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ゴミ箱を投げつけられて死んだ僕がドラゴンに転生しました。  作者: おもち
第一章:ヘタレのジル、ドラゴンになる。
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晴れのちドラゴン

僕は前方に広がっている海を見て、息をのんだ。

夜は休み、細々と休憩を取りながら旅を続けていたが、気が付いたらギルドの本部を目指すと決めてから一週間は経っていた。

村や市場があるところでは雲の上を飛ぶようにしながらずっと進んできて、やっと広大な海の姿を拝むことができた。


「ジル! やっと海、見えてきたね!」


シルヴィが嬉しそうにそう僕の背中の上で言う。


こんな高さでもしシルヴィが落ちちゃったら大変だ…。

なるべく、体を傾けないように飛ばなきゃな。


『そうだね、シルヴィ泳げるの?』

「もちろん! ねぇ、少しだけ寄り道しない?」


シルヴィは、優しく僕の首のあたりを叩く。


『うん、いいよ…じゃあ少し降りようか』


そう言いながら、僕は降りられそうな人気のなさそうな場所を探す。

すると、丁度よく海からそう遠くない場所に小高い山が見える。

そこに、白いドラゴンと水色の髪の少女は静かに降り立った。


「お疲れ様、ジル。いつも運んでくれてありがとうね」


こんな風に礼を言うのが、シルヴィの癖になりつつあった。

シルヴィにお礼を言われると、何度目だって嬉しくて、胸が温かくなる。

シルヴィは、いつものように素早く呪文を唱えて僕を人間の姿にしてくれる。

一週間ほどたった今でも、僕は人間からドラゴンにはなれるが、ドラゴンから人間にはなれずにいた。


「さぁ、ちょっと海の方に向かって歩いて行ってみましょうか」


シルヴィの言葉に頷いて、僕は人間の姿でシルヴィの後に続く。


「…あの…シルヴィ、荷物持つよ…?」

「大丈夫よ、ジルがドラゴンの時なら比べ物にはならないけど、人間の時なら私の方が力強そうだし」

「そ…そんなこと…」


…僕がいつも両手で抱え込むようにして持ち上げていた荷物を、今シルヴィが片手で持って早いペースで歩いている。


「……あるかも…」

「ずっと飛んでて疲れてるだろうし、今ぐらい私に持たせて。いいでしょう?」


僕の前を歩くシルヴィは、僕の方を振り向くとそう笑顔で言った。


「…うん…ごめんね…」

「こういう時は、謝るよりもお礼を言うのが先なのよ?」

「そ…そっか…! ありがとう、シルヴィ。寄り道がすんだら、また僕頑張るから…」

「うん! 頼りにしてるわ、ジル!」


た…頼りにしてる…?

シルヴィが…僕を…!?

駄目だ、急にプレッシャーに押しつぶされそうだ…。

ぐるぐるとすごい速さでシルヴィの言葉が頭の中を駆け回る。

それに反比例するかのように、僕の歩みは遅くなっていた。


「…ジル? どうかした? 置いて行っちゃうわよ?」

「い…行くよ! 今すぐ!」


気が付けばシルヴィとの距離はだいぶ遠くなっていて、僕は慌てて返事をして駆け出そうとした。

その瞬間、僕とシルヴィとの間に生えていた数本の木をへし折って、ドンっ!!という大きな音を立てて何かが落ちてきた。


…え…?

ドラ…ゴン…?


僕の目の前で立ち上がったのは、真っ赤な鱗に覆われた僕よりも一回りぐらい大きなドラゴンと、それよりもさらに大きな黄色い鱗に覆われたドラゴンだった。


…二匹も…なんでこんなところに…?

というかそれより、シルヴィは無事…!?

もしこのドラゴンたちの下敷きになっていたりしたら…!!

