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ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
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デュエットは突然に

ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます!


 舞台上でマイクを構えていた人物――女の子は、あの面接のときにいた口うるさい、奈美ちゃんって呼ばれてた子だった。

 奈美ちゃん…………藤田奈々美……

 なるほど。

 奈美ちゃんっていうのは愛称かな?

 たぶん面接を受けたのが春一だったならば、あの場であの子が人気声優だと言うことが分かったに違いない。いやそれ以前に、声優さんが審査するのなら、事前の告知で「特別審査員だれそれ」なんていう文句が、募集告知に書かれていたと思う。

 だが俺はオーディション告知を見ていない。

 それに加えて声優さんにも詳しくはない。

 ごく一部のレジェンド声優や最前線の売れっ子声優さんは分かるけど、どんどん出てくる若い声優さんまでは分からない。それこそ有名な若手声優さんでも、顔、名前、声のそれぞれが合致する人はほんの数人だ。

 つまる訳、オーディションの場に赴いた人の中で、俺だけが彼女の正体を知らなかったということだろう。結果としてただの「言葉のきつい女の子」という認識で、あんな対応となってしまった。

 今考えれば何かの審査をするとして、同じ年くらいの女の子が審査側にいたら、なにやらあるに違いないか。

 となると、うーん……ちょっと申し訳ないかんじがするな。

 全然知らなかったくらいだから彼女のファンでもないし、オーディションの結果は落ちたところで全く問題ない。だから別にあの場での彼女に対する態度とか、悔いることなんてないんだけど、なんとなくね。

 彼女はオーディション会場の態度が嘘のように、笑顔で司会さんと会話をしている。

 自然な表情だけど、作り物っぽく感じる。

 先ほどの不機嫌な態度を見てしまったからか?

 もしくは父のことを間近で見ているせいなのか?

 分からないけど、はっきりとそう感じる。

 まぁ、ああいう立場の人たちは遠からずそんなものか。

 俺は小さい子供の難しい質問を苦労して答えている彼女を遠くから眺めながら、「大変だなぁ」と他人事のように考えていた。

 と、ふと彼女がこちらに目を向ける。

 じっと舞台を見ていた俺と目が合う。

 「今、俺に笑いかけてくれた!」とか「今俺に向かって手を振ってくれた!」みたいな、ファン心理の錯覚ではなく、正面からしっかりと……

 目が合った彼女は最初怪訝そうに、次に目を見開き、睨むような表情を経由した後、笑顔の仮面をかぶる。目が合ってから笑顔に戻るまで、ほんのわずかな時間。気を付けないと分からないくらいの表情の変化だ。

 たぶん俺がオーディションのときのやつと気が付いたんだろう。

 何か嫌われたしなぁ。

 すぐに笑顔にもどっとのはさすがプロだということか。

 そのままトークショーは進んでいき、イベントの中盤、主題歌を歌うプログラムになったようだ。

 司会の女性が曲名を紹介し、イントロが流れてくる。


『じゃぁ、みんな一緒に歌ってね』


 奈々美が声を掛けると、小さい子どもたちから「はーい」と声が上がる。

 すこし野太い大きなお友達の声も混じっていたが……

 そして彼女は歌い始める。

 イントロなんかは番宣CMで聴いたことがあるけど、がっつり聴くのは初めてだ。

 俺はアンケート用紙に書かれている歌詞を見ながら、彼女の歌唱に耳を傾けた。

 日曜の朝にふさわしい明るい曲。

 それに奈々美の声がすごくマッチしている。

 そういえば春一が、日曜午前帯の少女向けアニメの主題歌は、声優さんが歌うというのが定番になっている、ような趣旨のことを話していた気がする。

 そして彼女の声に合わせて、子供たちも歌う。

 すごく楽しそうだ。

 いいね、こういうの。

 子供向け映画やヒーローショーなどで、一生懸命声援を送る子供たち。

 そういうのを見ていると心がほっこりとなり、自然と笑顔になる。

 純粋でいいねぇ。

 こんな子ども達もいずれ春一のようになるのか……

 思考の流れであいつの顔を思い出し、ムカッとする。

 そんなことを考えている間にも曲は終わり、会議場内に大きな拍手が鳴り響く。

 拍手だけじゃない、子供たちのはしゃぐ声も混ぜっていた。


『藤田さん、ありがとうございました。ではこの後――』


 司会さんがイベントを次に進めようとした時、一部の子供たちから声が上がる。

 「もういっかい!」「またうたう!」という声。

 いわゆるアンコールだ。

 楽しそうだったからなぁ。

 子供たちの気持ちは分かる。

 その声は別の子供たちにも広がり、今度は子供たちのアンコールを後押しするように、大人の観客たちが手を鳴らす。


『えーと、どうしましょうか? 藤田さん』


『もちろん! お断りします――なんて、うそですよ。みんなもう一回歌ってくれる?』


 冗談をはさみ笑いを誘った後、快くアンコールを承諾する。

 そしてしっかりと俺へ視線を向け、にっこりと笑った。

 背筋に寒気が走る。

 嫌な予――


『じゃあ、今日はここに私のお友達も来ているから、一緒に歌っていいかな?』


 ――感。

 おいおいおいおいおいおいおい。

 マジで?


『まことちゃん、一緒に歌ってもらえるかな?』


 そう小首をかしげながらこちらを見る彼女の顔は、あざとらしいが可愛いに違いない。

 でもこの時の俺には悪魔の笑顔にしか見えなかった。


読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、評価は、なんぼもらってもええですからね!

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