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ゴミ箱を投げつけられて死んだ僕がドラゴンに転生しました。  作者: おもち
第一章:ヘタレのジル、ドラゴンになる。
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少女からの旅の誘い

僕とシルヴィは山を下って、一つの小さな村にたどり着いた。


「ここが私の家よ」


そう、シルヴィが小さな、少し古びた家を指さした。

中に入ってみると、台所やベッドなどがあったが、あまり使われていないようで生活感を感じなかった。

他に人が住んでいる気配もない。


「この椅子に座って!」


シルヴィは、机の横に置いてある椅子を引いて、僕に座るように促した。


「あ…うん、ありがとう」


シルヴィは、僕が座ったのを確認すると、台所に向かい、湯を沸かし始めた。


「あの…何か僕も手伝うよ」

「いいからいいから」


そしてシルヴィは、手際よく茶を入れると、僕に一つカップをよこした。


「あ…ありがとう」


僕がカップを受け取ると、シルヴィは机を挟んで僕の目の前にある椅子に座る。

こうして落ち着いてまじまじとシルヴィの顔を見てみると…本当に可愛らしい。

水色の綺麗な髪はさらさらで柔らかそうで、肌は色白で、目はくりくりとした二重。

瞳の色は少し青っぽい灰色だ。

これで可愛いと感じないわけはない。


いや、僕はもうドラゴンなんだし、人間の女の子を可愛いと思うのはおかしなことなのかもしれないけど、前世の人間だった時の癖が抜けていないらしく、可愛いものは可愛いのだ。


っていうか…!

僕は一体何考えてるんだ。

それよりも彼女に聞かなきゃいけないことが色々あったはずなのに…。

えっと…聞きたいことってなんだっけ…?

僕がそう考えだしたとき、ふとシルヴィが顔をあげて、視線が合う。

そして彼女はどうかした?というように小さく首を傾げて見せた。


………。


「ジル? どうかした?」

「あ…いやその…何でもない!」

「そう? ねぇジル、あなた私に聞きたいこと何もないの?」

「いや、あったんだけど…」

「けど?」

「全部忘れちゃった…」

「…頭大丈夫?」


シルヴィは呆れたように僕を見る。

いや、仕方ないじゃないか…今の今まで、頭が完全にフリーズしてたんだから。

あぁもう、人にまともに質問することもできないなんて…。

僕はナメクジ以下かもしれない。


「じゃあ私が改めて自己紹介してあげるわ。そうすれば、聞きたいこと、思い出すかもしれないでしょ?」

「うん…! ありがとう!」


僕が情けない態度を取ったにも関わらず、彼女は嫌がることなくそう話を切り出してくれる。

それにほっとして僕が目を細めて笑うと、シルヴィの頬が少し赤くなった気がした。


「私はシルヴィ=ケルディア、17歳。使える魔法は、あなたに使ったドラゴン用の治癒魔法と、ドラゴンが人化するのを補助する魔法。両親は居ないわ」


シルヴィは、簡潔に自己紹介をする。

それに、僕は自然と質問を口に出していた。


「どうして君は、ドラゴンに関する魔法を使えるの? ドラゴンと人間って、相容れないはずじゃ…」

「私は小さいころ両親に捨てられて、ドラゴンに拾われたの。ドラゴンの言葉は初めから何と言っているかなんとなくわかったけど、私に魔法を教えてくれたのはそのドラゴンなの」

「そ…そう…なんだ」


なにかまずいことを聞いてしまったような気がして、僕は肩をすくめた。


「別に私は両親に捨てられたこと、特に何とも思ってないから、そんなに気まずそうな顔しないで。それよりも、今度はあなたの事教えてよ!」


シルヴィは、明るくそう僕に言う。


「…ごめん…やっぱり僕はなんて駄目なやつなんだ…」

「急にどうしたの?」

「いきなりデリカシーのないこと聞いたと思ったら自分から空気悪くして君に気を使わせてしまった…」

「あなたねぇ…その言葉がまた空気を暗くしてるわよ」

「えっ! ご…ごめん…!」

「そんなことより話してよ、あなたのこと」


シルヴィは両肘を机についてその上に小さな顔を乗せる。

聞く気は満々のようだ。


「え…えぇっと、僕の名前はジル=オルドランド…。生まれて二日目かな…。知っての通りだけど、生まれてすぐに冒険者に襲われてあの山まで逃げてきたんだ。あと、この人間の姿は、前世の姿と全く同じみたいなんだ…」

