俺は痴漢で告訴されるのか?
ここで一旦、話を戻す必要がある。
俺がオタクタイムに突入し、アプリを開いて魔法少女特集の新ガチャキャラを狙っていたあの瞬間に戻ろう。
〈もう四回目かよ、まだ出ねえ。〉
これで四つ目のパックだ。新キャラの影すら見えない。まあ、言うまでもなく俺と「運」って言葉はあまり相性が良くないってことだ。
このゲームをやってる唯一の理由は、イラストがすごく気に入ってるからだ。
石を貯めてパックを引けるようにした。それに費やした時間はざっと一時間。
―ヒューッ―
突然、一陣の風が吹く。
風に飛ばされて、制服のネクタイが舞い上がる。
〈緊張してたせいで、ちゃんと結べてなかったみたいだ。〉
〈戻ってこい!!!〉
俺は叫び、ネクタイに戻ってくるよう懇願する…ネクタイに耳があるのか?いや、ない!
じゃあ、無機物に叫んだところで何になるんだ、と思ってるだろう…
さあな。でも、言わずにはいられなかったんだ。人間の脳は他人と話すことに慣れているからかもしれない。生き物は一人じゃいられない。だから脳が「対話相手」を擬似生成するんだ。
こういうことは初めてじゃない。よく一人で声に出して喋ってしまう。
全てはいいんだが、問題は俺の叫び声が近所迷惑になってることだ。
風にさらわれたネクタイを、まるで意思を持っているかのように、いや、まるで独立した足が生えているかのように追いかけ続ける。
〈何回角を曲がった?〉
学校からかなり離れてしまった。
俺の計画はもうおじゃんだ。
新たな敵が現れた…風だ。
―ヒューッ―
突風が収まり、ネクタイは喫茶店の近くに落ちた。
大きなガラス窓から店内が見える。入り口の外にも何卓か置いてあり、歩道沿いにも客がいる。
その外のテーブルの一つに、一人の少女が座っている。
〈少女?〉
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
知らない女の子と、俺の高校初日は、あまり相性が良くない。
俺にとってこれは致命的な組み合わせだ。
さっさとここを離れるに限る。
〈よくあんなに食えるな。〉
〈ありがとう神様。またしても、自分でも気づかずに心の声を漏らすという、素晴らしくも無駄な才能を授けてくれて。〉
テーブルに座っている少女は、いわゆる「最後の晩餐」と思われるものを食べている。
甘いものも塩っぱいものも盛りだくさんの、豪勢な食事だ。
あれ全部でいくらするのか、知りたくもない…俺の質素で慎ましいお小遣いでは絶対に手が出ない。
カロリーは知らない方がいい。目算だが、プロのスポーツ選手だって十分に賄える量だ。
どうか、俺の声が聞こえてませんように…
〈おい、そこのお前。聞こえてるぞ。〉
…ありがとう、俺の不運。
〈あ、いや、君に言ったんじゃなくて。〉
〈この道にいるのは私とお前だけだ。誰に言ってるっていうんだ?〉
聞かれたことに驚いて、意味のない言い訳を口にした。
まあ、回りくどいのはやめだ。素直に謝ろう。
〈すまない、失礼だった。謝る。〉
俺はできるだけ真剣に、誠実に頭を下げた。彼女を侮辱したり、からかったりするつもりはなかった。客観的な事実を口にしただけだ。
どうか許されたことを願う。
そして、俺はここで退散する。
〈待て!〉
さあ…俺が逃げ切れて、何の報いも受けずに済むと思ってたか?俺もそう願ってたよ。
俺は彼女の方に向き直る。
〈あ、あの、はい?〉
気弱な少年の典型的な、オドオドした口調で答える。こんな情けない声を出せば、彼女も寛大になって解放してくれることを願って。
少女は椅子から立ち上がる。テーブルの上には、天ぷら、味噌汁、プリン、そして七枚のパンケーキが残されたまま。
そして何と言っても、その少女はなんと俺と同じ学校の制服を着ている。
完璧だ。状況はさらに悪化の一途を辿っている。いいぞ、その調子だ。
〈お前、本当に失礼なやつだな。そんなこと、言っていいことと悪いことがある。それに、人がたくさん食べようが少なく食べようが、お前の知ったことじゃない。〉
長い赤い髪が風に揺れ、ウエストは細い。その代わり、胸は豊かだ。栄養がどこに行くのか、よくわかる。
とにかく、彼女の言う通りだ。無意識の反射とはいえ、心の中に留めておくのと、実際に声に出してしまうのとは別問題だ。
〈改めて謝る。そんな風に無礼を働くつもりはなかったんだ。〉
再び謝罪した。やはりオドオドした口調で。
心から、自分を超絶奥手で社交性ゼロの奴だと思い込ませて、彼女の魔の手から逃れられることを願う。
〈お前、同じ制服を着てるな。つまり同じ学校ってことか。私としては、こんな無礼なやつと同じクラスになりたくないものだ。〉
〈おっしゃる通りです。大変失礼しました…〉
もう一度頭を下げる。
〈…よろしければ、俺はこれで。〉
宇宙がいつもの悪戯を仕掛けてきて、また妙な状況に陥る前に、一刻も早く立ち去りたい。
背を向けて歩き出す。
肩に手を置かれる。
〈感じ悪いな。謝ってはいるが、本当に反省しているようには見えない。むしろ、適当にごまかして逃げようとしてるだけだろ。女の子に対する態度じゃないぞ。〉
〈ああ、もう面倒くさいな。女の子に対する態度じゃないって言うけど、女の子だってあんなに食べないだろ。太るぞ。〉
もう駄目だ。この一言で、完全に自らの墓穴を掘った。
俺は実際には奥手な性格じゃない…むしろ逆だ。
尊大で冷めた性格で、大抵の奴を怒らせる。
中学の頃、女子は俺に近づかなかったし、友達も一人もいなかった。扱いにくい性格なんだ。
それに、俺は一匹狼タイプだと思ってる。
奥手を装ってみたが、彼女に延々と説教され続けて、本当の性格が出てしまった。
その時、冷たく突き放した目を向けたかもしれない。
少女は虚ろな目で俺を見つめている。
頭の中で、俺の言葉を処理しているところだろう。まさに「よくもまあ、そんなことが言えたな」という表情だ。
俺の性格がひねくれていようがいまいが、結果は変わらない。朝からあんなに大量に食べれば、そりゃ太るに決まってる。
〈この…大無礼者!〉
憎しみを込めて近づいてくる。手が振りかぶられる。
人類史上最大の平手打ちをお見舞いしようとしている。
俺はそれをかわす。
かわした拍子に、彼女は足を滑らせ、俺の上に倒れ込んでくる。
俺の手が、何か柔らかいものを掴んだ。
こうして俺は、同じクラスの見知らぬ少女の胸を揉む羽目になった。
またしても、変態のレッテルを貼られた学園生活が始まるというのか?




