側の冒険者は、俺に冒険の無情さを伝えようとしたのだろう。

 だが、彼のセリフは途中から疑問符を付けたものに変わった。

 そう言えば……イミテーターは、アリサを飲み込んでから、全く攻撃らしいことをしてこない。

 それに、丸パンのようだった外見が、いつの間にか縦長の楕円になっているような。


 次の瞬間である。

 ばんっ、と物すごい音が響いた。

 太鼓を、思い切り叩いたような音だ。

 俺たちの目の前で、イミテーターの上部が、冗談みたいに膨れ上がり、破裂した。

 イミテーターが何やら金切り声をあげる。そして痙攣する。

 破損した部分が、急激に再生を始め、再び。


「えーいっ!」


 また、ばんっと音がした。

 今度はイミテーターの脇辺りが爆ぜる。

 そこから、細くて白い指先が出てきて、がっしりとイミテーターの表面を掴んだ。


「うんとこしょ……どっこい……しょ!!」


 めりめりめり、びりびりびりびりっ!

 俺の耳にはそう聞こえた。

 イミテーターが真っ二つに裂けていく音だ。

 アリサは巨大で分厚いイミテーターの体を、まるで腐って脆くなった羊皮紙を裂くみたいに、千切りながら出現した。

 原型を留めないほどに千切られてしまった巨大イミテーターは、僅かな間痙攣していたが、すぐに動かなくなってしまう。


 立っているのは、イミテーターの体液やら消化液やらでびしょびしょになったアリサ。

 それを見つめるのは、俺たちパーティとキャンプ地の冒険者たち。


「あひー、イミテーターの汁が下着にまで染みてきちゃったよお」


 アリサが情けない声をあげた。

 俺の目には、彼女の背後で両腕を振り上げて上腕二頭筋と腹筋、胸筋、腹斜筋、大腿四頭筋を誇示する雄雄し(フロントダブル)いポーズ(バイセップス)を取る、力の超神様のドヤ顔が見えていたのだった。

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