「ドラゴンは、生まれてすぐでも一匹で自由に動き回れるっていうの、本当だったのね。それで前世のあなたって、何をしていたの?」

「うーん…特に何もしてなかったような…。強いて言うなら家の畑の野菜栽培…かな」

「へぇ、冒険者とかではなかったのね」

「うん、僕、魔法とか使えないし、運動神経も悪いから」

「そんな風には見えないけど…じゃあ、あなた人間の見た目は若そうだし…どうして前世で死んじゃったのか、聞いてもいい?」

「僕が18歳の時、ゴミ箱が頭に当たったんだ」

「…え……?」

「同じ村の住人にゴミ箱を投げつけられて、その角が頭に当たったんだ。当たり所が悪かったみたいで…」


シルヴィは僕の言葉を聞いてぽかんと口を開け、目もまん丸に見開いている。


「…あの…シルヴィ…さん…?」

「…どうしてゴミ箱なんか投げつけられたの?」

「あぁ…それは、僕が無能だったからで…」

「でもそれ! 立派な殺人よ!」

「え…えぇ…!? シルヴィ…お…落ち着いて…」

「私そうやって弱い者いじめする人許せないの! もしその犯人がまだ生きているなら私がゴミ箱をぶつけてやりたいわ!」


そうか、僕は弱い者か…。

自分ではわかっていても、女の子からも言われると、なんだかへこむなぁ…。


それにシルヴィの言葉を聞いて、僕は一瞬でドラゴンに生まれ変わった感覚でいるけど、実はもう僕が死んでからかなりの時間が経っているという可能性があるということに今さらながら気づいた。


前世の暮らしに未練なんか無いし気にしてないけど。


「まぁ…でも、死んだおかげで君に出会えたんなら、僕は別にいいんだけど…」


そう僕はつぶやくように言った。

するとシルヴィはまたぽかんと口を開く。

心なしかまたシルヴィの頬が少し赤い。


「…あなたって…なんというか…」

「えっ…なに…? 僕が何かした…?」

「ううん、なんでもない」

「えぇ…!?」


途中でやめられてしまうと、どうにも釈然としない。

けど、彼女はもう話すつもりはなさそうだし、諦めるか…。


「まぁ、自己紹介も終わったことだし、改めてよろしくね、ジル」


シルヴィはそう言いながら笑顔で片手を僕の方へ差し出した。

その手を、僕は自然と握り返していた。


本当に、不思議な女の子だ…。

ドラゴンを助けるし、僕みたいなへっぽこにも嫌な顔をしないし、僕を殺した村人くんに怒ってくれる。


「…こちらこそ…宜しくね」


少し小さな声でジルがそういえば、シルヴィはにっこりと僕に笑いかけて、頷いた。


「それでジル、あなたこれから行くところはあるの?」

「いや…特には…。でも、静かなところで隠居しようかなって思ってたり…」

「隠居って…あなたまだ若いでしょ? そんなことしてたら人生…あ、竜生? が勿体ないわよ」

「けど、他にしたいこともないし…第一僕にできる事なんかほとんどないし…」

「それはあくまで前世の話でしょう? あなたはドラゴンなんだから、できることもいっぱい増えてるはずよ!」

「うん…まぁ、空を飛んだり、足踏みしただけで地面を凍りつかせたり、ってことはできるようになったけど…」

「その他にもいろいろできるようになっていることがあるはずなのよ。それでね! もし今後のことが全く決まっていないのなら、私と一緒に旅をしない?」

「え…?」

「一緒に世界を旅して、困ってる人やドラゴンを助けるの! 私の小さい頃の夢だったの」

「そんなこと…僕にはとても…」

「やってみなきゃわかんないでしょう? ね、お願い! 考えてみてくれない?」


シルヴィはよっぽどその旅がしたいのか、両の掌を合わせて僕に頼み込んでくる。

正直、僕は先の事なんか何も決めてないし、シルヴィと一緒に居られるのは純粋にうれしい。

それに僕は、今自力で人化することができないし、シルヴィがいてくれた方が何かと助かるのは確かだ。

なら、答えは一つ。


「…あの…えっと、多分…いや絶対力不足だけど…僕でよければ…」


「本当っ!?」


僕の返事を聞いたシルヴィは本当にうれしそうに瞳をキラキラと輝かせて僕の両手を握った。


…近い…!


「じゃあ、明日にでも出発しましょう! 旅支度を整えなくちゃ!」

「う…うん」


少々押され気味に僕はシルヴィにそう返事した。


旅かぁ…小さい頃は、冒険家に憧れたこともあったっけ…。

今はそんなのやりたいとも、やれるとも思ってなかったけど…シルヴィと一緒ならなんだかできるような気がする。

少しだけ、僕は明日が楽しみになった。


あ…でも明日は雨かあられか大雪かゴミ箱だったな…。

念のため、なにか頭を守れそうなものを調達した方がよさそうだ。

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