そう想像したとき、僕の背筋が急に寒くなった。


「シルヴィ…!! 大丈夫…」


そうシルヴィを呼ぼうと思ったが、僕の声をかき消すかのように、黄色いドラゴンが赤いドラゴンに飛び掛かり、赤いドラゴンの首元に嚙みついた。

赤いドラゴンは、耳をつんざくような鳴き声を上げて、黄色いドラゴンの下敷きになるような形で倒れた。


「…ちょ…ちょっと…! そんなことしたら死んじゃうよ…!」


なんでドラゴン同士でこんな風に争っているのか…。

僕にはわからないけど…でも、このままじゃ赤いドラゴンが可哀そうだ。

…助けなきゃ…。

そう思うと、僕の体がまばゆい光を放ちだす。


そして次の瞬間、僕の体は白いドラゴンへと変わっていた。


「ジル…!」


騒音の中、そんなシルヴィの声が聞こえたかと思うと、取っ組み合っているドラゴン二匹の横をすり抜けて、シルヴィがこっちに走って来ていた。

よかった…見たところ、シルヴィに怪我はなさそうだ。


『危ないから、ちょっとだけ下がってて…!』


僕はそうシルヴィに言い、二匹のドラゴンの間に飛び込んだ。


『なんだ貴様は! 邪魔をするな!!』


黄色いドラゴンは急な僕の乱入に驚いて飛びのいて、そんな風に怒りのこもった声で言う。


『どうしてこんなことするの…? 同じドラゴン同士なのに…』

『うるさい! そいつは異端者だ! 殺さねばならない!!』


…殺す…?

ドラゴンが…ドラゴンを?


振り返ってみると、赤いドラゴンは随分と弱っているようだった。

もう自力では起き上がれないほどに。


…殺させちゃ、駄目だ…。


『駄目だよ…仲間同士で殺しあうなんて…』

『いいから退け!!』


黄色いドラゴンはそう言い、前足を僕の顔をめがけて振りぬいた。

それを僕はギリギリのところで後ろにのけ反って避ける。


だいぶ…いや、相当怖い。

…よかった…とりあえず逃げ腰だったのがちょっとは役に立ったみたいだ。


とはいえ…後ろには赤いドラゴンも、シルヴィもいる。

逃げるわけにはいかない。


…僕一匹だったらとっくに逃げてるところなんだけど…。

どうしよう…そうだ…この間気づいたあれを、試してみようかな…。


僕はそう思うが早いか、深く息を吸い込み、前足の間隔を広げて構えると、大きく口を開けて思いっきり息を吐きだす。

すると、僕の口から出たのはただの息ではなく、青白い炎だった。

その青白い炎は黄色いドラゴンを包み込み、そのドラゴンは悲鳴を上げた。

それでもなお向かって来ようとするドラゴンに向かって、僕は今度は前足を地面に叩きつける。

すると巨大な氷が黄色のドラゴンに向かって伸びていき、その氷のとがった部分ががドラゴンの体をちくちくと刺す。


『こ…小癪な…!!』

『あの…帰ってもらえないかな…?』

『ふざけるな! 俺が貴様ごときに負けるものか!!』

『いや…でも…僕はこのまま…君を氷漬けにもできるんだよ』


もうこの状態で足に力をこめれば、僕が作り出した氷の上に居るドラゴンを丸ごと凍らせることは容易かった。


『そんなことできるわけ…』


黄色いドラゴンがそこまで言った時、僕は少し、足に力を込めた。

すると、黄色のドラゴンの前足が半分ほどまで凍り付く。


…本当はやりたくないんだけど…こうでもしないと帰ってくれなさそうだもんね…。

僕なんかがこんな強そうなドラゴンと対峙するなんて、おこがましいにも程があるっていうのはわかってるんだけど…。


凍り付いた自分の前足を見てぞっとしたのか、そのドラゴンは悔しそうに表情をゆがめると、前足を氷から無理やり引き剥がして翼を広げ飛び去って行った。


『よ…よかった…。帰ってくれた…』

「ジル…! 大丈夫? 怪我は?」


必死でそう聞いてくるシルヴィに、僕は首を横に振る。

こんな僕を心配してくれるなんて、シルヴィは優しすぎる。


『大丈夫、どこも怪我してないよ。それより…その赤いドラゴンは…?』

「怪我は治してあげたから、もう問題ないはず…」


僕の耳にそのシルヴィの言葉が最後まで届く前に、僕は何かに押し倒されていた。


『え…え…!?』


目の前には赤い鱗に覆われた、金色の目をしたドラゴンの顔が…。


『あ…あの…僕……オイシクナイヨ…』


驚きと困惑と少しの恐怖とで、最後の方は片言のようだったが、そんなのは気にしている暇はない。

…助けたつもりのドラゴンに食べられるなんて…ちょっと洒落にならないよ…!?


『助けてくれて、本当にありがとう!』


…え…?

僕の上に乗っている赤いドラゴンの声は、思ったよりも高く、可愛らしかった。

僕を見る金色の瞳は、美しく輝いている。


『エリシア、あなたのことが好き!!』


そんな幻聴とともに僕は巨大な赤いドラゴンにのしかかられ息が詰まる。

い…痛いし重いし苦しい……!!


『ちょ…ちょっと…し…死…ぬ…』


助けを求めた前足は空を切った。

赤いドラゴンにのしかかられた重みで息が吸えず、僕の意識は暗闇へと旅立っていった。


読んでくださって本当にありがとうございます!

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