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第38話 アキラの日常、最後の平穏

アキラ(覚醒直前)


最近、なんだか鼻の調子がおかしい。

他の人には感じられないような、いろんな匂いがするんだ。友達が嘘をついた時の、少し酸っぱいような匂い。幼馴染のユウカが、頬を赤らめた時の、花の蜜みたいな甘い匂い。

じいちゃんが生きていた頃、よく言っていた。

「アキラ、お前の鼻は、世界で一番の宝物だ。いつか、その力が、お前自身と、大切な誰かを守ることになるだろう」

その時は、意味がよく分からなかったけど。

最近、特に気になるのは、じいちゃんの遺品が置いてある、物置部屋からする匂いだ。

古くて、懐かしい、じいちゃんの匂い。その奥に、何か、とても大事なものの匂いがするような気がするんだ。まるで、俺を呼んでいるみたいに。

学校の帰り道、ユウカと一緒に歩く。これが、俺にとって一番落ち着く時間だ。

「ねえ、アキラ。最近、なんだか楽しそうだね」

ユウカが、不思議そうに俺の顔を覗き込む。

「そうかな?」

「うん。前はもっと、ぼーっとしてたのに。何か、見つけたんでしょ?夢中になれるもの」

夢中になれるもの。

そうかもしれない。俺は今、じいちゃんが遺してくれた「匂いの謎」に、夢中になっているんだ。

「運命の時が、ついに近づいている」

俺はまだ、その言葉の意味も、自分が背負うことになる運命の重さも、何も知らなかった。

これは、俺が「普通の少年」として過ごした、最後の平穏な一日だった。


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