第22話 職員同士の密かな連帯
研究所の下級職員
絶望的な日々の中で、俺は自分だけではないことに気づき始めた。この地獄のような研究所の中で、俺と同じように、良心の呵責に苦しんでいる人間が、他にもいることを。
きっかけは、深夜の休憩室での、同僚との何気ない会話だった。
「……最近、眠れないんだ」
そう呟いたのは、俺と同期入所の、真面目な男だった。彼の目の下には、俺と同じように、濃い隈が刻まれている。
俺が黙って頷くと、彼は、声を潜めて続けた。
「夢を見るんだ。俺たちがデータ整理している、あの『被験体』たちの夢を……。彼らが、助けてくれって、叫んでるんだ」
その言葉に、俺はハッとした。俺だけじゃなかった。彼もまた、この組織の非道さに気づき、苦しんでいたのだ。
その日を境に、俺たちの間には、密かな連帯が生まれた。言葉には出さない。だが、すれ違う時の視線や、ふとした瞬間の頷きで、俺たちは互いの意志を確認し合っていた。「お前も、気づいているんだな」と。
俺たちの抵抗は、あまりにもささやかで、消極的なものだった。
報告書の数値を、意図的に誤入力する。
重要な書類を、然るべき場所とは違う棚に「間違えて」保管する。
施設の備品が、なぜか「原因不明」の不調を起こす。
どれも、巨大なシステムの前では、砂粒のような抵抗に過ぎない。だが、俺たちにとっては、人間としての最後の尊厳を守るための、精一杯の戦いだった。
「せめて、これ以上の被害者が出ないように。せめて、この狂った計画が、少しでも遅れるように」
俺たちは、敵の巨大な組織の中で、見えない味方として、静かに、しかし確かに繋がっていた。
いつか、この地獄に光が差す日が来ることを、ただひたすらに祈りながら。




